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暴走電化エデン!(改稿中)  作者: 友利色良
第一章 暴走勃発
8/29

第一話 やがてお掃除ロボットでさえ俺達を殺しにくるのか? 7


「やっと戻って来れたが……やっぱり騒がしいな。はぁ……そりゃそうか」


 青森さんがそう少し疲れた吐息を漏らす。

 会社がある東京湾までの入り口には大勢のマスコミが、通りかかる社員や警察関係者から情報を聞き出そうと張り付いていた。

 会社の倉庫が破られ、中の製品がごっそり盗まれた。

 まぁ”えらいこっちゃ″な事態に相違ない。

 今からこのマスコミ集団をかわして帰社しなければならない。そりゃうんざりもする。

 

「帰りにくいですよねぇ。自分達の会社なのに」


「ほんまなぁ。東京湾のど真ん中にあるせいで、この橋渡らんと帰られへんしなぁ」


 東京湾の一部を広大な埋立地にして土地を拡大するというネオ東京計画が完了して、早、十数年。

 その計画に便乗して東京湾海上のど真ん中に、エデンは本社の社屋群を建設した。

 その埋立地であるネオ東京まで、江戸川区葛西臨海公園からブリッジが掛けられている。

 その橋を渡りきると本社入場のゲートが構えられているのだが。

 通行する者をはばむ絵面が前方に見えるのだった。

 橋の手前で嫌な空気で織りなす、何台もの中継車が停まっているマスコミの群だ。

 スーツ姿でマイクを手にした男女がウジャウジャと、橋を隔てた向こうにそびえ立つ、蜃気楼のようなエデンの本社を指して何かを叫んでいるが。


「まるで裁判の判決やな」


「どうして会社の……こんな手前のブリッジで集まってるんでしょう」


「あれ見てみ?」


 青森さんがはるか前方の、橋を渡り切ったエデン正門の手前を指した。

 そこにはパトカーと会社のトレーラーが、車が抜けられないようにバリケードとなって停車している。

 取材規制をかけているのか。

 俺達が通る時は大丈夫なんだろうな?


「なるほど関係者以外、通行不可にしてるんですね。ところで、あの、マスコミがウザいからって轢かないで下さいね……。青森さん」


「大丈夫や。感情は抑える」


 などと怪しい爽やかさ、営業スマイルを顔に貼り付ける。

 すぐに崩れそうだが。

 そんな会話がなされていると知るよしもないマスコミ関係者が、俺達が近づくと「獲物が来た!」と言わんばかりにあれよあれよと寄ってくる。


「従業員の方ですね! ちょっとお話を……!」


「そーら来た……」


 青森さんは小声で呟くと車の窓を開けて、寄って来た取材陣に一応は対応するという姿勢を見せる。


「御社のロボットが盗まれたそうですが! 会社内の管理体制の甘さが問われるところですが、今の心境はいかがでしょうか!」


 一人の記者がそう質問をしてくると。


「はい。その一報を営業中に聞きまして、早急に戻っている最中です。すみませんが、通していただけますか。急いでますので」


 淡々と答えて、矢継ぎ早に来る他の質問には答えずに窓を閉めた。

 押し寄せてくる取材陣にクラクションを鳴らす。

 かなり強引だけど大丈夫か?

 と、青森さんの顔を見ると。


「大丈夫や、不祥事やないからな。こっちに落ち度はない」

 

 強い……けど怖い、この人……。

 これだけでもネットで叩かれそうだが……。

 青森さんと俺をしきりに撮っている人達もいる。

 明日はきっとどこかで、なんらかの事件の犯人扱いをされるのかもしれない。

 しかし相手も仕事だから必死に食いつこうとするが、こっちが重役でもなんでもなく、ただの一社員と分かったのか、取材陣はそろそろと退き始めた。

 進路妨害されつつもなんとか出来た道を、そのまま進んで俺達は橋へ入った。

 その先を見ると。


「警備員と警官がせっせと……ご苦労様やね」


 ゲート前で警備員と警官が入場する者に対して、念入りに本人確認をしているようだ。


「社員証を警察が確認してるようですが、事件がすでに起こった後で意味あるんでしょうか」


「マスコミをシャットアウトする為やろ。現場を荒らさんようにってな。あと……」


 言って右眉を吊り上げて、青森さんは。


「犯人探しの手がかりとかな。やった奴は事故現場に確認しに来るらしいからな」


「あぁ、聞いた事があります。放火した犯人は野次馬に紛れて燃えている光景を確認しに来ると。で、それと、あの、青森さん……」


「ん?」


「警察がいる前でコレどうしましょ……」


「……あぁ、それなぁ。なんとなく知られたらマズい気はするな」

 

