少女なる兵器 第36話「氷島前線」
氷島に上陸した戦車隊。敵戦車隊を氷島の反対側へ追い詰めるべく作戦を進める。しかし、偵察に出た亰月の無線の言葉が、氷島に潜む危険を伝えた。そして、亰月の無線は途中で途切れた。これは、上陸した戦車隊に対する試練か、はたまた絶望か………………
「さっさとくたばりなさい!!」
紫月と華月が戦車隊を上陸させ終わってから数分後、既に氷島では戦闘が起こっていた。敵戦車隊は数こそ多いものの、1両1両の性能は低かったため、前線は順調に上がっていった。
「これで最後よ!!」
響月が最後の敵戦車を破壊すると、辺は静まり返った。
「この辺り一帯は制圧完了かな?」
海月が辺を見回しながら瀧月に尋ねる。
「えぇ、この辺りにそれらしい反応は見られないわ」
「そうか、だけどこの先が心配ね。何処に敵が居るか分からないし」
そう、制圧し終えたのは森林前の敵戦車隊であり、この先には森林と山岳地帯があった。奇襲攻撃を受ければ、被害が出ることは間違いなかった。
「なら、私達が行きましょう。」
「私達であれば偵察は容易です。」
「火力は無いけど、隠密行動は得意なのよ。」
海月が悩んでいると、胤月、亰月、暁月の偵察戦車達が名乗り出た。3人は兵器時代、いくつもの敵の偵察という危険な任務を遂行していた。
「では、お願いして良いかしら?」
海月が三人に問うと、3人は頷いて敵戦車隊の捜索と偵察を兼ねた任務を始めた。
しばらくすると、胤月から無線が送られてきた。
「我、敵戦車隊ヲ発見セリ。数ハオヨソ三〇両。山岳地帯ノ谷間ニテ待伏ヲシテイル。山岳地帯二向カウノデアレバ警戒サレタシ」
胤月の報告では、山岳地帯の谷間に中規模の敵戦車隊が陣取り、迎撃準備を整えていたようだ。この情報は非常に役立つものであり、これを逆手に奇襲攻撃を行うことも可能であった。
その情報を聞いた海月は、3人に帰還の命令無線を飛ばそうとした。
その時だった、亰月から無線がかかってきた。
「全員、今直に森林前から逃げて!!」
「何!? どういう事よ亰月!!」
「話している暇はない、今直ぐに……………………」
その言葉を最後に、亰月の無線は途切れた。海月は拳に力を入れて近くの木を勢いよく殴った。
ー亰月……ごめんなさい…………ー
「海月………………」
深月が海月を心配して声を掛ける。海月は振り向くと全員に尋ねた。
「先ほど、亰月の無線が途切れた。おそらく撃破されたと考えられる。今から進撃の為に森林に入る。ここに残りたい者は残って良いわよ。何が潜んでいるのか分からないから。」
海月は、その場にいる全員に亰月がおそらく撃破された事を伝え、森林へ進撃するが何が居るか分からないために残りたい者は残って良いと言った。
「何言ってるの海月? 私達は氷島の制圧の為にここに来たのよ。今更引き返すなんてあり得ないわ」
「どこまでも付いて行くわよ。そうよね皆?」
「はい!!」
その言葉に、異論を唱える者は誰もいなかった。海月は黙って頷くと、森林へ前進をはじめた。海月の後ろに、他の娘達も続いた。
森林内は薄暗く、赤い空がより不気味な空気を漂わせていた。この状態では暗視装置を持っている戦車以外は、至近距離以外で敵を視認することはほぼ不可能だろう。
しばらくし進むと、霧月の足に何が当たった。霧月はふと下を見て声にならない悲鳴をあげた。それに気が付いた剛月が霧月に近寄り声を掛ける。
「霧月、どうかしたの…………!?」
剛月は霧月の足元を見て絶句した。それは、亰月の左足だった。切断面は寸分の狂いもない水平な切り口で、何か鋭利なもので切断されたのだと判断できた。
剛月と霧月は、何も見なかったとことにしてその場を後にした。本隊から置いていかれているというのもあったが、本音は今直ぐこの場から離れたかったからであった。
それからまたしばらく歩くと、森林内で何か別のものが動く音がした。
「皆、一度止まって」
海月が全員に無線を飛ばした。海月の指示により、全員がその場で立ち止まった。
しかし、ここで蓮月が不幸に襲われる。足元の茂みに居た氷島に住み着いている動物が動き、音が立ってしまった。
動物が動いたことにより、何かの音の本体がこちらに向かってきた。
「チッ、やるしか無いな!!」
蓮月が対戦車ミサイルを発射しようとすると、突然、幻月が蓮月を突き飛ばした。
蓮月が倒れた瞬間、幻月が構えていた盾にその音の正体が勢いよく衝突する。あまりの勢いに、幻月は30m程後方に押し飛ばされた。
蓮月は、音の正体を見て絶句した。それは人間の形でも、兵器の形でもなかった。鉄骨に肉がつき、目が体の至る所に点在していた。この世の生物ではないことは確かだった。
「蓮月!! ミサイルを!!」
