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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
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少女なる兵器 第58話「年下の言葉」

 「我が君。ご報告がございます。部隊の再編成が整いました。今、奇襲攻撃を行えば、確実に奴らを根絶やしにできます」

 「慌てるな。少し……夢を見たんだ。私が指定する日時に奇襲攻撃を行え。奴らの排除が優先だ」

 「了解しました。下の者には、こちらで伝達しておきます」


 ここは、今は分からない不明の場所。海は赤く染まり、空は暗雲が覆っている。そんな空の下、◯◯◯は反攻作戦の準備が整っていた。

 だが、我が君は許可を出さない。我が君の目に見えているもの……それは何なのかは、我が君と未来のみが知る。


 一方その頃、水月達はいつもとほぼ変わらない生活をしていた。唯一変わったとすれば、京華が家に居候するようになったことだ。どうやら事故に遭ったらしく、車を修理に出しているそうだ。裁判には勝ったようだ。

 そして、水月の生活にも変化があった。それは、刀の稽古だ。暁翠から一定の技術は教わっていたが、それを応用した技術は京華が上なのだ。


 今日も水月は刀の稽古に励んでいた。まだ京華には勝てないが、京華は日に日に成長していると水月を褒めている。水月にその実感は無いのだが、京華が言うのであれば確かなのだろうと納得していた。


 しばらくして、今日の稽古が終わった。互いに礼をすると、家の中へと入る。中では暁翠が昼食を作っており、料理の美味しそうな香りが漂っていた。

 手を洗った2人は居間の座布団に座ると、京華が水月に言った。


 「今日の昼食は何かしら? 暁翠さんの昼食には、私が食べてきた食事の中でイチニを争うわ」


 その言葉に、水月はふと思うところがあった。イチニを争うと言うくらいだから、暁翠の作る料理並みの美味しさがある料理なのだろう。

 気になった水月は、京華に聞いた。


 「京華。イチニを争うって言ったけど、その比べている料理は誰の料理なの?」


 その言葉を聞いた暁翠は、少しの間、顔から表情が消えた。しかし、すぐに首を振ると悲しそうな目を、土間にいる暁翠に向けた。

 水月は何かを感じ取り、京華に謝った。


 「ごめんなさい。話したくなかったら話さなくても良いから」


 だが、京華は首を横に振って言った。


 「いいえ。できることならば、この話しは知ってもらいたい。聞いてくれる?」


 京華の言葉に、水月は黙って頷いた。

 すると、京華は自身の過去について話し始めた。




 ー1930年7月23日ー


 「ただいま。今日から夏休みね」

 「おつかれ。一先ず、汗を拭いたほうが良い。制服も濡れてるだろ」


 ここは、311年前の今はもう無い水無月家の実家だ。この頃の京華は中学1年生だった。京華には1つ上の兄がいて、京華の事をよく可愛がってくれた。

 京華の兄は、学校から帰ってきた京華に向かって言った。


 「京華。今日の昼食は僕が作るよ。何か食べたい物があったら、遠慮なく言ってごらん」

 「うーん……兄さんが食べたい物」

 「分かった。それじゃ、しばらく待っててね」


 そう言って、京華の兄は料理を始めた。

 京華はテレビをつけ、天気予報の確認をしていた。その日は両親が帰ってこない為、兄と2人で過ごすことになっていた。


 しばらくすると、京華の兄が料理を終えて帰ってきた。作ってきた料理は、カレーだった。

 京華は目を丸くしながら、兄に訪ねた。


 「兄さん。どこで香辛料を手に入れたの?」

 「今日の帰り道、海軍の人達とすれ違った時に、その内の1人がくれたんだ。大量に余っているからって」


 その言葉を聞いた京華は、苦笑しながら兄を見た。

 そして、2人はカレーを食べ始めた。カレーはとても美味しく、今まで食べてきた和食とは違った風味が楽しめた。


 しばらくして、2人は昼食を終え、それぞれのやるべき事に手を付け始めた。と言っても、するべき事は、学校から出された大量の課題だった。机に向かい、問題を一問一問丁寧に解いていく。


