少女なる兵器 第42話「それぞれの日常」
水月は涼月の家を後にし、気がつけば、龍造、龍翔、龍彩が運営する道場の前までやって来ていた。水月は何かの縁だと思い、道場に立ち寄ることにした。そこでは龍造達が剣道、弓道の教室を開いていた。
そして2日後、何もすることがなく夕飯の時間になった時のことであった。突然、暁翠が水月を外食に誘い出して………………
涼月に会った後の帰り道、水月はいつもとは違う道を歩いていた。今日の成果は中々のものであった為、後は気軽に帰宅することができた。
そんな中、普段とは違う道を見つけたので今回はその道から帰ることにしてみたのであった。
知らない道とは何があるのか分からない。しかしそれが楽しいのだ。入り組んだ道の奥に何かしら新しい景色が見えてくるのだから。
そうして道を適当に進むこと約一五分、水月はとある道場の前で足を止めた。ここは龍造、龍翔、龍彩が剣道場と弓道場を運営していると聞いた場所であったからだ。
気になって裏口に周り、扉を叩いた。すると、中から龍彩が顔を出した。
「水月さん!? どうしてここが……とにかく入ってください。お茶をお出しするので」
その流れで、水月は道場の中に招き入れられた。
生活スペースは清潔にされており、埃一つも見当たらないほどであった。龍造達が必死に努力をしているのだろう。
そんな内景と共に、道場に繋がるであろう扉の先からは竹刀がぶつかり合う音と、弓を射るときの弦の音が響いてくる。
「あ、やっぱり気になりますか? ここ最近、本格的な指導を開始したんです。生徒達も気合が入っていて喜ばしいんですが、気合が入っているあまり近隣の方から苦情を頂くこともしばしば…………」
「いいえ、この音は生徒達が努力をしている証拠なのでしょう? それは誇るべき事よ」
水月は、音を気にしている龍彩をフォローするように褒めの言葉を言った。
龍彩は何処か恥ずかしそうにしながら、水月から目を逸らした。
その時、道場に繋がる扉が開いた。扉の方向を見ると、そこには龍翔が立っていた。
「龍翔姉、どうしたの?」
「少し指を切ってしまって……絆創膏を貼ってる間変わってもらえないかしら?」
「分かったわ。龍翔姉はしばらく休んでて」
そう言うと、龍彩は弓を持って道場へ行ってしまった。
龍翔は棚の中から救急箱を取り出すと、中から絆創膏を取り出して、自身の指に巻き付けた。
「水月さん、いらしていたのですね。しかし、よくここが分かりましたね。提督にも伝えていないので」
「風の噂よ。それよりも、どうしてここで道場なんてやってるの?」
水月は疑問に思っていたことを口にした。普通に考えればどこかに所属することが普通であるが、三人は自身で道場の運営をしている。
「この前助けたおじいさんがここの経営者だったみたいで、気がついたらお礼にこの道場を渡すって言ってきて……流れで道場の教室も受け継いで……私もまだ混乱してるのよ」
「そう……にしても、凄い流れね。簡単に道場を譲ってくれる人がいるなんて…………」
水月はそう言うも、頭の処理が追いついていなかった。普通に考えて、あり得ない話であるからだ。道場にはそこそこの維持費がかかるが、それでもその存在自体が財産のような物だ。一から建設したとなれば、その赤字は計り知れないだろう。
水月が必死に思考を巡らせていると、龍翔は弓の弦を張り直し終えて道場へ戻ろうとしていた。
「それでは、私は戻らないといけないので。後はごゆっくり」
そう言い残すと、龍翔は扉の向こう側へと行ってしまった。水月は、その背中を黙ってみていた。
そして数時間後、辺が夕暮れに染まってくる頃に三人が道場から戻って来た。おそらく、今日の教室分の時間が終ったのだろう。
「水月、ごめんなさいね。大したおもてなしもできなくて」
「いいえ、なんの連絡も無く来たこっちが悪いのよ。貴女が気にすることは無いわ」
龍造は戻ってくるなり、いきなり水月に謝罪をしたが、水月は謝罪する必要はないと言った。それを聞いた龍造は、ほんの少し口角を上げた。
「龍造?」
「何でもないわよ。それより夕飯を食べていったら? 今から作るところだし」
龍造は、水月を夕飯に誘った。
