少女なる兵器 第60話「結婚」
WashingtonD.C.から帰還して数日後。水月は家で家事をしていた。いつもと変わらない日常生活の中、水月は廷羅の言葉を思い出していた。
『あっしが思う悪いことは9割当たるのじゃ』
この言葉が、水月の頭から離れなかった。この言葉からして、近い内に吸血鬼と戦うことになるかもしれないと思うと、不安が頭をよぎった。
それから数分後、買い出しに言っていた暁翠が戻って来た。同じタイミングで、水月も昼食を作り終えた為、2人は手を洗ってすぐに食事に手を付けた。
食事をする中で、暁翠は水月に聞いた。
「水月。4月1日に予定はあるか? 結婚式を挙げたいと考えているから、何もなければそのまま実行しようと思っている」
「特に予定はありませんよ。では、準備を…………え!?」
いつものように言葉を返そうとした水月だったが、暁翠がしれっと言った言葉に耳を疑った。
水月は確認の為、もう1度暁翠に聞く。
「元帥。今、結婚式と言いましたか?」
「ああ、そうだ」
その言葉に、水月は顔を赤くしながら暁翠から目を逸らす。暁翠はいつもと変わらぬ表情のまま、箸を進める。
水月も箸を進めるが、暁翠の言葉の衝撃により中々箸が進まない。
それを見ていた暁翠は、溜息をついて言った。
「そろそろ慣れたらどうだ? 俺がお前を愛する気持ちは変わらないし、夫である事実も変わらない。結婚届も国と市に提出してある」
「元帥……そこまでしているのにまだ結婚式は挙げてないんですよね」
「時間が無かったのと、全員の予定が合わなかったんだ」
その言葉に、水月はまたもや耳を疑った。暁翠が言う全員というのは、紫桜や龍造、海月、白波達も含まれる。つまり、旧大龍帝国の全員で結婚式に参加しようと言うことだ。その予定が合わさる日が4月1日だったという事だった。
水月は箸を置くと、暁翠に聞いた。
「やっぱり、ウエディングドレスを着るんですか?」
「白波に発注済みだ」
「バージンロードのエスコートは?」
「紫桜に任せた」
暁翠にした質問の答えに、水月は固まってしまった。自分の知らない所で話が進んでいたこともそうだが、結婚式まで残り1週間しか無いということも、水月を固まらせた理由の1つだった。
水月は下を向きながら暁翠に言った。
「元帥……正直な所、私は結婚式のマナーに疎いです。なので、ちゃんとした結婚式にできる自信がありません」
「そう言うとおもって、会場は鎮守府にしてある。外には結界も張ってあるから、外部の人間からは見られないようになっている。失敗しても何の問題もない」
「ありますよ……元帥の恥になってしまいます」
「そんな事は気にするな。お前はお前で自分なりの最善を務めたら良い」
その言葉に、水月は何も返せなかった。どうしてここまで自分に気を使ってくれているのか、そんなことは何度も暁翠から聞いた。だが、ことあるごとにまたもや思い返してしまう。
水月は暁翠に翻弄されつつあるのかもしれないと感じた。
それから日は経ち、結婚式前日となった。水月のは緊張のあまり、その日の行動が大きく変わっていた。どういう訳か暁翠から距離を取ったり、何か話しかけられるたびに、強い警戒心を示していた。
そんな水月を見た暁翠は、クスクスと笑っていた。水月かここまで過剰になることは滅多に無いのだ。暁翠からすれば、この光景は中々にレア度が高かったのだ。
それから数時間後、時刻は夕方となった。暁翠は風呂に入ろうと、居間を後にした。
そして、浴室へ入り、体を洗った暁翠は、湯船に浸かった。
それと同じタイミングで、浴室の扉が叩かれ、水月の声が聞こえてきた。