 俺が言った意味を青森さんはすぐに理解してくれた。

 あの不気味な男から受け取った封筒。レンタルルームのキーが一式。

 もし、犯罪絡みだと勘違いされたら、面倒な事になる。


「どうします?」


「せやなぁ……。一旦、保留にしとくか。怪しい代物やなさそうやし」


「保留……ですか」


「念の為にな。あのオッサン、必要ないと思ったら捨てていいと言うとった。とすると、捕まる心配は無い代物ってことになる。が、警官の前でしゃべってやな、もし事件に絡んでるかもしれへんから、調査の為に没収となると俺達はその中に入ってる物が分からんままになる」


「それは、気になりますね」


「うん。モヤモヤするやろ? ここまで来たら自分達の目で確かめたいやん。警察関係者が立ち去った後で、部長に報告しよか」


「ですね。俺達がエデンの人間だと、確認した上で渡されましたし」


「うん。ちょっとの辛抱や」


 ブリッジを渡り切った俺達の車を確認したトレーラーの運転手が、トレーラーを退かせて道を開いてくれた。

 そのままノロノロと徐行させて進むと、一人の警官が寄って来た。

 三十代前半ぐらいの男性警官だ。柴犬のような奥まった目をしている。

 僅かでもやましい事を抱えていると、こういう瞬間ってめちゃくちゃ緊張する。

 そんな恐怖心が顔に出てやしないか。

 そう思えば思うほど、表情がぎこちなっている気がする……。

 ここはいたって自然にやり過ごさねば。

 そんな余計な自問自答をしていると、警官にノックされて車の窓を下ろせの合図。

 それで窓を下げると。


「失礼いたします。お二人はこちらの従業員の方々ですか?」


「はい、そうです」


「窃盗が起きた事はご存知ですか?」


「はい。それで飛んで帰ってきました」


「その件で御社で今、現場検証を行なっておりまして、恐れ入りますが身分証を……」


「はい。ご苦労様です」


 リュウグウノツカイと一戦交える為に外していた社員証ケースを、ズボンのポケットから取り出して見せる。


「…………………………………」


 警官が青森さんの社員証を見て動きを止めた。

 なんだ、なんか引っかかるのか?


「あの……何か問題ですか?」


 青森さんが聞くと。


「いえ……別に……」


 そう返答する警官の目は、うつろで何処を見ているのか視点が定かでない。

 もしかして、俺達がなんとなく怪しい会話をしていたのがバレたか? 

 

「あの、もう、行っていいですか?」


 青森さんが痺れを切らして問いかけるが。


「……………………………」


 柴犬の警官は強制終了シャットダウンしたように応答せず……。

 なんだ……。

 この警官もしかして、知らない間に警視庁に導入されたアンドロイドだったり?

 それでローディング中とか……。


「い、行きますよ? 急いでるんで……」 


「…………はい、どうぞ」


 長い沈黙フリーズを経てようやく通行の許可が下る。

 一体、なんなんだろう。

 

「なんやったんや今のは……」


「ちょっと怖かったですね……。目がおかしくって」

 

「そうやんなぁ。 大丈夫かあの人。こっちは何もしてへん……窃盗事件に関してはやけど。アレはちょっと嫌やな。俺らの態度がおかしかったんやろか?」


「いえ……緊張は抑えたつもりですが。何か違和感を与えたんでしょうか」


「まぁ、人間社会、組織となるとどこにでも”変わり者”はおるもんやな」


 などと青森さんは自身の頭を指先でトントンと叩く。「それはウチの会社で言えば、一体誰の事を指してるんですか?」と聞き返したくなったが。なんとなく分かる気がするからやめておこう……。


