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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
33/109

少女なる兵器 第15話「大型休暇」

 水月が謹慎処分を言い渡され、5ヶ月が経った。水月の容態はすっかり回復し、傷が完全にふさがった後のリハビリにより、前とほぼ項動きができるほどには回復した。

 だが、腕を接合した跡は残ってしまった。夜桜と冥月は、とても悲しそうな目で接合の跡を見てきたが、水月は名誉の傷だと言った。


 それから数日後、謹慎が解けた水月は暁翠に執務室に来るよう言われていた。理由は分からないが、絶対に来いと言われ、その日の書類仕事が無くなったりと、何かあるのかと疑ってしまうほどであった。


 そんなこんなありつつも、水月は執務室で暁翠と対面した。暁翠の表情は相変わらず読み取りにくく、何を考えているのかさっぱり分からない。

 水月は固唾をのんだ。それと同時に、暁翠が口を開いた。


 「水月……これから2つ質問をする。まず、次の週の日曜日、何か予定は入れていないか?」

 「ありません」

 「2つ目だ。お前は山と海、どっちが好きだ?」

 「強いて言えば……海……でしょうか?」


 水月は自身の本心を述べた。だが、この質問に何の意味があるのかは理解できない。

 すると、暁翠は口角を上げて言った。


 「そうか、なら来週の日曜日は全員休暇としよう」

 「…………はい!?」


 暁翠の突然の言葉に、水月は何を言っているのか分からなかった。先の質問からどうしてこうなるのか、暁翠の発言にここまで疑問を持ったのは初めてだった。

 混乱する水月に暁翠は言った。


 「お前が復帰して、誰も怪我をしていなかったら、復帰祝いも兼ねて何処かに遊びに行こうかと言う話になってたんだ。全員に承諾済みだから、安心して良い」


 そこで、水月は暁翠の質問の意図を理解した。自信が謹慎処分を下されている間にそんな事が起こっているとは知らず、驚きが隠せていなかったが、それと同時に、とても気分は高揚していた。


 「元帥……本当にありがとうございます」


 水月は暁翠の目を見て礼を述べた。暁翠は「礼は夜桜と冥月に言え」と言うと、机の上にある大量の書類に手を付け始めた。


 それから1週間後…………


 「まさか本当に海に来るとは…………」


 鎮守府の全員で海にやって来た。海は様々な人で賑わっており、場所によっては人酔いするかもしれないほどの密集地帯があった。

 暁翠は各自の自由行動を許可し、6時には戻ってくるようだけ命じた。結果、1分足らずで各自散らばった。

 水月は怪我の事が未だに心配だからと言うことで、放射線病の経過観察がある海龍と共に、暁翠の側に残ることにした。

 暁翠は霧の門を出現させ、中からデッキチェアを3脚、とパラソルを3本取り出し、その場に設置した。


 「立っておくのもなんだ、良かったら座っておけ」


 そう言うと、暁翠はその内の1脚ののデッキチェアに寝転がり、持参していた旧大龍帝国の古歌が約3856種編纂されている「東香古歌集」を読み始めた。


 一方その頃、自由行動を与えられた各自は、それぞれの休暇を楽しんでいた。今までとは違った休暇の仕方に戸惑うものも少なからずいたが、周りの空気を読む技術がそれを勝り、結果的に良い方向へ向いていた。

 中でも、風龍姉妹は適応力が強かった。


 「霜龍姉さん。何を食べているの?」

 「焼きとうもろこしよ。商売魂に極振りしたおっちゃんの店で買ってきた。笵龍も食べてみる?」


 風龍姉妹の振る舞いは、証明書でも見られない限り一般人だと見分けられないくらいだった。また、それでいて振る舞いは上品であり、差別を向ける者への考えを改めさせるものだった。

 別の場所では、旧大龍帝国陸軍の火力支援戦車の霖月、剛月、笵月の3人と、自走ロケット砲の紺月、萩月、涼月の3人がビーチバレーをしていた。だが、このビーチバレーには特殊ルールがあった。それは…………


