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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
62/109

少女なる兵器 第44話「姉を守りたくて」

主な登場人物

・水月

旧大龍帝国陸海共同軍所属の超戦車。普段はおっとりとした性格をしているが、戦闘になると、おっとりとした雰囲気とは裏腹の、戦闘者としての殺気を放つ。しかし、身内と認識した者、特に姉妹にはとても甘い。現在は暁翠の嫁であり、仲睦まじく暮らしている




・冥月

水月の妹で、同じ旧大龍帝国陸海共同軍に所属していた超戦車。人懐っこい性格で、基本的に全員に優しい。しかし、身内を傷つけた者には容赦がない。現在は、空手の講師をしている


・龍造暁翠

大龍帝国元13代首脳。戦闘には不向きであるが、的確な指示で数多の戦を勝利へ導いてきた。人を引き付けるカリスマ性を持っており、旧大龍帝国の家臣や国民から慕われていた。今は兵器達に慕われている。現在は、戦後の処理で忙しくしている

 龍城の件から数日後、水月は鎮守府を訪れていた。もしかしたら、住所が分かっていない仲間に会えると思ったからだ。


 鎮守府に入ると、思ったよりも仲間が多く集まっていた。その殆どが陸軍出身の戦車達であった。慙月、萩月、波月と、多くの仲間が集まっていた。


 しばらく進むと、水月は目を丸くした。なんと、冥月が居たのだ。問い詰められて以降、連絡が取れなくなっていた為、水月は冥月を心配していた。

 すると、冥月がこちらを振り返った。冥月はここで始めて、水月の存在に気がついた。


 「水月姉さん。久しぶり」

 「冥月……元気にしてた?」


 冥月は元気そうにしていた。そして何と言うか……雰囲気がいつもと違うように感じられた。水月から見た冥月は、心なしか体が引き締まったように感じた。


 「冥月、仕事にはつけたの?」

 「あぁ……仕事というよりは……」


 冥月は少し戸惑っていた。何かを隠しているようだ。水月は自然と、冥月の頭を撫でた。冥月は驚き、水月から距離を取る。あまりにも突然のことで、冥月の鼓動は早まっていた。

 水月は少し寂しく思いつつも、冥月から仕事を聞き出そうとする。


 「冥月、隠さなくてもいいわよ。怒ったりはしないから」

 「本当に?」


 冥月は警戒しているようだった。そんなにやましいことでもあるのかと、水月は心の底から疑った。

 数秒後、やっと決心がついたのか、冥月は真剣な顔になった。そして、冥月は口を開く。


 「私は今……空手の師範として活動しているわ」


 水月は、その言葉に思考が鈍った。頭の中では現実逃避と疑いが巡っている。冥月の言動を見ていた水月の頭は、冥月が少し危ない仕事をしていると思っていた。それが、空手の講師だとわかった瞬間、脳の思考が一気に低下した。

 数秒後、水月はやっと結論に至った。冥月は空手の講師として活動しているのだ。当たり前の判断にもかからわず、あまりにも判断が遅すぎた。

 水月が何も言わなかったのが原因か、冥月は不思議そうな顔をしながら水月の名前を呼ぶ。


 「水月姉さん?」

 「何でもないわ……」


 水月は苦笑しながら、冥月に言葉を返した。冥月は、相変わらず不思議そうな顔をで、水月を見つめていた。


 場所は変わり、冥月の自室へと移る。水月は冥月の話を少しづつ理解してきていた。

 話の内容としては、冥月は鎮守府を出てすぐ、職を探しに行ったらしい。しかし、職が見つからず途方に暮れていた。

 疲れか気まぐれか、冥月は建物の路地裏へ入った。すると1人の弱々しそうな男が、半グレに絡まれていたという。冥月は軽く半グレを捻り上げると、半グレはその場から泣きながら逃げ去ったらしい。

 そのまま立ち去ろうとした冥月だったが、助けた男から声がかかった。その男は、空手道場の経営者であった。冥月は暁翠から空手や柔道を教わっていたこともあり、免許も一応持ってはいる。結果、流れで冥月は空手の師範となった。


 「……っていうのが、話の全貌よ」

 「何と言うか……その……いつの間に元帥から空手を教わっていたの?」

 「水月姉さんが就役する前からよ。特にやることも無かったし、ちょうど良い暇つぶしになったわ」


 冥月の言葉は、どこか寂しそうであった。暇つぶしに柔道……普通に考えるとやっていることが武闘派のそれである。いや、実際に冥月はバリバリの武闘派だ。


 そんな話をしていると、冥月は時計を見る。時刻は11時38分だった。冥月は立ち上がると、箪笥の中から道場着と帯を取り出した。それらを鞄の中に入れながら、冥月は水月に話しかけた。


 「水月姉さん。私はそろそろ行かないと行けないわ。もし良かったら、ここの住所に来て。私が働いている所は、柔道の講師も募集してる。水月姉さんも柔道は教わってるようだし、臨時師範として受け入れてくれると思うわ」


 そう言うと、冥月は紙切れを机の上においた。そして冥月は自室の扉を開け、兵舎の廊下を歩いて行った。水月は暁翠から、柔道を教わった時の事を思い出していた。よく暁翠に投げ飛ばされ、一度、骨が折れた記憶が頭に蘇る。

