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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
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少女なる兵器 第49話「死者の贈り物」

 夏本番の7月下旬。真夏の太陽が容赦なく照りつけ、気温は30度を超えている。湿度も相まって、辺はより一層熱くなっていた。

 そんな中、午前5時30分、とあるバス会社で動きがあった。

 そのバス会社の門前には、水月達兵器がボストンバッグやキャリーケースを持って集まっている。


 数分後、バス会社の駐車場から1台のバスのエンジンがかかる音が聞こえてきた。それと同時に門が開かれ、水月達は中に入る。バス前に行くと、そこには暁翠が待機していた。

 暁翠は水月達を見ると、口を開いて話し始めた。


 「今回の旅行は、諸外国となる。言語等に関しては問題ないと思うが、諸外国では常識が非常識になる場合がある。十分気をつけて行動するように」

 「「はい!!」」


 そして、水月達はバスへ乗り込んだ。

 行き先はハワイ。引率役は暁翠と霊花が買って出てくれた。京花は雑務の為、日本に残る事となった。

 旅行計画当初、霊花は暁翠の隣の席に水月を座らせようとしたが、水月自身がそれを断った為霊花が座ることとなった。結果、水月は姉妹全員と紫月で、1番後ろの席に座ることとなった。

 

 バスが出発してしばらくすると、水月は隣りに座っていた紫桜が居眠りをしていることに気がついた。去音金融で働き詰めだった事もあり、溜まっていた疲れが出たのだろう。

 水月が紫桜を見ていると、隣りに座っていた紫月が話しかけてきた。


 「水月さん。今回の旅行、どうだと思いますか?」

 「そうね……私は全員が無事に帰れたら、何も言うことは無いけれど」 

 「無事じゃない旅行って何なんですか?」


 紫月は苦笑すると、紫桜に目を向けた。寝ていたはずの紫桜は、紫月に対して圧をかける目をしていた。水月の髪の毛に触れただけでも、殴られそうな気がした紫月はそっと目を逸らした。


 しばらくして、バスは空港へ到着した。ここからは飛行機に乗り換え、ハワイまで空の旅を楽しむ……はずなのだが、水月達にとって、飛行機に搭乗するのは違和感があった。理由はいくつかあるが、戦車であるならば空輸が可能であるが、超戦車や艦艇は空輸ができない。つまり、高所を体験したことが無い。

 しかし、登場してみればなんてことは無かった。首が痛むこと以外は何ともなく、一行はハワイに到着した。


 空港の外に出ると、そこには英語で書かれている看板がいくつも存在した。水月達は改めて海外に来たことを、その目で実感した。

 しばらくすると、暁翠が事前に予約していたバスが到着した。一行がバスに乗り込むと、バスはそのままホテルへ向かった。


 ホテルは海が見える砂浜の近くにあり、着替えてさえしまえば海岸へ直行できそうであった。

 そんな事は他所において、一行はホテルにチェックインした。

 そこからは部屋ごとチームが分けられ、暁翠が指定する部屋に入室していったのだが、何故か水月だけ呼ばれなかった。気になった水月は暁翠に尋ねる。


 「元帥。どうして私だけ呼ばれていないのですか?」

 「ああ、その事か。良い忘れていたが、お前は俺と霊花と同室だ」

 「…………え?」


 水月は理解が追いつかなかった。てっきり紫桜達姉妹と同室だと予想していたが、読みが大きく外れた。

 しかしそれを打ち壊すように、紫桜が部屋から出てきて暁翠に言った。


 「司令官。水月に手を出したら、司令官であろうと塵に変えますからね」

 「大丈夫だ。しかし、お前の人間不信も中々だな……」


 暁翠は溜め息をつきながら言った。

 紫桜は軽く微笑むと、部屋へ戻って行った。


 それからしばらくして、それぞれの自由時間に入った。自由時間と言っても、監視はついている。それぞれには、GPSの入った携帯を持たせている。ちなみに、水月以外はその事を知らない。


 水月、暁翠、霊花の3人は真珠湾へ向かうことにした。真珠湾には太平洋戦争の歴史の証人である、戦中の艦艇が多く展示されている。これほど身近な所で、戦中の艦艇を見ることができるのは、世界中でもそう多くない。英国のBelfastや、独のUボートもそうだが、米国は格別だ。

