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暴走電化エデン!   作者: 友利色良
第一章 暴走勃発
23/29

第一話 やがてお掃除ロボットでさえ俺達を殺しに来るのか? 22


「ボクが行きたかったなぁ……」


 西条さんが特殊派遣課の事務所で、ポツリとうらやむ一言をつぶらいた。

 

 渦中博士から託された物を調べると決めた村井部長は、早急の要件で水島さんを呼び出した。

 

 特派の事務所に戻って来た水島さんは、酷くボロボロの姿だった。

 だが本人曰く、「かすり傷程度」との事だったので、村井部長から事情を聞いた水島さんは、颯爽と着替えてすぐにその足でトランクルームへと向かった。


 今現在、部長または、水島さんからの連絡を、事務所の机にかじり付いて待っている。


 俺の向かいに座っている青森さんが、目の前に置かれたコーヒーカップを手にとって。


「なんか微妙な色やなぁ……」とカップの中身をしげしげと見つめて呟く。


 コーヒーは西条さんが淹れてくれたものだ。

 俺の机にも置いてくれている。

 確かに……中は淡〜い琥珀色こはくいろをしていて、カップの底がよく見える。


 顔を上げると、向かい側の青森さんが目一杯に不審な表情を浮かべていた。


「君達はねぇ、人の好意を警戒し過ぎなんだよ」


 軽く首を降った西条さんが、残念そうに言う。

 そう言われると……。

 青森さんと意を決して頷き、恐る恐る一口すする……。

 

 と。


「ブッ……!! なんやこれ!?」


 同時に俺達は吹き出してしまった。

 

「お湯!!? 色のついた、ただのお湯!」


 青森さんと俺が絶叫まがいに声を上げた。


「失敬な。ボクが厳重に管理していたドリップコーヒーを……」


 果てしなくぬまなどんより眼をもった西条さんが、悲しげにフッと息を吐く。


「管理? どう管理したらこんな液体に育つんや!」


「あぁ、それは三度目だからさ」


「「三度目……?」」


 西条さんのひとことに俺と青森さんが顔を見合わせる。


「お、お前。つまり、このドリップは使っては乾かして、また使って……って、三回目……」


 顔を青ざめさせた青森さんが、イヤな確認を西条さんにとると。


「大丈夫だよ。ボクはなんともなかったから」


 と、サラッと言ってのけた。


「アホかあああぁぁぁぁ!! ちょっと飲んでもうたやないか!! めっちゃカビ生えてるやろ!!」


 絶叫した青森さんが立ち上がり、ドアの方へ駆け寄ると。向こうからバン!とドアが開き。


「やかましい!! 何を騒いでいる! 廊下中に響いているぞ!」


 怒鳴りながら村井部長が入室した。


「あ、部長! すみません、西条が俺と次秀にカビ入りコーヒーを飲ませて……」


 若干うろたえながら青森さんが弁解する。

 が、村井部長の顔は『今、機嫌が悪い!』と無言でも伝わるほど、その眉間に深いシワをきざんでいる。

 

 青森さんと俺がもし悪いとすれば、話しかけたタイミングだ。

 そして当てられたのは、怒りの爆撃ボミングだった。

 

「だったら富山にでも行って薬を取りに行け!」


 エサを横取りされそうになったライオンのごとく、村井部長はガルッ!と吠えた。 

 そんな村井部長に理不尽な返しをされた青森さんが、「え……いや、あの……」と、涙目で狼狽うろたえる中。


「あ、部長。水島君から連絡は有りました?」


 精神苦痛皆無メンタルモンスターの西条さんが、何事も無かったように部長に訊いた。


「あぁ……。あったぞ。なんともろくでもない代物が、コンテナから見つかったらしくてなぁ……」


 歯を食いしばり「ククク……」と、何故か悪い顔で笑いながら村井部長が答えた。


「何です? そんなにお気に召さなかった物ですか? 中身は一体なんだったんです?」


「……あぁ。まぁ、水島がもうすぐそこまで戻って来ているようだ。実際に俺とお前たちの目で確かめるといい……」


 そう言いながら部長席の椅子を引いた村井部長は、ドチャッと椅子を壊さんばかりに全体重を預けて腕を組んだ。

 その表情は苦渋の選択を迫られているような、マコトに渋いお顔だ。

 

