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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第三次龍鬼戦争
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少女なる兵器 第65話「犠牲と前進」

 颯龍が下半身不随に近い後遺症を患ってから、約半月が過ぎた。この間、颯龍はリハビリを行い、後遺症を患う前の状態に少しでも近づけるよう努力していた。その努力もあってか、器具を使っての短距離の歩行は可能となった。


 だが、そんな間も戦争は続いている。その被害は、鎮守府の至る所に現れ始めていた。


 「龍城……左目の傷は大丈夫なの?」

 「眼球までは切られてないから大丈夫よ。通常時は目を瞑らないといけないのが不便だけれど…………」


 龍造が心配していたのは、龍城の切られた左目だった。

 数日前、龍城はRed StarⅫ級戦艦と戦闘を行い、その過程で左目を切られ、数発の銃創を受けていた。暁翠の指示により、龍城は数カ月間の出撃禁止令を受け、今は療養室で療養中となっている。

 その隣では、萩月が本を読みながら療養していた。数日前の戦闘で深手を負ってしまっていた。龍城ほどではないが、当面の間、出撃は不可能だそうだ。


 場所は変わり、颯龍がリハビリを行っている特別療養室では、颯龍がリハビリを行っていた。その横では、氷龍が颯龍をサポートしていた。

 すると、特別療養室の扉が叩かれ、海龍が中へと入ってきた。そのまま、海龍は氷龍に話しかけた。


 「颯龍の調子はどう?」

 「この半月で大きく回復してる……凄まじい回復速度ね」


 氷龍は素っ気ない言葉を返した。海龍は黙って頷くと、颯龍に優しい目を向け、特別療養室から出て行った。

 颯龍は内心、海龍の本心を垣間見えたような気がした。その本心は感謝なのか、責任なのかは分からない。だが、それ以外の思い以外には考えられなかった。


 海龍は特別療養室を去ると、鎮守府本社の西階段へとやって来た。そして、壁に取り付けられているカードキーシステムに証明カードを差し込んだ。

 すると、地下へと続く階段が現れた。これは、地下にある工廠や研究室に行くための手段の1つである。戦闘時以外は閉まっており、鎮守府所属の者しか持ち歩かないカードキー以外では開かないように作られている。

 海龍は階段を下り、地下へと入っていった。


 海龍はしばらく歩き、第13研究室の前で足を止めた。扉の横にあるパネルには、使用中と表示されていた。

 海龍はそのパネルを無視して、カードキーに書かれている自身のカードナンバーをパネルに入力した。そして、研究室の扉が開き、海龍は中へと足を踏み入れた。


 中に入ると、白衣を着た諌龍が何かを呟きながら、奥で機械のような何かをいじっているのが見えた。

 海龍は扉を閉めると、諌龍の後ろまで歩いていった。しかし、諌龍は海龍の存在に気がついていない。海龍は溜息をつくと、諌龍名前を呼んだ。そしてやっと、諌龍は海龍の存在に気が付いた。諌龍は器具を置き、後ろを振り返った。

 だが、海龍は驚愕した。そして、途切れ途切れの言葉を繋いだ。


 「諌龍……どうしたの……その髪…………」


 海龍が驚愕した理由。それは、諌龍の前髪の一部が白くなっていたからだ。前までは海龍とほぼ同じような青い髪をしていたが、今では一部の前髪が白くなっていた。

 だが、諌龍は笑いながら答えた。


 「心配しなくて大丈夫よ。提督に無理を言って白く染めてもらっただけよ」


 諌龍の言葉に、海龍は安堵の表情を浮かべた。ストレスか新手の病気かと心配したが、髪を染めただけだった。

 そして、海龍は研究室に来た本題に入った。


 「それで、新型魚雷開発の進捗はどう? 苦戦しているとは聞いたけど」

 「難航してるわね……改良は上手くいってるのだけど、射程や速度が低下してしまってるわ」


 諌龍が開発しようとしていた物、それは新型の魚雷だった。常に戦況が悪化の一途を辿りつつある今、新型の装備開発は最優先事項となっていた。先日も、暁翠が自腹を切って堀月と沈月に戦鎚の製造費用を出しているくらいだ。諌龍も同様、新型魚雷の開発費用が降り、今はその試作段階の魚雷が何本も製作されている。