 そんなことはさて置き、3人は真珠湾を観て回った。実際に艦艇の内部に、入ったりもした。当時の設備が、ほぼそのままで保存されている。これらを見ることは、めったに無いことだろう。


 しばらくして、3人は街へ行った。街は賑わい、日本では見られない食材が多く並んでいた。近くの飲食店で、買い食いをしたりもした。食事のときに食べた物は、また違った味の良さがあった。


 それからまたしばらくして、3人はホテル前まで戻って来た。理由は特に無いが、不思議とここに戻って来てしまった。

 ふと、霊花は呟いた。


 「創一にも見せてやりたかったのう…………」


 水月と暁翠はあえて、何も言わなかった。霊花は未だに、過去と今を重ねてしまう癖がある。それは同時に、心に深い傷を負っている証拠でもあった。

 しかしいつまでも、過去を振り返っている訳にはいかない。前に進み、先に逝った者達の想いを背負って、生きていかなければならない。


 数秒後。沈黙を保ち続けていた水月が、口を開いて言った。


 「霊花。大丈夫よ。どのみち、いつかは会う日が来るから」

 「……そうじゃな。数千万年の暇つぶしじゃな」


 そう言いながら、霊花は微笑んだ。龍族は寿命が長い分、過去を振り返って悲しむことがある。それは、龍族にとっての宿命なのかもしれない。


 それから数時間が経ち、夜の7時になった。

 3人は部屋で、日常生活の出来事を話し合っていた。3人でこうして話すのは、それぞれにとって初めてのことであった。


 しばらくすると、突如として部屋の扉が叩かれた。

 暁翠が扉を開けると、そこには疾龍が立っていた。どうしてかは分からなかったが、暁翠は疾龍を部屋に招き入れた。

 疾龍は部屋に入ると、暁翠に対して言った。


 「少し提督に伺いたいことがありまして。できれば、2人でお話をしたく」


 その言葉を聞いた水月と霊花は、ベランダに出た。

 空は満天の星空で、月明かりが海を照らしていた。その光景は、過去に鎮守府で見た光景のように感じられた。

 水月の頭に、人間の体を得て間もない頃の記憶が蘇る。




 3年前…………

 買い物からの帰投後、水月は暁翠の机から山のように重なった書類を持ち上げ、隣の部屋に運ぼうとしていた。しかし人間の体に慣れていなかった為か、バランスを崩して転けてしまった。

 

 「大丈夫か? 慣れていない体で無理をするな」


 そう言って暁翠は水月に手を差し伸べた。水月は何も言わずにその腕を掴み、立ち上がった。その時の暁翠の手からは、自身が知らない感情を感じたような気がした。




 今思い返せば、暁翠は面倒見が良かったのだろう。1人1人の細かい所に目を配り、全員に平等な愛情を注いでくれていた。

 すると突然、霊花が話しかけてきた。


 「水月よ。お主は今、幸せか? 嘘は無しで答えてくれ」


 水月は呆然とした。以前、暁翠からも似たようなことを聞かれたことがあった。あの時は恥ずかしくて言えなかったこともあったが、霊花には自然と話せるような気がした。

 気がつけば、水月は言葉を発していた。

 

 「私はね……幸せになる権利なんて、無いと思ってたのよ。だけれど元帥は純粋に、私のことを愛してくれた。だから……その……元帥と一緒になれて、嬉しいのよ」


 結局、水月は赤面してしまった。

 霊花はフット笑うと、口を開いた。


 「そうか……叔父上は良い妻に恵まれたのう……」


 そう言う霊花の目は、過去を見るような目をしていた。


 それから数分後、疾龍が部屋から退出した。

 水月と霊花はベランダから部屋に戻ると、暁翠に疾龍が何をしに来たのかを聞いた。

 その後の暁翠の話によると、疾龍は艤装の改良について相談に来たらしい。戦争が終わった今、艤装は必要無いと思うが、疾龍は何かを警戒しているようであった。根拠はどこにも無いそうだが、何やら胸騒ぎがするのだという。


 話を聞き終えた水月は、ふと考えるものがあった。ここ最近、過去の記憶があやふやになりつつあるのだ。忘れているだけかと思っていたのだが、ここ最近はそれが深刻化しつつある。