「元帥……その……ご一緒してよろしいですか?」
「俺は大丈夫だが、お前は大丈夫なのか?」
「はい……大丈夫です」
「なら大丈夫だ。おいで」
暁翠の言葉で、水月は浴室へと入って来た。水月からしたら恥ずかしさもあったが、結婚前夜と考えると、どういう訳か気持ちが吹っ切れたような気がした。
水月は髪と体を洗うと、浴槽に体を浸けた。隣には暁翠が居て、緊張している水月の心拍数はどんどん上がっていった。聞こえるのは、髪から滴り落ちる水滴の音と、自身の心臓の鼓動だけだった。
少しの沈黙の後、暁翠は言った。
「お前も昔と比べると変わったな。着任初日、無理に鎮守府の空気に馴染もうとしていたのが嘘みたいだ」
「元帥こそ変わったんじゃないですか? 昔と比べると、雰囲気がかなり緩くなってますよ」
「お前達の命を預かっていたからな。もっとも、死者が出てしまったがな……指導者として失格だよ」
その言葉に、水月は何も返せなかった。言葉が見つからなかったのだ。この点だけは、暁翠の変わっていない。常に過去を悔い、未来で同じことが起こらないように常に考え続けている。
少しの沈黙の後、水月は言った。
「少なくとも、私から見た元帥は指導者失格なんて思っていませんよ。私が兵器時代から見てきた中で、良き指導者は元帥を含めて3人しか見たことがありません。他人に平等に愛情を注げる……そんな人が私の思う良き指導者です」
「お前って、偶に良いこと言うよな」
「偶にって何ですか!?」
そして、その場は笑いに包まれた。水月がうっとおしいと感じていた心臓の鼓動も、気がつけば収まっていた。
それからしばらくして、2人は風呂から上がり、就寝の準備をした。いつものように布団を敷き、部屋の明かりを消して布団に入る。2人はそのまま寝ようとした。
しかし、水月は目が覚めたままだった。いつもなら数秒もすれば眠れたのに、今日に限って眠ることができない。
水月は横を向き、今日の寝顔を見て小声で言った。
「元帥……起きてますか?」
「起きてるぞ」
暁翠も寝ていなかったようだ。暁翠が起きていることを確認した水月は暁翠に聞いた。
「元帥は……その……本当に良いんですか? 私が結婚式で失敗しても」
「ああ、大丈夫だ。最悪去音に怒られるだけで済む」
「それ、大丈夫じゃないです」
そして、しばらく沈黙が続いた。水月は何を話そうか迷っていると、暁翠がこちらを向いて言った。
「おいで」
そう言うと、暁翠は自身の布団の毛布を上げ、入るように言った。水月は自然と暁翠の布団の中へ入り込んだ。暁翠は毛布を下げると、水月の頭を撫でながら言った。
「大丈夫だ。お前は何も考えず、俺の元に歩いてくれば良い。お前が心配すると思って、結婚式も簡略化してある。だから心配するな」
その言葉を聞いた水月は少し微笑むと、暁翠に抱きついた。そして、暁翠の胸にうずくまりながら目を閉じた。
暁翠は水月を離そうとするも、水月が眠っていることに気が付き、そのままにすることにした。そして、暁翠も眠りについた。
暁翠が目を覚ますと、そこは何も無い霧だけの空間のように見えた。しかし、よく見てみるとそこは鎮守府の門前だった。暁翠は導かれるように鎮守府の中へ足を踏み入れた。
その瞬間、突如として辺りに死体の山が現れた。死体の正体は緋龍や萩月、よく見ると夜桜も横たわっているのが分かった。
次に、暁翠は鎮守府よ本舎へ足を踏み入れた。すると、玄関を入ってすぐ横で京華が死んでいた。目と口から実が流れており、壮絶な死に方をしたことが伺えた。
