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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第三次龍鬼戦争
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少女なる兵器 第66話「呼ばれぬ影」

 第2兵舎、藍龍は机に向かい書類仕事を行っていた。あの後、海龍は疲労蓄積が原因で熱を出し、今はすっかりと寝込んでいる。そんな海龍を置き去り、時は流れてゆく。


 一方その頃、執務室では堀月と沈月が暁翠と向き合っていた。だが、話される内容は決して良いものではなかった。


 「申し訳ございません。私達がついていながら、蓮月を守ることができませんでした」

 「誘導ミサイルだ。お前たちではどうにもならなかった」


 海龍が近海調査を行っていた間、同時並行でとある作戦が進んでいた。それは、吸血鬼の目撃情報があった場所に少数部隊を派遣し、短期間殲滅を試みる作戦だった。手始めに偵察を行わせ、存在が確定すれば主力を送り込むことになっていた。

 だが、今回は予想外のことが起こった。誘導ミサイルを持つ敵が現れたのだ。歩兵戦闘車とでも言うべきなのだろうか分からないが、敵に誘導ミサイルを搭載した歩兵戦闘車が居たという記録は、旧大龍帝国の戦闘詳報どこにも無い。

 ここから考えられたのは、極秘裏に製造されていた数両が何処かに存在し、そこから怨念へと変換したのか、未完成の車体、又は砲塔から部分的に無理矢理怨念へ変換させたかの2択だった。中には既存の歩兵戦闘車にミサイルを搭載しただけという説もあるが、真相は不明である。


 しばらくして、2人は執務室から去った。暁翠は窓の外に広がる空を眺め、深いため息をついて言った。


 「全体的に敵が強化されてるな……ここまで強化されたとなると、何処かから資源の強奪が行われていてもおかしくないが、報告が上がっていないのはおかしいな……」


 暁翠の言ったことは本当で、敵の装備は強化されて、数も前より圧倒的に増加している。だが、ここまでの戦力が臓器ょされたとなると、それなりの場所や資源等が必要になる。その場所が特定できず、資源が強奪されたとの情報も入っていない。このままでは、死者が増え、防戦一方になってしまうのは明白であった。


