少女なる兵器 第63話「拡大する損害」
叡月が死んでから数日後、鎮守府では新たなる作戦会議が開かれていた。数日前の戦闘で得られた教訓を元に、海軍も装備改修を行う為の会議が開かれていた。
「…………だが、現状では2人分の改修が限界だ。今回の改修を受ける者を決めたい」
会議内容は、残り少ない資金を誰の改修費用に充てるかと言う事だった。陸海共同軍、陸軍、前陸軍、空軍の強化に伴い、今月使用できる資金が残り僅かとなってしまっていた。結果、こうして会議が開かれたわけだ。
各艦の代表は討論し合った。装備が貧弱な駆逐艦や潜水艦を優先して装備を強化する意見や、戦艦を強化してしばらくの間は様子を見ると言う意見も出た。
話し合いが始まって数十分後、海龍の意見がその場を動かした。
「では、龍桜姉妹を強化するのは? この中では比較的旧式化している上、前線に出ることが多い。損害を軽微にするためにも、私は龍桜姉妹を推すわ」
「そうね……最新鋭艦はともかく、頻繁に前線に出る旧式艦の強化を行う方が良いと思うわ」
海龍の意見に、龍造は大きく賛同した。その隣では、龍城が首を縦に振っている。神龍や風龍、斬龍達もその意見に賛同していた。
周りを見た龍桜は全員に尋ねた。
「良いの? 私はいつ沈んでもおかしくないのよ?」
「だから強化するんでしょう? 龍桜先輩」
龍桜の言葉に、龍旭は軽く笑いながら言葉を返した。
龍旭の言葉を聞いた龍桜は、少しの沈黙の後、暁翠に進言した。
「提督。強化費は私と龍姚に充ててください」
「分かった。今晩中には新艤装を仕上げよう」
そうして会議は終わった。だが、龍桜の頭の中にはモヤのようなものが残ったままだった。何か嫌な予感が頭をよぎっていた。
翌日、龍桜と龍姚の新艤装が完成していた。工廠で装着してみると、防御力と機動性が向上していることが分かった。
龍姚は新たなる装備に困惑していた。前までの重い艤装とは違い、身軽で動きやすい艤装になったからだ。錫杖も扱いやすくなっており、石突部分が薙刀に変形できるようになっていた。
「提督。この度は私共のために新艤装を用意してくださりありがとうございます」
龍桜は頭を下げて暁翠に礼を述べた。暁翠としては、2人の負担を減らせたのなら、それがなによりの感謝だった。
その時、工廠に設置されていた固定電話が鳴り響いた。いつもと音が違うことから、緊急の電話では無いようだ。
暁翠は電話を取った。
「はい。アライアンス連合……寄月か? どうして電話を……成程……分かった。すぐに伝えておく。お前は安心して訓練に戻れ」
暁翠は電話を切ると、龍桜と龍姚に言った。
「2人共、申し訳ないが出撃命令だ。東南アジア方面にて敵潜水艦が出没しているとの情報が入った。これを補足、撃滅してほしい」
「提督。私共は航空戦艦です。そこまで戦力にはならないと思いますが…………」
龍桜は暁翠の指示に異論を唱えた。すると、暁翠は口角を上げて龍桜に言葉を返した。
「お前達の新艤装に追加された小物入れのような物はなんだと思う?」
「え? もしかしてですが、この小物入れのような物って…………」
「そのまさかだ。これは対潜九連装式迫撃砲だ」
龍桜達の新艤装に装備されていた小物入れのような物。それは、対潜用の迫撃砲だった。旧大龍帝国では、実際に大型艦の増設装備として使用されていた例がある。
龍桜と龍姚は互いに顔を見合わせると、暁翠に敬礼をした。そして、S-24エリアへと走って行った。
だが、暁翠はこの判断を後悔する事となった。
それから数時間後、龍桜と龍姚は、護衛に風龍、水龍、雲龍、笵龍を連れて東南アジアの方面へ進出していた。これといって変わった様子はなく、一見すると平穏な海に見える。だが、その海には潜水艦が確実に潜んでいる。
龍桜と龍姚は辺りを見渡し、肉眼で潜水艦を探していた。風龍姉妹は逆転を使い、敵潜水艦の位置を探ろうとしていた。だが、いくら探せど敵潜水艦は見つからない。
それから数分後、事と悪夢の歯車は動き始めた。水龍が潜水艦を逆転で探知し、全員に情報わや伝達した。
