少女なる兵器 第29話「思いと意思」
強行偵察作戦を終えた3日後、紫月達の偵察で敵地が割れたことにより、そこへの上陸作戦を考えていたが、海龍の放射線病の進行状況が悪化し、海龍は命の危機に面する。そこで、海龍の妹である、煌龍と深龍に、海龍の命の選択肢が渡される………………
強行偵察作戦を行ってから3日後、水月達は、会議室に呼ばれていた。水月が、会議室に着くと、既に弥生月以外の全員が集まっていた。水月が位置につくと、会議が始まる。
「まず、今回の偵察結果だが、今回の偵察作戦は、戦術的に成功したと言えるだろう。まず、弥月がこの作戦で被雷し、しばらく歩けなくなった。今後の事がかなり心配だが…………」
その後、それぞれが報告結果と照らし合わせて、敵の本格的な基地があると予想された場所の内、3つは違うことだと判明した。そこで、水月はふと首を傾げる。
「元帥、今回の強行偵察作戦ですが、私達が組んだ編成だと、4箇所までしか偵察できません。紫月と華月の報告がまだですので、残りの一つは誰が偵察を?」
水月が、暁翠に疑問を聞いたと同時だった。会議室の外から声がした。
「それは、私達が担当させていただきました」
その声と同時に、会議に入る者達がいた。清龍、淳龍、屠龍、烈龍……海龍の妹達だった。1番被害が軽微だった、海龍型潜水艦が、偵察作戦に駆り出されたようだ。4人の報告によると、その海域には、敵の停泊地、補給設備があったそうで、ここで敵は戦う準備を整えているようだった。
そして、紫月と華月の報告の番が回ってきた。紫月と華月の表情は、強張っていた。そして、その重い口を開いて報告をする。
「て、敵の本拠地を発見しました…………」
それは、衝撃の報告だった。今まで割り出せなかった、敵の本拠地が割れたのだ。紫月の言葉の後に、暁翠が喋りだす。
「場所は氷島、いわば、本土である玉島の南側に位置している。ここは、あまり俺達龍族でも立ち寄っていなかったから、場所を知るものはほぼ居ない」
暁翠は、そのまま話を続けた。氷島は、ほとんど整備されていないことや、旧大龍帝国の地図を持ってきて、場所を指しながら説明した。しかし、これは300年ほど前の地図であるため、現在の構造は分からないそうだ。しかし、これは有力な情報であった。敵の位置が分かったとなれば、後は奇襲作戦と、上陸作戦をさせ、敵の本拠地を叩くだけであった。しかし、暁翠は深刻そうな顔をする。
「どうしたものか……今の内に奇襲を行っておきたいが、海軍がとにかく疲弊している。回復を含めて、最低でも1ヶ月後ではないとな………………」
暁翠は、海軍の疲弊具合を考えて、奇襲作戦を実行に移そうとはしなかった。無理もないだろう、龍城は療養中、斬龍達も先の戦いでのダメージが大きい、風龍型は遠征の疲労が溜まっている、神龍型は夜間海上警備で睡眠時間をあまり取っていない、海龍はいつ放射線病の影響を受けるか分からない状態…………まさに絶望的な状況だった。
その時、煌龍が、会議室にノックもせずに入ってきた。
「煌龍、せめてノックぐらい…………」
「提督、海龍姉が!!」
煌龍は、慌てた表情で暁翠の言葉を遮る。そして、その言葉のを聞いた暁翠は、即座に会議室を飛び出した。水月も、会議室を飛び出す。煌龍に案内された暁翠は、海龍が運び込まれている医務室へ走った。その後を、水月は追いっていった。
医務室に着くと、海龍は激しく吐血していた。その周りを、海龍の妹達が囲んでいた。暁翠は、海龍の妹達をかき分けて、海龍の元へ歩み寄る。
「海龍、大丈夫か!!」
「提督……ゲホッ…………私なら……大丈夫……ゲホッ………………」
海龍は、どう見ても大丈夫な状態ではなかった。ベッドの毛布と、海龍の手に付いた血の量がそれを示していた。
「海龍……少し荒療治になるが許してくれ…………」
そう言うと、暁翠は隣の薬品調合室から、1本の注射器を持ってきていた。シリンダー内には、緑の液体が入っていた。暁翠は、海龍の腕にそれを注入した。とたん、海龍の呼吸が荒くなる。しかしそれはほんの一瞬で、その後、海龍は意識を手放してしまった。
「皆、海龍を一度手術室へ連れて行く。煌龍、深龍、後で呼ぶから、呼ばれたら手術室に来てくれ」
そう言って、暁翠は海龍を抱きかかえ、手術室へと歩いて行った。その場に居た全員が、海龍のことを心配していた。
