第一話 やがてお掃除ロボットでさえ俺達を殺しに来るのか? 16
あ、しまった。
このハーネス、一人じゃ装着できねぇ。
『俺が仕留めます』なんて言っといて、恥ずかしい……。
今朝だって青森さんに手伝ってもらってやっと付けられたんだよな……。
怒涛にアホな事を考えている俺にめがけて、ドラゴンが雹をまた一発、繰り出す。
「クッソ……!」
「次秀っ!!」
圧縮された氷の弾が、俺の右肩をかすめて地面に落下した。
ボーリングの球を床に落としたような重い音を立てた後、雹弾は粉々に割れた。
なんとか素早く判断して避けれたが……。
油断は命取りだ。
ボケッとすんな、俺よ。
本当に今のは危なかった。
とにかく、このハーネスをあの二人のどちらかに手伝ってもらなくちゃ……。
ジグザグにもがくように走りながら、振り返って。
「青森さん、西条さんごめんなさい、装着手伝っ……」
そう声をかけようとしたら手を、グイと引っ張られた。
「こっち!!」
「わっ!」
引いたのは、いつの間にか近くまで来ていた西条さんだった。
「ちょっと隠れるには頼りないけど、あの木陰まで行くよ」
そう言って示したのは社屋から少し離れた木の群れだ。
そこはごくごく簡易に作られた、公園風の憩いの場所。近くにはベンチがあり、たまに昼食をそこで食べている人達を見かけたりする。
「あの! ドラゴンが追いかけて来ますよ」
「大丈夫だよ。少し青森にお守りさせておく」
「え?」
言われて青森さんの方を見ると、頭上約、五メートルの辺りにいるドラゴンに向かって「コイツ! この!」と、何かを投げつけては、逃げ回っていた。
投げているのはさっき大破した、車のパーツらしい。
その青森さんをドラゴンが躍起になって、雹を吐きつけながら追いかけ回している。
「次ちゃんのおかげで、やっと俺もアイツも少し冷静さを取り戻したってとこだ。で、そのハーネスをちょっと拝借してもいいかな?」
「あ、はい。お願いします」
俺の手から受け取ると、「中央部をお腹で押さえておいてくれるかい?」そう指示した。
「分かりました」
「なんだかね。あのスノードラゴンで奇妙な事に気づいたんだよ」
「奇妙?」
「うーん……ちょっとねぇ……」
奇妙と言って歯切れの悪そうな西条さんは、少し間を置いた後に。
「着地点が定まってないように見えるんだよ」
「着地点ですか?」
「そう。あのロボット達……AIは、恐ろしい回数のシュミレーションを行なって、それで描いた着地点に到達するシナリオ通りに動作をしてる」
「えぇ」
「それがどういうわけか、ずっとボク達に攻撃してるけど当たってない。もし、あのスノードラゴンが……表現がおかしいけど『本気で』攻撃するなら本来、ボク達はとっくに攻撃を受けているはずだ。ズレを再計算してね」
「本当だ……。確かに……そうですよね。環境設定が狂ってるんでしょうか?」
西条さんはその手を、俺の体の周囲で目まぐるしく動かしながら、「ボクの想像の範疇なんだけどねぇ……」と呟いた後、その手を一旦止めて。
「『美意識』を持っているように見えるんだよ」
「はい?」
「例えば、人間がゲームで勝つ時、最大の超必殺で勝ちたいという感覚に近いような気がしてね。それまで追い詰める……」
「今、それを行っている……という事ですか?」
「うん。まぁ……もしくは、本当にただアホになったかだね。後者なら分かりやすいから、ありがたいんだけど」
「もし……前者でしたら……?」
「ん〜………。それはかなり『めんどくさい奴』に仕上がってるねぇ、きっと……さぁ、出来たよ勇者様」
「ありがとうございます……」
固定されたハーネスは、なんとなく心もとないが行くしかない。
心もとない……か。
子供の頃にそういえば父さんが言っていたな……。
人間は心もとない生き物だけど、実はすごく大きな力がある。けれども、大人になるにつれて、色々と忘れたり失くしたりするんだよ。
今、次秀が持っているもの全部ね。
そう言われて俺はきいた。
「どうして失くすの?」と。
すると父さんは少し寂しそうに、「きっとなんとなく恥ずかしくなるんだよ……。そうして心の奥にしまっちゃうんだ」と言って微笑んだ。
今の俺にはまだ、あの時父さんが言った言葉の意味は分からない。
もっと経験を積んだら分かるんだろうか……。
「……ちゃん? 次ちゃん?大丈夫?」
ヤバ……。ちょっと遠いところに行ってる間に西条さんに不審がられてる。
「はい。すみません……ちょっと緊張して……」
「地上からなんとか援護するから。目一杯、暴れておいで」
そう首を傾げて微笑む西条さんに。
「はい! じゃ、ちょっと行ってきます!」
俺はありったけの気合いで答えた。
するとそんな俺に「もし亡骸になってもきっちりするから……」と、西条さんは小声で呟いた。
あぁ……。
たぶんこの人は、子供の頃からずっとこんな感じだったんだろうな……。
じんわりと汗が滲む両手を、俺はギュッと握りしめた。




