第一話 やがてお掃除ロボットでさえ俺達を殺しに来るのか? 21
「平井常務。その事についてご説明があります」
『弁解』という言葉を『ご説明』に置き換えた西条さんは、平井常務を連れて少し俺達から離れた場所に移動した。
俺達から距離をとったのは、今からつく大嘘に横槍を入れられるのを警戒したからだろう。
上司を蹴り上げた西条さんが、どんな言い訳をするのか聞いてみたいところだが、今は村井部長に聞いてもらわなければならない事がある。
「あの村井部長、ちょっとよろしいでしょうか」
「ん?」
俺はポケットから封筒を取り出して、村井部長に差し出す。
「あ、それや。村井部長、実は今朝、二階堂と出先でですね。亡くなる直前の渦中博士から、これを無理矢理に渡されたんですよ」
青森さんが俺の言に補足してくれると。
「なに……? お前達……渦中博士と会ったのか!? 亡くなったと報道で驚いたが……」
今にも額に汗を吹かせそうなほどに驚愕する村井部長に、「そうなんですよ……。その時の渦中博士の様子が明らかにおかしかったんです……」
「……詳しく話してくれ」
「もちろんです」
そう青森さんは深く首肯して、今朝の事を話し始めた。
ある程度の自身の推測を織り交ぜながらも、分かりやすく伝えた。
やがて、眉間に深い皺を寄せた村井部長は、苦悶の深いため息をついて。
「……渦中博士の死因は発表されておらず、このロボット達の暴走。その寸前に託された鍵か……。やれやれ……あまりに出来すぎだ」
言って村井部長は、受け取った封筒からカードキーを取り出した。
「部長。今回の一件と関わりがあると思いますか? この渦中博士に渡された物が……」
「それは中身を見るまで俺も分からん。……と、まぁそんな、予測が外れた時の事を考えた、保身的な発言を止めて本音で言えばだ。このタイミングで、こんな物を渡されたら、とても無関係だとはどうしても思えん……なぁ?」
急に差し込んできた陽射しを嫌うような、しかめっ面を浮かべた村井部長はさらに。
「二人が会った時には渦中博士はまだ、ピンピンしていたのだろう? しかしその直後に博士は死んだんだ。怪しめと言っているようなもんだ」
「部長……。警察は俺らの事を調べに来ますよね?」
心の不安定さがダダ漏れになっているのを、青森さんは抑えずに訊いた。
「あぁ、そこのとこだ。警察だけなら特に問題は無い。落とし物を届けてくれた、とでも言えばいい。二人は他に博士と接点は無かったんだろう?」
「えぇ、もちろん無いです」
そう首肯した青森さんに続いて。
「はい。俺もありません」
そう俺も追従した。
すると。そんな俺たちを村井部長はジッと見て、「まぁ、警察……だけなら……なぁ……」と、俺達に話すでもなく独り言を呟いた後、動かなくなった。
それはもう、全く動かずジッと俺達を凝視したまま……。
本当に動かなず……。
えぇと……。
何これ、すごく気まずい……。
俺が何かよからぬ事をしでかしたのだろうか。
隣を見ると青森さんも「あ、あの……部長?」と、狼狽えている。
すると。
「二人以外の誰かに向かわせるか……」
何かを決断したらしい、村井部長がいきなりそう呟いた。
「はい?」
青森さんが聞き返すと。
「ここで考えても仕方ない。何を渡されたのか現物を見てみなくては何とも言えん。だから俺の一存だが、回収しに誰かに行ってもらう」
「あの……ですけど、いいんですか!? 社長と副社長には……」
「二人には事後報告するさ。それにあの渦中博士が命がけで残した物だ。お前達も気になるだろう? もし、中身が俺達に手がつけられそうにない代物だったら、適当な弁解を考えてだ。改めて警察へ押し付ければいいだけだからな」
「なるほど……。流石ッス、部長」
「それで誰を現場へ向かわせるかだが……。とりあえず今、お前達は行かない方がいいな。俺もこの馬鹿げた事態の、システム調査があるから動けん。となるとだ……」
「じゃあ、アイツですか?」
村井部長の言葉に合わせるように、青森さんが西条さんの方を見る。
西条さんは未だに大袈裟なジェスチャーを交えて、やや仏頂面な平井常務に釈明をしていた。
「西条を向かわせるぐらいなら、ウィルスまみれのロボットを向かわせた方がまだマシだ!」
「そ……そっすか……」
村井部長の勢いに、思わずたじろいだ青森さんと目が合う。
バカバカしいほど信用がない、西条さんに対する評価を聞いたところで。
「では誰……あ、一人」
「あぁ、そうだ。水島に行かせよう。うってつけだ」
言って携帯を取り出した村井部長は、水島さんであろう通話相手と二、三言を話して通話を終了させた。
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