少女なる兵器 第57話「龍帝式節分の騒動」
2月3日午後7時47分。兵器達は全員、鎮守府に集まっていた。
暁翠の呼びかけにより、参加できる者だけで節分大会が開かれることとなったのだ。
水月は少し緊張していた。されどころか、手に冷や汗をかくくらいだった。なぜなら、鬼役を務めるのが去音、白蓮、暁翠、京華の4人だからだ。だが幸いなことに、白波、翔和、霊花、京花の4人がいる。力だけで言うと、負ける要素は無かった。だが、相手に去音と暁翠がいることで、緻密な作戦が練られている。これをどうやって突破するかが鍵となっていた。
それから数十分後、午後8時となり、放送役を請け負っていた紫月が開始放送を流した。
『ではこれより、節分大会を開始します。ルールは簡単です。全ての鬼役を鎮守府本舎の外に出すか、迎え撃つ側が全滅するかで勝敗が決まります。では、頑張ってくださ……え? ちょ、まだ放送終わってませんって!? それは卑怯じゃないですか!? ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
紫月の放送と悲鳴が合図となり、鎮守府の節分大会が始まった。鎮守府は広いが、鬼役は鎮守府の本舎と兵舎を徘徊している。鬼役と遭遇する確率が無いところもある事から、作戦は練りやすいと思われた。
しかし、そんな儚い希望は簡単に打ち壊される事となった。
鎮守府の廊下にて、氷月と流月は作戦を練っていた。
「それで……どこで待ち伏せするつもり?」
「それは勿論、本舎玄関前のロッカーにでも隠れておけば良いじゃない」
「多分それ……絶対に見つかる……」
氷月は辺りを見回しながら、流月と作戦を練っている。やはり本舎内であるため、鬼役と遭遇する確率が高いのだ。そして、捕まった者は去音のスパルタ教育に強制的に参加させられるという事もあり、より警戒を強めていた。
すると突然、2人が持っている端末が振動した。これは、誰かが捕まった事を知らせるための合図だ。
氷月と流月は端末を見ると、書かれてある内容に目を疑った。
「淹龍及び淳龍、鎮守府訓練水槽で作戦を練っていた所を白蓮が捕獲……え? 鬼役は本舎から出られないはずじゃ?」
流月は疑問の表情をしながら、表情の方を向く。すると、氷月は流月から少しづつ後ずさりをしていた。何かがおかしいと感じた流月が、後ろを振り向こうとした瞬間、突如として首元に手刀が入った。そして、流月は意識を失った。
「ごめんなさいね。だけど、鬼役だから手加減はできないのよ。だから、大人しく眠っていてね」
氷月は急いで逃げようとするも、首元に手刀を入れられてしまい、意識を手放してしまった。
一方、海龍の姉妹艦である、潜龍、潮龍、藍龍の3人は、奇襲攻撃を仕掛けるため、兵舎に入るための扉近くの一室に身を潜めていた。ここであるなら、鬼役が扉前を通った場合、そのままの勢いで外に足をつかせる事が出来るのだ。
そうしている内に、足音が聞こえてきた。この辺りには誰もいないことを考えると、鬼役サイドであることは間違いないだろう。
そして、足音が扉の前まで来た瞬間、3人は部屋から飛び出した。しかし、それと同時に3人は動けなくなってしまった。腕を動かそうとするも、手錠のような物で固定されているため、身動きが取れなくなってしまった。これは、捕獲を意味していた。
「作戦は良かった。だが、気配の消し方が甘い。そんなんじゃ、何かが起こった時に対応できないぞ」
そう言うと、鬼役の者は去って行った。
またもや場所は変わり、鎮守府本舎のの厨房に移る。厨房には風龍の妹である、火龍と日龍が隠れていた。2人共どうすれば良いか分からず、一先ずは人気のない所で作戦を練ろうとしていた。
「どうするつもり? 隠れてても、結局は捕まるだけよ」