 

 次の瞬間、水月の頭に激痛が走った。水月はあまりの痛さに頭を押さえ、その場にうずくまった。耳鳴りがし、頭が割れそうになる。


 「水月!! 大丈夫か!?」

 「水月!? どうしたのじゃ!?」


 暁翠と霊花の心配する声が聞こえる。しかし水月の頭には、そんな言葉を入れる余裕はなかった。


 数分後、水月の頭痛は完全に治まった。何が原因なのかは、暁翠や霊花にも分からなかった。

 その日は睡眠を取ることになり、水月はベットの中で目を閉じた。


 それから何時間が経ったのだろうか、水月は目を覚ました。しかし、そこはホテルの部屋ではなかった。辺は白い霧に包まれ、何も見えない。それどころか、前に進むことすらもできない。

 水月は何が起こったのか分からずに混乱していると、霧の奥から誰かが歩いてくるのがわかった。だんだんと近づいてくる人影は、水月から少し離れた所で立ち止まると、水月に話しかけた。


 「こんな所に呼び出してすまなかった。だが、どうしてもお前と話がしたかったんだ」

 「……貴方は一体?」

 「俺か? 俺は大龍帝国元16代首脳 龍造創一だ」


 その言葉と同時に、周りの霧が晴れた。そして、創一が姿を現した。

 水月は言葉を失った。龍造創一は過去の戦で死んだと、霊花に言われていた。しかし目の前にいるのは、紛れもない本人だったのだ。

 水月は固唾を呑むと、創一に話しかけた。


 「創一さん。貴方は死んだはずでは?」

 「あぁ、確かに死んだ。今、お前に見えているのは、俺の魂から発せられている幻覚のような物だ。さっき、頭痛が来ただろ。あれは、俺がお前の脳に魂を繋げていたからだ」


 水月は鳥肌が立った。気づかない内に、魂に干渉を受けていたのだ。これほどの恐怖を味あったのは、水月にとって久々のことであった。

 身震いをする水月を他所に、創一は話を続けた。


 「で、どうして死人の俺がお前をここへ呼んだか、疑問に思っていると思う。それは、霊花様に渡してほしい物があるからだ」

 「…………分かりました。貴方の伝言を預かりましょう」


 水月がそう言うと、創一は水月に封筒を渡して言った。


 「この封筒は、お前の目が覚めた時、手で握りしめていると思う。俺と話した記憶の一部は削除されてしまうが、重要なことは覚えている。頼んだぞ…………」


 創一が言い終えると、辺は再び霧に包まれた。それと同時に、水月の意識は闇へと落ちた。


 再び目を覚ますと、そこはホテルのベットであった。暁翠と霊花は先に起床しており、何かを話しているようであった。

 水月はそのまま起き上がろうとした。その時、手に違和感を覚えた。手元を見てみると、1通の封筒があった。それを見た水月は、何かがあった事を思い出した。しかし、内容を覚えておらず、結局は思い出すのを諦めた。

 水月が起き上がると、暁翠と霊花がこちらを向く。


 「水月よ。具合はどうじゃ?」

 「これ……霊花に…………」


 水月は霊花の質問を無視して、手に持っていた封筒を渡した。霊花は不思議そうにしながら、封筒の中の紙を取り出した。

 次の瞬間、霊花の表情が変わった。そのまま龍夢眼を使い、何度も手紙を読む。しかし、読めば読むほど、霊花の表情は深刻な物となっていく。

 そして霊花は手紙を封筒の中に戻し、水月に向き合って言った。


 「水月よ!! この手紙は何処で手に入れた!!」

 「分からないわ……ただ、これを霊花に渡さなければいけない事は分かって…………」


 その言葉を聞いた霊花は、肩を落として椅子に座った。そした「そうか……なら良い」とだけ言って、深く溜息をついた。


 そこからはあっという間に日にちが過ぎ、ハワイを去る日がやって来た。

 その時も、霊花は真剣な表情で黙ったままであった。心の底で何かを考えているのであろうが、考えていることは誰にも分からない。だが、これだけは分かる事があった。真剣な表情の裏側には、大きな闇があるという事を…………

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