第62話 別れは突然に (Complete Story)
鎮守府では装備類の近代化改修が進められる中、吸血鬼の手はすぐそこまで伸びている。
それは悲劇なの始まりだった。
いや、ここまで上手く事が進みすぎた。
吸血鬼の戦力は予想以上に増幅されていた。
この事実を鎮守府に住まう戦士達は知る由もない。
あの日から1ヵ月が経過した。
この1ヵ月間、吸血鬼の被害報告は上がっておらず、鎮守府に住まう者達は比較的平和な日々を送っていた。
だが、平和ボケしている暇は無かった。
来たるべきに備え、新型装備の開発、装備類の近代化改修が進んでいた。
そして、今日も新たなる新型装備の開発、装備の近代化改修が行われている。
地下工廠。
ここでは新型装備や既存装備の近代化改修、装備類の修理を行っている。
そして、今日も新型装備が開発された。
「よし、これで完成だな」
地下工廠に1人の男の声が響く。
その男の名は龍造暁翠。この鎮守府の管理者であり、旧大龍帝国13代首脳だ。
暁翠は1人の女の肩にガトリング砲を小型化したような装備を取り付ける。
その女の名は水月。暁翠の妻であり、旧大龍帝国陸海共同軍最強の超戦車だ。
水月は取り付けられた装備を背負いながらその場で片足で一周回った。
取り付けられた装備は思ったよりも軽く、身体に対する負担はそこまで無かった。
「元帥、どうして私に新型装備を? 頻繁に戦闘に参加する風龍達に新型装備を与えた方が良かったのでは?」
水月は新型装備が自分に回されたことに疑問を抱いた。
だが、水月の疑問は正しかった。
後方で最終戦力として温存される兵器よりも前線で戦う兵器の生存性向上のために予算を割いてでも新型装備を与えるべきだった。
だが、今回はなぜかそうされなかった。
それが疑問でならなかったのだ。
「それは私達陸軍の要望よ」
その疑問に答えたのは工廠の奥から聞こえてきた声だった。
声のする方向を見るとそこには流月が巨大なハンマーを持って立っていた。
流月はハンマーを担いである程度こちらに近づくと、ハンマーを地面に置いた。
「私達陸軍が水月を前線に回して欲しいって要望したのよ。それが許可されたから貴女に新型装備が与えられた」
流月の言葉に暁翠は黙って頷いた。
水月は新型装備を与えられた理由に納得した。
今思い返せば吸血鬼との戦争が始まってから数年が経過し、それ相応の激戦が予想される。
それに対抗するべく後方で最終戦力と温存していた超戦車を前線に送り出すのは得策だろう。
そして、超戦車が時間を稼ぐ間、新型装備を開発するための時間も多くなる。
それにより戦力が増幅し、改修のために後方に退避した兵器が再び前線で猛威を振るうことができる。
戦略面において良いサイクルが生まれるのだ。
「ちなみに、右腕に取り付けられた装甲板は一味違うわよ。特殊な効果があるからね」
流月はそう言って水月の右腕に取り付けられた装甲板を指さした。
右腕に取り付けられた装甲板は少し大きく、表面にはいくつかの宝石が取り付けられ、紋章が掘られていた。
「それの名前は『Hologram No.18』簡単に言うとレーザーを応用した盾を展開するための装置よ。防御力で右に出るものは無いわ」
「その分コストが高いがな。完成したのはそれだけだ」
流月が得意げに説明する中、暁翠はため息交じりの声を出しながら請求書を苦い顔で見る。
請求書を見る夫の顔に水月は苦笑した。
それと同時に、高価な新型装備を回された事に対する責任感を感じた。
これは陸軍全員と夫からの信頼の証なのだ。
その思いを背負ったからには倒れることは許されないと感じた。
その時、地下工廠の扉が開く音がした。
その場にいた3人は一斉に扉の方を見た。
するとそこには亰龍が立っていた。
「亰龍、ちょうどいいところに来たわね。要望にあった装備がさっき完成したばかりなの」
「それは楽しみね。期待通りの活躍ができるのか想像するだけで血が騒ぐ」
流月の言葉に亰龍は不気味な笑みで言葉を返す。
流月は奥の台から新型装備であろう物を手に取ると真っ直ぐこちらに戻ってくる。
そしてその装備の正体がはっきりと分かった。
「バズソーか……これまた複雑なものを…………」
「別に良いじゃないですか。これで敵を無残に斬り刻めることができるんですから」
亰龍が製造依頼をしていた装備とは腕に装着可能なバズソーだった。
