表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
64/109

少女なる兵器 第46話「夜に舞い踊る桜」

主な登場人物

・水月

旧大龍帝国陸海共同軍所属の超戦車。普段はおっとりとした性格をしているが、戦闘になると、おっとりとした雰囲気とは裏腹の、戦闘者としての殺気を放つ。しかし、身内と認識した者、特に姉妹にはとても甘い。現在は暁翠の嫁であり、仲睦まじく暮らしている


・夜桜

水月の姉で、同じ旧大龍帝国陸海共同軍に所属していた超戦車。基本的に人のことを信用しておらず、初対面の者に対しては冷徹な喋り方をすることが多い。現在はアイドルとして、人間社会に馴染んでいる


・龍造暁翠

大龍帝国元13代首脳。戦闘には不向きであるが、的確な指示で数多の戦を勝利へ導いてきた。人を引き付けるカリスマ性を持っており、旧大龍帝国の家臣や国民から慕われていた。今は兵器達に慕われている。現在は、戦後の処理で忙しくしている 


・山岡啓司

アイドル事務職「夜闇光星プロダクション」の社長を努めている。自身の事よりも他者を優先し、仲間からの信頼が厚い。密かに夜桜に心を寄せている

 夏の近づきを感じる6月頃、水月は、家でくつろいでいた。つい先日、暁翠に頼まれた依頼が完了したのだ。

 これにより、水月はしばらくの間、非番となったのだ。

 家の中でお茶を飲みながら、水月は呟いた。


 「暇ね……」


 そう、依頼が終わったのは良かった。だが、それによって仕事が無くなってしまった。

 暁翠はと言うと、隣でパソコンのキーボードを叩いていた。リーモートワークによって、家にいられる時間が増えたものの、仕事の量は相変わらずなようだ。

 水月は、暁翠を手伝おうとも思ったが、水月にパソコンは扱えない。情報の管理能力は優れていても、それは書類での話だ。パソコン等の、コンピューター技術は教わる時間すら無かった……と言うよりも、鎮守府にパソコンが無い事が一番の原因だった。


 水月は、机の上に顔をつけた。その時の水月の目は、ほとんど死んでいた。

 それを見た暁翠は、キーボードから手を話した。そして、水月の頭に手を置いた。

 水月は、目線を暁翠に向けた。暁翠の顔は、穏やかな顔であった。暁翠の目は、手の届かない、何処か遠くにある何かを見ているような目であった。

 その目をじっと見ていた水月は、一度暁翠の手をどけて、暁翠の隣へ移動した。そして、暁翠の肩に自身の身体を寄せた。

 すると、暁翠がめを丸くしながら、水月に話しかけてきた。


 「急にどうしたんだ? いつものお前と、は大違いだな」

 「元帥が言ったんじゃないですか……甘えて良いって」


 そう、暁翠は料理大会後の帰路に「甘えたい時は甘えて良い」と、水月に言っていたのだ。水月自身、甘え方が分からずにどうしようか迷っている所があったが、今回は無意識の内に甘えてしまっていた。

 暁翠は、何か言おうと口を開こうとした。しかし、それは玄関が叩かれたことによって、結局言うことができなかった。


 水月が玄関の戸を開けると、そこには夜桜と、水月にとっては知らない男が立っていた。

 一先ず水月は、夜桜とその男を中へ招き入れた。そして、暁翠の居る居間まで案内する。


 水月は2人にお茶を出すと、夜桜に聞いた。


 「夜桜姉さん。今日は一体どうしたの?」

 「少し、手伝いをお願いしたくて……」


 夜桜は、少し言いづらそうに声を出した。

 水月は、何があったのかと考えた。横に、知らない男が居るから尚更だ。

 どう答えるべきか、水月は迷っていた。手伝いと言っても、何を手伝えば良いのか分からない。手伝える範囲にも、どうしても限りが出てくる。そして、知らない男が居る。

 水月の頭の中で様々な思考が巡って居る時、その男が口を開いて言った。


 「すいません。自己紹介が遅れました。私、山岡啓司と言う者でございます」

 