 すると、執務室の扉が叩かれ、風龍と神龍が執務室に入ってきた。

 暁翠が2人に向き合うと、風龍が口を開いた。


 「提督、これを見てください。白蓮さんより提供していただいた情報です」


 風龍はそう言いながら、机上に1枚の紙切れを置いた。暁翠はそれを手に取り、書かれている文字を読んだ。

 文字を読み終えた暁翠は、深刻そうな表情で口を開いた。


 「2人共、今すぐ藍龍を呼んできてくれ」


 それから数分後、藍龍が執務室へと連れてこられた。暁翠は風龍と神龍に部屋に誰も入れないよう指示を出し、2人を部屋の前に立たせた。

 2人が執務室から退出するのを確認した暁翠は、部屋全体に結界を展開し、藍龍に話しかけた。


 「藍龍、正直に答えてくれ……過去に起きた、兵舎爆破事件を覚えているか?」

 「はい」

 「その爆破事件の犯人は……お前だな?」

 「…………バレましたか」


 藍龍はそう言い、口角を上げ、不気味な笑みを浮かべた。目からは光が消え、深い闇を映し出した。

 その次の瞬間、藍龍は煙幕弾を床に叩きつけ、部屋を白煙の世界にした。暁翠はその場を動かず、ただじっと藍龍がいるであろう正面を見ていた。

 煙幕が晴れると、そこには藍龍の姿はなかった。代わりにいたのは、扉を開けて呆然としている神龍と風龍だけであった。

 風龍は何があったのかを尋ねた。


 「提督……一体何が?」

 「藍龍が裏切った……及び逃走だな」


 その言葉を聞いた2人の顔色が変わる。信じられなかったのだ。いつも真面目で振る舞い上手な藍龍が、龍族側を裏切り吸血鬼側に寝返ったことが。

 そんな2人を他所に、暁翠は言葉を続けた。


 「鎮守府の厳罰は知っているよな……所属する者が反逆行為を見せた場合、未遂の場合は独房へ、実行した場合は……どんな理由があれ責任者が反逆者を処刑する」


 その言葉を聞いた神龍が反論した。


 「待つのじゃ提督!! そんな事をすれば海龍が…………」

 「大丈夫です」


 後ろから言葉が聞こえた。振り返ると、そこには海龍が立っていた。神龍は言葉が出なかった。

 海龍は神龍を見て微笑むと、暁翠の前まで歩き、言った。


 「この度は妹が反逆行為を起こし、誠に申し訳ございませんでした。妹は……藍龍は私の手で必ず始末します」

 「……分かった。その役目、お前に任せた」


 暁翠はそう言うと、海龍の横に来ると、頭を軽く撫でながら「無理なら霊花に相談しろ」とだけ言い、執務室を去って行った。

 暁翠が執務室を去ったと同時に、神龍は海龍の肩を掴み、言った。


 「どう言うつもりじゃ海龍!! そんな事、お主が一番望んでないことじゃろう!!」

 「いいえ……こうやって甘やかしていては駄目……大切な仲間を死へと追いやろうとする者は……例え妹であろうと始末する」


 海龍の言葉は、魂が籠もった言葉だった。その言葉を受けた神龍は、海龍から肩を離して言った。


 「そうか……お主も強くなったな…………」

 「当たり前よ。これでも海蛇の二つ名で恐れられたのよ」


 その言葉を聞いた神龍は、何も言わずに執務室を後にした。風龍は一度振り返り、海龍の顔を見た。海龍の目には、哀愁と決意が混じっていた。


 翌日、海龍はU-35エリアで艤装を装着し、海へと繰り出した。目的は藍龍の排除であり、隠密行動の必要がある作戦であった為、海龍以外の出撃は認められなかった。その為、この作戦は難易度が高く、同時に死の危険性まであった。海龍はそれを承知の上で出撃した。

 道中、霧の門を使い、何度も何度も移動を繰り返した。だが、探せど探せど藍龍を発見することはできない。本拠地に戻り改装を受けているのか、何処か別の場所で人を殺しているのかすら分からない。海龍にとって、これほど不安な事は無かった。


 そして、その日の内に藍龍を見つけることは無かった。海龍は近くにある国を地図を見て確認した。場所的にはパラオ共和国の領海内であり、鎮守府からの距離は大きく離れていた。海龍は無線を送信し、帰還の為の門を開いてもらおうとした。

 その瞬間、逆探にこちらに向かって進んでくる何かが映った。速度的に魚雷艇かと思えたが、これは水中内の反応だった為、それはあり得なかった。そうなれば、導き出された答えは1つだけだった。

 海龍は回避行動を取った。

 次の瞬間、何かが隣で爆発した。それと同時に破片が辺りに飛び散り、海龍の皮膚を傷つけた。


 ―この威力……DELTA魚雷!!―


 爆発したのは魚雷だった。しかも、鎮守府で開発された最新型の物であった。

 海龍の体からは血が流れ出し、足に関しては破片が多く突き刺さり、移動することに支障をきたすほどだった。

 だが、海龍は笑みを浮かべながら魚雷が直進して来た方向を見て言った。


 「やっと見つけたわよ……藍龍!!」


 その言葉と同時に、暗闇の中から藍龍が現れた。目は真紅色に染まり、艤装は大きく改造され、元の原形すら分からないほどだった。

 藍龍は海龍を見ながら、不気味な笑みを浮かべて言った。


 「姉上……来てしまったのですね……嗚呼、姉上を殺さなくてはいけない……想像しただけで笑いが止まりません」

 「藍龍……貴女をそんなふうに育てた覚えは無いわよ。残念だけど、貴女は死ぬ以外の道はない。恨むなら自分を恨みなさい」


 そう言うと、海龍は機銃を展開し、魚雷発射管を藍龍に向けた。


 「あはははははは!! そうですよ!! そう来なくては面白くありません!! 姉上の死に顔はどんな絶望の表情に染まるのか……ゾクゾクします!!」


 不気味に笑う藍龍を見た海龍は、溜息をついた。

 そして、次の瞬間には動き出していた。魚雷を発射し、早期決着に持ち込もうとした。だが、魚雷は軽々と避けられてしまい、藍龍は反撃の魚雷を放った。

 海龍は回避を取り、命中を避けようとした。だが、藍龍はそこで口角を上げた。

 次の瞬間、魚雷が海龍の隣で爆発した。魚雷からは鉄片が飛び散り、海龍の皮膚を再び抉る。


 「また引っ掛かりましたね!! 姉上は単純で引っ掛かりやすいから助かります!!」


 藍龍は笑いながら言った。海龍には鉄片が多く突き刺さり、動くたびに鉄片は深く食い込んできた。

 だが、海龍はそれでも動いて見せた。再び魚雷を発射した。だが、藍龍は軽々と魚雷を回避した。

 しかし、ここで予想外の事態が発生した。海龍が水中煙幕を展開したのだ。それにより視界は遮られてしまった。


 「この煙幕……電子機器の妨害ができるのですね……非常に厄介です…………」


 海龍が展開した水中煙幕には、電子機器に異常を発生させる微細な粒子が混ざっていた。藍龍は海龍を見失ってしまい、手を打つことができなくなってしまった。

 その直後、藍龍の背中で何かが爆発した。振り返ると、そこには破損した艤装の破片が散らばっていた。損傷は軽微で、戦闘には何の支障も出なかった。


 ー今の攻撃……おそらく通常魚雷……方向からしておそらく…………―


 藍龍は予備の魚雷を取り出すと、それを片手に握った。辺りは静寂に包まれるものの、藍龍には聞こえているものがあった。


 「この辺りかしら!!」


 藍龍が魚雷を放った。魚雷は煙幕を切り、そのまま突き進んた。そして、煙幕の向こう側から爆発音が水で伝わってきた。藍龍は笑みを浮かべると、煙幕の先へ向かった。

 煙幕を抜けると、そこにはボロボロになった海龍がいた。鉄片が多く突き刺さり、もう動けなくなっていた。その状態の海龍を見た藍龍は笑みを浮かべ、動けなくなった海龍の額に触れて言った。