 それから数時間後、2人は出された課題の半分近くを終わらせていた。常に成績トップだった2人にとっては、授業の範囲内は簡単なものだった。

 京華の兄は課題の冊子を閉じ、ガラスコップに淹れてあったお茶を飲んだ。そして、京華に向かって言った。


 「京華。風呂焚きをお願いしても良いかい? その間に、僕は夕飯を作るから」

 「分かったわ。夕飯はお願いね」


 京華は課題の冊子を閉じると、風呂の用意をしに行った。


 それからしばらくして、京華の兄が夕飯を作り終えた。京華も風呂焚きが終わり、夕飯を食べる為に一定の火力が出るよう薪の調節だけをして、居間へ戻った。

 そして、2人は夕飯を食べ始めた。京華にとって兄が作ってくれた和食は、両親が作る和食よりも美味しいと感じていた。


 数十分後、2人は夕飯を食べ終えた。

 京華の兄が、京華を先に風呂に行かせようと思っていると、京華は兄に抱きつきながら言った。


 「兄さん。今日くらい、私と風呂に入らない」

 「駄目だよ。京華も年頃の娘なんだ。いくら妹だといっても、それは受け付けられない」


 京華の兄は京華の誘いを断った。だが、京華は諦めなかった。


 「良いじゃない。幼い頃は一緒に入ってたじゃない」

 「分かったよ。だけど、体はタオルで隠して。これが絶対条件だよ」

 「分かったわ。ありがとう」


 京華の兄は、京華の願いを渋々受け入れた。

 そして、2人は風呂に入った。京華の兄は、先に京華の体と髪を洗わせた。その間、京華の兄は壁の方を向いていた。

 

 数分後、今度は京華の兄が体と髪を洗う番になった。京華は、体を洗う兄を見ながら話しかけた。


 「兄さん。兄さんは将来何になりたいの?」

 「そうだな……僕は海軍に入りたいと思ってる。家族と国民を守る為に…………」

 「そう……なら、私も海軍に入る」

 「ええ!?」


 京華の言葉に、兄は驚愕した。まさか、京華が海軍に入りたいと言うとは思っていなかったのだ。そもそもの話として、京華は女性であるがため、海軍に入れない。だが、京華の兄は厳しい現実を突きつけることが好きではなかった。だからこそ、こう言った。


 「京華が努力すれば入れるよ。きっと」

 「ええ。兄さんと同じ道を歩めるように頑張るわ」




 「こう言う事があったからかしらね……あの時食べた昼食と夕飯の味は覚えているの。ある意味、私が幸せに感じてた一時なのかもね」


 京華が言い終わると同時に、暁翠が昼食を持ってきた。今日の昼食はカレーだった。

 そして、3人は昼食を食べ始めた。カレーを口にする教は、どこか寂しそうな目をしていた。


 残された者の悲しみとは、他人には計り知れないものだ。地球上に生きる生物は、老いて死ぬ運命にある。だが、永遠の別れとは常に悲しみが付き纏う。残された者は、生きていくしか無いのだ。

 京華の場合は、長くて数千年の時を生きることができる。その数千年間、何を糧にして生きるのかが難しいのだ。だが、京華は誓ったのだ。極東軍事裁判で無罪判決を言い渡された後、暁翠の手を取り、龍と契約し、今を生きることを選んだのだ。決して後戻りはできないのだ。