『ん……?』


 毎日ゲート前で快活な挨拶をしてくれる、五十過ぎの警備員さんが俺達に背中を向けている。

 その対面に同じ背格好だが、胸元に警視庁のワッペンが付いた制服姿の警官が立っている。

 警備員さんの話を聞いているようで、警官がしきりに相槌を打っている。

 その二人を通り抜けると、観音開きの巨大な門扉の向こうには、数台のパトカーと社員の姿、それにハロウィンの時に現れるような、仮装姿をしたアンドロイドや、一目で人間ではないと分かる二足歩行のヒューマノイド。

 また、真っ白なドラゴンや恐竜といった機械生物の姿が並んでいて、展示会さながらの光景になっている。

 

 社員達が残されたロボット達に不審な点がないかチェックをしているらしい。

 

 とにもかくにも、ようやくゲートをくぐり会社内に辿り着いて安心していると。


 ピコピコ。


 俺の携帯に新着ショートメッセージが入った着信音が鳴った。

 さらに、青森さんの携帯にも続きピッコーンと鳴った。という事はメッセージは、特派の誰かが打ったものだ。どうして二人にそれぞれ打ったんだろう。


「誰や?」


 俺が携帯を取り出して画面を見ると。


「西条さんからですね」


「アイツか。一人だけに打ったらええのに……、何言うてる?」


 その文字を見て、俺は思わず目を見開いた。


「あの……。青森さん」


「ん?」


 そこにはこう書かれていた。


「”二人とも、もう手遅れかもしれないけど会社に近づいたら絶対に一言もしゃべらないように! 声を出さない事!”って言ってますが……」


「なんやそれ……」


 今度は西条さんが送ってきたその謎の言葉に、俺達が目を合わせたまま沈黙フリーズした。

 そして会社の敷地内に入ると青森さんは、停車出来そうな場所を見つけて停めると、自身の携帯を確認する。


「ほんまや。何言うてんねん、意味が分からん」


「新しい遊びでも考えたんでしょうか」


「聞いてみよか。えぇと……」


 青森さんが打つ画面を横から覗かせてもらうと”頭、おかしなったんか?どういう意味や”と打ち、送信した。

 青森さん……。

 メッセージでも関西弁なんだ。

 ほどなくして、またピッコーンと返答が来た。


”おかしくないよ。黙って言った通りにしてりゃいいんだよ。バーカ”


 と、書かれている。


「……なぁ、次秀。コイツしばいていいかな?」


「あの、今度は俺から訊いてみますので」


「頼む。俺が訊いたらまず喧嘩になる」


 青森さんに断り、”西条さん、何があったんですか?どうして声を出したらダメなんですか?”と打つ。

 すると。


”詳しくはコッチに来てから伝えるよ。今、俺は特派の備品室にいるから、誰にも見つからないようにソッと来て。来るまで絶対にしゃべらずにね!”


 という指令だ。その返答に青森さんがまた。


”備品室ってなんでそんな狭いとこにいてるねん。お前、今は一人か?”


 と、訊くと。


”あぁ、そうだよ。部長はまだ警察に話を聞かれてて、御堂みどうさんと水島君はおそらくバラバラでどっかに隠れてる。なんでもいいからさっさと来い。このエセ関西人、無能、オツムが赤ちゃん!”


 そんな返答に。


「コイ……! この………!」


 西条さんの文面で怒り心頭となった、青森さんが携帯を振り上げた。

 これ、やってから絶対に後悔するやつだ。


「待って下さい! その携帯は青森さんのです! 落ち着いて下さい!」


 俺は青森さんの腕にしがみついて取り押さえた。


「あぁ! クッソ……! すまん、ありがとう次秀……。ストレス溜められた挙句、携帯壊して大損するとこやった……。まぁ、鬱陶うっとおしいけど行かんと意味が分からんからとりあえず行こか……ほんまアイツだけは……」


「はい……」


 青森さんと頷き合ってまた車をゆっくりと走らせる。

 




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