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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
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少女なる兵器 第52話「遠出」

 残暑が無くなり、秋が訪れた。

 木々の葉は紅葉するものもあれば、地に落ちるものまで様々なものがある。

 何よりも、秋の夜空に映る月はいつもより美しく感じた。


 水月は、紀龍と亰龍に合うために、神奈川県に訪れていた。

 神奈川の都会は、広島の都会とはまた違う雰囲気があった。立ち並ぶ商業施設や飲食店などは、向こうで見ない物もちらほら見受けられる。これらは水月にとって、とても新鮮な物であった。


 それから数時間後、指定された時間が近づいて来ていた為、水月は待ち合わせ場所へ向かおうとした。すると、持ち歩いていた端末から通知音がした。

 見てみると、紀龍からのメールだった。どうやら、待ち合わせ場所の変更があったらしい。内容によると、会える時間が少なくなってしまった事から、働いている施設まで来て欲しいとのことだ。

 水月は苦笑した。どうしたら、そのような事をまかり通せたのかが不思議だった。


 それから数十分後、水月は紀龍に指定されていた施設の門前に来た。

 門前には警備員の男が居た。事情を話すと、警備員は疑うことなく、水月を中へ入れた。おそらくだが、紀龍が事情を伝えてくれていたのだろう。


 それからは、案内の人に食堂まで通された。食堂には、紀龍と亰龍が待っていた。

 紀龍は、水月を見るなり話しかけてきた。


 「ごめんなさいね、急用が入ってしまったもので……」

 「大丈夫よ。そんな事よりも、今は要件だけ話し合いましょう」


 そして、3人は椅子に座った。卓上には既に、料理が置かれていた。3人には馴染みが深い、カレーだった。

 3人は、カレーを食べながら要件を話し始めた。


 「それで、本題の要件なのだけれど、貴女達の今の生活について聞きに来たのよ」

 「もしかして、要件はそれだけ?」

 「ええ、そうよ」


 その言葉に、紀龍と亰龍は呆然とした。まさか、そのためだけに水月をこっちまで送るとは思ってもいなかったのだ。

 2人は我に返ると、水月に自身の生活状況を話し始めた。


 「今の生活状況は、鎮守府に居た頃とあまり変わらない生活をしているわ。朝7時に起きてから朝食を食べて、そこからは基本的に書類仕事をしているわ……でも、ここ最近は書類仕事は少なくなったわね」

