少女なる兵器 第16話「南西諸島哨戒作戦」
大型休暇から2週間後、あれから大規模な戦闘などはなく、鎮守府に属する者は比較的平和な日々を過ごしていた。
だが、そんな日々は終わりを告げた。
会議室にて、次の大規模作戦の計画が進められていた。内容は枯渇しつつある資源の補給であった。またもやタンカーが撃沈される被害が相次いでおり、敵を見つけ次第掃討せよと依頼が出されているほどだった。
だが、そんな重要な作戦にも関わらず、暁翠は未だに決断を下せていない状態だった。尋ねてみても、頑なに口を開こうとしない。何がそこまで決断を妨げているのか、作戦に参加する者は気になって仕方なかった。
そして翌日、ついに作戦会議の期日がやって来た。今日中に決断を下さなければ、今後の作戦に大きな支障が出る。だが、暁翠は未だに悩んでいた。
そこで、痺れを切らした斬龍が暁翠に言った。
「提督!! 何をそんなに悩む必要があるのですか!! 私達は幾度の困難を乗り越えてきました。それが信用できないのですか!!」
「はぁ……信用できない訳ではないのだが……今回の任務は大きな危険が伴う……今の編成に任せてしまって良いのかとな…………」
斬龍の言葉に、暁翠が言葉を出した。その言葉には、自信が無いように見受けられて。しかも、大きな危険が伴う任務との事だ。
斬龍は更に言った。
「何が危険なのですか? 私達では遂行が難しいと?」
「…………出撃する海域にミサイル巡洋艦の出没情報がある」
その言葉に、その場にいる全員が驚愕した。ミサイル巡洋艦とは、その名の通り対艦、対空ミサイルを搭載した大型の巡洋艦であり、吸血共和帝国で建造されていない艦艇だ。
その場がざわつき始めた時、暁翠は手を叩いて注目を引いて言った。
「こうなると思って証人を呼んでいる。龍彩。入ってきてくれ」
暁翠がそう言うと、会議室に龍彩が入って来た。以外な者の登場に、またもやその場はざわついた。
龍彩は黒板の前までくると、暁翠に渡されたプロジェクターの操作コントローラーを受け取り、プロジェクターを起動させた。
「まず、吸血共和帝国がミサイル巡洋艦を建造したのは事実よ。艦級はBrad5級ミサイル巡洋艦……その2番艦であるBrad5-Ⅱが出没しているとの事です」
そう言いながら、龍彩は次々にスライドを切り替えていった。スライドには様々な事が記されていた。
Brad5級は極秘裏に建造されていた為、撃沈作戦に単独参加した龍彩と、旧大龍帝国航空隊の者以外はその存在を知らない事。
Brad5級は旧大龍帝国最新鋭だった戦闘機戦闘機隊を一瞬で壊滅させ、それが対艦ミサイルだった場合、龍造ですは撃沈されかねない事。
そして、Brad5級の正確な強さは未だに分かっていない事だった。
「……これらが原因で、私達は迂闊に手を出せません。下手を打てば大損害を被ります」
「こう言うことだ……今の戦力では、勝てるかどうか怪しいんだ。当時は単体で行動していたからこそ撃沈できたが、今では訳が違うんだ」
暁翠の言葉に龍彩は頷いた。龍彩も搭載機を2機残し、それ以外は撃墜されたと言うギリギリの戦闘を強いられたらしく、爆弾の命中場所が少しでもズレていたら撃沈できなかったそうだ。
その場は沈黙に包まれた。
だが、その沈黙は破られた。
「では、私達水上戦車遊撃部隊が囮になりましょう。その間に輸送作戦を終わらせ、私達は射程を生かしてBrad5-Ⅱを撃沈します」
そう言ったのは夜桜だった。水月と冥月も黙って頷いた。
「駄目だ。制空権を奪われている中、3人での行動は危険すぎる」
「でしたら、私がついていきます」
その言葉に暁翠は反論しようとするも、紫月の申し出により考えを変えた。だが、それでも被害を被る可能性は極めて大きい。
そう考えていると、またもや声が上がった。
「それで不安なら、私達もついていきますよ。これでも超戦車です」
「同じく」
そう言ったのは、澪月と葛月だった。その隣では、清月と烈月が首を縦に振っていた。
それを見た暁翠は、深く溜息をついて言った。
「分かった……作戦を承諾する。だが、条件がある。必ず全員で帰ってこい」
「「了解しました!!」」
こうして、作戦の実行が確定した。危険であることに変わりはなかったが、暁翠は超戦車達にBrad5-Ⅱを任せることにした。
その後、海域の航路や敵が潜んでいると考えられる場所、作戦の全体像を改めて再確認した。そして、その場は解散となった。
それから3日後、作戦が決行されることとなった。作戦に参加する者はS-24エリアに集合し、作戦のアナウンスを待った。
そして、その時はやってきた。
