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第十二夜 わかりみが深すぎる

バイトがない夕方の町田って、なんかムカつくくらい明るい。

あたしには、あの西陽が似合わない。

今日みたいな日は、予定がなくても、同じ沼に落ちた女たちと毒でも吐いてないとやってられない。


だから自然と向かってた。

町田のサイゼリア。いつもの奥のテーブル。


店内はファミリーとカップルだらけ。

幸せぶった声が耳障りだけど、ここだけ空気が違う。

ドリンクバーでワイン風ぶどうジュースを四杯並べたら、それが合図みたいなもん。


“喰われたい系女子”限定、祈りと地獄の定例会。


ドリンクバーで赤ワイン風ぶどうジュースを四杯並べて乾杯する、“喰われたい系女子”たちの集い。


メンバーは、真依と、アイカ、メグ、そして初参戦のリリカ。

名前の響きは可愛いけど、会話の内容は全員だいぶ腐ってる。


「いやー、マジであの女またいたよね? 喰われたくせに“後方待機”って、なにその余裕ムカつく」


アイカのひと言で、サイゼの空気が一気に真っ黒になる。


「喰われ女あるある言っていい? “私もういいの”感ね。全方位に“勝者の余裕”出す感じ、マジでキモくない?」


「わかるー! あと、“本命じゃないけど特別”みたいな顔するやつね!」


「それそれ! なんなん!? Masakiの彼女です感どこから湧いてきた!? 脳内スタジオライブかよ!」


メグが言うと、全員が噴き出す。


「てかさ、ぶっちゃけさ。Masakiに喰われたこと、隠さずポストしてるやつって、アレじゃん」


「アレだよね」


「“どうせ私のこと羨ましいんでしょ”ポスト、マジでキショくて好き」


「好きなんかい」


「いや、キショいけど、正直一回でいいからやってみたくない?」


「めっちゃわかる」


真依も、笑っていた。

本音では泣きそうでも、ここでは笑える。

毒を吐いて、少しだけ楽になる。

ここは“祈りの沼”に沈んだ女たちの、闇のシェアハウスみたいなもの。


「ねぇ、真依はさ。もう喰われたくないって思った?」


アイカが突然、静かに尋ねた。


本当は今この瞬間だって、できるなら喰われたいと思ってる。

そんな感情を押し隠すように、真依はストローをくるくる回して、少しだけ考える。


「……ううん。思った。思ったけど、やっぱりまた行く。結局、会いたい」


「それな」


「“喰われたくない”って言ってるうちは、まだ喰われたいんだよね」


「うわ、それ名言」


「LINEのステータスメッセージにするわ」


くだらない会話。でも、誰よりも本音で生きてる気がする。

ここには、“推しに人生壊されたがってる女”しかいない。

だから、落ちても沈んでも、見上げたときに目が合うのは、たぶんこの子たちだ。


「さ、次のライブどうする?」


「来月の横浜、どう考えてもワンチャンある」


「マジでMasaki、最近また病んでる感あるよね。女に行く率高まってる」


「“病んでる=食いに来てる”ってもう完全に終わってる思考じゃん」


「でも、それが好きなんだよ」


「終わってるのに救われるって、どういうこと?」


「それ、わかりみが深すぎる」


笑い声がサイゼに広がる。

外はまだ夕方。

そしてたぶん、明日も闇。


でも今日は、笑えた。

それだけで、ちょっと生き延びた気がした。

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