 その言葉に、水月は耳を疑った。山岡啓司と言えば、有名なアイドル事務所、夜闇光星プロダクションの社長だからだ。そのような会社に、夜桜は所属していたのだ。

 水月は詳しく話を聞こうと、啓司に話しかけた。


 「どうして、夜桜姉さんはそちらの事務所に?」

 「夜桜さんには、過去に京都で声をかけさせていただいた事がありました。その時に『生き残ったら伺う』と言う約束をしました」


 その時、水月は耳を疑った。そのような話は、夜桜から聞いたことがなかったのだ。

 水月は、夜桜の顔を見た。夜桜は、水月から目をそらしていた。夜桜は伝達することを、完全に忘れていたようだ。

 目をそらしながら、夜桜は水月に話しかけた。


 「それで、明日ライブがあるのだけれど……人手が足りない……いえ、誰1人居ないの……だから、裏側を手伝ってほしくて……ね?」


 夜桜の言葉は、緊張のあまりカタコトに近くなっていた。

 しかし夜桜の放った言葉が、水月の耳に止まった。人手が誰1人としていないのは、明らかに異常であるのだ。

 気になった水月は、啓司に事情を聞くことにした。


 「啓司さん。人手が誰1人として居ないのは、明らかにおかしいと思われます」


 水月の言葉に、啓司は深刻そうな表情をした。何かを隠し通したい気持ちが、表情に出てしまっている。

 啓司はため息を付くと、水月に事の顛末を話し始めた。


 「実は夜桜さんがこちらを訪れる前、所属していたアイドルや従業員が引き抜きに会いまして……」


 その言葉は、耳を疑うものだった。引き抜きを受けたということは、抜けたアイドルや従業員にとって、何かのメリット、又はデメリットがあるということだ。賃金の問題か、はたまた脅迫か何か。様々な可能性が、水月の頭に浮かび上がった。

 

 その後も、啓司の話は続いた。夜桜が事務所を訪れる、数日前から被害がで始めたらしい。事務所を離れる時の、アイドルや社員の目は、こちらを睨んでいるように感じた。啓司は裏に何かあると考え、独自で探ることにした。

 そして、とある情報屋とコンタクトを取ったらしい。情報屋から渡された情報は、反吐が出るものだった。なんと引き抜きを行ったのは、ライバル社の「STBJ社」であったのだ。

 STBJ社は、夜闇光星プロダクションと1、2を争う強豪社だが、どうしても夜闇光星プロダクションに1歩及ばずにいた。

 そして今回、デマ情報や高賃金を夜闇光星プロダクション所属のアイドルや社員にチラつかせ、引き抜きの手段に出たのだ。

 全てを言い終わると、啓司は水月に頭を下げて言った。


 「本来ならば従業員を雇うべきなのですが、STBJ社の手の者が送り込まれる事を考えると、夜桜さんの姉妹である貴女や、共に居た仲間だけなのです。今回だけでいいので、力を貸してください」


 水月は啓司の誠実な態度を見て、目を細めた。そして、心の中で呟いた。


 ーこの男……自分の事より、夜桜姉さんの事を優先している……ー


 水月は啓司の誠実さと、自分より他人を優先する性格を見てそう思った。水月の経験上、このような人間は信用できる。

 そして、水月は啓司に対して言った。


 「分かりました。喜んで、お手伝いさせていただきます」

 「ありがとうございます」


 啓司は頭を上げて、水月に感謝の言葉を放った。

 夜桜は水月に近づくと、水月を抱きしめて言った。


 「優しい妹を持てて、私わ幸せよ」

 「夜桜姉さん……恥ずかしいって」


 水月は顔を赤らめて、夜桜から逃れようとする。しかし、夜桜は水月を離してはくれない。

 啓司はそれを、微笑ましく見ていた。


 そして、翌日の夜7時過ぎ。水月はライブが終了するまでの間、暁翠と共に観客が集まる人混みの中に紛れて立っていた。

 会場は熱気に包まれ、いつもの分厚い正装では汗を書いているだろう……いや、正装上着だけを外してきたのだが、それでも暑い。

 暁翠は襟元を動かし、風を作っている水月を見て声をかけた。


 「やっぱり、暑いんじゃないのか?」

 「大丈夫です。それに、白を隠すには丁度よいので」


 水月がそう言うと、襟元から白が姿を表した。

 暁翠はため息をつきながら、水月の頭の上に手を置いた。


 そして数分後、ライブ会場にアナウンスが流れ始めた。


 『皆様、本日は会場にお集まりいただき、誠にありがとうございます。本日の予定では、紫庭香織を始めとする人気アイドルが出演するはずでしたが、こちらの都合により、急遽出演が取り消しとなりました。しかし、ご安心ください。今夜は、新たな新星が会場を盛り上げてくれます。それでは、新星がステージへやって来ます。温かい拍手でお迎えください』


 すると、周り人々が一斉に拍手をした。暁翠と水月も、周りに合わせるように拍手をした。

 そして、ステージのライトが全て消える。全ては闇に包まれ、誰が居るかなどほぼわからない状態となった。

 そんな中、どこからか聞こえる足音がある。誰もが、足音の方に目線を送った。

 そして、ステージのライトに、一斉に明かりが灯った。そして、ステージ上には1人の新星……夜桜が立っていた。

 周りの人々は、ざわつき始めた。無理もないだろう。つい数ヶ月前まで兵器だった者が、今やアイドルとして舞台の上に立っているのだ。

 そして夜桜は、深く息を吸って観客席に言葉を放った。


 「皆さん!! 今日は、私の為に集まってくれてありがとう!! まだまだ新米だけど、これから皆を笑顔にしてみせるから、よろしくね!! それでは、ミュージックスタート!!」