『これより、南西諸島哨戒任務、資源輸送任務の2つを同時並行で開始する。枯渇している資源をブルネイで調達後、そのまま西へ移動し、シンガポールを目指す動きを取り、Brad5-Ⅱの撃沈を実行する。道中、輸送艦隊は帰還用の霧を展開する。超戦車隊は厳しい立ち位置にあるが、ここは耐えてもらいたい。全員無事で帰ってこい!!』
こうして、南西諸島哨戒任務、資源輸送任務が同時並行で始まった。準備の整った者から海へと繰り出した。朝早くのため、神龍達がまだ巡回している時であった。出撃する艦隊を見た神龍は敬礼を送った。艦隊は指定地点で霧の門を通り、南西諸島へと向かった。
霧の門をくぐった先はもう日が昇りきっており、澄んだ青空が広がっていた。これだけ見れば、敵が潜んでいるなど到底考えられない。
だが、艦隊の電探は敵水雷戦隊を捉えていた。
「斬龍!!」
「分かってますよ!!」
紀龍と斬龍は艦隊から抜け、敵水雷戦隊に突撃を開始した。紀龍はバスタードソードで敵を横薙ぎで切り裂き、斬龍は龍残刀で敵を袈裟に切った。
会敵から5分足らずして、敵水雷戦隊は壊滅した。紀龍と斬龍の一方的な攻撃であった。
それから1時間ほどして、ブルネイ沖に差し掛かった。陸地から離れた海上では、小型の船が2隻ほど浮かんでいる。双眼鏡で確認すると、船には受け取り予定の資源が積まれていた。
「あれね……3人共、受け取る準備をしておいて」
「「了解しました」」
夜桜の言葉に、華月、夜月、弥月の3人が答えた。資源の取得量を増やすため、急遽参加することになった3人は、艦隊に守られながら目的地まで進んだ。
目的地に着くと、3人は資源を受け取った。続いて風龍達も資源を受け取り、予定していた全ての資源を取得することに成功した。
だが、ここからが問題だった。ここからシンガポールへ向かう途中、Brad5-Ⅱが出現した場合、資源を放棄せざるを得なくなる。緊張感に包まれる中、艦隊は前進を始めた。
それから1時間後、道中特に会敵することはなく、輸送艦隊が帰還するための目的地に到着した。
秋龍が鎮守府に無線を入れると、霧の門が出現した。輸送艦隊は中へ入り、鎮守府へと帰還した。華月は去り際に「気を付けて」とだけ言い残し、霧の門の中へと入って行った。
直後、霧の門が消えた。ここからは逃げることも、隠れることもできない。頼れるのは、仲間と自身の技量のみとなった。
艦隊は進路をシンガポール方面へと向け、再び前進を始めた。
それから数十分後、事態は遂に動き出した。紫月の対空電探が超音速で飛翔してくる何かを探知し、警報音を鳴らした。
「ミサイルらしき物体6発がこちらに向け飛翔中!! 7時の方向!! 速度マッハ3.5!!」
「遂に来たのね……全員対空戦闘用意!! 何としてでもミサイルを撃ち落とせ!!」
夜桜の言葉により、全員が対空兵装をミサイルに向けた。VLSを搭載した夜桜、水月、冥月、紫月の4人は、KM-23対空ミサイルを9発づつ発射した。飛翔するミサイルがマッハ3.5の為、撃墜できるかどうかは分からない。だが、撃てる再現の手を打つしか無かった。
それから数秒して、KM-23対空ミサイルが超音速のミサイルの前で爆発した。しかし、撃墜できたのはたった1発のみだった。
「1発撃墜!! 残りの5発が突っ込んできます!!」
「近接対空戦闘用意!! 射程に入り次第撃ち落とせ!!」
紫月の報告が全員に伝わり、夜桜が即座に指示を出す。それと同時に、超音速のミサイルが迎撃射程圏内に入った。艤装の対空火器が火を吹き、凄まじい弾幕が張られた。だが、それでも超音速のミサイルは撃墜できなかった。
「駄目です!! 直撃コース!!」
「総員衝撃に備えろ!!」
それと同時に、超音速のミサイルは澪月、葛月、清月、烈月にそれぞれ1発づつ。残りの1発は夜桜に命中した。爆音が鳴り響き、破壊された艤装の破片が辺りに飛び散った。
「電気系統機能停止!! 速力低下!!」
「電気系統がイカれた!! 武装の使用不可能!!」
「発電機関破壊!! 対空兵装全滅!!」
「武装沈黙!! 攻撃不能!!」
4人から報告が飛び交う。夜桜は黙ったままだった。夜桜の左腕は、破壊された艤装が深く突き刺さっていた。
だが、間を置かずに次のミサイルが10発飛翔してくるのが、紫月の電探が捉えた。
「またですか……VLS開け!! KM-23発射!!」
紫月は総叫び、KM-23を発射しようとした。
だが、突如として紫月のVLSは自爆を起こした。連鎖的に他のVLSも自爆し、紫月は対空ミサイルを発射できなくなってしまった。
「所詮は試作型か…………」
紫月は憎らしそうに、自爆したVLSを見た。