渡されたバズソーは試作型とは言え、命中すれば一撃で致命傷を与えることが可能な装備だ。
「予算の都合上、装甲板を張り巡らせることはできなかったわ。ごめんなさい」
「良いのよ。これだけでも十分すぎるから」
亰龍は笑みを浮かべながら右腕に取り付けられたバズソーをまじまじと見た。
装甲板が取り付けられず骨組みと動力装置がむき出しになった状態のバズソーは禍々しさこそ無かったものの、照明の光で僅かな美しさを放っていた。
水月も近くでバズソーを見る。
そこには殺害に特化した装備の美しさが見受けられた。
すると、暁翠が指を鳴らした。
「亰龍、少し付き合ってくれないか?」
「別に構いませんが、内容は?」
「水月にHologram No.18の防御力を実感させてやりたい」
暁翠の言葉に水月は耳を疑った。
亰龍がバズソーを身に着けた状態から考えられることは1つしか無い。
Hologram No.18をバズソーで斬りつけさせようとしている可能性が非常に大きいのだ。
「元帥……Hologram No.18はしっかり起動するのですか? 万が一にでもバズソーが貫通でもしてきたら私の腕がなくなりますが…………」
水月は反論した。
鎮守府で製造された装備とはいえ、万が一に不具合でも発生すればなくなるのは水月の腕と夫の首だ。
それに、Hologram No.18がレーザー技術の応用品である事実からしてバズソーが溶ける可能性も十分あり得る。
腕がなくなるにしても資金がなくなるにしても痛いことこの上ない事態に繋がりかねないのだ。
「大丈夫よ、事前に防御力のテストはしてあるし、亰龍のバズソーには特殊な油を塗ってある。ちょっとやそっとの熱じゃ溶けないわ」
流月がそう言った。
流月が言うのならと水月は強度試験を承諾した。
「展開」
水月がそう言うとHologram No.18より少し手前にホログラムシールドが展開された。
淡水色半透明のホログラムシールドはまさにレーザーの応用品と言っても差し支えないように見えた。
その証拠としてホログラムシールドの周りには細い電気が走っている。
「では、遠慮なくいかせていただきます」
「ええ、本気で斬りにきて」
水月の承諾を得た亰龍はバズソーを回転させる。
凄まじい機械音が鳴り響く中、亰龍はバズソーでホログラムシールドに斬り掛かった。
バズソーとホログラムシールドが接触する。
その瞬間、耳をつんざく金切り音が工廠内に木霊した。
ホログラムシールドに接触したバズソーは火花を撒き散らしていた。
しかし、バズソーはホログラムシールドを貫通していなかった。
それを見た亰龍はバズソーを引き、原動機の電源を切る。
「流石、レーザー技術の応用品なだけはあるわね…………」
亰龍は悔しそうにそう言った。
「まさか私の腕を切断するつもりでしたか?」
「半分そうよ。それくらい本気で挑むのが礼儀ってものでしょう?」
亰龍の発言に水月の背筋に寒気が走った。
取り付けていたのがホログラムシールドで良かったと心から思ったほどだ。
水月はホログラムシールドを消すと手に持っていた主砲を床に置いた。
「そう言えば、ここ最近の吸血鬼による被害報告が上がってないようですね。不自然だと思いませんか?」
水月のあまりにも突然の発言により、その場の空気が一瞬で変わった。
暁翠は顎に手を添えるとここ最近の記憶を引き出す。
定期的に日本政府や国際連合に連絡は取っているものの、ここ1ヵ月ほど被害報告を受けてはいない。
むしろ、本当に吸血鬼の残党が存在しているのか不確かな部分もあるのだ。
だが、水月との結婚式を執り行っている最中に敵機による爆撃を受けた。
これこそが吸血鬼の残党が存在しているという確証なのだ。
「あくまでも可能性の話だが、奴らがここ最近動かないのは戦力増強以外に何かを行っていることが予測される」
「と、言いますと?」
「俺達はこの期間を使って新型装備の開発や既存装備の改修を行ってきた。逆に言えばこれは敵側にも当てはまることだ。これだけじゃない。この期間を使えば俺達が出撃していない隙を狙って隠密行動の情報収集を行っている可能性もある」
暁翠が絞り出したのは敵側もこちら側と同じことを行っているか隠密行動による情報収集を行っている可能性だ。
戦力増強のためには敵の所持する装備よりも強力な装備を必要とするのは戦力においての基本だ。
