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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
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少女なる兵器 第53話「月夜の笛」

 時の流れとは、早いものだ。秋はあっという間に過ぎ去り、今度は冬が訪れた。雪こそ降ってはいないが、冷たい北風が肌にしみた。


 この日、水月は暁翠と霊花に連れられて、旧大龍帝国本土を訪れていた。施設が老朽化していないかの点検を、行うためであった。


 旧大龍帝国本土に着いて、真っ先に見たのは天翔神社であった。

 天翔神社は水月が始めて見た時から変わっておらず、老朽化しているようには見えなかった。

 しかし、天翔神社は建立されてから、数万年は経っている。何処かが老朽化してきているのは、間違いないだろう。

 案の定、柱が1本腐敗していた。普通に考えれば柱1本だけで済む話しではないだろうが、天翔神社には腐敗防止の術がかけられている。これにより、天翔神社は倒壊していなかったのだ。

 暁翠は持って来た紙に、腐敗していた柱を書き込んだ。

 そして、霧の門の中に紙を入れた。


 次に、3人は旧飛行場へと向かった。

 旧飛行場は荒れ果て、管制塔や会議のために建てられていた施設は、自然に侵食された。近くには戦闘機の残骸が転がっていた。その光景は、かつての栄光を思い出させるような物であった。