「一応、考えはあるわ。だけど、後で説教を喰らう可能性がとても大きいわ」
「それでも良いわ。今は、生き延びることだけを考えましょう」
「分かったわ。そしたら…………」
それから数分後、厨房の扉が開かれる音が聞こえた。足音からして、数は1人分だ。鬼としか考えられない。
そして、火龍と日龍が隠れている場所はと言うと、ゴミ箱の中だった。幸いなことに、厨房のゴミ箱にはゴミが入っておらず、大きさ的にも大人1人なら入れるサイズだった。
しかし、2人の作戦はあっけなく打ち破られた。閉じていたゴミ箱の蓋が開かれ、京花がこちらをクリック見下ろしている。
「隠れ場所としては50点ね。ここに隠れるなら、まだ鍋をしまう棚のほうが良かったわ」
京花の言葉に、2人は動けなくなっていた。そして、京花が2人に触れようとしたその時、厨房の扉が勢いよく開かれた。そして、暗闇の中に人影が見える。
「京花。2人を捕まえるなら、私に勝ってからにしなさい」
「へぇ……私とやるつもりなの? 京華…………」
人影の正体は、京華だった。京華は刀を抜き、戦闘の意思を示した。それに対し、京華は自身の手を悪魔の手に変化させた。そして、笑いながら京華に向けて言い放つ。
「やってやろうじゃない!! 1000年以上の実力の差を見せつけてあげるわ!!」
それからしばらく経過して、自国は夜の9時となった。その間にも、多くの脱落者が出た。それに対し、鬼役は誰一人として減っていないのだ。この状況から見て、勝つことは絶望的なことであった。
だが、一部の者は諦めてはいない。隙を伺い、鬼役を迎撃する準備をしていた。
場所は変わり、鎮守府本舎の3階にある簡易道場で、事が動いた。簡易道場の中に白蓮が入ると、その場には白波が立っていた。白波は白蓮を見ると、口角を上げた。
白蓮は警戒態勢を取ると、白波に向かって言った。
「まさか、また手合わせする事になるとは思いませんでした。はっきり言って、私では貴女に及びません。ですが、正々堂々と勝負をしてください」
「貴女のその目、嫌いじゃないわよ。勝てないと分かっていても戦いを挑む姿勢……本当に良いわ。それじゃ、始めましょうか。2人だけの戦いを…………」
その言葉と共に、白蓮がスタートダッシュを切った。白波も同様に、白蓮に向かって特攻を行う。そして、2人はぶつかり合ったのだ。
またもや場所は変わり、第2兵舎2階の洗濯室にて、隠れ潜んでいる者がいた。それは、龍造だった。誰も近寄らず、気配を消しやすい場所を選んで隠れていた。
ー脱落者が続出してる……このままだと、全滅するのも時間の問題ね…………ー
龍造は溜息をついた。
それと同時に、洗濯室の扉が勢いよく開かれた。
龍造は臨戦態勢をとったが、すぐに臨戦態勢を解いた。なぜなら、部屋に入ってきたのが龍城だったからだ。
「龍城。どうしてここに?」
「去音に見つかったのよ。ここがバレるのも、時間の問題だと思うわ」
それを聞いた龍造は、移動しようと扉を開けた。しかし、扉の前には去音が立ち塞がっていた。
龍造は反射的に飛び退き、刀に手をかけようとした。しかし、去音に錫杖を突きつけられ、龍造は動けなくなった。
去音は錫杖を突きつけながら、隠れていた龍城に向かって言った。
「龍城。早くでてきなさい。じゃないと、貴女の相方が死ぬかもしれないわよ」
龍城は立ち上がると、持っている刀を去音に投げた。去音は刀を受け取ると、龍造に向けていた錫杖を降ろした。
大龍帝国最強と謳われた戦艦は、たった1人の首脳の手によって敗れた。
その頃、水月は自室に身を潜め、作戦を練っていた。まずそもそもとして、単純な力では暁翠達に勝てないことは明白だった。
すると突然、端末が振動した。見てみると、白蓮と京花が敗れたことであった。水月にとって、これは嬉しい誤算だった。しかし、龍造、龍城、京華が捕獲された報告もあった為、練っていた作戦案が1つ潰れた。