これは敵味方双方に言えることであり、あえて侵攻しないことにより戦力増強を行うことができるというものだ。
そして、この期間を使えば隠密行動による情報収集を行うことも可能となる。
この隠密行動は敵が動いていない時に限っては絶大な効果を発揮することが可能だ。
簡単に周辺地域や敵陣の情報を入手することができるからだ。
この2つは戦場において複雑に絡み合っていた。
その時、ジリジリとアラームの音が工廠内に響いた。
音の発生源は工廠の壁に取り付けられた緊急用固定電話だ。
この固定電話は執務室にある司令官専用の電話や電話切替室にある電話と繋がっており、万が一外部から吸血鬼の被害報告があったとしてもすぐに気がつくように設置されていたのだ。
暁翠は固定電話を手に取った。
『こちら、アライアンス連合国。内線の場合は専門用語を、外線の場合は連絡内容をご報告ください』
『外線です!! こちらは韓国政府です!! 吸血鬼らしき集団による侵攻を受けています!! 至急、軍の派遣を要請します!!』
『分かりました。稼働可能な戦力を集結させ、そちらに向かわせます。それまで持ちこたえてください』
『はい、分かりました』
暁翠は電話を切った。
水月と流月は僅かに聞こえていた会話の内容から何があったのかを理解した。
ついに吸血鬼が動き出してしまったのだ。
暁翠は右手を横に伸ばし、霧の門を展開した。
「流月、水月の装備は今すぐ実戦投入可能か?」
「その質問は実にナンセンスですね。この私が製造した装備が初実戦で壊れたことなんてありませんよ」
「そうか……なら、問題はないな。ついてこい」
司令官としての暁翠の指示に2人は頷いた。
そして2人は必要な装備を持ち、司令官が展開した霧の門に足を踏み入れた。
霧の門を抜けた先はM-39だった。
ここは陸軍専用の装備支給室で、簡単に言えばS-24が海軍や陸海共同軍から陸軍に置き換わっただけのものである。
司令官はM-39の壁の一部に取り付けられた操作パネルで何かすると、コードで繋がったマイクを取り出した。
『緊急事態だ。韓国が吸血鬼の侵攻を受け、甚大な被害を負っているとのことだ。稼働可能な陸軍戦力は即座にM-39に集合せよ』
司令官はマイクを通じて鎮守府全体に放送をかけたのだ。
流月は関心しながら担いでいた巨大なハンマーを床に降ろした。
数分後。
M-39に稼働可能な状態にある戦力が終結した。
戦艦型超戦車/紫桜型超戦車3号車 X-1146 水月。
D-16重駆逐戦車 寄月。
GZI-52対戦車自走砲 堀月。
GZJ-53対戦車自走砲 沈月。
DAV-36対戦車自走砲 氷月。
DAX-40対戦車自走砲 流月。
UTN-18対戦車破砕自走砲 叡月。
ZUS-57自走対空砲 空月。
DAZ-28自走対空砲 風月。
BIT-39夜間自走対空砲 黒月。
BIU-46夜間自走対空砲 暗月。
JPL-29自走高角砲 霜月。
PKZ-36自走対空砲 東月。
PLZ-59自走対空砲 北月。
APM-3噴進自走砲 紺月。
終結した戦力のほとんどは自走砲と自走対空砲が占めていた。
敵の戦力は未知数であり、寄せ集めの部隊ということもあり不安もあった。
だが、ここにいる全員は新型装備を与えられた者達であり、これまでに多くの戦績を残した猛者も少なからず混ざっている。
司令官はそれを知った上でこの部隊を戦場に送り出すことを決めた。
「よく集まってくれた。今回、敵の戦力は未知数だ。予想外の事態が発生する可能性が非常に高い。だが、お前達ならば十分対応可能な範囲であると俺は睨んでいる。引き際を見定めることを忘れず、敵の殲滅に当たれ」
「「了解しました!!」」
司令官としてできることは激励の言葉をかけるくらいだ。
だが、司令官として、送り出す者として戦場に向かう彼女達の可能性を信じることが司令官としての役割なのだ。
霧の門が開かれ、武装した彼女達は足を踏み入れる。
ここから先は生きるか死ぬか分からない戦場だ。
だが、必ず帰ってこなければならない。
未来を全員で歩むために。
韓国東部。
突如として吸血鬼の襲撃を受けた街は見るも無残な姿へと変化していた。
人が住んでいたであろう建物は瓦礫に変わり、あちらこちらに火の手が上がっていた。
人々は逃げ惑うも、吸血鬼に目をつけられて次々と命の灯火を消されている。
血なまぐさい臭いが辺りを支配した。