廊下の奥を見てみると、蔽龍と憖龍が倒れていた。辺りに血溜まりができているのが見え、死んでいることが分かった。ただ1つ気になるのが、その奥に足を引きずったかのような血痕があったのだ。暁翠は血痕の跡を辿った。
そこからはまさに、地獄絵図を表したような光景だった。血痕のを辿る道中、多くの死体を見た。炎月、霜月、深月、北龍、盈龍、空龍、笵龍、亰龍、龍彩、龍城……数えていたら頭がおかしくなりそうだった。そして、壁には血文字が書かれるようになり、脳内に「殺せ」という声が聞こえてくる。誰かの声ににているが、誰かなのかは思い出すことができない。
そして、暁翠は執務室の前にやって来た。血痕はこの中に続いており、扉には血文字で「Kill her」と書かれている。
暁翠は息を呑むと、執務室の扉を開いた。そして、部屋の中にいた者に絶句した。部屋の中にいた者は、返り血に染まった水月だった。あちこちが返り血で赤く染まり、手には地に染まった短刀が握られていた。
すると、水月はこっちを振り向いた。そして、暁翠に近づいて言った。
「元帥。これでやっと2人になれますね。これでやっと…………!!」
暁翠は何も言わず、水月の首を両手で絞めていた。水月は苦しそうに藻掻き、涙を流しながら掠れた声を発する。
「元帥……なん……で…………」
「俺だってこんな事はしたくない……だが、お前をこうしてしまった俺に責任がある……お前を殺した後、俺も死ぬ」
「そんな……どう……して…………」
そして、ゴキッという鈍い音が鳴り響くと水月の体から力が抜けるのが分かった。そして、暁翠は水月が持っていた短刀を持つと、それを勢いよく自分の心臓めがけて振り下ろした。
それと同時に、暁翠は本当に目が覚めた。辺りを見回すと、そこは変わらない自宅だった。だが、自分の頭が乗っている場所違和感を感じた。もう少し上を見ると、水月の顔が目に入った。水月も暁翠が目覚めたことに気がついたようで、暁翠に声をかけようとした。
しかし、暁翠は飛び起きると水月と距離を置いた。
「元帥? どうかされましたか?」
「頼む……俺にお前を殺させないでくれ…………」
「元帥?」
それと同時に、居間の中に霧の門を使って来た者がいた。それは、霊花だった。
霊花は暁翠を見るなり、曇った顔をしたながら暁翠に何らかの術をかけ始めた。
しばらくして、霊花は術を掛け終えると暁翠に言った
「叔父上。冥怪呪術にかかったようじゃな」
その言葉を聞いた暁翠は絶句した。
冥怪呪術とは、誰かを恨む時に賭ける術で、使用者の憎しみが強ければ強いほど強い悪夢を見せることができるのだ。しかし、これは吸血鬼のみが扱えた術であり、暁翠に誰がどうやってかけたのかは分からない。
暁翠な怯た口調で言った。
「水月……霊花……すまない……見苦しいところを見せた」
そう言うと、暁翠は霧の門を作り、何処かへと行ってしまった。
すると、霊花が水月に向き直り言った。
「水月よ!! さっさと寝巻きを脱がぬか!! 今日は叔父上との結婚式であろうが!!」
「あ……わ、忘れてました!!」
水月は急いで寝巻きを脱ぐと、霊花が持ってきてくれたウエディングドレスを着る準備に入った。
そして、コルセットを締めるのを霊花にお願いすると、霊花はコルセットの紐をこれでもかと言うくらいに引っ張り上げた。
水月はあまりの痛さに声を上げた。
「霊花!! 痛いから優しくしてちょうだい!!」
「そんなこと言ってる場合では無いじゃろうが!! さっさと準備をするぞ…………」
すると、霊花の手が突然止まった。水月は不思議に思い、霊花の方を向いた。
すると、霊花は水月に言った。
「水月……叔父上をよろしく頼む。叔父上はああ見えて怖がり何じゃ……じゃから、叔父上を支えてやってくれ」
