少女なる兵器 第45話「料理大会」
主な登場人物
・水月
旧大龍帝国陸海共同軍所属の超戦車。普段はおっとりとした性格をしているが、戦闘になると、おっとりとした雰囲気とは裏腹の、戦闘者としての殺気を放つ。しかし、身内と認識した者、特に姉妹にはとても甘い。現在は暁翠の嫁であり、仲睦まじく暮らしている
・紫月
水月の同期で、旧大龍帝国陸海共同軍に所属していた超戦車。ネガティブな性格を持ち、自分の事を否定することが多い。戦争で片腕を失ったが、特にか問題なく暮らしている
・龍造暁翠
大龍帝国元13代首脳。戦闘には不向きであるが、的確な指示で数多の戦を勝利へ導いてきた。人を引き付けるカリスマ性を持っており、旧大龍帝国の家臣や国民から慕われていた。今は兵器達に慕われている。現在は、戦後の処理で忙しくしている
・水無月京華
旧日本海軍の軍人だったが、暁翠の誘いで龍族になった。誰にでも優しく、情に厚い所がある。現在は諜報員として活動をしている。
・加山克二
紫月が努めている会社の社員で、紫月とは同期である。仕事が早く誰からも信頼されているが、基本は1人で居ることが多い。紫月とは仲が良く、良好な関係にある
日が照り蒸し暑い河原。5月でこの暑さは異例なのかもしれない。そんな中、司会の声が河原に響き渡る。
「皆様、今日は会社全体での料理大会です!! 優勝者には商店街で使える半額クーポンが与えられます!! さあ、頑張ってください!!」
司会の言葉が終わると同時に、料理大会が始まった。
水月は思った。どうしてあんな事を引き受けてしまったのだろうか。今になっては後の祭りであるが、水月はもう一度時を戻したいと考えていた。
遡ること数日前……暁翠から休むように言われていた水月は、家で暁翠とゆっくりしていた。お茶を飲み、本を読み、料理を作りと、様々なことをしていた。
そうしている内に、時刻は7時30分を過ぎていた。水月は夕飯を作ろうと、土間に立っていた。一通り、夕飯の内容を決めると、早速料理に取り掛かろうとした。
その時だった、玄関の引き戸が叩かれたのだ。出てみると、そこには正社員の服装をした紫月が立っていた。水月は紫月を家に招き入れると、ひとまず居間まで通した。
水月は淹れたお茶を、紫月に出す。しかし、紫月はそれに口をつようとはしなかった。水月が不思議に思っていると、紫月は立ち上がり、水月の近くまで来ると、いきなり土下座をして言った。
「水月さん。助けてください!!」
あまりにも突然のことで、水月は戸惑った。暁翠は、何一つ表情を変えずに紫月を見ていた。水月は、一度ため息を付くと、紫月に話しかける。
「何があったの?」
「実は明日、会社全体での料理大会がありまして……3人のチームで行うのですが、私のチームは後1人足りなく……垓外部からの出場も許可されていますので、水月さんならと…………」
紫月が土下座した理由は、会社内部での大会が原因であった。数合わせで呼ぼうとしているようだが、水月はそのようなことに興味は無い。
「申し訳無いけど、また明日から元帥の依頼があるの。だから…………」
水月は、そのまま断ろうとした。しかし、そこに紫月が口を挟んでこう言った。
「優勝チームには、商店街で使える無期限の半額クーポンが10枚配られます」
「行きましょう」
紫月の言葉に、水月は目の色を変えて即答した。紫月は頭を上げて、呆然とした表情をしていた。
それを見ていた暁翠は、声を上げて笑った。
「水月、お前の目が完全に主婦の冥月になってるぞ」
その言葉を聞いた水月は、すぐさま暁翠の言葉を否定しようとする。
「そ、そんな訳ありません!! 少しでも食品が浮くようにと…………」
「そういうところだぞ」
水月はそこで始めて、自身の考え方が主婦のようになってきていることに気がついた。水月は顔を赤らめ、暁翠から目を逸らした。紫月はそれを見て、苦笑していた。
そして、今に至る。半額という言葉に釣らてしまった水月だったが、今思い返せば面倒事になったと思っている。