「頼む……助けてくれ…………」
1人の男がその場に尻もちをつきながら命乞いをする。
視線の先にいるのは旧吸血共和帝国陸軍戦車の怨念を宿した吸血鬼だ。
だが、男の命乞いは虚しく吸血鬼は腕に取り付けられた主砲を男に向け、不気味な笑みを浮かべる。
「コレデ……オワリダ…………」
吸血鬼は不気味な声でそう言うとトリガーを引こうとした。
男は死を悟り、目をつむった。
だが、砲弾が男を貫くことは無かった。
突如として吸血鬼の背後に青長髪の女が巨大なハンマーを振りかざした状態で現れた。
吸血鬼はその存在に気がつき、振り返ろうとする。
だが、それは後手だった。
「冥界まで……吹っ飛べ!!」
その掛け声と共に、女はハンマーを振りかざした。
ハンマーの重量と振り下ろされる速さは重量により凄まじい運動エネルギーを生み出す。
そして、吸血鬼は跡形もなくハンマーによって潰れた。
女は吸血鬼を叩き潰したハンマーを担ぎ、男を見る。
吸血鬼の潰される光景を目撃した男は恐怖で引きつった表情を浮かべた。
「流月!! 緊急事態だとしても目の前で叩き潰すのはやり過ぎよ!!」
女の背後から声が聞こえた。
目を向けると何人もの女がこちらに向かってきていた。
「横に吹き飛ばしたら建物に衝突してが倒壊する恐れがあったのよ。それでも良かったの?」
「だったら主砲で処理しなさい!! 目の前で生物が血だけの存在になる影響を考えなさい!!」
リーダーらしき女がそう言った。
男はわけの分からないまま女達の会話を聞いていた。
すると、男の隣から手が差し伸べられた。
「安心してください。我々は敵ではありません」
手を差し伸べた女はそう言った。
男は彼女の言葉を信じ、その手を取った。
女は男を引き起こすと、集団の中に戻ろうとした。
「ま、待ってください。貴女方は一体?」
「我々はアライアンス連合国陸軍です」
男の疑問の声に女は振り返らずに言った。
男は彼女の言葉に呆然とした。
この場に集まった華奢な女達が世界の盾であるアライアンス連合国、旧大龍帝国の者達だったのだ。
「早くこの場から立ち去ってください。直にこの場は戦場と化しますから」
女は冷酷な声でそう言った。
男は黙って頷くとシェルターがある場所へ向かって走り出した。
女……駆逐戦車寄月は男が立ち去ったのを確認すると仲間の輪の中へ戻った。
「それで、ここからはどのような行動を? 少なくともここ一帯は奴らの占領下にあると見て良いでしょう」
「水月さんは個別で遊撃を命じられて本隊を離れています……我々のできることは制限されてしまいますね」
「そうね……自走砲2人と自走対空砲3人で4人1組を作って。寄月と霜月、紺月は私と主要区画の殲滅をお願い。異議があるなら言ってちょうだい」
「問題ないわ」
「私も……ない…………」
「右に同じく」
「なら、この作戦で行きましょう」
指揮者叡月の提案と本隊の合意により、各班ごとにそれぞれの区画に潜んでいるであろう敵の制圧作戦が実施されることとなった。
そして各班は即座に動き出した。
己の成すべきこと成すために。
最初に接敵したのは第2部隊だった。
目の前に数体吸血鬼が現れたかと思うと、倒壊した建物の瓦礫の裏側などから他の吸血鬼が現れるた。
2班には装甲の薄い自走砲氷月、自走砲流月、自走対空砲東月の3人が編成されており、この状況は非常に不利だと言えた。
だが、敵陣は1つ対策が足りていなかった。
「黒月、暗月、背後の敵は任せた。氷月は東月を守ってやってくれ」
「「了解!!」」
「分かった…………」
それは流月は戦闘時に頭がキレることだ。
次の瞬間、自走砲流月は巨大なハンマーを振りかざした状態にも関わらず、凄まじい速さで前方の吸血鬼達の懐を侵略した。
前方の敵は横一列に並んでいた。
この状況から見える結果は1つだけだ。
「てめぇら、コンクリートになっとけ!!」
自走砲流月はその言葉と同時にハンマーを振りかざす。
それと同時に、ハンマーの持ち手部分にあるボタンを押した。
すると、ハンマーに取り付けられていた噴射口から蒼い炎が噴き出した。
蒼い炎が噴き出したことによりハンマーの運動エネルギーが大幅に上昇した。
そして、右端の敵にハンマーが接触し、そのまま並んでいた6体の吸血鬼をまとめて吹き飛ばした。
吹き飛ばされた6体の吸血鬼は凄まじい運動エネルギーに逆らうことができず建物に叩きつけられた。
