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暴走電化エデン!(改稿中)  作者: 友利色良
第一章 暴走勃発
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第一話 やがてお掃除ロボットでさえ俺達を殺しにくるのか? 4


 吹き飛ぶ俺の背中で、ボン!と何かが爆発した。

 

「え……これは……」


 猛スピードで過ぎて行く光景が、突然静止した。

 気づけば俺の体を白くて柔らかい物が包んでいる。

 

「よかった作動したか。実験で人形が壊れたのを見て、エアバッグを仕込んで正解やった」


「エアバッグ?」


 俺を包んでいた物は空気で膨張したナイロンらしく、俺を受け止めて静止している。

 恐れ入った。本当に助かった。


「驚いたか? 万が一の保険を考慮しといて良かったわ」


「はい……ありがとうございます」


「よし、一旦上がって……なんや!?」


 青森さんが何かを見て驚いた。その理由がすぐに判明した。会話に集中して前を見ていなかった俺に、リュウグウノツカイが白銀の体を真っ直ぐに伸ばして突進してきた!


「あかん! 次秀! 逃げろぉっ!!」


「コ、コイツ……!」


 生き残った俺に再度、全身を弓のようにしならせて、俺の目の前でまた体を鞭と変える。


「くっそぉぉぉぉ!!」


 一瞬の判断だった。

 ドルフィンキックをかまして、体をさらに宙に浮かせる。

 俺が居た場所に、鋼の鞭を振り切った斬撃が空を切った。

 リュウグウノツカイは空振りになったと同時に、上昇した俺を睨んでいる。


「コイツ早い! 俺の位置をもう捕捉したのか」


「リュウグウには空間認識のAIが搭載されとる。とりあえずすぐに戻れ。今、応援呼ぶから皆で回収する。装置の実験に付き合ってくれてありがとうな。今、ウインチで引っ張るから」


「青森さん待って下さい!」


「なんや? ワイヤーが体に引っかかってんのか?」


「いえ、違います。青森さん、コイツは今すぐ回収しないと危険です。俺が回収します」


「なんやと? お前……無茶言うな! 今、殺されかけたやろが! エアバッグは二個付いとらんぞ!」


「……ですがもし、俺がコイツの前から離れたら、攻撃する標的を他の無関係なかたに向けたら……その時は謝罪なんかじゃ済まされません」


 そう。

 リュウグウノツカイと俺の遥か下には、町の人々が往来している。

 それに本当にイタズラ目的で誰かが操縦しているとしたら、尚更野放しには出来ない。

 証拠となるコイツは絶対に回収しなければならないんだ。


「しかし……そうか、そうやな。次秀、ソイツ引き付けて時間稼げるか? 危険やし応援呼んでなんとか……」


「青森さん……。誰か到着する前に逃げられるかもしれません」


「いや、せやけど……」


「俺がやります、青森さん。コイツを今、逃してはダメです」


「あぁぁぁ………もう! 分かった! でも、ヤバかったら無理にでもウインチで戻すからな!」


「はい、よろしくお願いします!」


 スピードを推奨のリミッターを入れれば、コイツの攻撃を避けられない。かと言って万が一、また攻撃を受ければビルの壁に……。


『そうか……』


 一つ妙案が浮かんだ。

 今、リュウグウノツカイは俺よりも下にいる。

 この位置関係は使える。


『仕方ない、何か思いつくまでの時間稼ぎだ』


 俺はリュウグウノツカイに向き直り空を背負った。


『こうなれば……後ろに吹き飛ばされても壁に叩きつけられる事はない』


 そんな俺に。

 またしても、リュウグウノツカイが突進してきた。


『きやがれ!』


 体を真っ直ぐに伸ばしたリュウグウノツカイが、ミサイルとなって飛翔してきた。

 速い。

 さっきのスピードとは比べ物にならない。

 しかし、それは俺が止まっているからそう見えるんだ。


『これならどうだ』


 俺は両手で掌底打ちをやり、さらに高く、そしてリュウグウノツカイより速く上昇した。

 

 だが。

 