それを見た水月は焦り混じりの声で言った。
「冥月!! 今あるミサイルを全て発射して!! このままだと全滅する!!」
「了解!!」
水月の指示で、冥月は持ってきていたKM-23対空ミサイルを全て発射した。
そして間もなく超音速のミサイルの前で爆発した。結果は2発のみ撃墜となった。後は持てる対空兵装を持ち、必死の弾幕を張った。ここで奇跡が起き、弾幕が超音速のミサイルを3発撃墜した。だが、残りの5発は撃墜できなかった。
「総員!! 衝撃に備えろ!!」
水月が叫ぶと同時に、夜桜に1発、水月に1発、冥月に3発のミサイルが命中した。
「左舷対空兵装沈黙しました!!」
「左舷副砲全滅!!」
「左舷副砲大破!! 並び左舷対空兵装沈黙!! 電気系統に異常発生!! 速力低下!!」
3人とも甚大な被害を負ったが、致命傷は免れた。だが、夜桜は左足を負傷してしまい、移動するのが難しくなってしまった。
今の内に決めなければ、誰かが沈むのは分かりきっていた。
その時、紫月が大声で言った。
「氷花隊発艦準備完了!! Brad5-Ⅱの撃沈に向かわせます!! 発艦始め!!」
その言葉により、紫月の飛行甲板から1本の矢が生み出された。それはある程度飛翔すると、6機の改龍式ジェット戦闘機74型 氷花に姿を変えた。氷花はそのまま、敵艦隊がいるであろう場所へ向け飛んでいった。
「クソが……どうして1隻も撃沈できていない…………」
ここは敵連合艦隊の中心部。旗艦であるBrad5-Ⅱは怒りを覚えていた。16発全てのFT-339 Electricity Breakerを使用したのにも関わらず、その内6発は撃墜され、攻撃能力が大きく削がれていた。
「仕方ない……全艦攻撃陣へ!! 残りは砲撃と通常の対艦ミサイルで仕留めるぞ!!」
「大変です!! 電探が敵機と思われる機影を6つ観測!! こちらへ向かってきます!!」
「なんだと!?」
Brad5-Ⅱは夜桜達を通常の対艦ミサイルで仕留めようとしたが、僚艦が氷花の編隊を捉え、艦隊は混乱に陥った。だが、そこに更に追い討ちをかける事が起こった。
「背後ががら空きよ」
その言葉と同時に、最後尾にいたRed3-Ⅴが発砲音と共に爆沈した。
振り返ると、その場には龍珱が単独でいた。近くにいたRed3-Ⅵは反撃をしようとするも、龍珱の薙刀により胴体を切断された。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」
Brad5-Ⅱは怒りに任せ、対艦ミサイルを全て発射した。だが、対艦ミサイルが龍珱に命中することはない。距離が近すぎるあまり、ミサイルの対応範囲外になっていたのだ。
龍珱はそのまま護衛の駆逐を切り裂き、Brad5-Ⅱの懐に潜り込んだ。Brad5-Ⅱは何もできなかった。そのまま薙刀で腹部を貫かれてしまった。
「貴様ぁぁぁぁ……許さんぞ…………」
「やれるものならね……お前の生きる道は無い」
龍珱はそう言うと、Brad5-Ⅱから薙刀を引き抜いた。Brad5-Ⅱはその場に倒れ、動けなくなってしまった。
龍珱はそのまま残党の処理に移った。
Brad5-Ⅱは見ていることしかできなかった。目の前で仲間が一方的に殺されるのを。
そして5分後、Brad5-Ⅱを除く全ての敵艦の殲滅が完了した。龍珱はそのまま立ち去り、その場には静寂が訪れた。
その直後、空気を切り裂くような機械音が聞こえてきた。音の方を見ると、氷花隊が爆弾を抱えながらこちらに向かってくるのが分かった。
そして、氷花隊は急降下爆撃の態勢へと入った。
死が間近に迫る中、Brad5-Ⅱは言った。
「まだだ……まだ……死ねぬ……忌々しき龍彩を……この手で……この手で殺すまでは……………」
その直後、爆弾が投下された。Brad5-Ⅱは抵抗もできず、爆撃により海へと姿を消した。
「Brad5-Ⅱを撃沈……残存戦力はありません!!」
「そう……龍珱が上手くやってくれたのね…………」
紫月の報告により、部隊の全員が安堵した。
そして、部隊は撤退の為の指定位置へ向かい、鎮守府へと帰投した。
一方その頃、今は何もなき帝国の跡の地では、とある報告がされていた。
「我が弟、Brad5-Ⅱが撃沈されました…………」
「そうか……死に急ぐなと言ったのだけれどな……でも良いわ。数年後、あいつらは全て私の手の中にある。その時まで耐えろ」
「承知しました……我が君…………」
その者は、異様な空気を放っていた。赤き空雲が空を覆い、海も真紅に染まっている。冷たい風が吹き、その者の髪は靡いていた。
真紅の瞳は、遠い海の先を眺めていた。




