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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
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少女なる兵器 第48話「忘れたい記憶」

 いよいよ、夏が本番となってきた7月上旬。人間界の学生は、もうすぐ夏休みという物が始まるのであろう。

 しかしそんな物は、龍族や兵器にとっては関係無い……話だと思っていた。


 水月は、暁翠から1ヶ月の長期休暇を与えられた。つまり、何も仕事はするなと言うことだ。

 水月は勿論反論したが、暁翠がそれを許してくれなかった。「ここ最近は働き過ぎだ」と、軽く一蹴さてしまった。

 しかし、暁翠も1週間後には、2週間の長期休暇が与えられるらしく、もしかしたら何処か遠くへ行けるかもしれないといった為、水月は渋々納得した。


 水月は仕方なく、私服に着替えて街へ出た。

 街は家よりも暑く、気を抜けば倒れてしまいそうだった。

 水月は、私服を買ってもらっておいて良かったと心の底から、暁翠に感謝した。


 しばらく歩くも、やはり何も変わりは無い。仲間を探す内に、街の構造はあらかた把握してしまった。裏路地も、先の去音の件で構造を完全に把握できた。

 水月は、誰かに出会わないかと心の中で呟いた。

 すると、後から水月の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


 「水月。水月!!」


 振り返ってみると、そこには、私服姿の海龍が居た。

 海龍が来ていた服装は、白い肩出しストップに、ジーンズ生地のロングスカートだった。肩出しストップには、細い黒いリボンが着いていてた。いつも垂らしていた長い髪は後ろで結び、いつもより可愛く見える。

 ここだと目立つと思ったのか、海龍は水月を連れて、人気のない裏路地へ入った。

 裏路地へ入ると、水月は海龍に言った。


 「海龍。可愛くなったわね」

 「まぁね。いつもは長ズボンなんだけど、流石に暑いからスカートに変えたわ」


 海龍は、少し恥ずかしそうにしながら答えた。事実、水月から見た海龍は、本当に可愛らしかった。

 水月は、何を話すか迷っていたが、水月が話し出す前に、海龍が話し始めた。


 「少し、付き合ってくれないかしら?」


 海龍が放ったその言葉に、水月は黙って頷いた。


 そして、水月は海龍に連れられて、とある浜辺へやって来た。

 夏ということもあってか、浜辺は泳ぎに来た人で埋め尽くされていた。

 海龍は迷うこと無くその中に入って行き、水月もその後に続いた。


 それからしばらく歩くと、海の家が立ち並ぶ場所までやって来た。

 昼時では無いせいか、屋台に人が多く並んでいるということは無かった。

 そんな中海龍は、とある1軒の木製の家の裏側へ周ると、裏戸を叩いた。

 すると、中から颯龍が顔を出した。

 颯龍は、戸を叩いた者が海龍だった事を確認すると、家の中に向かって言った。


 「峯龍。海龍姉さんが来たわよ」


 すると、峯龍が裏戸までやって来た。

 峯龍は眠そうにしながら、海龍に向かって言った。


 「海龍姉さん。本日は何の御用で?」

 「いいえ、何も無いわよ。ただ、貴女達の顔を見たくなっただけ」


 海龍は、微笑んで言葉を返した。

 その言葉を聞いた2人は、少し照れくさそうにしていた。

 そして海龍は、しばらく2人と話をすると、水月の手を引いて、再び人混みの中へ歩き始めた。

 水月は、海龍が何をしたいのかある程度分かってきた。

 まず、海龍は水月に予定が無い事を感じだったのだろう。そして、水月を自身の予定に組み込もうとしているのだ。


 その時だった、近くで誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 反射的に2人は、悲鳴のした方向へ走った。