 「ええ、ここ最近は、主に武術関連の事を指導する立場に変わったからね」


 その言葉に、水月は違和感を覚えた。暁翠の知らせでは、2人は書類仕事をするサポートに回ったと聞いていた。それがどういう訳か、武術を指導する立場になっている。

 水月は、2人に聞き返した。


 「どうして、武術を教える立場に?」


 その言葉を聞いた2人は、何故か水月から目を逸らした。明らかに怪しい。

 しかし、似たようなことを経験したことがある水月は、疑心暗鬼になっていた。案外普通の理由なのか、それとも何かしらの事情があるのかが分からない。

 水月は、心の中を読めるようになりたいと本気で思った。

 すると、亰龍が水月に向き直り、口を開いた。


 「本当なら事務の仕事をするはずだったの……でも、教官を容易く投げ飛ばしたことで、師範としての仕事をするようになったのよ」


 水月は、心の中で溜息をついた。どういう訳か、大龍帝国の兵器は目を逸らす事が多い気がする。それは、水月も例外ではないが、どうしてもこうなるのかと、水月は思った。

 それと同時に、少し安心した所もあった。危ないことに巻き込まれてる可能性を考えると、返ってきた答えはとても安心するものであった。


 それから数分後、紀龍と亰龍が職務に戻る時間がやって来た。

 水月は2人に別れを告げ、その場を離れようとした。

 しかし、それを紀龍が止めた。

 紀龍は、水月に向かって言った。


 「少しだけ頼みがあるの。無理を言っていることは分かるのだけど、私の代わりに稽古の指導をしてほしいの」


 なんと、紀龍は水月に、稽古の師範を任せようとした。水月は断ろうとも考えたが、紀龍が誰かを呼び止めることが 珍しかった為、何かしらの事情があると感じ取った。


 「良いわよ。寝台列車の出発時間に間に合うなら」

 「ありがとう。この恩はいつか必ず」


 そう言い残すと、紀龍は去って行った。

 紀龍が去ると、亰龍は水月を連れて歩き出した。

 着替え室に行くまでの道中、亰龍は水月に礼を述べた。


 「水月さん。紀龍姉の我がままを聞いてくださり、ありがとうございます」

 「良いのよ。紀龍にも何かしらの事情があるのでしょう?」

 「はい……詳しくは話すことができませんが、大切な事なのは確かです」


 しばらくして、2人は着替え室についた。

 2人は道場服に着替えると、着替え室の奥の扉を抜け、簡易的な道場の中へ入った。

 道場には、何人もの若者が立って待っていた。全員気合が入っており、目の奥には強い信念が確認できる。

 亰龍は若者達の前に立つと、すっと息を吸って言った。


 「気をつけ!! 礼!!」

 「よろしくお願いします!!」


 あまりの気迫に、水月はゾッとした。このような若者達でも、心の中に抱く信念を強く志しているのだ。水月にとって、このような者達を見るのは新鮮であった。

 そんな事をしている内に、亰龍が伝達事項を言い終わっていた。


 「そして、今回のみ特別講師として来ていただいたのが、こちらの水月さんだ。臨時とは言え、気を抜くな。彼女は、私よりも強い」


 その言葉に、水月は疑問をいだいた。亰龍と取っ組み合いをしたことは、一度もないはずだ。それなのに、亰龍は水月の事を自身よりも強いと言ったのだ。

 そんな事を考える暇は無く、水月は1人の若者の相手をすることとなった。


 指定位置に着くと、亰龍の合図で試合が始まった。

 若者は一直線に、水月に向かって来た。

 水月は動きを見切り、上手く若者の道場服の襟元を掴んだ。そしてそのまま、若者を投げ飛ばした。

 あまりの速さに、他の若者達は唖然としていた。試合を見ていた亰龍は、険しい表情をしながら水月を見ていた。


 それからしばらくして、各々の自習の時間となった。

 水月は一息つこうと、着替え室に戻り、椅子に座ろうと考えていた。

 すると、突如として水月に声が掛かった。

 

 「すいません。もしかしてですが、水月さんって、アイドルの夜桜さんと何か繋がりがあったりしますか?」


 水月にとって、想像の何倍もどうでも良いことだった。だが、繋がりを持っているのは間違いない。というか、同じ血が流れている姉妹車なのだ。

 水月は、いつものように冷静に対応する。


 「繋がりと言うか、夜桜は私の姉です」

 「そうなんですか。どうりで面立ちが似ていると…………」


 若者は、頷きながら納得していた。

 しかし、水月とってはどうしてそのような質問をしてきたのかが疑問であった。普通なら、こんなタイミングで言う必要は無い……はずだ。

 するの、若者はさらに質問をしてきた。


 「あの、夜桜さんっていつなら会えるとかありますか?」


 水月は心の中で、『何なんよその質問は!!』と叫んだ。この若者の意図が、水月には理解できない。もしや、夜桜に心を寄せている可能性もあると、水月は本気で思った。ゴレが本当なら、いまこの場で空手チョップを打ち込んでいるところだ。

 水月は感情を抑えて、若者の質問に答える。


 「それは分かりませんね。ただ、3日に1回は私の家に来ますね」


 その言葉を聞くと、若者は肩を落とした。本当にこの若者は何を考えているのか、水月には予想がつかない。人間の心とは、このように複雑だったものだろうかと考えるほどだった。

 すると、若者は頭を上げて水月に向き合った。

 そして、若者は水月に次の言葉を放った。


 「でしたら、後で手紙を書いて渡します。それを、夜桜さんに届け出くれませんか?」

 「…………はい?」


 水月は、若者の言葉に困惑した。どうして、手紙の話に変わったのか理解できない。そして、そこまでして夜桜に伝えたい内容とは何なのか、水月は本気で知りたかった。

 しかし、その内容は、若者が放った言葉ですぐに分かった。


 「じつは、親父が夜桜さんの勤めているアイドル会社の社長でして……ここ数年間、連絡が取れなかったので、貴女を通して親父の連絡先を聞こうとしました。回りくどい事をして、本当にすいませんでした」


