第一話 やがてお掃除ロボットでさえ……26 西条 公彦の視点
クロノスは改めてこれまでの経緯を、大南副社長に釈明を兼ねた説明を始めた。
ゼウス、ドッペル、そして、渦中博士が中に入っているクロノスというヒューマノイド。
それらを全て克明に話している。
そのクロノスにずっと胡乱な目を、村井部長が向けている。
そんな村井部長とは真逆に。
西条さんが人差し指を折り曲げて、それを自身の顎に当てて苦笑している。
その表情が何やらつっかえていたモノが、ようやく腑に落ちたという様子だ……。
西条さんはこの状況下で、一体、何に納得したんだろう?
あのロボット達が暴れたのか、その事がハッキリしたから?
いや……この人に限って、そんな単純な事でこんな表情はしない。
じゃあ何か他に理由が……と想像しても俺には他に思い当たる節が無く。
一体、何に対して納得したのか、すご〜〜く尋ねてみたいけども、おそらくこの人の事だから適当にごまかして、きっちりとした返答は得られないはずだ。
もし、西条さんが考えている本当の事を知ったら、なんとなくロクでもない気がするから、それはそれで蓋をしたままの方が良いかもしれない……。
――――−―【その西条の視点と胸中】――――――
さて、話聞いてるこの大南さんがどういう結論を出すんだろうねぇ。
しっかしねぇ……。
な〜〜るほどってね……。
よーく分かった。
やっと、もやもやとほつれていた糸が解けたよ。
このクロノスっての解答で、今日一日の謎がようやく解けた。
そうかそうか……。
せっかく青森をおちょくる為に、あの腓返 梅子と陽一郎が一見、暴走を起こしたと、そう見えるように細工をしたってのに……。
そしたら途中から、あの二体がボクの指示をスルーし始めた。
最初はワケがわかんなかった。
梅子と陽一郎の二体にボクが主人だと、きっちりと設定をしていたのに、ボクは蔑ろにされた……。
いや、それどころか、ボクにまで攻撃を加えようとした。
まさか、驚かせるはずの青森と同じ被害者側にされるなんてね。
わっざわざ、AIの中身までいじくって準備したってのに。
こういうの ”ボケ潰し” っていうんだろう。
「ハァァァァ…………」
あ………しまった。
思いっきりため息を漏らしちゃった。
誰かに見られたら怪しいよねぇ……。
いやいやダメだ、オドオドしちゃいけない。
ボクが梅子と陽一郎を使って、イタズラを仕掛けてた事は誰も知らないんだから。
……って、あれ……誰かの視線を感じるよ……誰だ?
この天才に見惚れる気持ちは汲むけどさ。
隣に立ってる青森に視線をやる、が……。
青森……じゃ……ない……。
大南さんとクロノスとのやりとりを、愚直に見てる。
じゃあ、誰だ……って、青森の隣に立ってる……。
え? 次ちゃん?
気づけば次ちゃんが、ボクをガッチリとホーミングしてる。
何?
まさか、何かに気づいた?
いや、待て待て慌てるな、動揺するなボクよ。
ここは一つ、いつもの調子でだ。
『ん? 何? どうしたの?』と、首を傾げてにっこりと微笑んむんだよ。
さて、ボクが首をくにゃりと首を傾げて、微笑むと。
うん? あれ?
微笑んだけど……表情を……全く変えずに次ちゃんはボクを見続けてる………。
まさか、ホントに何かに気づいたのか?
いやでもまぁ、証拠はたぶん無いし、視線はスルーしておこうか。
なんだか勘のいい子だねぇ……。うん、ちょっと怖い。
この子……次ちゃんについては、巻き込んで悪い事したって思ったからねぇ。
だから……命懸けで、本当に命懸けで守ったから、キミとは貸し借りは無いよね。
うんうん。
ただ、ドッペルだか、ゼウスだか知らないけど、ボクが仕掛けた証拠は消し去ってくれた。
AIのプロセスがおかしくなっていたとしても、ウィルスなドッペルのせいにすればいいんだろうから。
仮に開発部の連中や青森と御堂さんが、梅子や陽一郎のプログラムを覗いて見ても分からないはずだ。
御堂さん……。
そうだ。そう言えば……御堂さんはどこへ行ってるんだろう。全然、姿を見せないけど。
………って、ボクは馬鹿か。
この状況で、いない人の事を考えたりしたら、思いっきりフラグでしょーが。
もう今日はこれ以上、面倒な事は………。
「村井部長!」
突然、誰かが、けたたましくドアを開いて現れた……。
長い髪に怨念でも乗せてるように、ふり乱して入ってきたのは……。
眼鏡をかけた、無駄に変に色っぽい女の子。
ウッソ……。ホントに御堂さんが来ちゃった。
フラグなんて実際に起きるワケ無い、と思って安心しきってたのに、これは本当に来ちゃった感じだ。
そんな御堂さんは、何やらその表情が険しく、これからすご〜く嫌なメッセージを伝えようとしている予感がする。
例えば、「お掃除ロボットが暴れているそうです!」
とか。
いや、まぁ……お掃除ロボットぐらいなら持ち主でなんとか対処できるか。
足元うろつき回られて、「コロスぞ!」とか言われても怖くないしねぇ。
「どうした、御堂」
村井部長が冷静さを通り越して、非情なまでに棒読みで聞く。
ねぇ……うん、分かるんだけど。
慌てている部下を安心させるための、声のテンションなんだろうけど、もう少し相手を包むように言えないかのな、この人。
「アミュースターに行っている甘坂さんから、緊急のSOSです!!」
御堂さんのその一言で、室内が「ザワッ」と声が響いた。
何、キミ達、カイジなの?
「オイオイ……このタイミングでかよ。マズいな……」
大南さんがいつになくシリアスに言う。
このオッサンにしては、珍しい。
それもそのはずか。
アミュースター。
略さずに言えば、アミューズメントスター。
対して略してないネーミングのこの場所は、人工惑星を造って、お宇宙に打ち上げました、っていう衛星。
人工惑星が丸ごと一個、電化製品であり、そしてその全体がテーマパーク。
馬鹿なおじさん達が描いた夢絵空事を、そのまま形にしたものだ。
中にはもちろん、エデン(うち)の濃い〜〜〜ロボット達がわんさかといる。
そこへ開演前の最終調整へ向かったのが、係長である甘坂さんとその部下達。
その人がSOSを発してきたんだとしたら、これはもうボクとしては逃げるしかない。
もう悪い予感しかしないもんね。
室内にいる人は皆、御堂さんと大南さん、村井部長に注意を向けている。
よし、思い立ったが……。
「……仕方ない、直ちに行くぞ。オイ! 待て!! 待たんか!! 西条ぉぉぉ!!!」
ボクは勝手口の向こうから怒鳴る村井部長の声を、よーいドン! の代わりに背中で聞いて、猛スピードで走った。
冗談じゃない。
今、このタイミングで行けば今度こそ、ボクが開発したもので、ボク自身が殺されちゃうよ。
傾きかけている太陽は、ボクをどこか励ましてくれているようで、一条の光がずっと先に伸びていた。
そのままこの先へ逃げなさい。
オレンジ色した光はそう告げている。
カゴの中の世界が全てだと思っていたカナリアが、自由気ままに大空と語り合うように、ボクは四肢に全力を込めて疾走した。
あぁ、世界は美しい。
第一話 やがてお掃除ロボットでさえ俺達を殺しに来るのか?
完
次回、この西条が主役の話です




