少女なる兵器 第43話「剣豪メイド」
主な登場人物
・水月
旧大龍帝国陸海共同軍所属の超戦車。普段はおっとりとした性格をしているが、戦闘になると、おっとりとした雰囲気とは裏腹の、戦闘者としての殺気を放つ。しかし、身内と認識した者、特に姉妹にはとても甘い。現在は暁翠の嫁であり、仲睦まじく暮らしている
・龍造
旧大龍帝国海軍に所属していた超弩級戦艦。優しい性格だが、訓練等にはとても厳しい姿勢をしている。龍城とは親友でもあり、ライバルでもある。現在は道場で、剣道の講師をしている
・龍城
旧大龍帝国海軍に所属していた超弩級戦艦。冷徹な性格で、基本的に誰にでも厳しい。龍造とは親友で、ライバルの関係でもある。また、雪龍とは龍造並に仲が良い。現在はメイド喫茶で、メイドとして働いている
・龍翔
龍造の妹で、旧大龍帝国海軍に所属していた装甲航空母艦。穏やかな性格で、基本的に誰にでも優しい。姉の龍造や、妹の龍彩とはとても仲が良い。現在は龍造と同じ道場で、弓道の講師をしている
何があったか簡単に説明しよう。探していた龍城が、メイド喫茶のメイドとして働いていたのだ。突然の事により、水月の脳内は情報処理を急いでいた。それと同時に、龍城の頭の中も情報処理を急いでいた。
数秒後、2人はやっと情報処理が終わった。
「では、私はこれにて…………」
「ちょっと待ってください。ここって指名できますよね? ご指名するのでよろしくお願いできますか?」
水月はにこやかにしながら龍城を指名した。しかしその裏には、とても言葉では言い表せないほどの圧があった。実際に、見せ前の看板には指名が可能と書かれてあったのだ。
「承知しました。席に案内するのでついてきてください」
龍城はいつものように、表情を何一つ替えずに水月を席に案内した。しかし、龍城の内心は平然を装えていなかった。
ーえ? これどうすればいいの? 水月は基本ニコニコしている時が一番怒ってる。あ、これ死んだかもー
龍城がそんな事を考えている間に、水月は龍城と1対1の席に座った。龍城は下を向いたまま、何も喋ろうとはしない。水月はニコニコしながら龍城を見つめている。その場には重い空気が流れていた。
そんな空気は、水月が話し始めたことで終わりを告げた。
「龍城、どうしてメイドなんてしてるの? 貴女なら得意分野の剣術で龍造達と共に生活できると思うのだけれど」
「それは……その……本当はそうするつもりでした……ですが、どうしてもここを辞められない理由が…………」
龍城はかなり緊張していた。そこで水月は、龍城の心情を始めて読み取った。
「別に怒ってなんか無いわよ。ただ、貴女が心配だっただけよ。それで、辞められない理由は一体何なの?」
「え、えぇ……実は、ここの店長に土下座されてお願いされて……どうやらここ、経営が上手くいってないみたいでね。店長の必死な表情を見てると、どうしても断れなくて…………」
「そういう所は、今でもも変らないのね。だけど龍城……貴女、残業で相当疲労が溜まっているようね」
龍城は何も答えなかった。図星であったのだ。水月は呆れた顔で、深くため息をついた。
「龍城、今度龍造に顔を出しなさい。かなり心配しているようよ」
「分かったわ。今度の休みに行ってみるわ」
「いえ、今日よ」
水月は、龍城に無理難題を突きつけた。龍城は肘を机につき、片目を手で覆いながらため息をついた。その表情は、明らかに疲れている人そのものであった。
「勘弁してちょうだい……今日は夜の10時まで残らないといけないのよ…………」
「その後でいいわ。龍造達にも伝えておくから」
龍城は水月のペースに飲まれ、首を縦に振った。水月は龍造達の家を教えると、龍城は驚いた顔をしていた。
「水月……ここって、私の家のすぐ真正面よ」
「え?」
なんと、道場の正面の家に龍城は住んでいたのだ。しかし去音の調べた情報には、そのようなことは書かれていなかった。水月は少し驚きつつも、龍城に伝えることを伝えた。
その後、水月は料理を食べて店を出た。龍城は複雑な気持ちで、水月を見送った。
その夜、龍城は家に帰るためにいつもの最短ルートを使っていた。だが、どこか体の様子がおかしかった。体が熱いと言うか、視界がボヤケていた。
ーおかしいわね……どうして……視界……が……………ー
そこで、龍城の意識が途絶えた。自宅の前であった。
次に龍城が目を覚ますと、目の先には木製の天井が広がっていた。丁寧に布団がかけられていて、頭には丁寧におしぼりが載せられていた。自宅でないことは明らかであった。布団から起き上がると、そこには見覚えのある姿があった。
「あら、龍城さん。目が覚めたんですね」
「龍翔……?」
そこには龍翔がいた。龍翔は龍城に近づくと、龍城を再び寝かせた。いつもの龍城なら抵抗するが、いつものように力が入らなかった。
「龍城さん。貴女は風を引いているんですよ。安静にしていてください」
「でも……今日も仕事が…………」
「勤務先には、電話で休むようには伝えてあります」
龍翔は行動が早かった。龍城がどこかへ行かないように、先手を打っていたのだ。龍城は完全に諦めたようであった。ここまでされてしまうと、何もできないからだ。
「しばらくは私が看病しますから、何かあったら言って下さい」
「…………分かったわ」
龍城は目を閉じた。何もすることが無いのだ。そのまま眠りにつこうとした。しかし起きた直後であるせいか、中々眠れなかった。
それから何時間が経ったのだろうか、龍城は頭の中が空っぽになっていた。動けないし何もできない。まさに無の時間であった……いや、無の時間は言いすぎかもしれない。鳥の囀りは聞こえてくる。