しかし、水月は朝の置き手紙以外では暁翠に何も伝えておらず、急いで帰らなければ無かった。
そんな水月の心情を読み取ったのか、龍造は夕飯の支度をしながら答えた。
「心配する必要は無いわよ。今日は提督もここに呼んでいるわよ」
「え!?」
水月がその言葉を聞いた次の瞬間、裏戸が開いて暁翠が中に入ってきた。
「龍翔……まさか水花が頭にぶつかるとは思わなかったぞ」
暁翠はそう言いながら、龍翔に一機の水花を渡した。
龍翔は申し訳無さそうにしながら、水花を受け取って棚の中に仕舞った。
「提督、水花に持たせた手紙のとうりに、今日は私達が夕飯を作ります。そこに座って待っていてください」
龍造は暁翠にそう伝えると、龍翔、龍彩と台所で料理を始めた。その間、水月と暁翠は何を話せば良いか分からずに戸惑っていた。
そうして無言の間があった間に、龍造達は夕飯を作り終えていた。用意された夕飯は、昔ながらの旧大龍帝国海軍カレーであった。
旧大龍帝国海軍カレーを見た暁翠は、目を丸くしながら感心した。
「よくレシピを覚えていたな。資料は戦火で焼失したのに……」
「毎週水曜日に、艦内で作られていたんですよ。嫌でも覚えます」
そうであった。旧大龍帝国海軍では、毎週水曜日にカレーが食べられているのが一般的であった。人間界では金曜日らしいが、旧大龍帝国では違ったのだ。
そこからは、世間話が続いた。今の生活やら人間界のニュースやら、様々な事が話されていた。
しばらくして水月達はカレーを食べ終え、気がついたら夜の七時になっていた。暁翠は水月を連れて、家に帰ろうと外に出ようとしたときであった。龍造が水月を呼び止めた。
「水月……知ってたら教えて欲しいのだけれど……龍城に会わなかった?」
「いえ、会ってないし住所も知らないわ。白蓮さんからも情報が入ってないらしいし」
「そう……ありがとう」
会話が済むと、水月は暁翠と共に道場を後にした。道場の外は暗く、街灯だけが辺りを照らしていた。夜であるせいか、道にな人一人の気配も感じられない。
しばらく歩いていると、暁翠が水月に話しかけてきた。
「水月、白蓮と接触したのか?」
「はい、それが何か?」
「白蓮は情報をくれるが、回数を重ねる事に値段を上げていく傾向にある。聞きたいことは纏めてから聞いたほうがいい」
「はい……」
水月は、地味に納得がいっていなかった。白蓮がそのようなことをするとは、思えなかったからだ。
翌日、水月は白蓮の元を訪れていた。白蓮は、いつものように情報を水月に伝えていた。前回に引き続き、白蓮は食事代を持ってくれた。
「すいません、本当なら私が払うべきなのに……」
「良いのよ。ここは暁翠に紹介してもらった店だから……それに、暁翠には生活費の一部を負担してもらってるから、情報料は取らないって決めてるのよ」
水月はここで疑問が生まれた。白蓮は情報料を少しづつ上げていくと言っていたが、ほんとうにそのような感じはしなかった。
そんな事を考えていると、白蓮はいつの間にか三枚ほどの書類を見ていた。書類にはびっしりと名前が書かれてあり、横には金額が書かれてあった。
「さて、この人はそろそろ情報料を上げる頃相ね…………」
前言撤回、暁翠の話は本当であった。水月は少し引きつつも、白蓮から情報を受け取った。
翌日、水月は久々の休暇を貰った。その日は暁翠も仕事が無いらしく、二人共完全に暇を持て余していた。
二人は何もせずに、家の中で本を読んでいた。本と言うが、実際は戦闘詳報である。鎮守府や旧大龍帝国本土を探しても、小説なんてものはない。ほぼ戦闘詳報である。
しかし、そんな二人の行動を変える思わぬ来客がやって来た。
「ん? 誰か来たみたいだな」
「私が出ます」
水月が玄関の引き戸を開けると、そこには寄月と響月が立っていた。
「水月さん、元帥はいらっしゃいますか? 少しお話がありまして」
「分かったわ。呼んで来るわね」
その後、暁翠は数十分間、寄月と響月と話していた。水月は遠耳に内容を聞いていた。どうやら仕事関係の話らしいが、詳細なところまでは聞き取れなかった。
話が終わった暁翠は、居間に戻るなり箪笥を漁り始めた。
「元帥、何かお探しですか?」
「封筒を探してるんだよ。お前達に、何かあったときのための資金を入れてある……あった」