「ええ、勿論よ。どこまでも元帥に着いて行くって決めたからね」
それから数十分後、鎮守府にの正面広場には多くの兵器が集まり、元首脳陣も最後尾で様子を見守っている状態となった。暁翠は鎮守府の正面玄関から、白いカーペットに続く白いカーテンで包まれた囲いを見ていた。
それから数分して、結婚式の時間になった。すると、白いカーテンで囲まれた囲いのカーテンが開き、紫桜と水月が姿を現した。2人はゆっくりと近づき、紫桜は途中で水月の手を離すと、ゆっくりと自分の席へ戻って行った。
水月は暁翠の横まで行くと、暁翠と向き合い、その場に跪いた。それを見た暁翠は誓いの言葉を述べた。
「我が名は龍造暁翠。爾、戦艦型超戦車/紫桜型超戦車 3号車 X-1146 水月を嫁として迎え入れ、共に生き、共に死ぬことをここに誓う。爾も誓いの言葉を述べよ」
「我が名は戦艦型超戦車/紫桜型超戦車 3号車 X-1146 水月。我が夫、龍造暁翠と共に生き、共に死ぬことを今ここに誓います」
水月の言葉を聞いた暁翠は、水月に手を差し伸べた。水月は暁翠の手を取り立ち上がった。
すると、互いがつけていたネックレスが光だし、眩い光を一瞬放って消えた。それを確認した暁翠は言った。
「これは契約の証だ。この誓いは消えず、俺かお前が死ぬまで適応され続ける」
「何言ってるんですか? 死ぬ時は元帥と一緒ですよ」
その言葉に、暁翠は苦笑した。だが、心の何処かでは水月の覚悟を嬉しく思っていた。
そして、席に座っていた全員が酒の入ったグラスを持ち、立ち上がると、暁翠は締めの謝礼を述べた。
「本日は、我々の結婚式にご参列くださり、誠にありがとうございました。皆様の前で宣言した事を、永遠に守り続けると誓います。式を締める前に、お配りしたグラスの中に入っている酒をお飲みいただこうと思います。では、今後の未来を祈って乾杯…………」
暁翠が乾杯を宣言しようとした時だった。突如として、そらから風切り音のような高い音が聞こえてきた。空を見ると、無数の何か分からない黒い物体が落ちてくるのが見えた。それが何なのか、水月にはすぐに分かった。
「爆弾よ!! みんな逃げて!!」
水月の言葉で、全員は爆弾が場所へと避難した。
その直後、席が並んでいた所に爆弾が直撃した。暁翠は近くにあった非常サイレンを鳴らし、空襲警報を発令させた。
すると、鎮守府の屋上から無数の迎撃機が上がった。
去音と霊花は、持ってきていたした錫杖を空に向けると、無数の火球を放った。
敵機は瞬く間に壊滅し、鎮守府に一時的な平穏が戻った。
すると、去音は暁翠に訪ねた。
「暁翠!! まだ吸血鬼が生き残ってるようね!! これからどうするの!!」
暁翠はその言葉に答えようとするも、水月が先に答えた。
「再び息の根を止めるだけです。そうでしょ!! 皆!!」
「「はい!!」」
辺りからは力強い返事が返ってきた。暁翠は戸惑いながら水月に聞いた。
「そんな事を簡単に決めてしまっても良かったのか?」
「大丈夫ですよ。全員が返事をしなかったとしてもわ私だけで戦うつもりでしたし」
「そうか……本当に強くなったな…………」
「私を誰だと思ってるんですか? 龍造水月ですよ。これくらいの事、恐てる事なんてできませんよ」
水月と暁翠の結婚式を境に、第2次怨少戦争が幕を開けた。この戦争は第1次怨少戦争よりも更に戦火の炎は激しくなり、多くの者を飲み込むこととなる。このさきの行方はどうなるのか。そして、生き残っていた吸血鬼は何処に身を潜めているのか、長きに渡る弔い合戦が再び幕を開けるのであった…………