 その場所に着くと、海の上で溺れかけている女性がいた。

 しかも不味いことに、その場所では離岸流が発生していたのだ。


 海龍は、何の迷いも無く海へ飛び込んだ。

 足で浅瀬の水底を蹴ると、離岸流を利用して溺れている女性に急接近した。

 そして溺れている女性を、後から引き上げて息ができるようにした。

 そして海龍は、女性をその体制で固定したまま、離岸流からの脱出を試みた。

 しかし、陸との距離が大分離れてしまっている為、仮に離岸流を抜け出せたとしても、陸まで帰れるかどうか分からなかった。

 自分1人なら何とかなるものの、今回は人を抱えている。いつもの動きは、できなかった。

 海龍の頭の中で、様々な思考が交差する。

 その時、陸の方向から海龍の事を呼ぶ声が聞こえてきた。


 「海龍姉!!」


 海龍が陸の方向を見ると、すぐ近くに煌龍が来ていた。人が流されたとの通報を受け、ライフセーバーとしてここまで来たようだった。

 いや、普通ライフセーバーはこのような沖合まで来ないが、これは海龍型であるからこそできた事であった。


 煌龍がその場に到着すると、海龍は女性を引き渡した。

 この辺りには離岸流も発生しておらず、波も比較的穏やかであった。

 煌龍は、女性を抱えて陸の方向へ泳ぎだした。

 海龍もそれに着いて行き、何とか陸まで戻ることができた。


 陸に上がると、既に救急隊が到着していた。

 煌龍は、救急隊に女性を引き渡した。

 海龍は、そのままその場を立ち去ろうとするも、煌龍に呼び止められてしまった。


 「海龍姉。濡れたままの服で何処へ行くの?」

 「…………」


 海龍は、何も言おうとしなかった。気まずいというのもあるのだろうが、何よりも、姉妹関係が周りに知られたことが気がかりだった。


 しばらくの沈黙の後、海龍は小さく溜息をつきながら言った。


 「分かったわ。言う通りにするから、姉妹関係を周りに知らしめないでちょうだい」


 それを聴いた煌龍は、誰にもわからないよう口角を上げると、海龍の手を引いてスタッフ待機室がある家へと向かった。

 水月はその場に取り残されそうになったが、ふと我に返るり、海龍の後を追いかけた。


 スタッフ待機室に着くと、海龍は一時的に替えの服を着せられていた。私服は洗濯機で洗濯されて、乾燥室で干されている。

 海龍の服が乾くまでの間、煌龍は海龍にお茶を出し、軽く会話をしていた。


 「海龍姉。まだサラシ着けてるの? いい加減辞めたほうが良いと思うよ」

 「大丈夫よ。崩れる程の胸も無いし、いつ何処で誰に襲われるか分からないからね」

 「襲われるって……どうしてそこまで……いえ、そうだったわね。あの時から、海龍姉は変わってしまったのよね…………」




 3年前。フィリピン沖にて…………


 「艦長!! 敵フリゲート艦に探知されました!!」

 「チッ……回避行動を取れ!! 爆雷が落ちてくるぞ!!」


 「艦長!! 煌龍と深龍が被雷!! 浸水が止まらず沈没していきます!!」

 「何だと…………」


 様々な声が艦内に響く中、海龍の魂は絶望していた

 唯一生き残っていた姉妹艦を目の前で失い、自分は無傷で本国へ帰投した。

 そして何よりも、聞こえてきた煌龍と深龍の、魂の叫び声が頭から離れなかった。




  海龍の頭は、あの頃に戻っていた。目の前で姉妹を失う恐怖と、自身だけが生き残ってしまう現実から目を背けたかったあの日を。

 海龍の目からは、自然と光が消えていた。

 それに気がついた煌龍は、海龍に何か言おうとするも、上手く言葉が出てこない。


 重い空気が漂う中、隣で話を聞いていた水月は、とある事を思い出し、海龍に話しかけた。


 「海龍。元帥が貴女に、これを渡して欲しいって言ってたわ」


 そう言いながら水月は、懐から小さな箱を取り出して、海龍に渡した。

 海龍は我に返ると、不思議そうな顔をしながらその箱を開けた。


