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なりきり閻魔ちゃんの冥界ライフ ー私の人生、死んでからが本番ですー   作者: バラモンジン


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17. 雇用契約締結

 これでもかという梅子の質問の勢いが収まった頃、小野の部屋に閻魔様がやってきた。


「話はついたのか」

 閻魔様がその大きな体を、どさりとソファに沈めた。深々とため息もついている。

「お疲れ様です。お茶を淹れてきますね」

 小野は閻魔様にねぎらいの言葉をかけて、隣の部屋に向かった。

「デトックスしないヤツで頼むぞ」

「地獄の釜で焙じたほうじ茶ですよ。水は立山たてやまの伏流水です」

 ドアの向こうから返事がした。


 閻魔様は上体を起こして、梅子に向き直った。

「覚悟は、決まったようだな」

 ゆっくりと重々しい声で、梅子に念を押した。

「はい、よろしくお願いいたします」

 梅子は揃えた両手を膝に置いて、殊更ゆっくりと丁寧に頭を下げた。

「いやにかしこまっているのだな」

「これから仕える上司様ですから、恭順の意を示そうと思いまして」

「我をデトックスで床に沈めおったくせに、今更ではないか」

と、閻魔様は呆れ交じりに笑った。

「あれは不可抗力です。ご寛恕ください」


 小野が淹れたほうじ茶を無言で味わってから、閻魔様はおもむろに懐から一枚の紙を取り出した。

「これが冥界で働く契約書だ」

「!!!」

 梅子は驚いて二度見した。

「簡潔すぎませんか」

「そうか?」

「だって、『雇用契約書 菅原梅子  閻魔庁は雇用契約を締結する。 十一月十二日 魔王庁 閻魔羅闍えんまらじゃ』って、何の条件も書かれていませんよ」

「何かまずいことでもあるのか」

 閻魔様はどこが不満なのかと訝しげな顔をしている。


 梅子は閻魔様は当てにならないと見て、小野に向き直った。

「小野さん、鬼塚さんや橘さんたちも、この契約書でしたか?」

「いや、彼女たちには契約書すらないですね」

「そんな! 地獄に我を忘れてのめり込んでる鬼塚さんはともかく、あの仕事デキ人間の橘さんまで・・・」

 梅子が言葉をなくしていると、閻魔様が、

「冥界に来るのに、現世のあれこれを持ち込む必要はないのだぞ。そういう世界を捨て去りたくて、今ここにいるのではないか?」

と、労わるような声音で言った。

「確かに、そうでした」

「菅原さんは、たぶんこういう契約書があった方が、気持ちに区切りがついて良いかなと、僕が勝手に判断したのです」

「お気遣いありがとうございます。私も予想外の大それたところに就職できて嬉しいです」

 梅子はそう言って、契約書の最後に几帳面な字で署名した。


「では、今から死んでもらうか」

 いきなりの言葉に梅子は動転した。


「そんな、閻魔様、急過ぎます。死ぬつもりはありますが、心構えというものが必要です。五分でいいので猶予を!」」

「なんだ、この期に及んで、往生際が悪いぞ」

「あの、あのですね、さっきの質問タイムで、怖くて聞けなかったんです。どうやって死ぬのか、殺されるのか、痛いのか苦しいのか熱いのか寒いのか苦しみは続くのかいつ楽になるのか」

「菅原さん、落ち着いてください。一瞬で済みますから」

「小心者め。我がデトックス茶を浴びた時より大したことないぞ」

「閻魔様、それけっこう根に持ってますよね」


「まあ見ていろ」

 そう言って閻魔様の大きな手が梅子の前に近づいてきたと思ったら、

「いっっったーい」

 強靭な指先でデコピンされた。

「おでこに穴が開くかと思いましたよ!」

 梅子が涙目でおでこを押さえながら渾身の抗議をすると、

「元気そうだな。だが、これでそなたは死んだぞ。正式に冥界の一員となったわけだ」

と、閻魔様は軽い口調で応えた。

 梅子はポカーンと口を開け放しにして、動かなくなった。

 そんな梅子に小野は、

「今度はこちらを飲んでみますか?」

と、冥界産のほうじ茶を勧めた。


「ありがとうございます。取り乱してすみませんでした。

 梅子は、ほうじ茶で一息ついて落ち着いた。


「では、そろそろ女子寮に行きましょうか。寮内の案内は、鬼塚さんに頼んであります」



「菅原さーん、ようこそひいらぎ寮へ」

 寮の玄関で待っていた鬼塚統子が、手を振りながら呼んでくれた。

 梅子は小野に礼を言って別れ、鬼塚と共に寮に足を踏み入れた。


 鬼塚による寮の案内は単純明快だった。入寮者向けに、漫画ガイドブックを作成していたのだ。細かいところまで過不足なく記されていて、梅子は感心するばかりだった。

「いやあ、最初に作ったのはもっとごちゃごちゃしていてたんだ。リアルな地獄のイラストも彩りとして添えてたんだけど、めちゃくちゃ不評でさ、『見たいページが怖すぎて開けない』とか言われて、仕方ないから作り直したんだよね」

「はい、今のはすごく分かりやすいです」

「監修:橘理子様だからね。漫画にしたのも橘さんのアドバイスなんだ。できる女は違うよね」

「なるほど納得です」


「ところで、柊寮という名前は、玄関前の植栽が柊だからですか」

「うん、獄卒たちが入ってこないようにしてるんだ。柊って鬼除けの植物だから。ここは獄卒以外の女性官吏が住むところだよ。ちなみに獄卒以外の男の官吏たちは、南天寮に住んでいる。南天も鬼除けに使われるからね」

「獄卒さんたちには寮がないんですか」

「最近までなかったらしいよ」

「衣食住完備と聞きましたけど」

「以前は獄卒たちは二十四時間労働だったんだ。睡眠も必要ないし、食事もしないでも平気。死ぬってことがないからね。閻魔様も眠らないから、それが普通だったらしいよ。だから住まいもなかった」

「閻魔様も十億年寝なくても大丈夫って言ってましたね、そういえば」


「ところが、働き方改革が始まって、交替で休みが取れるようになると暇ができた。どこで過ごすか。仕事もせずにふらふらしてたら邪魔だし、居場所がない。それで宿舎ができたんだって。個人に部屋が与えられるわけじゃなくて、空いている部屋で自由にくつろぐスタイルらしいよ」

「へえ、自分の部屋はないんですね」

「現世からリクルートされた人が獄卒になってからは、さらに待遇が改善されたみたい。必要はなくても食事の楽しみは忘れがたいし、眠るのは気持ち良いからね。衣類も格段に種類が増えたんだ」

「ふうん、冥界も変わってきているんですね」


「地獄も獄卒も様々で、話を聞くとおもしろいよ。いつまでたっても退屈はしなさそう」

「私も早く魔王庁の仕事を覚えて楽しみを見つけたいです」

「そう真面目に考えすぎない方がいいよ。先はとんでもなく長いから、のんびり行こうよ」

 鬼塚の優しいエールに、梅子は素直に頷いた。


 こうして梅子の就職活動は無事終了し、明日からは閻魔庁の役人として働くことになった。


読んでいただき、ありがとうございました。

感想をいただければ嬉しいです。

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