こちらに走ってきた疾月が蓮月にミサイルを撃つよう叫んだ。蓮月はとっさに全27本の対戦車ミサイルをその生物にぶつけた。
しかし、その生物は痛みを感じているようには見えなかった。それどころか、ミサイルをぶつけられた怒りで蓮月へ襲いかかった。
蓮月が死を覚悟した瞬間、生物の背中で爆発が起こった。霖月、剛月、笵月の3人が榴弾を発砲していたのだ。
その生物は、3人がいる方向を向いて突進し始めた。三人は回避体制に入ろうとはしなかった。後退速度が間に合わないと理解していたからだ。
三人が死を覚悟した瞬間、再びその生物に砲撃が加えられた。城月と蔵月だった。そこへ海月、深月、瀧月、霧月も到着した。数の差では生物側が不利に立たされた。しかし、その生物の判断は早かった。再び霖月達に突進を始めた。
次の瞬間、笵月が2人を突き飛ばした。そして、自身が持ち歩いていた火炎放射器の予備燃料タンクを手に持って前に突き出した。
その生物は、燃料タンクごと笵月の腕を食らいついた。笵月の表情が苦痛の表情に変わる。しかし、笵月は直ぐに笑みを浮かべた。
「これを待ってたのよ!!」
次の瞬間、笵月が持っていた予備燃料タンクが爆発した。笵月は予備燃料タンクに爆弾を仕掛けていたのだ。
「どうよ、これが「肉を切らせて骨を断つ」といつやつよ!!」
笵月は激痛が走っているのにも関わらず意地を張って笑ってみせた。
その生物は地面を激しく地面をのたうち回った。そこへ全員が一斉砲火を加え、更にダメージを蓄積させる。
しばらくすると、その生物から炎が消えた。全員が勝利を確信していた。しかし、その生物はまだ動いていたのだ。それどころか、傷が全て回復していた。
「こんなやつ……どうすれば良いのよ…………」
「そこをどいてちょうだい!!」
海月達が絶望の表情を浮かべたその時、頭上から懐かしい声が聞こえた。
海月達は、反射的にその場から飛び退いた。
直後、気がついたらその生物の頭上から勢いよく刀を突き刺した者が現れた。その者は、大日本帝国時代の提督服に、元帥の階級称号をつけた女性だった。海月達は者の姿を見てハッとした。
「待たせたわね。ここからは、私に任せてちょうだい!!」
水無月京華だった。京華はその生物の頭から刀を引き抜くと、海月達の前に降り立った。
「京華さん、どうしてここへ?」
「それは…………!!」
京華が答えようとした瞬間、その生物は再び動き始めた。
「やはり脳は駄目か……心臓を断ち切らないと…………」
京華が刀を構えた瞬間、近くの茂みから苦無が飛んできた。
苦無はその生物の目の内の1つを貫いた。それと同時に、茂みから姿を表しながら話しかける者がいた。
「無駄よ。その生物は死体の塊……殺すには魂を殺さないと」
龍造京花だった。
「京花じゃない、具体的にはどこを断ち切れば良いと?」
「胴体の中心部に魂の反応を感じる。そこを断ち切ればなんとかいけそう。」
そこからの京華の行動は早かった。その生物に急接近すると、胴体の中心部を刀で両断しようとする。
しかし、それは中にある鉄骨で防がれてしまった。
「チッ!! 龍甲乙一型か!!」
「京華さん、そこどいてください!!」
紺月が京華に退去するように呼びかけた。京華は直ぐそばから飛び退いた。
「龍死鉄線、ファイヤ!!」
京華が飛び退くと同時に、紺月は龍死鉄線ミサイルを飛ばす。ミサイルはその生物の魂がある部分に命中し、龍甲乙一型を撃ち破った。
そこへ京花が突っ込んできた。京花自身の手を悪魔の鉤爪の手に変化させ、壊れた龍甲乙一型と共に魂を一突きした。
魂が破壊されたことにより、その生物は活動を停止した。
「紺月、ありがとう。私の鉤爪でも龍甲乙一型は貫けなかった」
「いえ、京華さんが僅かな隙を作ってくれたからです」
京花が紺月に、紺月が京華に礼を述べた。そこに、海月が口を挟んできた。
「京花さん、何故、このような生物が氷島に?」
「それはね、ここは昔、吸血鬼の極秘拷問場兼処刑場だったのよ。私も実際に見たわけでは無いのだけれど、霊花様が持っていた古い監査書に記されていた。おそらく……………」
海月は、黙って京花の話を聞いていた。そして同時に、行方が分からなくなった亰月を心配していた。
大龍帝国には大きく分けて3つの箇所があります。現本土である玉島、その南東に位地する和島、そして西南西に位地する氷島の3つがあります。中でも氷島は、ほとんど人が立ち入らなかった為、龍吸戦争時は吸血鬼から情報を吐き出させるための拷問場として使用されていました。
また、情報を縛りとった後は餓死、拷問死、生き埋め等の様々な死を与え、死体は地下室に放り込まれ、外部に情報が漏れないようにされていました。