 夜桜が言い終わると同時に、音楽が流れ始めた。

 観客は、呆然としていた。中には、夜桜が歌い踊れるか疑っている者も居た。

 しかし、水月と暁翠は分かっていた。夜桜は、確実に勝てると判断した場にしか出ないことを。


 そして夜桜は、舞台の上で歌い、舞ってみせた。

 気がつけば、呆然としていた観客は夜桜に夢中だった。ペンライトを大きく振り、大きな声で夜桜の名を読んだ。

 水月と暁翠は、夜桜が楽しそうにしている姿を見て、心の底から安心していた。

 夜桜は、人間に対する不信感がとても強い。だから水月と暁翠は、夜桜が人間社会に馴染めるか心配していた。

 しかし今回の夜桜を見て、その心配は完全に吹き飛んだ。

 水月は、心の中で呟いた。


 ー夜桜姉さん……楽しそうで良かった……ー


 それからしばらくして、ライブは終わりを告げた。

 水月と暁翠は、こっそりと席を移動して豊体の裏側へ周る。

 舞台の裏側では、啓司が片付けを行っていた。

 他の従業員は居らず、1人ですべてを解決するには無理がある。

 夜桜は握手会の為に戻ることができず、この3人で指定時間内の片付けを行う必要があった。

 啓司は早速、2人に指示を出した。


 「水月さん。握手会に建てた仮設テントにある段ボール箱を、駐車場停めてある軽トラックの荷台に運んでください」

 「了解しました」

 「暁翠さん。私と一緒に裏舞台の物を、段ボール箱の中に片付けてください。後で軽トラックまで運びます」

 「分った」


 そうして3人は、それぞれの持ち場へ走った。


 水月が持ち場に着くと、握手会の為に建てられた仮設テントには行列ができていた。その誰もが、夜桜の握手を求めていた。

 水月は苦笑すると、仮設テントの中へ入った。

 仮設テントの中には、多くの段ボール箱が山のように積み上げられていた。

 水月はその中から、4箱程の段ボール箱を抱えて仮設テントを出た。そのまま行列を避け、駐車場まで向かった。


 駐車場に着くと、啓司が指定した軽トラックが停められていた。

 水月は荷物を荷台に積み込むと、すぐ仮設テントへと戻った。


 それからしばらくは、運搬作業の繰り返しであった。荷物を抱えては歩き、荷物を置いては戻りと、単純な作業であった。


 場面は変わり、その頃の夜桜は握手会で忙しくしていた。

 まさか初日でここまで人が集まるとは、夜桜や啓司にとって想定外の出来事であった。

 夜桜は表面上は笑顔を作っているが、内心は早く握手会を終わらせたかった。

 というのも、夜桜の人間嫌いが治らないからだ。何よりも、水月が刑務所から出てきた時の体の傷が、夜桜にとってトラウマになっていた。

 夜桜の脳裏に、水月の姿が浮かぶ。水月の今は傷もすっかり無くなり、暁翠と共になれて幸せそうにしている。それが夜桜にとっての、唯一の救いであった。

 そんな事を考えていると、握手会に来た1人の男が夜桜に聞いた。


 「夜桜さん。先程、貴女の後ろを横切った、水色髪の女性は誰ですか?」

 「私の妹です」

 「へぇ……夜桜さんに妹がいるのですか」

 「色目を使ったら許しませんからね。その時は……この世に別れを告げてもらいます」


 夜桜は、男に圧を掛けた。

 その圧に押された男は、全身冷や汗まみれになった。

 そして、男は逃げるように去って行った。


 それから約1時間後。やっと全ての観客が、会場から立ち去った。

 夜桜は、少し窶れ気味であった。

 水月は夜桜を心配し、自動販売機で買ってきた水を差し出した。

 夜桜は水を一気に飲み、大きくため息を付いた。どうやら、疲れが蓄積しているようだ。

 そんな夜桜を見た啓司は、夜桜を抱え上げた。

 夜桜は驚きながら、啓司に問う。


 「何の真似ですか?」

 「軽トラックまで運びます。助手席に座ったら寝ておいてください」


 啓司はそう言って、夜桜を軽トラックの助手席まで運ぶ。

 普段の夜桜なら抵抗するが、溜まっているせいか抵抗する気が起きなかった。

 それどころか、夜桜は悪くないとすら思っていた。どうしてこのように思ったのかは、夜桜自身にも分からない。

 そんな事を考えている内に、夜桜は眠りについた。


 翌日、夜桜は事務所のベッドの上で目を覚ました。

 そのままベッドから起き上がると、事務所の休憩室に向かった。


 休憩室に着くと、啓司がキッチンで料理をしていた。

 啓司は夜桜に気がつくと「おはよう」と声をかけた。

 夜桜も挨拶を返し、洗面台に向かった。


 洗面台で顔を洗いながら、夜桜は機能のことを思い出そうとした。

 しかし何があったのか、夜桜はあまり思い出せない。唯一覚えているとすれば、啓司に抱えられたことだけだ。

 どうして彼は、自分よりも他人を優先するのか。夜桜はそんな事を考えながら、夜桜は鏡に映る自身の顔を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