 すると、諌龍はケースの中に入っている魚雷の内の1本を取り出し、海龍に渡して言った。


 「これが今までの中で一番良い出来だわ。龍死鉄線魚雷改四、通称DELTA……威力と速度を上げた代わり、射程を削減した龍死鉄線魚雷よ」


 海龍は、諌龍から受け取った魚雷を見つめた。魚雷は思っていたよりも軽く、先端部分には龍死鉄線を表すマークが彫られており、この魚雷の危険性を伝えてきた。

 海龍は諌龍に魚雷を返すと、諌龍の肩を叩いて言った。


 「あまり根を詰めないようにね。体調の方が大切だから」

 「分かったわ。ありがとう、姉貴」


 そして、海龍は研究室を後にすると、工廠へ向かって歩いて行った。


 工廠に着くと、いつものように、氷月と流月が装備の製作をしていた。細かい部品を扱い、1mm単位の誤差が無いよう作業を進めていた。

 話しかける時ではないと感じた海龍は、工廠を去ろうと振り向こうとした。

 しかし、それと同時に工廠内の扉が開いた。中からは機銃を2丁抱えた響月が出てきた。響月は海龍を見つけると、こっちへ来るよう手招きした。

 海龍が響月の前まで来ると、響月は海龍に言った。


 「これ、試験結果を元に改良した機銃よ。近い内に性能試験があるから、誰が試験に参加するかだけ決めておいてね」


 そう言って、響月は海龍に機銃を渡した。海龍は頷くと、機銃を抱えて工廠を去った。


 海龍は自室に着くと、壁に機銃を立て掛け、椅子に座った。海龍は悩んだ。鎮守府近くの制海権が揺らいでいる中、妹達に試験役を任せてしまって良いのかと。少しの判断ミスが、妹達や仲間を殺してしまうかもしれない。そう考えると、試験役を誰かに任せようとすることはできなかった。

 そんな時、海龍の部屋の扉が叩かれ、冲龍が部屋の中へ入ってきた。冲龍は壁に立てかけられた機銃をみて海龍に尋ねた。


 「完成したのね、改良型」

 「えぇ……だけど、試験役が思いつかなくてね。今の状況だと、この前みたいなことが起こってもおかしくない」

 「だったら、実戦で使用すれば良いと思うわよ」


 海龍は流れるように悩みを打ち明けると、冲龍は思ってもいなかった提案をした。行き当たりばったりの方法ではあるが、危険性があるのならばそれが良いと考えることもできた。

 海龍は少しの沈黙の後、冲龍に言った。


 「ありがとう、視野に入れてみるわ」


 海龍がそう言うと、冲龍は首を横に振って言った。


 「颯龍のこと、後悔してるんでしょ。姉さんが原因ではないから、自分を責めすぎないでね。それじゃ、私はこの後、偵察任務が出ているから行くわね」


 そう言い残すと、冲龍は部屋からでて言った。海龍は気を付けてと言おうとしたが、どういう訳か、言葉が口から出てこなかった。

 そして、海龍はこの事を又もや後悔することとなった。


 数時間後、鎮守府の中では医療班がひっきりなしに動き回っていた。汲龍、冲龍で編成されていた第5偵察艦隊が敵駆逐艦から攻撃を受けたのだ。汲龍は左腕を失い、冲龍は生死の狭間を彷徨っている。

 手術室のランプが灯る間、海龍は冲龍の無事をただただ祈ることしかできなかった。医療技術を持ち合わせない海龍は、冲龍の力になれないことが、とても悔しかった。


 それから数時間後、手術室のランプが消えた。そして、氷龍が手術室の中から出て来て、手術室前の椅子に座っていた海龍に言った。


 「ごめんなさい……最善は尽くしたのだけるど……冲龍を助けられなかった…………」


 その言葉に、海龍は黙って頷いた。本当ならば今すぐにでも泣き出したいだろう。だが、姉として最期の姿をしっかりと見送る責任感から、海龍は涙をこらえた。

 海龍は手術室から運び出された冲龍の亡骸を見て、改めて現実を受け入れた。いつ、どこで、どんな死に方をするのかは誰にも分からない。だが、永遠の別れというものは、すぐに受け入れられるものではなかった。


