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【ルカ編】第25話 ルカの回想

(どうしよう、このままじゃ……

 このままじゃ、ルカが私のために死んでしまう)


「やれ」


 白い男の一声で、剣を持った3人の夜盗たちがルカに向かって剣を振りかざす。


「やめてーっ!!!」


 ルカは、さっと身を屈めて剣先を交わすと、三人の夜盗の内の一人の足に自分の足を引っ掛けた。

 足払いをされた男は、急に標的を失った上に、バランスを崩し、地に転がる。残った二人は、再び剣を構え直してルカを襲った。


 ルカは、二人の剣筋を読み切っていて、さっと身を交わしながらそれらを避けていく。

 でも、反撃することが出来ない分、劣勢であることに変わりはない。


 更に、先程転がった男が落ちていた剣を拾って、再びルカ目掛けて襲って行った。

 さすがのルカも、丸腰で3人の剣先を交わすのは、厳しいようで、少しずつ追い詰められていく。

 3つの剣先がルカのマントや腕、頬をかすめる度に私は、心臓が止まる想いがした。



 その時、ルカは、アイリスの様子を横目で伺いながら、敵と対峙していた。

 白い男の目的は、アイリス姫なのだから、自分がこうしている間にも、危害を加えないとは限らない。

 今のところすぐに殺すつもりはなさそうだが、拘束されたままのアイリスの目から涙が溢れていくのに気づき、ルカは、苦悶の表情を浮かべた。


(……ああ、あいつが泣いている。

 俺は、あの時、誓ったのに……)


 ――この命を懸けて、君を守ると誓おう――


 ――俺の女神を…………――


(……いや、必ず助ける。

 あいつは、俺が守るんだ!)



『遊ぼう』


 それが、俺とアイリスとの出会いだった。



  ♡  ♡  ♡



「こらっ! 大人しくしろ、この盗人めっ!」


 二人の兵士がまだ十にも満たない少年を捕まえて、城の一角にある処刑場へと引きずって行く。


「くそっ……」


 少年は、せめてもの抵抗を試みたが、力で兵士に敵う筈がない。

 ボロボロに汚れた衣服は、兵士に引っ張られて伸びきってしまい、今にも破れそうだ。


「全く、こんな小さな子供まで盗みを働くなんて……なあ」


「子供だろうが年寄りだろうが、この国で盗みや殺人は死刑と決まっている。

 さっさと済ませちまおうぜ」


「あ、ああ。

 ……でも、あんまりいい仕事じゃねぇよな」


 鳥の巣のような茶色の髪の隙間から、少年が兵士たちを睨んだ。

 その焦げ茶色の瞳には、憎しみと、悲しみと、絶望が入り混じっている。


(俺は、ここで殺されるのか。

 ……まぁ、生きていたって何もいい事なんてないし。

 俺には、帰る家も、俺の事を心配して待っていてくれる家族も、もういないんだ)


 兵士たちは、少年を憐れむような目や言葉を投げかけるが、彼らが決して職務に逆らわないことを少年は、よく知っていた。


(……生きる意味も目的も、何もない。

 今までは、飢えを凌ぐ為だけに盗みをして、別にそれが悪いとも思わない。

 このまま、ここで死んだって別に……)


 少年が自分の生に諦めて、顔を俯けた時だった。


「遊ぼう」


 ふいに、少年の頭上から可愛らしい声が降ってきた。

 それは、まるで天から降る光のように少年の耳へ届いた。


「あ、アイリス姫様!

 ここに来てはいけません!

 危ないですので、どうか離れてください!」


(……アイリス姫?)


