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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第三次龍鬼戦争
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第七十一話 海に潜みし怪物 ②

 清龍を筆頭とする潜水艦隊は、通信妨害を引き起こす宝珠を破壊するため、宝珠直下から、七人の姉妹と共に、魚雷の一斉攻撃を仕掛けるつもりだった。

 幸いにも、宝珠の防衛をする敵潜水艦隊は、上の深度に残った海龍が引きつけている。宝珠を破壊する機会は、この一度のみだった。

 

 数分後ほど進み、宝珠が存在するであろう地点の真下へと到着した。清龍はその場で航行を停止し、後続の妹達にも、停止するよう指示を出した。

 停止した艦隊は、レッグポーチから取り出した魚雷を、左右の魚雷発射管に装填する。装填される魚雷は最大で四本。艦体全体では、合計三十二本という、大きな火力に達した。

 そして、その時は訪れた。


 『これより、通信妨害を引き起こす宝珠を破壊する。出し惜しみはするな。所持する魚雷を全て撃ち込め』


 姉から送られてくる照明信号に、妹達は黙って頷いた。そして、艦体は魚雷の有効射程圏内まで宝珠に近づこうと、上昇を開始しようとした。


 しかし、その次の瞬間、清龍は動きを止めた。それと同時に、右腕を広げ、後続の妹達に進まないよう指示を出す。

 清龍が感じていたのは、ただならぬ殺気だった。まるで、背筋が凍り、心臓を鷲掴みにされたような感覚だ。それらを感じていたのは、清龍の後ろに控える妹達も同じだった。

 そんな中、靂龍は新しく与えれた改良型音波探知機を使用し、周囲の索敵を試みた。音波は瞬時に広がり、存在する物質を明確にする。

 だが、靂龍は探知機の反応を見て目を見開いた。自身の位地の真上に、一つの謎の反応があった。


 (しまっ……!!)


 靂龍が気づいた時には、もう、遅かった。首元に生暖かい感覚が走るのを感じ、反射的に手を首に当てようとする。だが、なぜか腕が動かない。それどころか、首より下の感覚が無いことに気づいた。

 そこで、靂龍は始めて気がついた。頭と体が分断され、その背後には、殺気を放つ存在がいた事に―――


 ―――光の届かぬ暗闇の中、姉が目の前で死ぬ光景を目撃した南龍は、絶句することができなかった。姉の首を断ち切ったのは、全身を黒塗りの鎧で固めたゴーレムのような人形の何かだった。グレートヘルムの隙間からは、紅い光が漏れ出していた。

 あまりの衝撃に、動くことすらできなかった南龍だが、すぐに姉を殺された怒りが湧き上がってきた。怒りに呑まれた南龍は、即座に双剣を構え、姉を殺した存在に向け、突撃を開始した。

 だが、南龍がまばたきをしたほんの一瞬の内に、存在の姿は視界から消えた。それと同時に、艦隊全体に大きな隙が生まれていることを理解した。

 南龍はこの事態の被害を抑えるため、無線機の近くに付属していた探照灯を照射した。


 (私が標的となれば、姉さん達が隙をついて奴を始末してくれ……!!)


 南龍は自身が存在の標的となるようにしようとするも、それは無駄なことだったと、腹の辺りを生暖かい感覚が走ったことで理解した。

 南龍を支配したのは、常にどこかで嗅いできた、鉄錆の香り鼻をつんざく感覚と、口から鉄錆の味のする、生暖かい何かが逆流する感覚だ。

 そして、視界の先に見えたのは、悲痛な叫びを上げているであろう姉妹の、絶望に満ちた表情だった。


 清龍やその妹達は、振り向いてすぐ、背後に広がった光景を受け入れられなかった。そこにあるのは、謎の存在に腹を貫かれた、南龍の姿だった。腹を深く貫かれ、口からは激しく吐血している。助けられないことは、明白だった。

 それでもなお、南龍は力の入らない腕を清龍に向けて伸ばす。そして、涙を浮かべたその表情で、口を動かした。

 

 「姉さん……皆……逃げて……」


 南龍の放った言葉は、水泡となり、光の届かぬ海中に消えた。だが、姉妹だからなのか、その言葉は、はっきりと伝わった。

 だが、直後、存在は南龍の腹に突き刺していたサーベルを引き抜き、一瞬にして南龍の背中を袈裟に斬った。南龍の口からは、血と水泡が溢れ、その体は、大きく体勢を崩した。

 そこで、南龍の意識は完全に途絶えた。塩水が傷口に染みる痛みすら感じられず、その体は黒洞々とした深海へと沈んでいった。

 その光景を目の当たりにした北龍は、激しい怒りに呑まれた。良くも悪くも可愛かった妹を殺された怒りが、その僅かな筋肉を隆起させた。

 その次々の瞬間、北龍はこれまでに類を見ない速さで突撃を開始した。その突撃は存在の虚を突き、双剣の間合いに持ち込ませる。そして、繰り出されたのは、刹那の間に満たない斬撃だ。

 しかし、存在は、北龍の放った斬撃を軽く躱した。それどころか、その振り終わりで体勢の悪い北龍に対し、斬撃を入れた。

 北龍は斬撃を受けまいと、執念で体を捻り、回避を行う。だが、無情にも、存在の放った斬撃は、北龍の左眼球を縦に斬ってしまった。あまりの痛みに、反射的に使い物にならなくなった左眼球を抑える。

