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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第三次龍鬼戦争
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少女なる兵器 第64話「試験中の悲劇」

 龍桜達が死んでから、約1ヶ月が経過した。その間出撃などはなく、ただただ書類仕事を行う日々が続いていた。

 そんな中、暁翠は電気もつけずに執務室の椅子に座り、虚無を見ていた。あの日からずっと、仕事に手がつかないでいる。叡月が死に、その数日後には龍桜と龍姚が死んだ。あの時あのような命令をくださなければ、去音から資金が潤沢にあったらと考えると、後悔が押し寄せていた。


 それから数分後、執務室の扉が叩かれた。そして、絃龍が書類を持って入って来た。


 「書類、ここに置きますね」


 絃龍は書類を置くと、執務室を去ろうとした。だが、それを強制が引き留めた。


 「絃龍……お前はどうなんだ? 今、苦しくないのか?」

 「苦しいに決まってますよ。ですが、私達海龍型潜水艦はそこそこ旧式化しています。いつでも死ねるよう、腹をくくってますよ」


 絃龍は覚悟を決めた声で言った。その時、暁翠から見た絃龍の姿は、煌びやかながらも力強く見えた。

 その姿は暁翠は、絃龍に言った。


 「そう言えばだが、お前達、海龍型潜水艦の新型装備が直に完成する。試験に付き合ってくれる者を募集していたんだが、お前が担当してくれないか?」


 暁翠の言葉を聞いた絃龍は、一瞬だけ答えることを躊躇った。何を躊躇うのかは分からないが、言い出しにくいことがあるのは確かだ。

 それから数秒を置いて、絃龍は暁翠に聞いた。


 「良いんですか? 私はまだ未熟ですし、最新の装備に早く対応できるか分かりません」

 「構わない。初めは誰だって使いこなせない。海龍だって、最初の頃は爆雷を1発も避けれなかった時もあった。それと同じだ」


 暁翠は軽く笑いながらそう言った。だが、絃龍は暁翠の目が笑っていないことに気がついていた。部屋が暗いだけかもしれないが、明らかに目の奥に光が宿っていない。

 絃龍は頷くと、執務室を後にした。


 それから数日後、絃龍は暁翠の指示で工廠へとやって来た。工廠では流月が赤く光る鉄を叩き、氷月が細かな部品を組合せていた。

 すると、作業をしていた響月が絃龍の存在に気が付いた。


 「いらっしゃい。新艤装はできてるわよ」


 そう言うと、響月は近くの机に置かれていた艤装を持ち、絃龍に渡した。そして、絃龍に言った。


 「U-35エリアに行ってちょうだい。そこで海龍と颯龍が待ってるから」


 絃龍は響月の言葉に従い、U-35エリアに向かった。


 U-35エリアに到着すると、響月が言っていた通り、海龍と颯龍が待っていた。海龍は絃龍を見ると、安堵の表情を浮かべて言った。


 「良かったわ。響月か氷月が渡してくれたようね」

 「ええ……何か問題があるの?」

 「流月は渡す前に細かな説明を始めるのよ……思い出したくもないわね…………」


 海龍の目から光が消えた。この様子からして、過去に流月から長々とした説明を受けたことがあるのだろう。

 そんな事を他所に、絃龍は海龍、颯龍と共に、潜水艦用出撃ハッチの中へと入った。


 潜水艦用出撃ハッチの中に入ると、ハッチは固く閉じられ、海水がハッチの部屋内に注水され始めた。海水は少しずつ溜まり、体は徐々に海水に浸かっていく。

 そして、海水がハッチ内に満たされると、海へと通じるハッチが開いた。3人はハッチから出ると、鎮守府から少し離れた沖合へと向かった。


 沖合へ着くと、そこには水中に目標となる的がいくつか存在していた。おそらくだが、これは魚雷用の的だろう。そして、水中には僅かながら航空機の音が感じ取れる。レーダーの反応からして、基地航空隊の練習機だと予測できた。


 そして、絃龍は新型艤装の試験を開始した。新型の魚雷発射管から魚雷を、目標の的に向けて発射した。魚雷は誘導式になっていた為、目標には難なく命中した。

 次は対空の艤装の試験だった。絃龍は水面に上半身を出すと、上空を飛ぶ基地航空隊の練習機を捕捉した。そして、30mmショルダーキャノンを発砲した。前の携帯式の機銃と比べると、命中精度が格段に上がっており、練習機はあっけなく撃墜判定を受けた。

