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暴走電化エデン!   作者: 友利色良
第一章 暴走勃発
20/29

第一話 やがてお掃除ロボットでさえ俺達を殺しにくるのか? 19


 おかしいもんだ。

 さっきはこのまま体と脳が蕩けたらいいのに、なんて思っておきながら、いざとなれば怖くて仕方がない……。

 

 段々、周りの景色がぼんやりと見えてきた。

 空の中を糸の切れた風船のごとく、不安定に漂っている。

 

『……ん? 空?』

 

 気付かない内に空へと上昇したのか。

 でも、どうして空の景色が見えるのか……? 

 さっきまで、灰色にしか見えなかったはずの景色が、今や蒼穹そうきゅうのパノラマがどこまでも広がっているのが、はっきりと目に映っている。


 これって、スピードが下がってきた?

 まさかハーネスの故障?


 うつ伏せのまま、漂い飛んでいるのは変わってなさそうだが……。

 

「ん?」


 なんだろう。

 両肩に何かが触れているのを感じたる。

 まるで誰かに後ろから支えられているかのよう……。

 

 背後に誰かいる?

 

 いや、ありえないだろ。

 人が追いつけるワケがない。

 おそらく高度、数十メートルにいるのだから。

 もしかして……ドラゴンが追いついたか!?


「おやおや、次ちゃん。スピードを出しすぎて出血しちゃったか」


 くるりと俺の体を反転させて仰向けにした人が、顔を覗きこんで微笑んできた。


「さ……! 西条さん!?」


 それは紛れもなく西条さん……だが。

 いや、なんで!?

 どうやって俺に追いついたんだ?


「次ちゃんに押し付けて、ボクはバックれたと思ったでしょ?」


「い、いえ……! その……どうやって俺に追いつい……」

 

「あはは。ごめんよ、ちょっと遅れたね。いやね? 戻って”コイツ”を着て出たら、次ちゃんがヤバいスピードでぶっ飛んでる真っ最中だったからね。追いかけて減速をさせてもらったよ。これでも急いだんだけどね?」


「コイツ……?」


 見ると西条さんは、ド派手な銀色のジャケットとズボンを着用している。

 

「このスーツはフライングフルハーネスの試作品、一号を内蔵しているんだよ。次ちゃんが着けているのが二号でね」

 

「そ、そうなん……ですか」


「うん、それと……これ。おあつらえ向きをちゃんと持って来たよ」


「はい?」

 

 おあつらえ……?

 それは西条さんの股の間にあった。

 先が潰れて鋭利になった鉄パイプの槍が二本。

 どうやら車の足回りのパーツ、スタビライザーのようだ。


「で、どう? 次ちゃん、体のダメージは? まだ動けるかい?」


 そう、口の端を曲げて不敵な笑みを浮かべる。

 そんな風に訊かれたら解答は決まっている。


「行けます。大丈夫です」


 そう答えて顔に垂れていた血を拭う。

 

「よし。じゃあまず、ハーネスのリミッターを入れよう。次ちゃん解除してたでしょ?」


「え?」


 言われてバックル内蔵のリモコンを確認する。

 本当だ……。無意識のうちにリミッターが解除になっている。

 それであんなスピードが出たのか。

 思い出すだけで背筋が凍る……。

 

 言われた通りリミットの推奨ボタンを押す。


「それでOKだね。じゃあ、片方を受け取ってくれるかな。気をつけてね」


 そう言った西条さんと共に、上空で静止する。そこで改めて眼下に広がる光景を目の当たりにする。

 

「え………高…………!」


 眼下に広がる約、四千ヘクタール(およそ千二百万坪)ある会社の敷地が、端から端まで見渡せる。

 高速移動で全く気づかなかった。

 俺の体はかなりの上空に到達していた。


 そっか。

 真ん前に飛ぶつもりで蹴ったけど、力は前と上に振り分けられて仰角ぎょうかくがついたんだ。

 それでずっと無意識に、斜め上へと飛んでいたのか。


「いいかい? 渡すよ」


「はい」


 西条さんから一メートルほどの槍を受け取ると。


『ええと、ドラゴンは……と』


 眼下にいるだろう、ドラゴンの姿を探す。 

 

「いた……!」


 手のひら大の大きさに見える、ホワイトドラゴンの後姿を見つけた。

 左右の二翼よくの翼で挟んでいる背ビレが、均等に縦に五枚。

 しかし……。

 後ろ姿?