指揮を任されている龍桜は指示を出し、陣形を複縦陣から単横陣へと変更させ、敵潜水艦の反応がある場所へと進み始めた。
そして、敵潜水艦の反応が爆雷の射程に入ると、風龍は爆雷を取り出し、それを蹴り飛ばした。爆雷は着水し、水中で爆発した。
それと当時に、悲鳴のような声が聞こえてきた。敵潜水艦を撃沈することができた。
「敵潜水艦撃沈。逆探に反応無し」
風龍はそう言うと、警戒態勢を解いた。
龍桜と龍姚は違和感を感じていた。今までの経験からして、通常であるならば複数隻が潜伏している。そして、その複数隻は艦隊列を組んで行動することが多い。それが今回は1隻しか確認できない。2人の背中に寒気が走った。
それと同時だった。龍姚の対空電探に敵機が映り始めた。数は17機、45機、68機と増えてゆき、最終的に300機まで増えた。
この異常事態を見た龍姚は、恐る恐る龍桜に尋ねた。
「姉様……これって…………」
「ええ……間違いないわ。私達は罠に掛かった」
その場にいた全員が固唾をのんだ。これほどの数の敵機を、現在の艦隊編成で切り抜けることは不可能だった。
「艦隊、警戒陣に移行!! 撤退を開始する!!」
龍桜は慌てながらも的確な指示を下した。艦隊は警戒陣に移行し、暁翠が霧の門を作る地点まで撤退を開始した。だが、船と航空機とでは速度の違いがあり、追いつかれるのは目に見えていた。そのため、速度の遅い龍桜と龍姚は、自ら進んで艦隊の最後尾にいた。万が一の事があった場合、風龍達だけでも逃がせるように…………
それから数十分が経過し、艦隊は敵機に追いつかれてしまった。必死の対空射撃を行うも、やかり所詮は対空砲だろう。攻撃が全く当たらない。命中した敵機もあったが、撃墜することができたのは3機だけだった。残りの297機が、艦隊目掛けて突っ込んでくる。
最初に艦隊の周りを戦闘機が交差し、まともに回避が行えなくなった。その次に、攻撃機から魚雷が投下された。魚雷は速度の遅い龍桜と龍姚に集中的に投下された。
龍桜と龍姚は魚雷を躱しきれず、1本、2本と命中する魚雷が増えていった。推進力を生み出す足の艤装は徐々に機能を失い、速度はみるみる内に下がってゆく。
これはまずいと思った龍桜は、ダメ元で爆雷を発射した。その内の1発は運よく敵機に命中し、撃墜させることができた。
それから数分が経過した。敵機依然として攻撃を続け、速度が下がっている龍桜と龍桜は格好の的となった。
だが、風龍達の必死の対空戦闘により、確実に敵機は数を減らしつつあった。
そんな中、龍姚の艤装が限界を迎えてしまった。スクリューが動かなくなり、推進力を生み出せなくなった。そこへ、敵機が3機、魚雷を投下していった。龍姚は必死に思考を巡らせた。
そんな中、龍姚は数時間前、自分が言った言葉を思い出した。
ーこの錫杖……使いにくそうね…………ー
龍姚は咄嗟に錫杖のボタンを押し、石突部分を薙刀の刃に変換させた。そして、魚雷が命中する直前に、薙刀の刃で水中を切り裂いた。魚雷は直前で爆発し、龍姚に命中することはなかった。
それを見た龍桜は、錫杖のボタンを押して、石突部分を薙刀の刃に変換させた。そして、飛んでいる敵機に向け、刃を振るった。刃は敵機を切り裂いた。
確実に光明は見え始めた。このまま敵機を耐え凌ぎ、救援隊を待てば全員助かるかもしれない。そんな希望が龍桜と龍姚の脳裏に浮かんだ。
そんな時だった、突如として敵機が攻撃をやめ、撤退し始めた。僚機が多く撃墜されたとは言え、183機も生き残りがいるのだ。ここで撤退する理由がわからない。
それと同時に、龍桜の水上電探に反応があった。敵艦隊がこちらに向かってきているのだ。反応と陣形からして、弩級戦艦クラスの艦艇が2隻はいるであろう水上打撃部隊だ。そして、対空電探からは敵機の第2陣がこちらに向かってきている反応がある。
龍桜と龍姚は顔を見合わせ、互いに頷き、風龍達に言った。
「4人共、今すぐに逃げなさい」
「この足じゃ、私達は逃げ切れない」
龍桜と龍姚は自分達の死を悟った表情をしていた。
「馬鹿じゃないの!? 敵艦隊が迫って来てるのに、2人を置いて行ける訳ないじゃない!!」
