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【ルカ編】第6話 王家の墓

 これからどうしようか、と考えた時、私の頭にまず浮かんだのは、お母様のお墓参りに行くことだった。


(……そうだわ。

 出発する前に、お母様に挨拶をしてから行きましょう)


 王家の墓は、盗掘から守る為、町から少し離れた森の中に造られている。そこには、レヴァンヌ国歴代の王族達が葬られ、幾年もの時を経た神聖な場所だ。もちろん、王族の者しか入る事は許されない。


(……ここは、いつ来ても変わらない……)


 毎年、お母様の命日になると、お父様とルカの三人でひっそりとここを訪れていた。周りの側近達に弱みを見せることをお父様も私も嫌うからだ。


 お母様が亡くなってから、もう十年以上が経つと言うのに、ここはいつも決して雑草で生い茂る事なく、手入れが行き届いている。手入れを欠かさないよう、お父様が墓守に頼んでいるからだろう。それは、お父様がお母様をどれだけ愛していたかという証でもある。


 私は、何かあるとよくここへ来て、お母様に語りかけていた。

 お母様は、私がまだ幼い頃に亡くなった為、お母様との思い出は数える程しかない。それでも、優しかったお母様の声と、誰よりも綺麗だった笑顔は、今でもしっかりと胸に刻まれている。


 例え答えは返ってこなくても、ここでお母様の墓石に語りかけているだけで心が落ち着くのだ。


(お城を抜け出して、王子様を捜しに行くだなんて……

 生きていた頃のお母様が聞いたら、何て思うかしら?)


 想像するとおかしくなって、くすりと笑みを零した。お母様のことだ、それは素敵な考えね、と笑顔で応援してくれるだろう。お前のお転婆なところは母親譲りだな、とお父様がよく小言を洩らしていた。


「……お母様。

 私、もう一度、夢を見ても良いかしら?」


 その時、アイリスの背後で誰かの足音が聞こえた。


「……やはり、ここでしたか」


 声に驚いて振り返ると、そこには、軍服を身に纏った、近衛隊長ルカ=セルビアンの姿があった。


「……る、ルカ!?

 どうしてここに……?」


「あなたは、何かある度にここへ来ていた。

 ……私が気付いていないとでも?」


 今まで誰にも気づかれていないつもりでいたのに、ルカには、しっかりとバレていたようだ。


「今度は、私が尋ねる番です。

 今朝は、他国の王子様方との面会がある事を御存知で?」


「……え、えぇ。知っているわ」


「そんなにこの婚約がお嫌ですか?」


 私は、はっと表情を固くした。ルカの私を見る目に憐みの色が浮かんでいるように見えたからだ。


(違う、そういうことじゃない……)


 否定したかったが、どう言葉で説明すれば理解してもらえるのか分からない。私が黙ったまま俯いているので、ルカは、それを肯定と受け取ったようだ。


「もし、このままあなたが戻らなければ、国際問題になる!

 そうなれば、この国がただで済む筈がない事くらい、あなただってお解りでしょう」


 ルカの表情から、その怒りの度合いが見て取れる。当たり前だ。それだけの事を私はしているのだから。


「……それとも、母君様に今宵の御報告に伺う為ですか?」


「……え?」


 顔をあげた私の目の前に、ルカが手を差し伸べる。


「もし、そうならば、これで気が済んだでしょう。

 私と一緒に城へ戻りましょう」


 私は、ルカが言おうとしている事を理解した。そう。ルカは、今から城へ戻れば、まだ間に合うと言っているのだ。今ならまだ、ただの墓参りに行っていた、と言うだけで済むだろう。


「私…………」



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