 管制塔内に入ると、中は荒れ果てていた。植物が機器類を侵食し、割れたガラスが床に散乱していた。

 それを見た霊花は、ぽつんと呟いた。


 「たった3年の間に、すっかり変わってしまったのう……」


 この言動からして、霊花は3年前の様子を知っているようであった。しかし、霊花はその事を話したことはない。おそらくは、あの戦争に関係しているのだろう。

 3人は内部を確認すると、直に外へ出た。

 外には青い空と荒れ果てた飛行場が広がり、対の世界を表しているようであった。


 次に向かったのは、本土の内部施設だった。内部施設は、地下に複雑な形で入り組んでおり、案内図を見なければ道を忘れてしまうほどであった。

 廊下には多くの扉があり、部屋によっては生活の痕跡が残ったままの部屋もあった。それは、あの日から時が止まってしまったかのようにも見えた。


 しばらく進み、階段を下り、内部施設の最深部へと行くと、霊花はとある部屋の前で味を止めた。

 霊花は、暗号入力版にパスワードを入力して、扉を開けだ。

 部屋の中は、大型の資料室であった。店の中には、様々な戦闘詳報や設計図の図面、機械類が並んでいた。

 その中から、霊花は1つのビデオテープを取り出しながら、水月に言った。


 「これは、妾が国名と憲法を改める事を、民衆の前で宣言した時の記録じゃ。数百万年前のことじゃから、忘れてしまってたわい」


 霊花は、自身に対して苦笑していた。だが、それほど大切な記録だったということは伝わってきた。

 水月は棚を見ると、資料の奥に光った何かを見つけた。

 資料をごっそりと取り出し、奥を見てみると、そこには埃を被った1本の横笛があった。

 水月は、反射的にそれを手に取った。笛を見た時、何かに導かれているような気がした。

 その笛を見た霊花は、目を丸くしながら言った。


 「月鶴の笛……実在しておったのか…………」


 霊花の言動からして、重要なもののようだ。しかし、この笛にどこまでの価値があるのかは、水月には分からない。

 すると、資料を一通り漁っていた暁翠が戻って来た。

 暁翠は月鶴の笛を持った水月を見るなり、溜息をついた。


 ー元帥、その反応は何ですか?ー


 水月は、心の中で叫んだ。

 暁翠は水月に近づくと、月鶴の笛を手に取った。そして、月鶴の笛をじっくりと見つめる。

 一通り笛を見たのか、暁翠は笛を水月に渡して言った。


 「この笛は、新たな主を求めている。水月、この笛に相応しい主の心当たりはあるか?」


 あまりにも唐突なことに、水月は頭が混乱した。それ以上に、笛が新しい使用者を求めているという事が理解できなかった。

 すると、霊花が溜息をつきながら言った。


 「月鶴の笛は、常に使用者に仕えるという暗示が掛けられておる。故に使用者が死ぬと、新たなる使用者を求め始めるのじゃ」


 どういう暗示なのかは分からないが、暁翠と霊花が言うのであれば間違いないのだろう。水月は笛を使え、主として相応しい者がいないか、考え始めた。


 考え始めて数分後、水月はたった1人だけ笛を使えて、主としての品格さがある者を思いついた。


 「私、少しだけ行ってきます。直ぐに戻りますので」


 そう言うと、水月は霧の門を開き、中に入った。


 同時刻。龍造達が運営している道場の中では、龍翔が弓の弦の張替えをしていた。弦の張り具合は美しく、乱れが一切無い。

 龍翔が立ち上がろうとすると、裏度がある背後に違和感を感じた。

 振り向くと、霧の門が出現していた。

 龍翔が警戒態勢に入ると同時に、中から水月が出てきた。


 「水月さん!? どうして霧の門から…………」


 龍翔は目を丸くしながら言った。

 水月は龍翔の言葉には答えず、龍翔に笛を差し出した。


 「申し訳ないけれど、今は時間が無いの。これを持ってみて」


 龍翔は理由のわからないまま、笛を手にした。

 すると、笛から青白い光が放たれ、辺を包みこんだ。2人は眩しさのあまり、目を瞑った。

 しばらくして光が収まり、2人は恐る恐る目を開ける。龍翔の手元には、青白い光を纏った月鶴の笛があった。

 龍翔は理由がわからず、反射的にあたふたしてしまう。

 それと同時だった。水月が作った霧の門から、暁翠がやって来た。暁翠は龍翔の手元を見ると、安心した表情をしながら言った。


 「良くやったな、水月。お手柄だ」


 その言葉が終わると同時に、龍翔が恐る恐る暁翠に聞いた。


 「あの……この笛は何なんですか?」

 「話すと長くなるが、なるべく手短に話すとしよう」


 そして、暁翠は龍翔に月鶴の笛の事を伝えた。始めの龍翔は混乱していたが、最後は全てを受け入れているような感じがした。

 暁翠が一通り話し終わると、龍翔は暁翠に申し出た。


 「提督。今夜、私を旧大龍帝国本土に送ってください」

 「分かった。だが、護衛は着けるぞ。良いな?」

 「はい」


 暁翠は龍翔の心の中を読み取ると、頼みをあっさりと承認した。

 龍翔は笛を店の中に仕舞い、弓を持つと道場へ歩いて行った。


 水月と暁翠は、大龍帝国の資料室へと戻った。資料室では、霊花が設計図や戦闘詳報を読み漁っていた。

 水月と暁翠が帰ってきたことに気がついた霊花は、暁翠を手招きし、手元に広げている設計図を見せながら暁翠に言う。


 「叔父上よ。これは実用化できるのではないか?」

 「あぁ、前よりも扱いにくくなるだろうが、遥かに安全性の向上に繋がるだろう」


 2人の会話は、いつもよりも楽しそうにしていた。霊花があのような笑顔を見せるのは、暁翠が関係しているときだ。

 水月は2人の会話を、遠くから微笑ましい顔で眺めていた。


 資料室を出ると、3人は更に最深部へと向かった。最深部に向かうにつれて、天井に取り付けられた電灯の光が弱くなっていた。あまり使われていないこともあり、発電機も最小限の稼働しか行っていなかったのだ。


 しばらく歩くと、周りの壁や天井の色が変わった。鮮やかな青白い鋼鉄とは違い、濃緑色を更に濃くしたような暗い色へと変わった。

 場所によっては、部屋の扉は開いたままの状態だった。

 中を見ると、机のや床の上には資料が散らばり、椅子が倒れていたりもした。当時、何があったかは分からないが、相当慌てていた事は想像がついた。


 それからしばらくして、暁翠はとある部屋の前で足を止めた。その部屋の扉は、他の部屋の扉とは違い、何重にも鍵がかけられていた。

 暁翠は術の構成を組み上げ、鍵を外した。そして、扉を押した。

 扉は重い重低音を上げながら開いた。そして、中の様子が目に飛び込んできた。

 中には、兵器の主砲やエンジン、車体が置かれていた。奥には資料も置いてあり、様々な物がここにはあった。

 暁翠曰く、ここは試作兵器の開発所だったそうだ。ごく一部のものにしか知られないこの施設は、数千万年前に極秘で地下深くに作られた。爆撃の脅威に怯える心配もなく、発見も難しい。まさに、兵器開発に適した環境だった。


