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なりきり閻魔ちゃんの冥界ライフ ー私の人生、死んでからが本番ですー   作者: バラモンジン


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35. なりきり閻魔ちゃん

 朝、早い時間に小野が梅子の元に来た。

 梅子は寝起きだったが、外見は閻魔様なので問題なしだ。


「閻魔様、おはようございます」

「うむ、早いな」

「菅原さんも、おはようございます。よく眠れましたか」

〔おはようございます、小野さん。聞いてください、寝心地抜群ですよ。ウォーターベッドみたいに緩やかに揺蕩たゆたって、いえ、使ったことないので想像ですけど、とにかく快眠できました。閻魔様はどうしてましたか?〕

「我もすることがないから眠ったぞ。我の本体が起きているから、眠った気はあまりしなかったがな」


「それはそうと、少し打ち合わせの必要があります。司命さんたちのところへ飛びましょう」


 小野と、梅子 in 分身閻魔様は、司命と司録のいる、法廷の後ろの部屋に入った。

 朝の挨拶を一通り済ませ、本題に入る。


「問題は、こちらの閻魔様が分身で、依り代として菅原が中にいるという状況を、どの範囲にまで共有してもらうかということだ」

 司命さんが切り出した。

「まず、菅原の同僚には当然知らせるだろう?」

「待ってください、ケンタは除外しましょう」

「なぜだ、最近は分別もあるだろう」

「ケンタは閻魔帳運びや、各種お使いで、さまざまな部署を行き交っています。うっかり何かを感づかれて質問されたら、あいつ素直だから絶対隠し通せませんよ。いずれ閻魔庁全体に知らせるとしても、まだ試行段階ですから、まずは最小限の者だけにしましょう」

「よろしいですか閻魔様」

「うむ、我はそれで構わぬ」


〔私からの質問ですが、いいですか?〕

「何ですか、菅原さん」

〔柊寮で毎日食事をともにしている鬼塚さんと橘さんには、私が寮にいないということは、早晩気づかれると思います。どうしたらいいですか〕

「そうだな、どこを探してもいないという状況なら、現世に出張ということにするしかないか」

〔でも、冥界に来て一年間は現世に行かないという決まりがありますよね。特例で規則を曲げられるのは嫌なんですが。実際、閻魔庁にいるわけですし〕


「あの者たちには教えてやれ。我のせいで菅原が割を食うのは、我の本意ではないからな」

 閻魔様の一言で、鬼塚と橘にも、梅子が閻魔様の中の人として法廷で閻魔役をこなすことを知らせることになった。また傍聴に来そうである。


 そのほか細かい打ち合わせを済ませ、梅子と小野は同僚の元に向かった。


〔おはようございます〕

 梅子が入り口で声をかけると、皆一斉にこちらを振り返って、おは、まで言って固まった。

「おはようございます、・・・閻魔様?」

 いちばん近くに座っていた小田が、半信半疑で呼びかけた。

「我だ。中に依り代として菅原が入っておる」

〔おはようございまーす〕

 続いて梅子がもう一度、能天気に挨拶した。


「というわけで、見た通り、今回はこれでいくことになった。あの手描きの板は、もう出番はない」

 と、小野が説明を引き継いだ。

「閻魔様は、とうとう身外身の法を会得されたので、昨日、東岳大帝様と外遊に出られた。五日間のご予定だ。こちらの閻魔様は、分身の閻魔様で、中身は菅原だ。法廷での発言はすべて分身の閻魔様によるものだが、体の動きは菅原のものだ」

 梅子はおもむろに一歩前に出て、ゆるりと辺りを睥睨へいげいし、笏を持っていない方の左手で、ゆっくり髭の先を撫でながら、

〔よろしく頼むぞ〕

と、梅子の声のままで言った。


 うわあ、とか、おいおい、とか嘘だろ、という声が上がった。皆の思いを代弁するように石田が、

「練習の成果が出てるな。菅原の姿のままで物真似をしていた時は、似ているにもかかわらず不自然極まりなかったが、お姿が閻魔様だと、完璧だな」

と、感心して言った。

「だけど声が菅原だから、違和感半端ないぞ」

と、これまた皆の感じたままの声だった。


「とにかく、法廷内では菅原は一切声を発しない。そしてこのことは、まだほかの部署には明かさないつもりだ。回数をこなして大丈夫そうなら、必要に応じて知らせるつもりだ。あと、ケンタはよそに出かける機会が多いので、秘密を守るのは難しかろうという判断で、教えないことになった。そのつもりでいてほしい。あとは、前回の外遊時と違って、閻魔様本人の判決となるので、そこは安心してほしい。以上だ」


 そして梅子と閻魔様と小野は、法廷に向かった。


 審理はつつがなく進んでいった。


 梅子は、法廷における閻魔様の威風堂々とした話しぶりに感服していた。

 たった一言『申し開きはあるか』との問いが、ボイスチェンジャーの梅子とはまるで違う。この声で言われたら、思わず平伏して打ち震える自信がある。そもそも、浄玻璃鏡じょうはりのかがみで罪業が晒され、司命に罪状をつまびらかにされてなお、閻魔様に食ってかかる阿呆がたまにいるのが信じられない。


 今、目の前にいる男もそうだ。

 

 依り代となった梅子の目は、分身閻魔様と同期されていて、閻魔様の目がまるで自分のものであるかのように高みから男を見下ろしている。無意識のうちに、閻魔様の癖である顎ひげの先を撫でながら、男の主張を聞く。


「だからよう、理不尽なんだって。俺はすでに死刑になったんだ。前世の罪はそれでチャラじゃねえのかよ。ここに来てまた裁判やり直しっておかしいだろう」

 

 梅子はじっと見下ろす。閻魔様も黙ったままだ。


「地獄でどんな目に合わされるか知らねえけど、反省なんかするもんか。どうせ生まれ変わったら、きれいさっぱり忘れてんだろ、昔の罪も地獄の責め苦もよお。来世での抑止力にならねえじゃねえか、こんなシステムじゃあよ。それに、閻魔様よ、あんたこれだけたくさんの人間を地獄に落として、あんたのやってることの方が鬼畜じゃねえか。ふんぞり返って偉そうに見やがって、あんたも罰を受けろよ」


「お前っ」

 司命がキレそうになるのを、梅子は右手の笏で制した。


「相分かった。その方へ判決を言い渡す」


 閻魔様は、相応の地獄行きを示した後、おまけだと言って、閻魔様が己の罰として飲んでいた溶けた銅を飲むという罰も付け足してやった。その分、刑期は三日ほど縮めた。三日なんて誤差でしかないのだが。この特例は、閻魔様としては珍しいことであるが、不当であれば第七王が改めるだろうと信じているからこそだ。

 とりあえず、閻魔様の両脇に立つ司命と司録の溜飲は、少し下がった。


 男は閻魔様が溶けた銅を飲んでいることに驚き、自分の罰にそれが追加されたことに喚き騒ぎながら、獄卒たちに引きずられていった。


 今は、銅の代わりにセンブリ茶飲んでるなんて言えないよなあ、と思う梅子であった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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