 アイツどこへ向かっているんだ?


 よく見ると、ドラゴンが向かう先に、他の社員の一団が見える。

 まさか………。

 アイツ、俺と西条さんに追いつけないから、他の社員さん達を標的に変えた!?


「西条さん! アイツ……ドラゴンのそのバッテリーはどこにあるんですか?」


 訊くと西条さんもドラゴンを見つけていたらしく。


「……マズいな、他の社員達を襲うつもりか。次ちゃんあの、背ビレが見えるかい?」


「はい!」


「あの真ん中の一際、大きい背ビレの中にある。体は瓦みたいな鱗で覆ってあるから、その隙間から刺せば……」


 西条さんの説明を聞きながら、ドラゴンの姿を目で追う。

 社員さん達は近づくドラゴンに全く気づいていない。


「ダメだ!」


 俺はたまらず、ドルフィンキックを繰り出して、ドラゴンの背中を追った。


「ダメだ! 次ちゃん! 一人で行くな!!」


 西条さんの制止する声を背中で聞く。

 だが安全策を取っていたら、確実に死人が出る。

 前触れもなく、あんな氷柱や雹を落とされたら……。


『クソ………! もっと速く!』


 気持ちだけが焦って先走りする。

 このリミッターが入っている為に、前へ中々進まないのだ。

 

『仕方ない……』


 またこんな事してたら、西条さんに病気だと思われるかもしれない。

 だけど、他の社員さん達が、あのドラゴンに不意に襲われるぐらいなら……。

 

 神に祈りを告げて推奨スピードを解除した。

 そしてまた、ドルフィンキック。

 ようやくスピードが上がる。

 ドラゴンの姿がどんどん大きくなる。


 大丈夫だ。

 さっき地上を直接蹴って加速した時よりも、スピードは遥かにマシだ。


 もう、あと十メートル。

 九。

 八。

 七……。


 右手に槍を構える。


「うおぉぉぉぉぉ!!」


 馬鹿みたいな気合いの叫び声が、勝手に口から飛び出る。

 きっと畏怖する己の心を奮い立たせるためだろう。


 そしてついに。

 ドラゴンの背中が目の前まできた。

 俺は全身を弓状にして、その反動ばねで急ブレーキをかける。

 

 減速の反動で脳がガタガタと揺れる。

 ちょっと気持ち悪い……。

 が、鱗とヒレの背中に到達。

 

 全身がパールホワイトの屋根瓦みたいな鱗に覆われた背中。その中央にある背ビレの隙間に向かって、目一杯に腕を伸ばす。


「行っけぇぇぇぇぇぇ!!!」


 鱗の隙間を縫うようにして、全力で槍を突き刺した。

 ゴン、と何か堅いものに当たったような感触の後、貫通した確かな手応え。

 

 だけども。


「これ……だったのか?」


 刺さったのはいいとして、これが果たしてバッテリーだったのか……。

 

 疑心暗鬼にかられていると、刺した隙間から黒い噴煙が、スプレー缶のごとく吹き出した。


「うわっっ………」


 オイルか?

 まさか………俺、間違…………。


 その時、真横からドラゴンの尾が俺の首へ襲来。


「うおっっ!?」


 なんとか引っ込めてギリギリでかわした……。

 つもりだった。

 

「ちょっ! 待っ………! オゲッ!」


 甘かった!

 尾っぽの先っちょに存在した小さなヒレが、俺の服の裾に絡み付いて、横っ腹をぶっ叩かれた。

 と、同時に。


「次ちゃん!! その場から離れるんだっ!!」


 西条さんの叫び声が、微かに聞こえた……。

 

 すると分厚い氷が割れた音がした。

 がおん、と重い音がした途端。

 

 目の前が紫色に爆発した。

 

 まるで打ち上げ花火の中に放り込まれたよう。


『どうなった………俺………失敗したの………か……』


 全身の力が抜けていく……。

 何が起きた……?

 意識がドロドロに溶けていく……。




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