 暁翠は中に足を踏み入れ、放置されていた資料を手に取り、じっくりと読み始めた。

 霊花は放置された兵器のエンジンに近づくと、構造が気になるのか触り始めた。

 水月は放置された兵器の車体に近づき、その車体に触れた。当時、最新鋭の戦車になるはずだった物かもしれないと考えると、どうしても悲しく思えてしまう。だが、運命とは数奇なものであるが故、何が起こるかは分からない。それが現実なのだ。

 水月は兵器の車体から手を離すと、暁翠へ近づいた。

 相変わらず、暁翠は散らばった資料の内容を読んでいた。その目は、真剣そのものであった。


 それからしばらくして、時刻は12時となった。3人は地上に上がると、光の眩しさに光を手で遮った。暁翠と霊花はそこまで眩しそうにはしていなかったが、水月は目を下に向けている。慣れの問題もあるのだろうが、地下深くから地上に上がった事による反動が大きいのだろう。

 水月を見た暁翠は、霧の門の中に手を入れ、サングラスを取り出した。そして、サングラスを水月に渡した。

 水月はサングラスを装着し、目を上げた。目の前には、草が生い茂っていた。飛行場とは、別の場所から外に出たらしい。

 草の中を良く見てみると、所々に錆びた有刺鉄線が設置されているのが確認できた。これも、戦争の遺産の1つなのだろう。

 3人は有刺鉄線に注意しつつ、雑草を掻き分けて進んだ。

 そして、ついに生い茂る草の地帯を突破した。それと同時に目の前に現れたのは、砲身が空を睨んだまま放置されている兵器時代の輸月の残骸だった。

 その戦車を見ながら、水月は言葉を零した。


 「歳月不待……ですね」

 「ああ、この世に変わらない物なんて無いんだ。時の流れは無情にも、全ての物を変えてゆく」

 「そうじゃな……過去は過去に過ぎん。今喋っている間が、たったの数秒の過去になる……」


 水月の零した言葉を、暁翠と霊花は深く受け止めていた。

 この世の中に、移り変わらない物は何も無いのだ。今も未来も過去になり、決して変えられず、戻れなくなる。今という存在に残された者は、今という存在の中で必死に足掻いて生きるしかないのだ。


 それから数時間が経過し、夜となった。

 暁翠は龍翔との約束を守り、夜9時に、龍翔を旧大龍帝国本土へと送った。護衛は京華が請け負ってくれ、安全性は確保できていた。

 水月は3人に同伴し、龍翔を見守っていた。


 旧飛行場に着くと、龍翔は管制塔の中に入った。何をするつもりか見ていると、龍翔は管制塔の屋上に出てきた。そのまま、龍翔はコンクリート製の屋上に腰を下ろし、笛を吹き始めた。

 そこからは、長いようで短い時間が幕を開けた。

 龍翔が吹く月鶴の笛は、神秘的な音色を発した。その音色は、達人が吹く笛の音色よりも美しかった。

 そして、見計らったように、月が雲から姿を現した。月光が照らし、屋上で笛を吹く龍翔と、月鶴の笛のフェを照らした。その姿は、誰が見ても美しいと言ってしまうような姿であった。


 それから3分ほどして、龍翔は笛を吹き終えた。僅か3分だったのにも関わらず、その間が数十分のように感じられた。

 龍翔は管制塔から降りると、3人に頭を下げて言った。


 「今日は私の我がままを聞いてくださり、ありがとうございました」


 頭を下げる龍翔を見た3人は、一度目を合わせた。そして、龍翔に向き直ると、暁翠が言った。


 「いや、今宵は良いものが聴けた。むしろ、こちら側が楽しませてもらった」


 暁翠が言うと、京華と水月は後ろで頷いた。

 龍翔は何も言わず、もう一度頭を下げた。


 そして、4人はそれぞれの家に帰宅した。

 水月は家の中に入ると、居間に座った暁翠を見て言った。


 「元帥。今日はありがとうございます」


 あまりにも突然のことであった為、暁翠は水月に聞き返した。


 「どうしたんだ急に?」

 「ご自身で考えてみたらどうですか?」


 暁翠はキョトンとしたまま、水月を見つめた。

 水月は土間から居間に上がると、暁翠の隣に座り、方を寄せた。

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