しばらくして、煌龍と深龍が暁翠に呼ばれる。煌龍と深龍が手術室に入ると、そこには酸素マスクと点滴が取り付けられ、手術台に横になっている海龍の姿があった。煌龍と深龍が、現実を受け止められていないような表情をしていたが、暁翠は話を始める。
「煌龍、深龍……言いにくいのだが、海龍の命は持って後数時間ほどしか残されていない。そこで、お前達に決めてほしい。この薬品は、試作段階の放射線病特効薬だ。試作段階であるがゆえに、副作用が分からない。だからこれを使うか、海龍をこのまま楽に死なせてやるか決めてくれ」
そう、煌龍と深龍は、海龍の命の選択肢を任されたのだ。当然、現実を受け止めきれていない2人は躊躇する。しかし、時間があまり残されていないのもまた真実である。時の流れとは無情なものだ。
その時、海龍の目が開く。海龍は、とても苦しそうだったが、気合で口を動かす。
「煌龍…………深龍…………もう…………いいのよ………………私は…………貴女達が…………幸せなら…………それで………………」
海龍の声は掠れて、最後の言葉はほとんど聞き取れないほどだった。海龍を見ていた煌龍は、手術室台に横になる海龍に近づき、海龍の手を握る。
「海龍姉……私が幸せなのは、海龍姉がいるからだよ。海龍姉が……海龍姉が居なくなったら意味がないよ…………」
「煌龍………………」
煌龍は、そう言いながら目から涙を流す。そうしていると、深龍が海龍に近づいてきた。
「海龍姉さん……私達の事を思うのならば、生きて下さい。私達には、海龍姉さんしかいないんです」
「深龍………………」
2人の表情を見ていた海龍の目に、強い意思が宿る。
「提督…………その薬を…………下さい…………」
その言葉を聞いた暁翠は、何も言わずに頷き、海龍に薬を飲ませた。薬を飲んだ海龍は、初めはより苦しそうな顔をしていたが、数分後には落ち着きを取り戻していた。落ち着きを取り戻した所で、海龍はあることに気がついた。体が軽く、呼吸がいつもよりしやすかった。それに気がついた暁翠は、恐る恐る、海龍から酸素マスクを取り外した。海龍は、点滴が取り付けられているスタンドに手をかけて立ち上がる。海龍は普通に立つことができた。海龍が経つと同時に、暁翠は龍夢眼を使い、海龍の容態を確認する。
「体のどこにも放射、異常は見られない……成功だ…………」
暁翠は、海龍の放射線病が完全に治ったこと、海龍の体に異常が起こっていないことを確認した。
「海龍姉……つまりそれって…………」
「えぇ、そうみたい。私の放射線病は完治したようね」
そう、海龍の放射線病が完全に治ったのだ。
「海龍姉!!」
煌龍は、嬉しさのあまり泣きながら海龍に抱きつく。深龍は、涙を流しているのを隠そうと、目を手で覆っていた。
「煌龍、大丈夫よ……もう、どこへも行かないから…………」
海龍は、煌龍の頭を撫でながら、優しい言葉で煌龍に語りかける。
「喜んでいる所申し訳ないが、海龍、しばらくは様子見のために療養室で過ごしてもらうぞ」
暁翠が、海龍に休暇の指示を出す。海龍は、黙って頷いた。
その後、海龍を療養室に送り届けた暁翠は、療養室前でで待機していた水月が暁翠の隣につき、移動しながら話しかける。
「元帥、どうして放射線病の特効薬を? まだ、完成していなかったはずでは?」
「ある後任の、薬を参考にさせてもらったんだ。それは、毒ガスへの特効薬だが、製造工程を変えれば色々な撮ってるに作り変えることができる。だから、既存の技術とかけあわせた結果、試作段階の特効薬が完成したわけだ。だが、効果と副作用までは調べきれてなかったから、賭けに出た所はあったがな」
暁翠は、ある後任の技術を使ったと言った。その後任が気になった水月は、暁翠に聞こうとする。
「元帥、その後任と言うのは?」
「それは…………!!」
水月の顔を見た暁翠は、目を疑った。
「水月……どうしたんだ…………その血は………………」
「え?」
そう、水月の目から血が流れ出していたのだ。
「あれ、なんで………………」
水月は、突然その場に倒た。
「水月!! 水月!!」
水月は、薄れゆく意識の中で暁翠が何を言っているのかすら聞き取れなかった………………
さて、海龍の放射線病悪化……どうでしたでしょうか? 突然大切な人の生死の選択肢を握る…………私にはそれが恐ろしくてできません。しかし、生きる意思は時に凄まじい物を発揮します。それも、一種の執念でしょう。そして、物語の最後で倒れてしまった水月は一体どうなるのでしょうか? 次回にご期待下さい。