 そんな部長の様子を見た青森さんが、向かいで座っている俺に「なぁ次秀。部長、なんかガッカリしてるよりかは、むしろ怒ってるよな?」

 と、小声で言う。


「えぇ。まるで面倒な物を背負わされたような空気ですね。本当に一体、何が入ってたんでしょうか」


「余計に気になるよなぁ……」


 クリクリと眼球だけを動かして、部長と西条さんを交互に見た青森さんは、最後に西条さんに視線をやり。


「お前の大好物な話内容やのに、えらい静かやな……」


 頬杖ほおづえをついた青森さんが、斜め向かいの西条さんにぼぉっと呟いた。

 そんな青森さんを横目でチラ見した西条さんは。

 

「ボクはヌエみたいな話に翻弄されない。実際に見てみなきゃ」


 そう言って「ボクはブレない」などと、意外にも現実主義な発言をすると、机の中から一冊の本を取り出して読み始めた。

 本のタイトルは ”空想科学読本”だ。


 この本って確か……ヌエみたいな科学ネタが満載の一冊じゃなかったか。


「”自己矛盾”って言葉は西条コイツの為に創られたんやろな」


 そんな他愛も無い会話をしながら、その場の全員が心落ちつかず三十分も待った後。


 ようやく水島さんが通用口から姿を現した。


「すみません。遅くなりました」


 顔を覗かせたゴツいゴーレムもとい水島さんは、村井部長に会釈して一言を告げる。

 そんな水島さんに青森さんが。


「おぉ、おかえり」と席を立って近づいて行く。

 俺と西条さんも青森さんの後に続いて並んだ。


「いや。頼んだのは俺だ、それよりだ……」


 俺達の後方で席から立ち上がった村井部長を振り返って見れば、水島さんを通り越してその向こう側へ視線を投げかける。


「はい。やはりレンタルルームにはこの”一体いったい”だけでした。さぁ、入って……下さい」


 水島さんが背後の何かに対して促す。

 が、言葉尻が奇妙だ。


 ”一体”はロボットなどに使う単位だが、ロボットに対して言ったとしたら敬語で促す必要があるのか?


 青森さんや西条さんも、俺と同じ疑問を持ったらしい。

 俺達はその水島さんの言動に、三者三様で訝しい顔になった。

 そんな少し珍妙な空気を割いて現れたのは、薄い鎧のような外骨格をまとった漆黒のヒューマノイドだった。


 顔は面長で中央が赤く、そして丸く不気味に輝いている。

 この顔……子供の頃に見た、田舎の田んぼにある、害鳥避けのバルーンのようだ。

 そんなヤツが、カツン、カツン、と冷たい床を刻む音を立てて、俺達のオフィスに入って来た。


「見たこと無い……。どこの製品や。知ってるか? 西条」

 

 青森さんが珍しく西条さんに意見を求めると。


「ボクも今、同じ事を訊こうとした。どこの子だろ?」


 そんな首を傾げている二人の背後から、いつの間にかヌッと寄って来ていた村井部長が。


「初めまして ”渦中博士”……。で、いいのか?」


 そんな挨拶をした。


「「「は??」」」

 

 その場にいる青森さん西条さんと俺は、同時に聞き返した。

 え?

 渦中博士?

 生きてて?

 だって死んだってニュースが……。

 ヒューマノイドが渦中博士?


 あらゆる疑問が頭の中をよぎっている。

 そんな俺の隣で西条さんが。


「うん……。今日いろいろと疲れる事があったからね……。年齢も年齢だから……。前からずっと怪しかったけど……村井部長……とうとう頭がおかしくなっ………」


 ゴスッ!!!


「あぐぁっっ!!」


 西条さんの台詞は、上司から降り注がれたゲンコツでかき消された。

 右肩辺りを強打したらしい西条さんは、その場でうずくまった。


「あぁ。そうだなぁ、疲れと年齢で頭がおかしいのかもしれん。だから部下に対するパワハラだの暴力だの関係ないよなぁ? えぇ? 西条?」


「ボ……ボクはただ……この不可思議な空気感をなんとか……冗談リラックスに変えようと……」


 うずくまったまま右肩を押さえながら西条さんは、うえからの重圧にわずかな抵抗を見せながら弁明する。


 そんな二人のやりとりの後。

 しん、と一瞬の静謐せいひつに包まれた室内で、目の前にいるヒューマノイドの声が響いた。


「初めまして。エデン特殊派遣課の皆さん。渦中です……」


 村井部長の挨拶に、そのヒューマノイドは腰から上体を曲げて慇懃に一礼をした。

 それは間違いなく、今朝、青森さんと俺が聞いた声だった。

 


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