「コイツ……無駄にポテンシャルが高いぞ!」


 スピードを上げた俺に簡単に食らいついてきた。

 直線上に伸ばした体は空気抵抗を減らす為だったのか。

 バックルに表示された速度は時速、百三十キロと出ている。


「次秀、ワイヤーがあと百メートルも無いぞ! 吹き飛ばされたらお前の体がトコロテンみたいになる!なんとかソイツをかわせ!」


 そう忠告してくれた青森さんの姿は、手の平ほどの大きさに見える。

 大丈夫です。

 声には出さず心の中で呟いた。これは冷静になれるよう自分に言い聞かせる為だ。


 リュウグウノツカイ、コイツの動きには特有のクセがある。


『攻撃するために体をしならせる。その時に一旦静止する必要があるはずだ』


 そう予測した。

 が、リュウグウノツカイは俺の期待を見事に裏切った。

 体を一本の鉄棒と化して直進し、槍の一撃を俺の腹に食らわせてきた。


「オゲッ……!」 


「次秀っ!!」


「クッソ……コイツ……! バラクーダかよ!」


 腹に刺さったリュウグウノツカイの頭を、無理矢理に横へ退かせた。


「ごえ……は……」


 口から苦しみの奇妙な言葉を吐きながら俺は、またさらに高く上昇させられた。

 腹を抑えながら、ブレーキ代わりにリミッターを入れる。表面の傷自体は浅そうだ。ただ、左の肋骨部分に鋭い痛みを感じる。

 もしかして骨が何本かイッたか?

 息をするのがキツい。

 犬のように浅く短い呼吸を繰り返す。


 絶対的にマズい状況に堕とされた。

 このままだと、すぐにワイヤーの長さが先に限界に到達する。

 クソ……どうすれば……。

 

 そう思った俺を嘲笑うように。

 弓なりに体を曲げるリュウグウノツカイの姿が視界の端に映った。

 すでに俺の真横に接近していた。


『おいおい……マジでふざけるなよお前!』


 また一瞬の判断だ。

 頭上を素早くノックするよう手を振った。

 今度は下降する事を余儀なくされる。

 

 また、俺が居た場所に刀を振ったような素振りのヒュン、という音を聞いて、背中を冷たくさせられる。


『あんなモン……今度まともに食らったら』


 ハーネスに体をトコロテンにされるどころか、体を真っ二つにされる。

 そして、また、白金の怪物は俺に向かって猛スピードで落下をして来た。


 このままだと地上に激突してしまう。

 いやその前に青森さんがワイヤーを引いてくれるか……。

 あの鞭みたいな攻撃がかなり厄介……。

 

『そういえば……』


 リュウグウノツカイは突っ込んでも、結局は体をしならせて攻撃する。

 コイツまさか……。

 俺はふと自分自身から伸びた一本の線、ワイヤーを見てそこに勝機を見出した。


『ワイヤー……そうか……!』


 ある事を思いついた。

 ハーネスの背中に伸びているワイヤーの先を、腕を回して触れた。


『これは……俺でも外せるな』


 フックの先にあるロックカラビナを外して、右手に持って構えた。

 一か八かだ。

 失敗して攻撃を食らえば、俺は百数十メートルから超加速で落下して木っ端微塵だ。

 このかんも、リュウグウノツカイは十メートル、九メートルと秒読みのテンポで迫って来ている。


「青森さん、お願いがあります」


「お、おぅ。何でも言うてくれ」


「俺が合図を出したら一気にワイヤーを巻き上げて下さい」


「お…ぉ、分かった。何かやるつもりか」


「はい、試したい事があります」


 リュウグウノツカイとの距離が五メートルと接近した。


『コイツ、リュウグウノツカイの判断力は空間認識なんだ。動いても次の瞬間には、標的ターゲットを捕捉してすぐに察知する。その機能で俺に簡単に追いついて来た……』


 リュウグウノツカイがまた一本の槍となり、俺の胴体に目掛めがけて突っ込んで来た。

 空気の壁を押すようにして、俺は体を流して攻撃をらすと、攻撃を外したリュウグウノツカイの真横に体をつけた。

 

『そう……。だけど、だ』


 ワイヤーを手首のスナップで振り回して投げつけた。


『コイツは行動を予測する事は出来ないんだ。そして特定のパターンにまる。その時は決まって同じ行動を取る』


 思った通り、リュウグウノツカイはその体をまた弓上に曲げる。


「青森さん! 急ぎ巻いて下さい」


「よっしゃ!!」


 威勢のいい青森さんの返答があると、ウインチが猛烈な勢いで回る。

 俺を攻撃する為に体を弓状にしたリュウグウノツカイは、その体を鞭のように使うより先に。


 ビシッ!


 と、ワイヤーが張った。

 リュウグウノツカイは”つ”の字に体を曲げた状態のまま、ワイヤーにしっかりと絡め取られた。


『まさか陸地、しかも上空でトローリングするとは思わなかった……』

 

 運も味方をしてくれた。

 ワイヤーの先にあるフックが、リュウグウノツカイのエラに食い込んで、ワイヤーが解ける事はないようだ。

 どんどん離れていく、リュウグウノツカイを追っかけて、俺もビルの屋上へと戻る。


「いよっしゃあ! 大金星やぞ! 次秀!」


 屋上で狂気している青森さんの声。

 その耳鳴りを覚えつつ、俺は正反対にそこはかとない恐怖心に支配されていた。

 

 本当にこのリュウグウノツカイはイタズラなのか?


 嫌な胸騒ぎが止まらない……。



 

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