 過去の記憶を思い出しながら、水月はふと思ったことを口ずさんだ。


 「久しぶりに元帥に指導してもらおうかしら…………ついでに、空手も教えてもらいましょうか」


 そう口ずさむと、水月は冥月の自室から出て行った。


 家に戻ると、水月は暁翠に柔道の指導をしてほしいと申し入れた。暁翠は驚いた顔をしながら、その場で固まった。


 「急にどうしたんだ?」

 「単純に相手をしてほしくなっただけです」


 暁翠の顔は、まだ驚いた時の表情から変わっていない。いつまでそうしているんだと、水月は思いながらも決して口には出さない。というのも、水月自身、突然の事を言っていることは分かっていた。


 「そ、そうか……なら、すぐに鎮守府に向かおうか」

 「はい、お相手よろしくお願いします」


 暁翠は水月を連れて鎮守府に戻ると、久しぶりに簡易道場部屋の扉を開けた。長らく使われていなかった道場部屋は、水月が暁翠から指導を受けていた時と何も変わっていなかった。変わったことがあるとすれば、少し道場のマットが誇りをかぶっていたことくらいだ。

 暁翠と水月は、それぞれの着替え室で道場着に着替えると、道場マットの上で対面した。


 「久々の指導だ、1本勝負にするか。水月、久しぶりだからと容赦はしないぞ」

 「ええ、分かっています」


 次の瞬間、2人が激しくぶつかり合った。ぶつかりあったと合うよりは、戦い始めたという表現が正しいだろうが、スピードの速さに表現が難しかった。互いに投げられないよう、体を捻らせている。

 試合が始まってから約1分後、水月は暁翠に投げ飛ばされた。久々だったこともあり、2人共体がなまっていたが、やはり暁翠が勝利を収めることとなった。


 「やはり、元帥には敵いませんね…………」

 「いや、お前もいい筋はいっていたぞ。実際に掴まれかけてたからな」


 そんな会話をしながら、暁翠は水月に手を差し伸べた。水月は暁翠の手を掴み、立ち上がった。立ち上がった水月は、暁翠に本題を話し始めた。


 「ほう……空手を指導して欲しいと…………」

 「はい、冥月は教わっていたようですので」

 「分った、少し待ってろ」


 すると暁翠は、簡易道場を一度出て行った。

 数分後、暁翠はグローブと大量の瓦を持って戻って来た。その量、なんと約300枚。水月は呆然とした。量よりも、暁翠が箱で担いで持ってきたことにだ。暁翠は水月の眼の前で瓦を置くと、グローブを手渡した。


 「取り敢えず、まずは1枚目からいってみよう。グローブを着けてくれ」


 水月は暁翠の指示に従い、手にグローブを装着した。暁翠は、箱と箱の間をまたぐ形で瓦を置いた。暁翠が目で合図を送ると、水月は瓦を勢いよく殴った。すると、瓦はあっけの他簡単に割れた。


 「よし、次は10枚にしてみるか」


 暁翠がそう言ったと同時に、割れた瓦が振動し始めた。途端、ものすごい速さで瓦が割れる前の状態戻った。

 水月は目を丸くした。普通の瓦だと思っていたが瓦が突然、割れる前の状態へ戻ったのだ。


 「そいつは龍聖力を込めた特注品だ。自動的に元に戻るから、廃棄する手間がなくなって楽なんだ」

 「そういう問題では無いような気が…………」


 水月は、半ば呆れた顔で暁翠を見た。暁翠はいつもの表情を崩さないまま、瓦を積み始めた。水月は軽いため息を付いた。

 その後は、瓦割りが続いた。割っては積んで、割っては積んでを繰り返していた。そして、最終的に78枚を割ることができた。

 それからしばらくして、水平線が赤くなり始めた。もう夕暮れ時であった。2人共、今日は終わりにしようとしていた。そんな時、冥月が道場へ入って来た。


 「元帥、水月姉さん……ここで何をしていたんですか?」

 「冥月が元帥に空手を教わったって言ってたから、私も頑張らなきゃって思っちゃって」


 水月は冥月を守らなければいけない立場だと、心の底かは思っていた。やはり、過去の束縛からは簡単には逃れられてはいないらしい。すると冥月は、スクっと笑って言う。


 「水月姉さん、私はもう守られるだけの立場じゃないですよ。むしろ、私が守る立場なんですよ」

 「それって一体……?」

 「元帥の大切なお嫁さんに、傷をつけないようにしないといけないですし」


 その言葉を聞いた水月は、顔を真っ赤にした。


 「え、ちょ、冥月?! 私は貴女の姉で、守るべき立場で、えぇと……」


 水月は完全に頭が混乱していた。妹からお嫁さんと言われるのは、水月にとってとても恥ずかしかったらしい。

 それを見ていた暁翠は、少し口角を上げた。それと同時に、暁翠はどこか寂しそうな目をしていた。


 ーこれでいいんだ、この何気ない日常が…………ー


 「元帥、どうかされましたか?」


 気がつくと、水月が目の前まで来ていた。暁翠は首を横に振って答えた。


 「何でも無い……ただ、少し思い返していただけだ」


 水月は真相が気になったが、暁翠の表情を見て聞くのを辞めた。暁翠の顔は、昔を見ているようであった。

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