暁翠は箪笥から分厚い封筒を取り出すと、中から数万円を取り出して二人に渡した。見ているだけでは少し危ない取引に見えるかもしれないが、今回は生活資金の引き渡しのためであるため何も問題はない。
暁翠が生活資金を渡すと、二人は頭を下げ、帰って行った。
「どうやら、光熱費やらなんやらで少し家賃が足らなかったらしい。初任給が低いのが原因らしいな。来月からは給料が上がるからなんとかなるらしい」
「大変ですね……というか、ここの光熱費はどうやって?」
「ここは昔からの龍族の土地だ。廃藩置県や廃籍奉還の影響を受けなかったからここは今も大龍帝国の土地として残っている。光熱費などは詳しく喋れないが、まぁほぼ〇だ」
水月はまたもや固まってしまった。人間社会に溶け込んでからは、情報量の多さに理解が追いつけないことが増えてきているような気がする。人間社会と言うが、実際は元大龍帝国首脳陣の話について行けてないだけなのだが。
そんなこんなで、気がつく頃には夕方となっていた。水月はいつものように食事を作ろうと、土間に足を踏み入れようとしたが、暁翠がそれを引き止めた。
「水月、今日はどこかで外食しないか? 少し高い店にでも行って」
「私は構いませんが……元帥の財布は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、蓄えはまだある。日本の国家予算の四倍ほどなら、頑張れば出せるな」
水月は、もう何がなんだか分からなくなってきていた。頭の中で暁翠達は規格外なのだと思い、自身を納得させ、暁翠と共に街へ出かけた。
しばらくして、暁翠が調べてくれていた店についた。外見は一見普通の店に見えるが、外に出されている看板メニューは高い料理ばかりであった。
中に入ると、ウエイターが席に案内してくれた。中は豪華な物になっていると思っていたが、思ったよりも普通の店と大差なかった。
「水月、遠慮はいらんぞ。自分が食べたいと思ったものを選べばいい」
「では……」
そうして、注文を一通り終えた二人は再び向き合った。特に喋ることも無く、ただただ時間だけが過ぎてゆく。聞こえてくるのは心臓の鼓動と、店の中の音楽だけであった。
そうしている内に、料理が運ばれてきた。ウエイターが何処かへ行くと、二人は料理を食べ始めた。
食べ始めてしばらくすると、暁翠が水月に話しかけてきた。
「水月、お前は今、幸せか?」
「はい、とても幸せですよ。元帥は、私の過去も全て受け入れてくれました。そんな元帥を、私はどこまでも慕っています」
水月は、あまり語らなかった本音を話した。暁翠は少し驚いていたが、すぐに空いた口を塞いだ。そして、少し笑みを浮かべた。
「元帥、どうかされましたか?」
「いや、お前が本音を言ってくれたことが素直に嬉しかったんだよ」
そうして、夜は更けていった。
それから三日後、水月はいつものように仲間の住所探して街を歩いていた。今回は京華も協力してくれた為、街から少し離れたところも創作できるようになった。
そうして、なんの成果も得られないまま昼がやって来た。京華はこの時間帯は自身の用事で帰ってしまっている。街からも離れているため、飲食店の位置が分からなかった。
しばらく彷徨っていると、メイド喫茶が目に入った。見た感じここしか飲食店が無さそうなので、水月はメイド喫茶に入ることにした。
「いらっしゃいませ御主人様、今日……は…………」
店に入って出迎えてくれたメイドは、水月にとって知っている人物であった。
「龍城…………」
龍城であった。水月も龍城も訳が分からずに、その場で固まってしまった。
日に日に更新が遅くなっていく少女なる兵器……私情が混ざってしまいますが、こうやって日常生活を書くのは少し苦手な分野ではあります。正直な所、人間社会については苦手な所があり、私は人を信用することが苦手な認知です。
さて、気を取り直して今回のキャラクター紹介。今回は龍彩について紹介したいと思います
龍彩は龍造型の元3番艦で、龍造型の末っ子に当たります。それでも、兵器時代は人間の手によって海底処分されるまで生き残りました。過去に出てきた竜式艦上戦闘機113型を搭載したのも、龍彩です。