土煙が上がり、散乱していた瓦礫が中を舞った。
自走砲流月は振り終えたハンマーわや地面に突くと、左腕に取り付けられた32.6センチ対戦車砲で近場にいた敵に風穴を開けた。
「どうした、根性のあるやつからかかってこい!!」
自走砲流月は周辺にいる吸血鬼にそう言い放った。
吸血鬼達はその言葉に激怒するも、自走砲流月の実力を目の当たりにして迂闊に手を出せなかった。
一方で、自走砲流月の背後では2両の自走対空砲が暴れていた。
「おらおらおら!! どうした、8.8センチ速射砲の前には手も足も出ないってか!!」
「私にはそこまで口径はないけど……5.7センチ速射砲でもそこそこなんとかなる!!」
自走対空砲黒月と自走対空砲暗月は高威力の速射砲を吸血鬼に向けて乱射していた。
速射砲かは発射される徹甲弾は瓦礫を貫通し、次々と吸血鬼を倒していく。
だが、吸血鬼も黙って殺されるような能無しではなかった。
生き残っていた建物の上層に避難し、高台からの狙撃を試みていた。
だが、自走対空砲暗月はこれに気づいていた。
「氷月、右斜め上の建物の屋上にVT信管付き空中炸裂弾を撃ち込んで!! 数体そこに隠れている!!」
「分かった…………」
自走対空砲暗月の指示で自走砲氷月は主砲にVT信管の空中炸裂弾を装填する。
対戦車砲での砲撃となるため信管の作動範囲内に敵を捉えることができるかすら分からない。
だが、目の前で命を懸けて戦っている仲間を見ると弱音を吐くことなどできない。
自身の可能性を信じるだけだ。
「装填完了!! 撃て!!」
自走砲氷月は主砲を放った。
その瞬間、敵に紛れ込んでいた自走対空砲が砲撃を迎撃するべく弾幕を張った。
その弾幕に対し、自走対空砲東月は瞬時に反応した。
2センチ四連装機銃を乱射する。
しかし、乱射された弾は敵弾を的確に迎撃した。
そして、奇跡的にVT信管が作動することはなかった。
砲弾は隠れていた吸血鬼の直上に到達すると信管が作動する。
空中で爆発した砲弾は鉄片を撒き散らした。
鉄片は隠れていた吸血鬼の脳と心臓を貫いた。
「おそらく敵車両撃破……偵察機を飛ばして確認を…………」
自走砲氷月の言葉に自走対空砲東月がドローンを飛ばす。
自走砲氷月は後ろを振り向いた。
視線の先には戦闘を終えた3人がこちらに向かって歩いてきていた。
返り血を浴び、多少のかすり傷があったものの、目立った怪我や重傷を負った様子ではない。
第2部隊の者達は僅かな安心に包まれた。
それとほぼ同時刻。
第1部隊は吸血鬼と交戦していた。
だが、1つ問題が発生していた。
「どうして15.5センチ砲の自走榴弾砲がここに……奴らにこれほどの戦力は揃えられないはず…………」
指揮車堀月は怒り交じりの声を上げる。
その問題は敵に自走榴弾砲のが存在したことだ。
旧吸血共和帝国に15.5センチ榴弾砲を搭載した自走榴弾砲を揃えられるほどの国力はなかった。
だが、積み上がった瓦礫の裏から放たれる砲弾は間違いなく15.5センチ級の榴弾砲の榴弾だ。
その榴弾の被害を避けるべく、第1部隊の者達は自走砲堀月と自走砲沈月の展開した防御壁の後ろに隠れていた。
「空月、風月、どうにかして突破できる策はあるか?」
自走砲沈月が自走榴弾砲空月と自走対空砲風月に問う。
だが、2人が見せるのは沈黙のみだ。
前に進めば瓦礫の後ろ隠れている重戦車の餌食に、後ろに下がれば榴弾の餌食となる。
まさに前門の虎後門の狼の状態だ。
「あの……1つだけ策があります」
自走対空砲北月がそう言った。
全員の視線が北月に向く。
「その作戦を教えてちょうだい」
「ですが……はっきり言って危険な策です……下手をすれば大怪我につながりかねません…………」
「私達自走砲が怪我をするだけなら何とかなる。言ってちょうだい」
自走砲沈月は北月に策を述べるように促した。
だが、北月はまだ迷う素振りを見せた。
事実、この策は危険であり、下手をすれば命に関わる大怪我を負いかねないのだ。
だが、戦況は時間が経てば立つほどこちらが不利になる。
迷っている時間は無かった。
「分かりました。では作戦を伝えます…………」
北月は作戦を第1部隊の全員に共有した。
戦鎚を所持する自走砲の2人が重戦車隊を壊滅させ、その隙に自走対空砲の3人が装甲の薄い自走榴弾砲を撃破するものだった。