 絃龍は水面に戻ると、水中での水の抵抗を下げる為、ショルダーキャノンと魚雷発射管を格納態勢に切り替えた。そして、3人はより深い深度へと潜航を始めた。


 水深が50mまで下がった頃、颯龍の逆探が何かを捉えた。反応からして魚の群れや味方ではない。だが、この反応はどこかで見たことのある反応だ。

 それと同時だった。突如としてそよ反応の物体から、何かが射出された。反応からして、それは魚雷であった。

 颯龍は無線を使い、2人に打電を送る。


 『我、魚雷ヲ発見セリ。6時ノ方向、距離2800m』


 颯龍からの打電により、2人は回避行動を行った。魚雷は3人の間をすり抜け、何処かへと消えていった。そして、3人は戦闘態勢へと移行し、敵潜水艦にむけて魚雷を発射した。


 一方その頃、新たに鎮守府に増設された船着き場では、龍造と龍城が立っていた。2人は何も言わず、ただ目の前に広がる海原を見つめていた。

 すると、龍造は懐から1つのケースを取り出し、中身を見た。ケースには龍桜と龍姚の遺髪が入っていた。

 そして、龍造は龍城に聞いた。


 「龍城……私たちは、何のために戦っているの? 平和、自分自身……どれもはっきりとしない…………」

 「龍造、あんまり気を落とさないで。2人の死は決して無駄じゃない。事実、彼女たちのおかげで魚雷運搬機を撃墜することができた。それだけでも大手柄だったわよ」


 龍城は素っ気ない言葉を返した。だが、本当は龍城自身も分かっているのだ。無駄死にではないと分かっていても、もしもあの時、自身が2人の代わりだったらと考えると、どうしても割り切ることができなかった。

 すると、船着き場に日月がやって来て、龍城に話しかけた。


 「龍城さん、海龍を知りませんか?」

 「確か、今日は新型艤装の試験で南の沖合に出ているはずだけど?」


 その言葉を聞いた瞬間、日月の表情が変わった。何かあると思った龍城は、龍造を呼んで話を聞くことにした。


 「何か不都合なことでも?」

 「先程、近くで演習をしていた雲龍が複数隻の敵大型潜水艦の発見……方角的に、南へ向かっていた……急いで連れ戻さないと、海龍達が大変なことに!!」


 場所は戻り、海龍達は戦闘を続けていた。絃龍は誘導魚雷を放ち、敵潜水艦の数を少しずつ減らしていた。だが、敵潜水艦の猛攻は止まず、ついには魚雷を撃つ時間さえなくなってしまった。

 そんな中、海龍は何かがおかしいことに気が付いた。さっきからこちらに向かってくる魚雷のスピードが、異常なまでに速いのだ。だが、速度自体は全く変わっていない。


 ―これ……もしかしてだけど………………―


 海龍は1つの可能性を導き出した。そして、2人が回避を続ける間に、海龍は更に潜った。


 少しすると、海底が確認できた。光はまだ届いており、視認性はある程度確保ができていた。そして見つけた。海底に張り付いている赤く光る円盤型の装置を。

 海龍はその円盤に近づき、記憶の中にある書物の断片と照らし合わせた。結論として、これは空間短縮装置という事が分かった。空間短縮装置は、龍族が作り出す霧の門を参考にして作られた転移装置だ。だが、この装置は旧大龍帝国で生産されていた物と異なり、血石が使われている。吸血鬼が鹵獲、改造を施した物だった。