 少年が顔を上げる。

 そこには、鮮やかなマゼンタ色の髪の毛をふわふわと揺らして、綺麗なドレスを身に纏った、一人の少女がいた。


「ねぇ、遊ぼうったら。

 私、一人で退屈してたんだ」


 アイリス姫と呼ばれた少女は、屈託のない笑顔を少年に向けた。

 まだ幼さの残る、そのあどけない表情は、少年の荒んでいた心を明るく照らす太陽のようだった。


「姫様、こいつは盗みを犯しました。

 よって、処刑せねばなりません」


 兵士の一人がアイリス姫の前に膝をつき、頭を垂れながら説明した。


「悪い事しちゃったの?」


 アイリス姫が首を傾げると、マゼンタ色の髪がふわりと綿毛のように揺れた。


「そうです、だからここを離れて……」


「ふ~ん。なら、お仕置きだね」


 アイリス姫と呼ばれた少女は、にっこり笑うと、自然な動作で、自分の目の前に跪いている兵士の腰から長剣をするりと抜いた。


「そうですよ、お仕置き……って、えぇ?!」


 自分の剣を奪われたことに気が付いた兵士は、慌てて腰を浮かす。


「アイリス姫! な、何を……!?」


 アイリス姫は、兵士の長剣を重たげに持つと、危なっかしそうに剣を頭上に掲げた。


「姫様、それは玩具ではありませんぞ!

 危ないですから、その剣を私に返し……」


 兵士が声で止めようとするが、相手は姫君だからか、直接手を出すことができないようだ。

 アイリス姫が剣を少年に向かって振り下ろす。

 少年は、驚いて目を閉じた。


「「ひ、姫っ……!?」」


 二人の兵士の声が重なった。

 ……と同時、何かが切られる小気味良い音と、剣先が石床に当たる音が聞こえた。


(……あ、れ? 俺……生きてる?)


「悪い事したら、お仕置きされるのは当たり前よ。

 私だって、しょっちゅうお父様にお仕置きされてるわ」


(何なんだ、一体何が起きたんだ……?)


「さ、これでお仕置きはお仕舞い!

 ね、遊びましょう♪」


 少年は、目を開けた。

 すると、足元には、見覚えのある色の髪の毛がバラバラに散らばっていた。


(ここに落ちているのは……俺の、髪か?

 じゃあ、さっきの音は……)


 少年が顔を上げると、そこには、剣を片手に、きょとんとした表情で首を傾げている少女がいた。


「ん? 何よ、もっと他のお仕置きが良かったの?

 だって、そんなに髪の毛を伸ばしてたら、遊ぶのに邪魔じゃない」


(……ああ、そうか。やっと……解った)


 少年の焦げ茶色の瞳に光が戻って行く。

 その瞳に映っているのは、マゼンタ色に輝く光。


「ほら、ね。だから私も髪の毛短いでしょ?

 でもね、お父様ったら、もっと髪の毛を伸ばして女の子らしくしなさいって言うのよ」


 可愛らしい唇を尖らせて見せる少女を少年は、眩しいものを見るような目で見上げた。


(俺は……この人を守るために、生まれてきたんだ)


「ね、遊ぼう」


 少女が少年に手を差し出す。

 自分に向けられた笑顔と、その白く小さな掌を見て、少年は誓った。


 一度捨てようとした、この命……この女神に捧げよう。

 この命を懸けて、君を守ると誓おう。


「ねぇ、あなたの名前は何て言うの?」


「俺……俺の、名前は…………ルカ」


「ルカ……いい名前ね。

 私は、アイリスっていうのよ。

 よろしくね、ルカ」



  ♡  ♡  ♡



(そうだ……あの時、俺は誓ったんだ)


「くっそー……こいつ、ちょこまかと逃げやがって。

 武器もないくせに、何ができるっていうんだ」


「おい、さっさと降参しな。お前に勝ち目はねぇよ」


 3人の夜盗たちの攻撃を避けるだけだったルカの目に、強い光が灯る。


(……守る、自信がないって?)


 そうだったら、何だっていうんだ。


 俺の、女神が泣いている。


「そこを……どけろーーーっ!!!」


 突然、ルカが咆哮を上げながら夜盗たちに向かって突進した。


「な、何だ……うわあああっ!!」



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