「龍城さん、そろそろお昼です。何か食べたいものはありますか?」
「得には……あ、うどんは食べたいかもです」
「うどんですね。分かりました」
龍翔は龍城の要望を聞くと、うどんを作り始めた。龍城はその間、龍翔の背中を眺めていた。特にすることが無いためであるが、何故か龍翔の背中を見ていた。
それからしばらくして、龍翔が龍城にうどんを差し出した。丁寧に風邪薬と共にだ。
「ありがとうございます。いただきます」
「召し上がれ」
龍城は、龍翔の作ったうどんを口に運んだ。うどんの味からは、どこかほんのりとした優しさを感じ取れた。龍翔の優しさがこもっていたのだ。
しばらくして、龍城はうどんを食べ終えた。龍翔は食器の片付けをすると、座布団に座って本を読み始めた。龍翔もやることは特に無いようだ。
ふと、龍城は疑問に思ったことがあった。それは、自身が倒れたのは外であるはずなのに、目が覚めたら道場の中であったことだ。龍城は、思い切って龍翔に聞いてみることにした。
「龍翔、誰が私をここへ?」
「龍造姉さんですよ。龍城さんがこっちに来るのを楽しみで外で待っていたら、突然、龍城さんが門の前に倒れてきたらしいです」
龍城はそこで理解した。よくよく考えれば、自分の家の向かい側は道場であった。それに、水月を通して道場に行くことは伝えてあったのだ。
龍城はその後、少しの間眠りにつくことにした。単純に眠たくなってきたのもあるが、それ以上に暇な時間が早く過ぎてほしかった。
それから何時間かして、龍城は目を覚ました。既に日は沈み、月が昇っていた。寝すぎたと思いながら起き上がると、扉が開く音がした。扉の方向を見ると、龍造が部屋に入ってきていた。
「龍城、おはよう……いえ、こんばんはの方がいいかもしれないわね」
「えっと……こんばんは?」
「なんで疑問形なのよ。それよりも、お粥作っておいたからよかったら食べて」
龍城が横を向くと、そこにはお盆に載せられたお粥入の茶碗とスプーンが置かれていた。丁寧に風邪薬付きで。
「ありがとう。いただくは」
「食べ終わったら、後は任せて寝ておきなさい。貴女は何も心配しなくていい」
龍造は、龍城に無理をさせないように釘を差した。というのも、龍造は分かっていたのだ。龍城が自身の命令なら聞くと。案の定、龍城はお粥を食べ終わった後に、薬を飲んで布団に転がった。
龍造は、食器洗いをする為に台所へ行こうとした。しかし龍城の言葉が、龍造の足を引き止めた。
「龍造……迷惑をかけてごめんなさいね…………」
「いいのよ。それに、龍城には借りがあるしね」
「借り?」
龍城は、龍造に何か恩を売った記憶はなかった。鎮守府の生活を見返しても、特に思い当たる節が無かった。
「私、何かしてた?」
「氷島奪還作戦の時、龍城は身を挺して敵を引き付けてくれたじゃない。そのおかげで、私達はその場にいた敵を撃滅できたのよ」
龍城は困惑した。まさか、あのときの事で龍造に借りを作ったとは思っていなかったからだ。あの時は自身が死ぬ代わりに、龍造達を目標地点へ行かせようとしていただけであった。
龍造が困惑している内に、龍造は食器を洗い終えていた。そして龍城に近づくと、隣りに座った。
「それで、なんで倒れるまで仕事してたわけ? 自身の体調は管理しなさいって、鎮守府で散々言ったよね?」
「え? あ……えっと……ごめんなさい…………」
「謝って済むなら看病はいらないのよ!!」
龍造は隣で寝ている龍翔と龍彩を起こさない程度の声で、龍城に説教をした。風邪をひいて説教をされる…………龍城はため息を付きたかった。
4日後、龍城の風邪はほぼ完治した。まだ多少の咳などはあるが、いつもと変わらない生活を送るようにになった。
そして、龍城が再び出勤する日になった……が、しかし、龍造が龍城に着いてきた。どうやら、労働時間改善に講義しに行くらしい。というのも、龍城が戦闘で負った怪我が完治していないからだ。
店につくと、龍城はいつものように着替え部屋でメイド服に着替えた。龍造は、そのまま中についてきていた。
「いくら何でも中まで入ってくることは無いじゃない……」
「講義しに来たのよ。それに、激しいシフト内容で病気になったのよね。上手く行けば、裁判で慰謝料を請求できるわよ」
そんな話をしている龍造の顔は、龍城から見ると悪魔のようであった。そんな事をしている間に、龍城は龍造をつれて社長室へ向かった。
社長室につくと、龍造はノックも無しに扉を勢いよく開けた。龍造はこのまま社長に講義しようとしていたが、扉を開けて目に入ってきた光景に目を丸くした。
「本当にすいませんでした!!」
なんと、社長が土下座をしながら謝罪してきた。あまりにも予想外の出来事に、龍造は思考が鈍った。そんな龍造をよそに、龍城は社長に近づいた。
「頭を上げてください。私は何とも思っていませんよ。」
「いえ、私が悪いのです。店の存続のために龍城さんを酷使してしまいました」
「反省するなら、労働時間の改善を求めます」
「はい、直ちにシフトの変更を行ってまいります」
たったの数秒で、事態は収まった。龍造はため息を付くと、額に手を当てた。
そして数日後、龍造が水月を連れて店に行くと、龍城はいつもよりも活気付いていた。あれ程硬かった言葉遣いも柔らかくなり、鋭い目つきは優しさを放っている目をしていた。
「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ」
龍城はの発する言葉は、いつもよりも優しい声色であった。