 その翌日、冲龍の葬儀が執り行われた。いつ出撃があるか分からないため、参加者は海龍姉妹のみで行われた。榛龍や潼龍の葬儀の時と同じく、霊花が鎮魂の儀を行い、輪廻転生を願う舞を舞った。

 この光景をここ数日で何度見たことか、海龍は数えることすら辞めてしまった。毎日誰かが傷を負い、1ヶ月もすれば何人かが死ぬ。この抜け出せないサイクルに、もはや何も感じられなくなってしまった。

 そして、冲龍を霊安室に納める時がやって来た。海龍は棺の中で眠る冲龍の亡骸に話しかけた。。


 「冲龍……貴女にはいろんなアドバイスを貰ったわね。何度助けられたか分からないほどに。だから、貴女がいなくなっても……なんとか……やっていくから…………」


 海龍の目からは、自然と涙が溢れていた。何度も見た光景とはいえ、やはり別れは辛いのだ。海龍はそのたびに涙を流し、常に心を痛めてきた。

 涙を流す海龍に、煌龍が水を指すように言った。


 「海龍姉……そろそろ…………」


 海龍は頷くと、棺の前から離れた。そして、棺の蓋が閉じられ、暁翠によって棺は霊安室へと運ばれていった。その時の空は曇っていたが、一部の雲にポッカリと穴が開き、青空が除いていた。


 それから数日後、海龍は新型艤装を背負い、単独での出撃任務にあたっていた。任務内容は鎮守府近海の調査。また、敵艦を発見した場合は監視の任務を任されていた。

 海龍は鎮守府近海の海底調査に力を入れ、この前のような空間装置が無いかを確認していた。


 それから数時間もしない内に、海龍は海底と近海の調査を終えた。そのまま帰投しようとすると、海底が海上に突き出していた対空アンテナから敵機の反応が伝わってきた。海龍は光が差し込む水面を睨むと、浮上を開始した。

 

 水面に姿を現した海龍は、改良された30mmショルダーキャノンを敵機へ向け、掃射を開始した。連射速度が向上していた機関砲は命中精度が良く、容易く敵機を撃ち墜とすことができた。

 海龍はある程度で機銃掃射を辞め、再び水中へと潜航した。そして、鎮守府へ向かって進路を取った。


 鎮守府が目前まで迫ってきた頃、海龍は再び水面に浮上した。空では基地航空隊防空隊の陸上戦闘機と敵機が空戦を繰り広げていた。海龍は機銃を敵機へ向け、再び掃射を開始しようとした。

 それと同時だった。風切り音とともに、白い煙を放つ何かが敵機へと突っ込んで爆発するのが見えた。空に残る白煙を辿ってみると、海上に紫月の姿があった。肩にはミサイル発射機のような艤装が取付けられ、水月が装備するようなガトリングショルダーキャノンも見受けられた。

 紫月はミサイル発射機を格納すると、8cmガトリングショルダーキャノンを掃射し始めた。敵機は次々と撃墜され、海へと姿を消していった。


 それから数分後、海龍は海から鎮守府の敷地内へと上がった。その場には、先に帰投していた紫月もいた。海龍は何か言いたげだったが、装備の試験結果を報告するために執務室へと向かった。


 執務室で報告を終えた海龍は、工廠に向かうために下へ降りようとした。しかし、後ろからした声に呼び止められた。


 「姉上、改良艤装の試験結果はどうでしたか?」

 「……ええ、扱いやすくはなっていたわよ」


 海龍は振り向かずに一言答えると、そのまま下へと降りていった。

 海龍に話しかけたのは藍龍だった。藍龍は海龍の姉妹ではあるものの、海龍とは波長が合わないせいか、度々話が長引くことが多かった。今回の海龍は工廠に行くこともあり、藍龍と話している時間はなかった。

 藍龍は階段を下る海龍の背中を見ながら、ポツンと呟いた。


 「姉上……根だけは詰めぬよう…………」


 藍龍の言葉は、どこか寂しそうだった。

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