 海龍は深度を上げると、真下にある空間短縮装置に魚雷を放った。魚雷は空間短縮装置を破壊し、辺りに泥を舞い上がらせた。

 破壊を確認した海龍は、2人が回避を続ける戦場へと戻った。


 2人の元へ戻ると、その場に魚雷は飛び交っていなかった。その場には静寂だけが残り、その場残された2人は辺りを見回していた。

 海龍がそこに到着すると、2人は安堵の表情を浮かべた。


 「魚雷の脅威は去ったは。何か起こる前に起動しましょう」


 海龍がそう言った次の瞬間だった。突如として絃龍の逆探が敵潜水艦の反応を示した。その数6。反応の大きさからして、大型潜水艦であることは確定した。

 絃龍はこの事を即座に2人に伝えた。すると、突如として颯龍の顔から表情が消えた。そのまま、颯龍は2人に言った。


 「海龍姉さん、絃龍を連れて先に帰ってください。ここは私が何とかします。死にはしないので安心してください」


 颯龍は早口で言った。海龍は颯龍の心の奥に宿っている信念を感じ取り、黙って頷き、絃龍を連れて撤退を開始した。

 颯龍は敵潜水艦が向かって来る方向を見ると、口角を上げて呟いた。


 「大丈夫、いつものようにやればできる」


 その声は水泡に帰し、水面へと浮かんでいく。

 そしえ、颯龍は魚雷を取り出し、敵潜水艦へ向かって突撃を開始した。


 敵潜水艦が見えてくると、颯龍は艤装から魚雷を発射した。魚雷は直線に進み、敵潜水艦の動きを撹乱した。

 そのタイミングで、颯龍は手にしていた魚雷を放った。艤装による補正などない、進路が不規則変化する魚雷だった。

 だが、敵潜水艦はそれを躱してみせた。


 ―一筋縄じゃ行かないようね…………―


 颯龍は危機感を感じながら、予備の魚雷を取り出した。

 それと同時に、敵潜水艦が魚雷を放った。まだ距離はあり、颯龍はいつものように回避しようとした。

 だが、それは実に浅はかな考えだった。魚雷は颯龍が回避した方向に向きを変えたのだ。


 ―しまっ………………―


 颯龍が反応した時には、既に遅かった。颯龍の肋に魚雷が命中した。

 颯龍は苦痛の表情を浮かべ、肋を片手で押さえる。肋は出血しております、血が海に滲み出ていた。

 何よりもまずいのは、内臓に折れた肋骨が突き刺さったことだ。下手に動けば、内蔵の損傷で死ぬ可能性が高かった。

さらには、下半身にもダメージがあったのか、左足が全く動かなくなっていた。


 ―この状況下で回避は不可能、艤装は無事、残りの魚雷は3本……背水の陣か…………―


 颯龍は死を悟った。この状況下では逃げることも、戦うことも困難であった。せめて一矢報いなければならないと思い、颯龍は予備の魚雷を取り出し、魚雷発射管に装填した。

 だが、神は颯龍を見放さなかった。


 次の瞬間、敵潜水艦が突如として爆沈した。目を凝らしてみると、背後に爆雷が投下されていたことが分かった。

 敵潜水艦の沈みゆく姿を見ていると、突如として颯龍の艤装に何かが絡まった音がした。振り返ると、魚雷発射管に鎖が巻き付いていた。

 すると、その鎖は颯龍の艤装に絡まったまま、海面に向かって上昇を始めた。颯龍は抗ったが、鎖の引っ張る力に抗うことができなかった。

 そして、颯龍は海面に引きずり出された。上を見ると、そこには龍城の姿があった。龍城は颯龍の襟を掴み、そのまま腕に抱えた。そして、鎮守府へと撤退を開始した。


 鎮守府に着くと、龍城は艤装を装着したまま、氷龍が待機する治療室へと向かった。

 颯龍の意識はあったが、出血が止まらず少しずつ意識が遠のいてきている。治療室へ着く頃には、意識を手放してしまった。


 それから3日後、颯龍は療養室のベッドの上で目を覚ました。立ち上がろうとしてみたが、どうにも下半身に力が入らない。

 すると、見回りに来た氷龍が療養室に入ってきた。氷龍は颯龍が起きていることを確認すると、近くまで来て残酷な真実を告げた。


 「颯龍、貴女は先の戦闘で受けた魚雷の影響で、そ欠片が脊髄の中枢神経を傷つけた。貴女は今後、まともに歩くことはできないわ」


 それは、下半身不随に近い後遺症が残るというものだった。これが意味することは、戦場で戦うことができないという事だ。

 颯龍は下を向くと、目から流れそうな涙をぐっとこらえた。命を掛けてまで新型艤装の性能を持ち帰らせ、姉を守ろうとした颯龍だったが、その代償に非常に大きかった。

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