 すると突然、暁翠が暁翠に話しかけた。


 「京華。前から気になっていたんだが、お前の子孫はまだ続いているのか?」


 その言葉に、水月は目を丸くした。京華が結婚していた事は初耳だった。

 京華はいつもの表情で言葉を返した。


 「大丈夫ですよ。血の繋がりは確認しています」

 「そうか……俺が言うのも何だが、会いたいとは思わないのか?」

 「無いと言えば嘘になりますが、会わないことが契約事項なので諦めてますよ」


 その言葉を聞いた水月は、さらに頭が混乱した。京華の子孫に契約事項等、初耳の事が多く出てきた。

 そんな水月に気づいた京華は、苦笑しながら話し始めた。


 契約書の内容は3条あった。

 第1条 龍族になった後、どのような過酷な訓練も耐える

 第2条 1年間は人間として生き、成すべきことを成す

 第3条 子孫とは金輪際関わらない

 この内の第3条が、京華が子孫に会えない理由だった。だが、これには暁翠の計らいがあったのだ。暁翠は極東軍事裁判にかけられ無罪となった。これは、当時の国民からしたら非国民の考えが強く、子孫にも差別を生むと考えていたのだ。その為、京華と子孫を切り離し、差別を生まないようにする為だった。

 だが、今になってはその考え方は無くなっている。その為、暁翠は第3条よ破棄を考えていた。だが、これに反対しているのが去音と、とある龍族だった。去音曰く「契約書の内容くらい守れ」との事だった。厳しい言い様だが、去音の言っていることは正論なのだ。契約書を破ることは、龍族とっての侮辱であり、宣戦布告でもあるのだ。そう簡単に変えるわけにはいかないのだ。


 ここで、水月は疑問に思うことがあった。契約者同時が同意であるならば、契約を無効にすることは可能ではないのかと言うことだ。

 気になった水月は、暁翠に聞いてみることにした。


 「元帥。契約者の本人同士の合意があれば、契約は破棄できるんじゃないですか?」

 「本当ならそうなんだが……少し複雑な事情が関係しているんだ」


 暁翠曰く、龍族の契約は単純なものでは無いらしい。龍族の契約は、地位が高い者によって決められる。それより下の者が交わした契約は、最上位の者の合意無しでは破棄できない決まりとなっているらしい。現在生き残っている龍族の中で、最も地位が高い者は去音だそうだ。暁翠は立場が低い方に分類され、白波や翔和、白蓮等にも許可を取らないといけない決まりもあるようだ。


 「と言うことなんだ。だから、去音とあいつから許可が降りない限り、京華の契約は取り消せないんだ」


 その言葉を聞いた水月は、深く溜息をついた。何千年と龍族の事を見てきたはずだったが、今思い返せば龍族の事を何も知らなかったのだ。このような複雑な事情があったなんて、今まで知らなかったのだ。

 そんな水月をみた京華は、水月の肩を軽く叩いて話し始めた。


 「私は大丈夫よ。子孫に会えないのは淋しいけれど、本当なら、私は300年前に死ぬはずだった人間よ。両親や兄さんが見れなかった世界を見るために、私は生きることを選んだの。後悔なんてこれっぽっちも無いわ」


 その言葉に、水月は罪悪感を感じた。まさか、自分よりも何千年歳も年下の者に慰められるとは思ってもいなかった。


 「水月。自分よりも年下の者に慰められたことに罪悪感を感じているようだが、俺もお前より年下だからな」

 「そ、そうでした…………」


 忘れかけていた事実に、水月は顔を赤くしながら下を向いた。それを見た暁翠はクスクスと笑った。

 それと同時だった。白が1通の封筒を持ってきた。そして、それを暁翠に渡した。暁翠は中身を見ると、深くため息を付きながら立ち上がって言った。


 「すまん。急用ができたからしばらく家を開ける。留守番を頼んだぞ」

 「分かりました。お気を付けて」


 水月は遠くなる暁翠の背中を見送った。ただ、水月には暁翠の背中がとても大きく見えている。自分よりも生きた年数は少ないが、自分よりも多くの知識を知っている。その暁翠に、水月は心の何処かで憧れを抱いていた。

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