地形的にこちらが不利であり、危険ではあるものの、これに賭ける他無かった。
全員が作戦を承諾し、榴弾の降り注ぐタイミングを見極める。
雨のように降り注ぐ榴弾の隙間さえ抜ければ問題ないからだ。
そして、その時は訪れた。
弾薬補充のためか、一瞬のみ榴弾の雨が止んだ。
「今です!!」
北月が叫んだ。
その瞬間、戦鎚を持つ自走砲の2人が飛び出した。
瓦礫から重戦車が体を出して砲撃しようとする。
だが、その前に自走砲の2人は重戦車との間合いを一気に潰し、懐を侵略した。
「「そんな薄い装甲でこの戦鎚が防げるか!!」」
自走砲の2人の掛け声が揃う。
それと同時に、5体の重戦車の両端から戦鎚が迫ってきた。
瓦礫で足元が悪い中、これを回避する術を重戦車は持っていなかった。
次の瞬間、5体の重戦車は両側から迫る戦鎚によりその身を1つに融合させられて死んだ。
だが、まだ終わりではなかった。
砲弾の装填を終えた自走榴弾砲がこちらを狙っていた。
「お前らの相手はこっちだ!!」
自走榴弾砲が発砲するよりも早く、後方から駆けつけた自走対空砲の3人が機関砲を乱射した。
機関砲の弾に貫通された装甲の薄い自走榴弾砲は次々とその場に倒れ伏せる。
危険な作戦ではあったものの、結果として怪我人が出ることはなかった。
全員が安堵した瞬間だった。
背後から重火器を撃ち合う音が聞こえてきた。
振り返ると、背後の交差点で弾丸が乱射されているのが確認できた。
何が起こっているのか分からない全員が反撃態勢を取る。
それと同時に吸血鬼が通路から飛び出してきた。
指揮車堀月が主砲を撃ち、吸血鬼は絶命した。
しかし、重火器を反射した存在が何者なのかは未だわからない。
だが、その存在はこちらに近づいてきている。
全員が固唾を飲んだ。
そして、その存在が通路から姿を現した。
だが、存在を確認した全員は主武装を降ろした。
「水月さんでしたか……ガトリング砲を搭載していましたし納得ですね…………」
その存在は超戦車水月だった。
超戦車水月は個別の命令で遊撃に出ており、同時に情報収集も行っていた。
だが、超戦車水月の表情は芳しくなかった。
その表情からは焦りが覗える。
「貴女達、叡月や流月達はどこにいるの?」
「流月や黒月を含む第2部隊は南東の方向に進撃しました。叡月や寄月は北側に進撃しました」
「なんですって!?」
自走砲沈月の言葉を聞いた超戦車水月は大声を上げた。
超戦車水月の声にその場の全員が驚いた。
「どうしてそんな大声を……?」
「叡月の部隊が危ない……ここにいる奴らは…………」
時は第1部隊が戦闘に入る少し前に遡る。
第3部隊として分かれた4人は奥地に侵攻する敵を食い止めるべく町中を走っていた。
道中何度も吸血鬼と接敵し、そのたびに撃破を繰り返していた4人は被害報告が上がっている場所に向けて走っていた。
「流石、自動装填装置……15.5センチ対戦車砲を4秒で装填するなんて…………」
「これでも戦争中期の次世代自走砲なのよ。結局は試作車止まりになってしまったけれど…………」
駆逐戦車寄月の言葉に指揮車叡月は皮肉そうに返した。
だが、試作車だったからこそ当時の最新システムが搭載できた点では当時の開発部に感謝せざるを得ない。
「叡月さん、この先から敵の反応があります」
ミサイル自走砲紺月が指揮車叡月言った。
指揮車叡月は黙って頷くと全員についてくるよう手を前に振る。
後に続く者達も黙って頷き、指揮車叡月の後に続いた。
だが、彼女達はまだ知らない。
この先に待ち受けていたのは地獄の扉だったことを。
紺月の言葉を頼りに吸血鬼の反応があった場所に着いた。
だが、目の前に広がっていたのは想像を絶するような光景だった。
目の前に映るものは地に伏せる何十人もの人間の死体だった。
辺りは血の海に染まり、錆びたような臭いが辺りを支配していた。
「一体……ここで何があったというの…………」
駆逐戦車寄月の口から言葉が零した。
だが、それは地獄の扉を開く引き金だった。
次の瞬間、一瞬の内にして駆逐戦車寄月の背後に何かが現れた。
寄月はその存在を察知すると後ろを振り向いた。
だが、その存在は腕を上に振り上げていた。
存在の右腕には剣取り付けられており、振り下ろされた瞬間体が縦に両断されるのは目に見えていた。
だが、後手に回ってしまい、攻撃を回避できる距離も潰されてしまった状況下で防御に回る以外の選択肢はなかった。