 「笵月。いま少し掠ったわよ」

 「ええ!? また1点取られたの!?」


 そのルールは、ボールに当たったら駄目だということだ。ドッヂボールを組み合わせたような謎のビーチバレーに、遠くから観ていた人は困惑していた。


 場所は代わり、ひと気のいない場所で龍造、龍城、紀龍、亰龍の4人は向き合っていた。それぞれの形には木刀が握られており、これを一般人が見れば喧嘩だと勘違いしかねない雰囲気が辺りを包んでいた。すると、龍城が手に握られている紐を4本用意した。他の3人はその内の1本を引いた。結果は龍造と紀龍が先端が赤色の紐を、龍城と亰龍が先端が青色の紐を引いた。


 「決まりね……それじゃ、始めましょう」


 龍城がそう言うと、紐の色が同じだったペアは場所を移動した。そして、ある程度距離が離れたところで止まった次の瞬間、ペアは木刀を使いぶつかり合った。その場には鈍い音が鳴り響き、すさまじい風圧が支配する。そこからは、流れるように知り合いが始まった。


 そんな4人を遠くから見つめる者達がいた。


 「相変わらず激しいわね……自由行動とは言われてるものの、あそこまで派手にやるとは…………」

 「まあ、彼女達には因果があるから、無茶をするのも無理はないと言えば無いと言いますか…………」

 「放っておこう。気が済んだら辞めるだろう」


 そう会話するのは、龍珱、龍玲、龍鶴の3人だ。彼女達は龍城型の前級戦艦で、42.6cm連装砲を搭載しつつも、最高速度は32.5ノットと、他の戦艦よりも2.5ノットも速く動ける高速戦艦だ。

 龍珱は持参したスイカをその場に置くと、バットと目隠しを龍玲に渡して言った。


 「貴女が選んだスイカよ。割る権利は貴女にあるわ」

 「姉上……ありがとうございます」


 龍玲は目隠しを付け、10回その場で回ると辺りの音に耳を澄ませる。波の音、歩いた後の砂の音、海風の音など、様々な音が聞こえてくる。だが、これこそが狙いだった。


 ―反響の位置からしておそらく…………ここよ!!―


 龍玲は勢いよくバットを振り下ろした。実際その場所にはスイカがあった。だが、振り下ろされたバットの威力が強すぎたのか、スイカは爆発四散した。そして、辺りには砂埃が舞った。

 龍玲は目隠しを外すと、その場を確認した。スイカは……その場に無かった。


 「姉上……スイカは何処ですか?」

 「自分の足……見てみたら」


 龍珱は苦笑しながら言った。龍玲は足を確認した。そこには、嘗てスイカだった物の破片が付着していた。

 ここで、龍玲はスイカが破裂したことが分かった。


 「「大丈夫ですか!?」」


 遠くから声が聞こえた。振り返ると、岩月と慙月がこっちに向かって走ってくるのが見えた。

 龍玲の前まで来た2人は現場と龍玲の足についたスイカだった物の破片を見て、事態を察した。


 その頃、離れたところでも舞い上がっていた砂煙に気づいていた者がいた。だが、彼女達はそれどころではなかった。


 「お嬢ちゃん達、何処の出身だい?」


 何か食べ物を買おうと寄った海の家で、店のアルバムの青年に質問攻めに遭っていた。


 「峯龍……どうする?」

 「流石に答えるわけには…………」


 颯龍と峯龍は、どう返すか迷っていた。ここで旧大龍帝国や、鎮守府出身と答えてしまえば、確実に差別に目を向けられると考えていたからだ。だが、嘘を付くことはあまりしたくない。