今回の大会は、作った料理の内容、味、香りが主な観点となる。水月が持ってきた食材は、牛肉1パック、じゃがいも2個、人参1本、玉ねぎ1玉、調味料一式、そしてカレー粉。完全に、カレーを作るためのセットであった。
紫月も食材を持ってきてはいたが、何を作るかは決めていないようだった。
ため息をついている水月であったが、そこに紫月が話しかけてきた。
「水月さん。頑張りましょう!!」
「えぇ……ここまで来たら絶対に優勝して帰るわよ」
水月は、覚悟を決めて調理を開始した。水月はふと思った。紫月の同僚が来ていないのだ。何かあったのかと疑いつつ、水月は調理を続けた。
数十分後、水月は食材を煮込む過程まで終えていた。紫月も隻腕ながら手伝ってくれたおかげで、思ったよりも早く調理が済んだ。
水月は、そのままコンロの日を付けようとした。しかし、何故か火が付かない。もしかするとと思い、水月はコンロのガス缶があるかどうかを確認する。案の定、ガス缶が無かった。
「紫月、ガス缶は何処にあるの?」
「あれ? 今朝、ここに入れたはずなんですが……」
紫月の言葉を聞く限り、嘘をついているようには聞こえない。紫月の不注意か、はたまた誰かの妨害工作か、真相は分からない。
水月が考えていると、突然、背後から声がした。
「遅れてすいません。ガス缶を買いに行っていました」
水月は、反射的に距離を取った。戦闘者として、背後を取られたら死ぬと言う考えが、頭の中から離れていなかったのだ。
水月が振り向くと、そこには紫月と同じ正社員姿の男性が、ガス缶を持って立っていた。
紫月は、その男を見て言った。
「やっと来ましたか、克二さん」
克二と呼ばれた男は、紫月に謝った。紫月の言動から見て、この男が紫月の同期らしい。
見た目は何処にでもいる普通の男だったが、性格はとても誠実そうであった。
克二は、警戒している水月を見ると頭を下げた。
「すいません。驚かせてしまいました」
克二の言葉で、水月は警戒を解いた。
それと同時に、紫月が克二に話しかけた。
「克二さん。ガス缶どうしてガス缶が無いと分かったんですか?」
「紫月さんが来る前に確認したら、中身が空だったからですよ」
その言葉に、紫月はきょとんとした。どうやら、中身がガスで満たされている状態だと思っていたようだ。普通セットする前に、音で確認するのが基本なのだが、セットしていたのが午前5時頃だった事もあり、寝ぼけて確認を忘れていたようだ。
克二は、コンロにガス缶をセットすると、ダイヤルを回して火をつけた。そして、水月に自己紹介を始めた。
「改めて、私が紫月の同期の、加山克二と申します。以後、お見知りおきを」
そう言って、克二は頭を下げた。
水月も、慌てて自己紹介をする。
「こちらこそ、改めまして、紫月の同僚の、水月と申します。本日はよろしくお願いします」
そう言って、水月は頭を下げた。
あまりにも突然のことで、水月はそれ以上言葉が出てこなかった。本当であるならば、もう少し言うことがあるのだろうが、その言葉すら見つからない。
2人が頭を下げている時、紫月は持って来たカバンの中から、食材を取り出していた。
それに気づいて、2人は頭を上げた。紫月を見てみると、隻腕ながらも器用に野菜を取り出している。片腕だけの生活にも、大分慣れたようであった。
水月と克二は、紫月が取り出してくれた食材で何を作るか考え始める。
ー今ある食材は、主に野菜がメインね……でも、中に鶏肉が混ざっている…………ー
ー野菜と鶏肉……ここから考えられる料理は…………ー
「唐揚げね」
「唐揚げだな」
2人は、同じ結論に至ったようだ。幸いにも、油と鍋、小麦粉は揃っている。制限時間も、まだ1時間57分もある。唐揚げを作るには十分であった。
2人は早速、唐揚げを作り始めた。鶏肉を切り、小麦粉をまぶし、油が沸騰している鍋の中に放り込む。
紫月は火の調節をして、唐揚げを程よく揚げていく。
しばらくすると、鶏肉が程よいきつね色になってきた。紫月は龍双眼を使い、熱が全体に通っているかを確認する。