 次の瞬間、海龍の顔が驚きの顔に変わり、箱の中の物を取り出した。

 それは、龍晶石と金でできているネックレスだった。


 「どうして……どうしてこれを、提督が持っているの?」

 「今は海に眠っている、貴女の残骸の中から見つけ出したそうよ。『海龍にとっては思い入れがあるだろう』って」


 その言葉を聞いた海龍は、もう1度ネックレスを見た。ネックレスを見つめる海龍の脳裏に、在りし日の記憶が蘇る。




 2943年前。海龍の艦内にて…………


 「海龍。どうだ? お前が身に着けたら絶対に似合うぞ!!」


 そう言って男は、モニターの前にネックレスを差し出した。

 すると、モニターに海龍の姿が表示される。

 表情された海龍は、会話機能を使ってその男に話しかける。


 「似合うなんてそんな……でも、できることならば身に着けてみたかったです…………」


 寂しそうな表情をする海龍に、その男は少し考え、とある行動に出た。

 男は艦内の重要品置き場に行くと、厳重に管理された金庫の中にネックレスを入れた。

 そして、その場のモニターに映し出される海龍に向かって言った。


 「いつ何処で、私は死ぬか分からない。だが、このネックレスだけはここに残していくよ。君への、最初で最後の贈り物だ」


 そう言って、その男は艦内から出ていってしまった。

 その翌日の午後、海龍は地下ドックへと隔離された。本土空襲が本格的になり、艦艇に被害を出さないようにする為の命令だった。

 

 それから間もなくして、その男は空襲に巻き込まれて死んだ。

 海龍が男の死を知ったのは、2241年8月23日。大龍帝国が滅んだ当日だ。

 久しく見る海は、曇り空により薄暗い色をしていた。いつも見えるはずの本土は見当たらず、見えるのは自身が隔離されていた玉島のみだった。

 

 そして数時間後、海龍は煌龍と深龍を失った。




 海龍は少しつかれた顔で、水月に話しかけた。


 「私はね、一刻も早くあの日の記憶を忘れたかった。だから、このネックレスも忘れようとしていた。でもね、忘れられなかったのよ。大切な人の……妹の死を……もう……思い出したくなかったから……」


 海龍の目からは、自然と涙が溢れていた。しかしその顔は、どこか穏やかそうな表情をしていた。


 それから1時間後、海龍の服が乾き終わった。

 海龍は待機所を出ると、予約していた病院へ向かおうとしていた。

 水月は何故か、海龍を呼び止めてしまった。どうして呼び止めてしまったのか、水月自身でも分からなかった。

 しかし海龍は、水月の心の底の何かを汲み取ったのか、海龍は優しい言葉で水月に話しかけた。


 「水月。確かに私は心の奥底に深い傷を負ってるのかもしれない。だけど、貴女はそれ以上の傷を抱えてるでしょ? 私のことよりも、自分自身のことを心配してね」


 そう言い終わると、海龍は病院へ向かった。

 水月は呆然としながら、海龍の後ろ姿を眺めていた。そして自身の胸に手を当て、過去の記憶を思い出そうとした。

 しかし何故か、あの頃の記憶が思い出せない。それと共に、頭に痛みが走る。

 水月は思い出すことを諦めて、帰路についた。


 鎮守府の前に着いた時、水月はふと思うことがあった。海龍姉妹の殆どが、水と付き添うについているということだ。海龍は会話の中で、水泳の講師をしていると言った。煌龍を含めた45人は各地で、ライフセーバーとして活動をしているらしい。藍龍、貌龍、胤龍の3人は潜水士の講師として働いているらしい。氷龍と陳龍は医学の道を選んだらしく、海龍が予約していた病院で働いている。

 これは彼女達、潜水艦の定めかもしれない。それでも、彼女達は必死に今を生きている。必死に人間社会に馴染もうとしている。

 そんな事を考えていると、今の自分がとても馬鹿らしくなった。そして水月は鎮守府の前を後にした。

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