 2人は賭けに出た。


 「海の向こう側から…………」

 「へぇ……そう言えばさ、お嬢ちゃん達の出身国ってどんな名前なの?」


 その質問に、2人は言葉を詰まらせた。賭けに負けたのだ。質問によっては南半球と答えることもできたが、国名を直接聞かれてしまっては誤魔化しができない。

 峯龍は諦めて言った。


 「旧大龍帝国です…………」

 「あの滅亡した国の?」


 颯龍と峯龍は下を向いた。何を言われるかは明白だったのだ。


 「めっちゃ良いじゃん!! 俺、1回行ってみたかったんだよ」


 2人の予想とは裏腹に、差別の発言をされることはなかった。それどころか、行ってみたいと言われたのだ。この青年が何を考えているのか、2人には理解できなかった。

 颯龍は思い切って聞いてみた。


 「その……どうして行ってみたいと思ったのですか?」

 「だって、他国の文化を学ぶって良いことじゃん。旧大龍帝国は悪いことしたって聞いたけど、それって嘘でしょ?」

 「はい……信じられないと思いますが、国際社会全体がでっち上げた嘘です」

 「やっぱりそうか」


 青年は呆れながら空を見た。その目には何かが映っているが、2人には理解できない。

 青年は2人に目を向けると、注文していた串焼きを渡して言った。


 「なあ、もし今の戦いが終わったら家に来てくれないか? 大龍帝国の事、教えて欲しいんだ」

 「私達が生きていたら行きます。死んでいたらごめんなさい」


 そう言い残し、2人は店を後にした。去ってゆく2人の背中を、青年は遠い目で見ていた。


 場所は水月達がいる場に戻る。


 「元帥。この文はどう訳せば良いのですか?」

 「これか? 『全ては地に根付く自然である』だな。この時代は自然を祖と表していた」

 「祖……この時代って、世界は自然によって成り立っている考え方があったのですか?」

 「そうだ」


 水月は暁翠から東香古歌集の古歌を、現代語訳に直す方法を教わっていた。水月は普段触れることのない分野に触れ、いつも以上に熱心になっていた。

 その間、海龍は海を眺めていた。太陽の光が降り注ぐ海は、美しく輝いていた。鎮守府から見る夜の海も美しいが、これはこれでまた味があった。

 だが、優雅な一時はすぐに崩れた。


 「おい、そこのお前達!! 旧大龍帝国の奴だろ!!」


 声がした方を向くと、2人のガタイの良い屈強そうな男が立っていた。暁翠は半ば呆れぎみの声で言った。


 「だったら何だ? お前達には関係ない話だろう」

 「いいや、関係あるな。お前達が俺達人間にした仕打ちを忘れはしない」


 暁翠は何も言わなかった。だが、暁翠の出を見ていた水月は一目で分かった。


 ―あ、これ絶対に怒ってる―


 このままではいけないと思った水月は、デッキチェアの下に置いてあった物に手を伸ばした。そして、それを男達に向けた。男達の顔色が蒼白になり、怯えているのが分かった。

 振り返った暁翠は呆れながら言った。


 「お前な……艤装は持って来るなと言っただろう」


 水月が構えていたのは、91cm三連装砲だった。外部への持ち出しは禁止なのだが、万が一のことを考え、規律を違反してまで持ってきていた。

 水月は主砲を構えながら男達に言った。


 「今の内に去るなら見逃す。だが、去らないというのならばこの91cm三連装砲がお前達を破壊する」

 「う、うるさい!! そんなのハッタリだろ!!」

 「肌で感じないと分かりませんか? ハッタリではありません」


 男達は怯えながら水月に言い返すも、背後から声がし、いつの間にか背後から木刀を突きつけられていた。男達の後ろには、龍造と龍城が立ち、男達の首元に木刀を突き立てていた。

 男達は身動きすら取れなくなってしまった。そんな男達に、龍城は言った。


 「逃げるなら今の内ですよ。私、怒ると何するか分かりませんからね」

 「「す、すいませんでした!!」」


 男達は龍城の言葉で戦意を喪失し、一目散に逃げて行った。3人は武器を降ろすと、それぞれの休暇に戻った。

 暁翠は苦笑しながら、再び水月に東香古歌集の現代語訳を教えるのであった。

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