 「姉上……もう終わりですか? 目隠しだけでは楽しめません。もっと……もっと私に痛みをください!!」


 しかし、海龍からの返事は無かった。藍龍は海龍の首元に触れた。動脈は動いており、生きていることが確認できた。

 藍龍は溜息を着くと、海龍から距離を取った。そして、一定離れたところで魚雷発射管を向けて言った。


 「残念です……姉上がこんなにも弱かったとは……失望しました」


 藍龍はそう言うと、海龍に向けて魚雷を放った。

 その次の瞬間、突如として海龍が動き出した。魚雷は海龍背後で爆発し、海龍に鉄片を食い込ませた。だが、海龍は爆風が水を伝う力を利用し、さらにスピードを上げた。

 藍龍からは余裕の表情が消え、向かって来る海龍に魚雷を放ち続けた。だが、またもや海龍は爆発した魚雷の衝撃を利用し、更に加速する。そして、藍龍の至近距離まで接近した。

 海龍の手には魚雷が握られており、それを藍龍に向かって突き出した。


 「これで……終わりよ!!」


 海龍がそう叫ぶと同時に、魚雷は藍龍の腹部へ食い込んだ。そして、魚雷は爆発した。

 海龍は爆発の衝撃で吹き飛ばされた。手は血まみれになり、塩水に触れている為熱海が走った。

 前を見ると、腹部を激しく損傷した藍龍が見えた。あの損傷具合からして、もう助からないことは明白だった。

 海龍は最後の力を振り絞り、水中を漂う藍龍の元へ行った。藍龍はまだ生きていた。真紅の目が海龍に向けられる。


 「姉上……最後の攻撃……お見事でした…………」

 「貴女こそ、DELTAをよく使いこなしてたじゃない」


 藍龍に敵対の意思は無く、海龍と話す姿は鎮守府の頃と変わらなかった。

 海龍は命の灯火が消えようとしている藍龍に、最後の言葉を送った。


 「藍龍……救ってあげられなくてごめんなさい……生きたいよね……私も貴女と生きたかった……生まれてきてくれてありがとう……そしてさようなら……………」

 「姉上……こんな私を……最期まで愛してくれたこと……ありがとうございます……姉上は……世界で……一番……慈悲深い……で……す…………」


 その言葉を最後に、藍龍は永遠に目を閉じた。

 海龍は帰還する為、鎮守府に無線を入れた。

 その直後、藍龍を抱えた海龍を、白い霧が包んだ。


 霧が晴れると、そこは鎮守府の広間だった。海龍はバランスを崩し、その場に足から崩れ落ちた。だが、自分よりも藍龍の亡骸を守ろうとし、仰向けになって倒れた。そこで海龍の意識は途切れた。


 次に目を覚ますと、そこは療養室だった。体には包帯が巻きつけられ、身動きが取れない状態だった。隣を見ると、暁翠が椅子に座ってこちらを見ていた。


 「提督……藍龍を……反逆者を始末しました…………」

 「御苦労だったな。本当なら逃げ出したかっただろうに」

 「いえ……そんな事はありません…………」


 そう言う海龍だったが、藍龍を自らの手で殺したことの事実は変わらず、後ろめたさが残っていた。

 それを見かねた暁翠は、懐から1枚の封筒を出し、海龍に渡して言った。


 「藍龍の部屋の机の引き出しに入っていた。お前宛の遺書と、置き土産が入っている。後でゆっくり読むと良い」


 そう言い残し、暁翠は療養室から出て行った。

 海龍は封筒を開け、中には入っていた手紙を読んだ。




 尊敬する姉上へ

 この手紙を見ているということは、私は既に処刑されています。ですが、この運命に後悔はありません。憎き人間さえいなくなれば、私達は幸せになれると考えていたからです。ですが、今になってそれは間違いだと思っています。人間と関わって、姉上が立ち会ってくれたからこそ、人間を憎むことを辞めることができました。吸血鬼の血が体に入り、いずれは思考の制御がままならなくなると思います。これを書いていた時も、思考を制御するので手一杯でした。なので、手短に済ませます。最後まで辛い思いをさせて申し訳ございませんでした。姉上が良い人と結ばれることを、私は向こうから見ています。

               海龍型潜水艦41番艦 藍龍




 封筒の中には、海龍が藍龍にプレゼントした海色の髪留めのピンが入っていた。

 海龍は涙を流した。

 藍龍を救うことができなかった事が、後悔として襲いかかってきた。

 それでも前に進むしか無い。

 死者の意思を無下にしないためにも。

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