 存在は北龍の隙を突き、即座に追撃の一手を加えようとする。だが、北龍は痛みが走り、左目の視力が無くなった中、心の底から沸き上がる怨嗟の炎が、その腕を動かした。

 

 「こんなところで死ねるか!!」


 北龍は刹那の間に、存在の斬撃を防ぐための斬撃を放つ。それは正確に、存在の斬撃を弾き返した。そのまま流れるように、北龍は存在の無防備な腹部に目掛けて、斬撃を放つ。

 しかし、存在は不意の斬撃をも躱した。そのまま北龍から距離を取り、安全圏にから魚雷を放とうとする。

 だが、それを予測していたかのように、いつの間にか、東龍が存在の背後を侵略していた。存在がそれに気づいた時、その斬撃は躱せないものだった。

 東龍の放った斬撃は、存在の背中を捉えた。金属同士が擦れ合う音が、スクリュー音しか聞こえない水中の中に木霊す。

 だが、東龍は目の前の光景に苦難の表情を浮かべた。斬り裂いたはずの存在の鎧は、傷一つ付いていなかった。水の抵抗で言い訳はつくかもしれないが、それでもなお、置かれた状況下は絶望的なものだった。

 その次の瞬間、存在はサーベルを無防備な東龍目掛けて振り下ろす。東龍は躱せないことを悟り、せめて、被害を最小限に抑えようと、腕を間に入れようとした。

 しかし、存在の振り下ろしたサーベルは、東龍に届くことはなかった。目前のところで、間に入った清龍がの双剣が、斬撃を受け止めた。

 攻撃はそれだけに留まらなかった。清龍は東龍の手を引き、突如としてその場から上へ離れた。存在は追撃しようと上昇しようとするも、何かを感じ取り、即座に半歩、体を後ろに引く。

 それとほぼ同時に、存在の目の前を、二本の魚雷が通り過ぎていった。それは、目と鼻の先ほどの距離であり、反応が遅れていれば、そこで死んでいただろう。そして、魚雷が放たれた方向のその先にいるのは、笑みを浮かべた濠龍だった。

 だが、濠龍に気を取られている暇はなかった。この不利な戦況の中、いつ攻撃が仕掛けられるか分からない。だからこそ、警戒を怠るわけには―――


 ―――何が起こったのか分からない。ただ、感じられるのは、背中にある生暖かい感覚だ。

 嗅いだことのある鉄錆の匂いは、この場に存在する敵の誰のものでもない。

 紛れもない、自らの血だった。

 ―――唯一入った、気配を消した奇襲による一撃。鎧の隙間に差し込んだそれは、存在の背中を深く斬り裂いた。

 暗くとも、目の前に広がるのは血だと分かる。その血は、海水の温度に晒され、溶けるように冷たくなる。

 存在を斬り裂いた本人である清龍は、顔色一つ変えず、ただ、存在を冷淡な目で見ている。放った斬撃は、確実に存在の背骨を斬り裂いた。これの状況下で存在が反撃することは、存在の死を意味する。


 動けなくなった存在を、アライアンスの潜水艦達は包囲する。背骨を斬られた存在に、靂龍と南龍を瞬時に殺害した強さは、今はもう、どこにもない。

 包囲され、追い詰められた存在は、左右上下を見渡す。グレートヘルムの下に隠れた表情は、明らかに焦りを見せている。このままでは死ぬと察したからこそ、生き残る術を見つけ出さなければならない。

 だが、悲しいことに、存在に生き残る術は残されていなかった。背骨を斬られ、動くことができなくなった。敵潜水艦が周囲を囲み、魚雷発射管を向けている。逃げ場は、どこにもない。


 『―――お前はそこで終わるのか』


 聞き覚えのある声。それは、存在の耳に響いてた。無線の反応はなく、周囲には敵潜水艦しか確認できない。

 死を目の当たりにした幻聴だと判断し、こちらにゆっくりと迫る敵潜水艦にサーベルを向ける。


 『人間が、龍族が、この世界が、憎いのではないのか』


 幻聴だと思われた声は、真反対の確証へと変わる。この声は、紛れもない、仕える君主の声だ。

 君主の声は言う。自らが生きる意味を問う言葉を。

 かつて、龍と吸血鬼が同等の位であった過去。

 地球に囚われ、双方が海水の両に近い血を流し合った。

 知った顔が死に、無念すら晴らされない現実。

 それは、かつての記憶であり、今はもう、過去に埋もれた話記録だ。しかし、それらの事実は、存在の精神の奥深くに根づいた何かを引き起こさせる。


 存在は何かを思い出したように、サーベルを持ちながら、グレートヘルムで覆われた顔を強く押さえつけた。その脳内に流れるのは、これまで感じたことのない頭痛と、過去の記憶だ。

 存在との距離を縮める清龍は、少しして微々たる変化に気づいた。元より周囲がゆがんで見えるほどの覇気を纏っていた存在だが、その覇気は、徐々に増幅しつつ合った。それは、存在が頭を強く押さえつけてからだ。

 そして、清龍はこの先に待ち受ける複数の未来を、その脳内に描き始める。これが予測で終わるならばまだ良い。だが、もしも可能性が現実になる場合、このまま放置することが意味するのは―――


 『総員、今すぐ全ての魚雷を放て!!』


 清龍は、存在を取り囲む妹達に、魚雷発射の指示を出した。清龍の発射したものを含め、合計三十二本の魚雷は、動くことのできない存在に向け、一直線に突き進む。

 だが、清龍の魚雷発射の指示は、僅かに遅かった―――

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