 なんだ、そんなことだったのか。水月は、心の底から安心した。これが夜桜に対する手紙であれば、この場で若者を蹴り飛ばしていてもおかしくは無かった。

 水月は手紙を受け取ると、水を飲みに着替え室に戻った。


 着替え室に戻った水月は、手紙を見てふと考えた。先日、龍族の血を取り込んだ事により、水月は龍族が使用する霧の門等を使えるようにはなっている。もしかすると、霧の門を通じて、向こうに手紙を送れるのではないかと考えた。

 周りに人がいないことを確認すると、試しに霧の門を開いた。

 そして、霧の門の先を覗いてみた。

 すると、どういう訳か目の前に暁翠が居た。偶然にも目が合い、2人はその場で硬直した。


 数秒後、水月は何も無かったかのように首を引っ込めようとした。しかし、暁翠が髪を引っ張ったことにより、逃亡は失敗した。

 水月は霧の門から引きずり出されると、暁翠の前に正座で座らされた。

 そして、暁翠は口を開いて言った。


 「どうやって霧の門を開いた?」

 「普通に、向こうの空間とこちらの空間を脳内でイメージして、そこに門を生成するように…………」

 「そうか……」


 暁翠は、真剣な眼差しで水月を見つめる。瞳の奥の感情は、水月やなは理解できない。怒っているのか、呆れているのかすらも分からない。

 そして、暁翠は重い口を開いて言った。


 「良くできたな。上出来だ」


 暁翠は、水月の頭をなでながら言う。怒ることはなく、むしろ、水月が霧の門を開いたことを褒めていた。

 水月にとって、この言葉はあまりにも予想外のことであった。普通は怒る所なのに、どうして怒らないのかが分からなかった。

 すると、暁翠は言った。


 「単純に、お前の成長が見れて嬉しいんだよ」


 水月の心の声は、暁翠に見透かされていた。途端、水月は恥ずかしさのあまり顔を伏せてしまう。

 それを見た暁翠は、水月の頭をポンッと軽く叩くと手を離した。

 水月はそっと顔を上げる。目の前には、しんみりとした顔の暁翠が居た。

 水月には、暁翠が何を考えているのか分からない。だが、暁翠の目は、手の届かない遥か遠くを見ていることは分かった。


 それから水月は暁翠に預け、霧の門を通り、神奈川へと戻った。思ったよりも、時間を消費してしまった。急いで道場に戻ろうとするも、扉前に待機していた亰龍に問い詰められる始末であった。


 その後、紀龍が帰ってきたことにより、水月は稽古から外れることとなった。

 それと同時に、水月は紀龍達の職場から出て行った。目的は達成されている事もあるが、何時までも中に居るわけにはいかないと思ったからだ。

 

 それからしばらくして、水月は寝台列車に乗り込んでいた。このまま大阪へ向かい、翌朝、別の電車乗り替え、広島まで帰る予定だ。

 水月は予約していた一室に入ると、荷物を置き、ベットに転がった。そして、持参した本を読んで時間を潰した。


 それからしばらくして、寝台列車が動き始めた。辺は暗く、時間は10時を過ぎていた。

 水月は寝るために電気を消し、毛布を被った。しかし、いつもとは違う違和感が、水月の睡眠を妨げだ。

 しばらくして、水月は、ふと言葉を漏らした。

 

 「1人は慣れたはず……なのに、寂しいわね…………」


 その言葉を最後に、水月はは深い眠りについた。


 翌日の午前5時過ぎ、水月は大阪に到着した。いつもよりも早く起きたため、まだ完全に眠気が覚めきっていない。

 外に出ても、まだ目が覚めなかった。

 そんな時、水月の肩を叩く者がいた。

 水月は慌てて後ろを振り向く。すると、そこにはここに居るはずのない者が居た。


 「水月。お勤めご苦労だったな」

 「元帥……どうしてここに?」


 そこに居たのは暁翠だった。暁翠は自宅にいるはずだった。しかし、水月の事を心配してここまで来たのだ。


 「さあ、帰ろう」

 「は、はい」


 そして暁翠は、霧の門を開いた。

 2人は霧の門を通り、自宅へと帰宅した。


 居間に上がると、水月は暁翠に尋ねた。


 「元帥。どうして迎えに来たんですか?」

 「お前に早く会いたかったからだ」


 その言葉に、水月は顔を赤らめた。そして、心の中で呟く。


 ー元帥。ズルいですよ。どうして貴方は、私の心を見通せるんですかー

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