2人の言葉に、風龍は反論した。
すると、龍姚が凄まじい怒気を放った言葉を出した。
「姉様の命令に逆らうつもりか!! なら、この場で全員沈めてやる!! それが嫌なら黙って命令に従え!!」
龍姚が放った言葉の後、少しの沈黙があった。龍桜は何も言おうとしなかった。いつもなら龍姚を叱るが、今回はそんな事をする時ではない。
「……本当に最低。皆、行くわよ」
そう言うと、風龍は姉妹を引き連れて撤退を開始した。だが、風龍の心の中は、不甲斐なさと後ろめたさが渦巻いていた。
ー2人共……ごめんなさい…………ー
風龍達を見送った龍桜と龍姚は、敵艦隊が向かってくる方向を向いた。そして、最後になるであろうゆっくり話せる会話をした。
「姉様……私はあれで良かったんでしょうか…………」
「100点中28点……と言いたいけど、あの状況では85点よ。良く言ったわ」
「本当に……姉様はいつも厳しいですね」
そこで会話は止まった。辺りには静かな海が広がり、2人以外の存在は感じられない。対空電探と水上電探が反応し、2人の耳には警告音が聞こえてきた。
龍桜は水上電探と対空電探の接続を切り、龍姚に言った。
「龍姚……ありがとう…………」
それから数分後、敵機の第2陣が2人に襲い掛かった。2人は必死に対空戦闘を行い、敵機の数を1機でも多く減らそうとした。しかし、多勢に無勢という言葉が指し示すように、2人へのダメージと疲労は少しずつ蓄積されてゆく。
そして遂に、龍桜に限界が来てしまった。たった1秒だった。僅かながら反応が遅れ、爆撃を諸に受けてしまった。それだけならまだ良かったのだが、龍桜には別の感覚があった。胸元に風が吹き抜ける感覚だ。胸元を見ると、2つの風穴が空いていた。おそらくは敵戦艦からの砲撃だったのだろう。
龍桜は体から力が抜け、激しく吐血しながらその場に倒れた。もう言葉を出すだけの力もなく、龍桜の視界は徐々に暗くなっていく。
隣にいた龍姚は、龍桜の名前を叫んだ。だが、それは雷撃によって遮られた。そして、その雷撃で使われた魚雷の威力は凄まじく、龍姚の左足を消し飛ばした。
龍姚は足が無くなったことにも関わらず、錫杖を水面に突き、辺りを見回して雷撃を行った敵機を探した。そして見つけた。
「あいつか……あの形状からして、龍城が言ってた爆裂式魚雷運搬機ね…………」
龍姚は主砲を敵機が撤退する方向へ向けた。
「63式空中炸裂弾はこれが最後……絶対に当てる」
龍姚はたった一瞬で敵機との正確な距離を測った。そして、龍姚は渾身の一撃を放つ言葉を叫んだ。
「主砲、一斉射!! 撃てぇ!!」
そして、龍姚の40.6cm連装砲5基10門から64式空中炸裂弾が放たれた。63式空中炸裂弾は一定の距離で炸裂し、近くにいた敵機を次々と撃墜してゆく。そして、その内の1発が魚雷運搬機に届いた。
それを見た龍姚は盛大に笑った。
「はははははは!! 見たか!! これが大龍帝国で最初に建造された戦艦、龍桜型航空戦艦の力だ!!」
それと同時だった。無常にも、そこに爆弾が投下された。爆弾は龍姚の主砲に命中し、大爆発を起こした。
龍姚は力が抜けたかのように、その場に倒れ込んだ。意識が朦朧とし、体が動かなくなった。だが、隣に横たわっている龍桜の亡骸を見て、最期の言葉を言った。
「姉様……また……共に逝けること……光栄に……思い……ま……す……………」
そして、龍姚の呼吸が止まった。辺りには血が滲み、炎が壊れた艤装を燃やしている。敵機が飛び交い、味方の姿はどこにも見えない。
その後、遺体は近くを通りかかった漁船に拾われ、鎮守府へと送還された。風龍から事前報告を受けたとは言え、遺体を目の前にすると悲しまずにはいられなかった。
特に、龍旭は人一倍悲しんだ。自身の部屋で、壁を勢いよく殴り言った。
「先輩方……どうしてですか……沈まない為の強化じゃなかったんですか…………」
龍桜型航空戦艦の2人は、東南アジアの海で終焉を迎えた。この事態を受け、去音から多額の支援金が贈られた。それがもう少し早ければ、このような事態はなかったのかもしれない。