駆逐戦車寄月は咄嗟に手に取り付けられた鋼鉄のガントレットグローブで防御姿勢を取った。
次の瞬間、その存在の剣が振り下ろされた。
凄まじい衝撃波が辺りに走った。
幸いなことに斬撃が駆逐戦車寄月を両断することはなかった。
だが、その存在は間髪入れず左腕を駆逐戦車寄月の腹部にねじ込んだ。
駆逐戦車寄月は対応することができず、後方に吹き飛ばされてしまった。
不運なことに、吹き飛ばされた方向には指揮車叡月が立っていた。
駆逐戦車寄月は指揮車叡月を巻き込んでしまったのだ。
2人は後方の建物に激しく叩きつけられた。
「寄月さん、叡月さん!!」
自走対空砲霜月が叫ぶ。
だが、2人を吹き飛ばした存在は待ってはくれない。
凄まじい速さで自走対空砲霜月との距離を潰す。
自走対空砲霜月は反応しようと存在に対して12.7センチ連装高角砲から徹甲榴弾を発砲する。
徹甲榴弾は存在に命中するも、存在は無傷で速度を変えずにこちらに突っ込んでくる。
気がついた時にはもう遅かった。
存在は自走対空砲霜月の胸部に剣を突き刺した。
剣は心臓を越えて体を貫いた。
自走対空砲霜月は激しく吐血した。
反撃しようにも砲弾は手動装填であるため力が抜けいく体では再装填など行えなかった。
存在は自走対空砲霜月を雑にその場に投げ捨てた。
そして、存在は近くにいたミサイル自走砲紺月に目を向けた。
「ひっ……!!」
ミサイル自走砲紺月は声にならない悲鳴を上げた。
仮面で顔を隠した存在はまさに不気味だ。
そして、目の前で自走対空砲霜月をたった数秒で瀕死の状態に追い込んだ相手だ。
絶対に勝てない相手なのだ。
攻撃しようにも距離からしてミサイルの安全装置があるため有効打を与えることができない。
かと言って距離を取ろうすれば距離を取る前に確実に殺される。
副武装の12.7ミリブローニング重機関銃は存在に対して有効打を与えることができない。
どう思考を巡らせても生き残る術が見つからない。
ミサイル自走砲紺月は絶望のどん底に立たされた。
だが、まだ希望はあったのだ。
「紺月に手を出すな!!」
いつの間にか存在の背後で寄月が鋼鉄のガントレットグローブを取り付けている拳を振りかざしていた。
存在は寄月の存在を設置できていなかった。
存在はそのまま寄月の渾身の一撃を背中でもろに受けた。
存在は吹き飛ばされるも、強靭な肉体を駆使して数十センチの場所で踏みとどまってみせた。
だが、間髪入れず存在に榴弾が撃ち込まれた。
吹き飛ばされた叡月が後方から対戦車榴弾を撃ち込んでいたのだ。
これを好機と見たミサイル自走砲紺月は急いで距離を取り、安全装置の作動範囲外から携帯していた全ての対戦車ミサイルを撃ち込んだ。
存在は爆発の煙に包まれた。
対戦車榴弾2発、対戦車ミサイル8発を撃ち込んだのだ。
これで生きていたら笑うしか無かった。
だが、世界は無情だった。
「はは……ははは……どうすれば倒せるのよ…………」
煙の中から現れたのは仮面を破壊されて素顔があらわになった存在だった。
存在の動きが止まっている今だからこそその姿と特徴を確認することができた。
着ている軍服は灰色で統一され、それ以外の色が一切見受けられない。
装備は大型の三連装砲が1基あり、肩にはガトリング砲に似た装備が搭載されている。
その軍服と装備はどこか紫桜型超戦車を連想させた。
何よりも驚いたのが存在の素顔だった。
肌の色は灰色で、目は全てを吸い込んでしまいそうですなほど黒い球体の穴が2つあり、口はアニメや漫画でよく見る牙状の口だった。その奥は全てを吸い込んでしまいそうな黒色が支配している。
ブラックホールが目の前にあると比喩しても違和感のないほどに。
指揮車叡月は存在の風格と実力から見て察した。
これは勝てる相手ではないと。
「2人とも、霜月を連れて逃げなさい。ここは私が時間を稼ぐ」
「そんなことはできません!! 紺月の対戦車ミサイルが直撃しても生きていふ相手です!! 叡月さんが勝てるはずありません!!」
駆逐戦車寄月は指揮車叡月の命令に従おうとしなかった。
駆逐戦車寄月の背後にいるミサイル自走砲紺月も首を縦に振った。
「さっさと行け!! 貴女達は足手まといでしかないのよ!! 私に構う暇があるなら霜月を救ってみせろ!!」
指揮車叡月が怒鳴り声で命令を下した。