見た所、熱は全体に隙間なく通っているようであった。これなら、皿に盛り付けても大丈夫そうだ。
紫月は2人を呼ぼうと、横を見た。そこで、紫月は目を疑う光景を目にした。なんと、野菜の盛り付けが無駄に凝っていた。絶対にここまでする必要は無いが、2人が全力を出した手前、紫月は何も言うことができなかった。
すると、水月が紫月の視線と、その意図に気がついた。
そして、唐揚げを油から上げると、野菜が盛り付けられた皿に、唐揚げを盛り付けた。
それから数分後、料理時間が終わり、料理が審査に出されることとなった。
紫月は、他のチームが作った料理を見ながら、水月に小声で話しかけた。
「水月さん。私達が作った料理って、内容的に負けませんかね?」
「大丈夫よ。カレーに隠し味を入れてあるからね」
水月は口角を上げながら、自信満々な声で答えた。
紫月には、その時の水月の顔が恐ろしく見えていた。
それからは、審査が淡々と進んでいった。審査員5人それぞれが、最大20点を料理に評価点として出せる。つまり、最高点数は100点だ。採点基準は、味、香り、盛り付け方、栄養バランスの4つが加点基準となる。その為、100点を叩き出すことは、非常に難しかった。
水月は、審査が終わる前での間に、紫月と話していた。内容は、今の職場についてであった。
紫月曰く、片腕でも受け入れてくれる会社が見つかったらしい。だが、実際は片腕でのタイピング能力を実践して、十分に働けるという事を証明したらしい。
その話を聞いた水月は、少し引き気味であった。
そうしている内にも、採点は進んでいった。53点、32点、67点と、次々に点数が出されていく。
そして待つこと30分。ついに、採点が終わった。司会から集合の合図がかかり、全員は表情台の場所までやって来た。
全員が集まると、司会が結果発表を始めた。
「皆様、お疲れ様でした。お待ちいただいた、結果発表を行います。今年の優勝者は……」
そこで、水月を除く全員が固唾をのんだ。料理の時はつい熱くなってしまったざ、水月にとっては優勝しても、しなくてもどちらでも良かったのだ。
そして、司会が言葉を放つ。
「克二、紫月、水月の3人チームです!! 優勝おめでとうございます!!」
なんと、優勝したのは水月のチームだった。紫月は誰にも見えないように拳を握りしめ、克二はガッツポーズをした。
周りからは、拍手が送られてきた。
水月は、これが現実だと信じたくなかった。何故って? そう、横で何処かのニュース番組のカメラで撮影されていたからだ。
ー紫月……こういう事は前もって伝えていてちょうだい…………ー
水月は、心の中で呆れていた。
そして景品を受け取った水月は、会場に来ていた暁翠と、トラックで送迎してくれた京華と共に、駐車場に停めてあるトラックに戻った。
トラックに戻ると、京華は運転席に乗り込んだ。暁翠と水月は、布状のドームが作られている、トラックの荷台に乗り込んだ。
2人が乗り込んだのを確認すると、京華はトラックを発車させた。
そこからしばらくは、沈黙が続いた。話すことが無いというよりは、何故か気まずい空気がそこにあった。
しかしその空気は、暁翠が話し始めたことによって破られた。
「水月……お前は今、満足しているか?」
「していますけど……それが何か?」
水月は、今の生活に満足している。暁翠と共にできる時間だけで、水月は十分だった。
しかし、水月には少し悩みがあった。それは、どうしても暁翠と距離を置いてしまう事だった。
自信から距離を縮めようとしても、無意識の内に距離を置いてしまっていた。
暁翠は、水月の目の奥を見て言った。
「甘えたい時は、甘えて良いんだぞ」
その言葉に、水月は返す言葉を失ってしまった。甘えたい時……水月には、到底できないと思っていたことだ。
しかし、水月は少し笑みを作って答えを返した。
「はい……ありがとうございます」
その時の水月は、暁翠との距離が少し縮まったような気がした。できることなら、もう少し近づきたい……水月は、心の中ではそう思った。