水月が悩んでいると、突如として月明かりが遮られた。窓を見てみると、白波が上の階から首だけで覗いてきていた。白く長い髪が逆だっているため、白波が不気味に見えた。
水月は窓を開けると、白波を中に招き入れた。白波は中に入るなり、水月に話しかけてきた。
「水月。少し、私に案があるのよ。少し耳を貸してくれないかしら?」
水月は頷き、白波の近くに寄った。そして、白波は水月の耳元で何かを話し始めた。
水月は、その手があったのかと、白波の作戦に驚愕した。
場所は変わり、鎮守府本舎のとある廊下では、去音が一帯を殲滅し終えていた。
「この辺りは制圧ね……と言いたいけど、そうじゃないのが現実よね。さっさとでてきなさい。翔和」
去音の言葉に反応するように、暗闇の中で何かが光った。その光は、徐々にこちらに近づいてくる。
そして、月明かりが当たり始め、翔和が姿を現した。両手には龍残刀が握られ、戦闘態勢が整っていた。
去音は無詠唱で火球をいくつか生み出すと、それを背後で回し始めながは言った。
「翔和……先代だからって、手加減はしないわよ。刀と妖術、どっちが強いか白黒つけましょう!!」
「そうね……それじゃあ、始めましょうか!!」
翔和と去音が戦闘を始めた時、水月と白波は暁翠と対峙していた。白波がついているとは言え、水月にとって、暁翠は敵わない存在だ。足を引っ張らないようにしなければならないと感じていた。
その次の瞬間だった。白波が何も言わずにスタートダッシュを切り、暁翠の懐に潜り込んだ。そして、暁翠の腹に拳を突きこもうとする。しかし、暁翠は素早い反応で、白波の拳が腹を捉える前に後ろに飛んだ。
それと同時に、白波は足を突き上げた。だが、それも暁翠を捉えるには至らない。白波の足を手で抑え、逆に白波の足を掴んだ。そして、白波を放り投げた。
白波は激しく吹き飛ばされるも、空中で体を捻り、上手く着地した。
白波は再度攻撃を仕掛けた。先ほどと同じように、拳を腹に突きこもうとする。暁翠は先ほどと同じように、後ろへ飛ぼうとした。
その時、白波の口角が上がった。そう、その拳はフェイントだったのだ。白波は拳の軌道を変え、強烈なアッパーを繰り出した。
あまりの威力に、暁翠は吹き飛ばされた。そして、暁翠はその場に大の字で倒れた。
「元帥!? 大丈夫ですか!?」
水月は、暁翠に近寄った。暁翠は、アッパーの威力を相殺できず、動きが鈍くなっていた。
すると、水月は暁翠に肩を貸し、歩き始めた。
「元帥。大丈夫です。すぐに医者に見せますから」
「ああ……すまないな…………」
水月はそのまま、暁翠を連れて外に出た。そして、外には氷龍が待機していた。
暁翠は氷龍を見てハッとした。
「負けたな……まさか、最初からに仕込まれてたとはな………」
「馬鹿なこと言ってないで、顎を見せてください。骨が折れてたら大変ですので」
そう言って、氷龍は暁翠の診断を始めた。
それと同時に、水月が持っていた端末が振動した。端末には、翔和と去音が引き分けになり、迎撃側の勝利で終わったことが表示されていた。
それから数十分後、解散式を終えた全員は、捕縛組を除き、それぞれの自宅に帰ることとなった。
暁翠は家に帰る途中、水月に話しかけた。
「しかし、白波の作戦には頭が上がらない。俺よりも、断然成功率が高いな」
暁翠のその言葉に、水月は反論した。
「元帥の作戦は、安全性がとても高いです。私たちの命を最優先に考えてくれるので、白波よりも元帥の作戦の方が良いです!!」
その言葉に、暁翠は笑いながら水月の頭を撫でた。外だったこともあり、水月は恥ずかしい気がしたが、止めようとは思わなかった。暁翠の手が心地よかったから。