ここまで言われてしまっては2人には従う以外の選択肢など無かった。
2人は叡月の背後にある通路に走り始めた。
だが、2人は分かっていた。
指揮車叡月が身代わりとなってここで死ぬことを選択肢たことを。
「さて、殺り合いましょうか……生きるか死ぬかの死合を…………」
指揮車叡月はそう言うと両腕に取り付けられた榴弾砲を構えた。
目の前にいる存在も攻撃の構えを見せる。
次の瞬間、指揮車叡月が凄まじい速さの早撃ちを見せた。
放たれた対戦車榴弾が存在に向かって飛翔する。
だが、存在はいとも容易く対戦車榴弾を避けた。
そして、一瞬にして指揮車叡月との距離を潰す。
存在剣の間合いに持ち込み、指揮車叡月の心臓に剣を突き刺そうとする。
だが、指揮車叡月は避けようとしない。
その表情は不気味な笑みを浮かべていた。
存在はそのまま指揮車叡月に剣を突き刺した。
その剣は叡月の心臓を正確に捉えていた。
指揮車叡月は吐血しながらも両腕の砲で存在の肩に零距離射撃を行ったのだ。
零距離射撃で放たれた対戦車榴弾は存在の両肩に装備されたガトリング砲を破壊した。
存在はこの距離を危険だと判断したのか指揮車叡月から剣を抜こうとした。
だが、剣が指揮車叡月の胸部から抜けない。
「残念……そこには『瞬間固形剤』を入れていたのよ」
指揮車叡月は不気味な笑みを浮かべながら言った。
アーマープレートと戦闘服の間に仕込まれた瞬間固形剤が剣に貫かれたことにより剣がアーマープレートに固定されていたのだ。
指揮車叡月は間髪入れず3、4発目の対戦車榴弾を存在の背中に撃ち込んだ。
存在は獣のようなうめき声を上げる。
だが、指揮車叡月も限界だった。
瞬間固形剤を入れていたことにより出血は防いでいるものの、心臓を貫かれた事実は変わらず出血した血液が体の中で溜まり始めている。
だが、指揮車叡月が意識を手放すことはない。
分かっていたのだ。
自身では存在に勝てないことも。
このまま死ぬということも。
だから、最期の抵抗でどれだけ損傷を与えられるかに賭けたのだ。
指揮車叡月は5、6発目の対戦車榴弾を撃ち込んだ。
ここで対戦車榴弾の残弾がなくなった。
だが、指揮車叡月はまだ諦めていなかった。
頭を振り上げると存在の額に強烈な頭突きを打ち込んだ。
両者の頭蓋骨が割れた音が響き渡る。
本来ならばここで意識を失ってもおかしくない。
だが、指揮車叡月の意識は保たれていた。
そこからは何度も頭突きを打ち込んだ。
存在に反撃する隙を与えないために。
だが、その抵抗すら無に帰す時がやってきた。
指揮車叡月差頭突きに集中するあまり、下半身への意識が疎かになっていた。
その存在は空いていた左手で懐からナイフを取り出す。
そしてそれを指揮車叡月の腹部に突き刺した。
あまりにも突然のことに指揮車叡月は対応することができなかった。
指揮車叡月の動きが一瞬止まった。
だが、それは存在にとって大きな隙となった。
存在は指揮車叡月を貫いていた剣から手を離すと指揮車叡月の腹部に回し蹴りを打ち込んだ。
指揮車叡月は後方に吹き飛ばされ、建物に激しく叩きつけられた。
そしてそれに加え、腹部に突き刺されたナイフがより深く突き刺さっていた。
指揮車叡月に反撃する力は残されていなかった。
存在はこちらに主砲を向けた。
「やってやったわよ……後は……任せたからね…………」
指揮車叡月は残してしまう者達に希望を預ける言葉を零した。
この世に多くの未練を残してしまった。
だが、指揮車叡月は運命を受け入れる。
これが自分自身にとっての限界だったのだと。
指揮車叡月の元に応援が届いたのは最後の言葉から数分後だった。
駆けつけた者達はその光景に絶句した。
絶対に死なないと思わせるほどの実力を持った彼女が骸となって横たわっているのだから。
自走砲流月は叡月の亡骸に近づく。
そして、彼女の頬に手を触れた。
頬には僅かながら温もりが残っていた。
命の灯火が消えていることは明らかだったが、それでも信じたくなかったのだ。
毎日のように盃を交わした戦友が目の前で死んでいる事実を。
結果として韓国の防衛は成功した。
だが、この戦いで失ったものは大きかった。
戦場で叡月が死に、鎮守府で集中治療を受けていた霜月も結局助からなかった。
再び戦争状態に突入してから始めての戦闘でかけがえのない2人の仲間を失ってしまったのだ。




