少女なる兵器 第14話「囚われし者」
誰もが寝静まる中、彼女はただ一人、月光が反射する海を眺めていた。
彼女の白銀色の髪は、夜風に吹かれ美しくなびいていた。
だが、彼女は白銀色を好きになれない。
―死装束―
この言葉が、頭からずっと離れなかった。
翌日の5時頃、龍城は目を覚ますと、自身の髪を見た。白銀色の髪は、龍城にとって見ていて気分の良いものではない。むしろ、髪を染めてやろうかとも考えた。
だが、龍城はあえてそうしなかった。この色は、自身への戒めになると考えていたから。
龍城は洗面台に行くと、顔を洗い、歯を磨き、髪を結んだ。そして、扉の受け取り口に挟まっていた書類を手に取ると、椅子に座り、書類仕事を始めた。
1時間後、書類仕事の半分は終わった。時刻が6時だと確認した龍城は正装に着替え、電探を装着すると自室を出て食堂へ向かった。
食堂に着くと、龍城はエプロンと手拭いを身に着け、朝食を作り始めた。冷蔵庫の在庫から献立を考え、必要な食材と器具を用意し、早速調理を始めた。
小松菜の根元を切り取り、水で洗う。そして、食べやすい大きさに切り取り、沸騰した湯が入った鍋に浸け、分ほど放置する。
その間に別の鍋を用意し、水をその中に注ぎ日にかける準備をする。そして大根を洗った後、5mm厚さのいちょう切りにし、湯を沸かす。豆腐を1cmくらいの角切りにすと、味噌を大さじ1杯分を湯に溶かした。強火のまま、大根を5分ほど鍋ので煮込む。
大根を煮込んでいる間、先程放置していた小松菜を入れた鍋の火を止め、小松菜を湯から上げ、余分な水分を抜く。
―そろそろかしら…………―
龍城がそう考えたと同時に、厨房の扉が開かれた。
龍城は振り返らずに、そのまま言葉を送った。
「神龍達ね。朝食なら直に作り終わるから、少しだけ待ってちょうだい」
「お、おう……何故分かったんじゃ?」
「この時間帯に食堂を使用してるの、貴女達だけでしょう?」
神龍は何も言わなかった。全て図星だったのだ。
龍城は気にせず調理を続けた。
水を絞った小松菜を、少量のめんつゆを入れたボウルに入れかき混ぜ、軽く味付けをする。そして、神龍姉妹10人分の小皿に盛り付けた。
それが終わると、大根を煮込んでいた鍋の火力を中火にし、角切りにした豆腐を中に入れ、数分煮込んだ。
数分後、味噌汁が出来上がり、同じく10人分のおわんに味噌汁を入れた。
最後に、事前に用意されていた炊き置きの白米を10人分の茶碗に盛ると、食堂で待機している神龍達に出した。
料理を出した龍城は、神龍達に言った。
「白米と小松菜のおひたし、大根と豆腐の味噌汁よ。夜間警備ご苦労さま。食べたら後はしっかりと睡眠を取りなさい」
龍城はそう言うと、自分の分の朝食を食べ始めた。
神龍達も朝食を食べ始めると、それぞれ温かい表情を浮かべた。
神龍は龍城に言った。
「龍城よ。お主、どうして儂らが食堂に来ることを知っておったんじゃ?」
「それね……毎回調理器具の配置が変わってるから……こんな置き方をするのって、この鎮守府では限られてるし、朝決まってこうなってるから、夜間警備をしてる神龍達かと考えたのよ」
龍城の言葉に、神龍は目を丸くし、少しの沈黙の後笑った。龍城は何も反応せずに朝食を食べ終えると、使った皿等を洗い、食洗機の中に入れて食堂を後にした。
龍城は自室に戻り、残っていた書類仕事に手を付けた。廊下からは足音が聞こえてきた。自国は7時近く。そろそろ起床の時間であるため、少し早めに起きた者が食堂へ向かったのだろう。
龍城はその間も、無口で書類仕事を続けた。
それから1時間ほどして、龍城は書類仕事を片付け終わった。そのまま書類をまとめ、席を立つと、自室を後にした。
執務室前についた龍城は、扉ノックをして執務室へ入出した。中では暁翠が書類仕事に手を付けていたが、龍城が来ると手を止め向かい合った。
龍城は書類仕事を暁翠に提出し、確認をもらった。そのまま執務室を退出しようとした龍城だったが、暁翠の声がかかった。
「龍城……お前、本当に幸せか?」
その言葉に、龍城は一瞬戸惑った。足を止め、3秒ほど思考を巡らせ、答えを導き出した。
「はい。何も問題はありません」
「そうか……過去にとらわれないようにな」
龍城はそのまま執務室を退出するも、執務室を出てすぐに深く溜息をついた。
ーまた……半分嘘を言ってしまったわね…………ー
龍城は大丈夫だと答えていたが、それは半分嘘だった。生活面から見れば、自分は幸せなのかもしれない。良い仲間に囲まれて、鎮守府の中では快適な生活を過ごせている。
だが、心の中はそうではなかった。いつも見る夢は、自信の兵器時代の最期と、魂として保管されていた時の記憶が繰り返し出てくる。それは永遠のように感じて、でも現実に戻れば生きていることを実感できる。自分が生きているのか死んでいるのか、自分の存在意義見失いかけていた。
自室に戻ろうとした龍城だが、南側階段の前で足を止めた。そのまま左に曲がり、階段を下って行った。
1階まで降りた龍城は、階段下の壁に取り付けられた認証システムの前まで行くと、胸ポケットから証明書を取り出し、認証システムに差し込んだ。
すると、階段下の壁が開き、地下へと続く階段が現れた。龍城は階段を下り、地下へと入って行った。
地下に来た龍城は己の勘だけを頼りに、通路を曲がったり更に階段を下ったりした。
そして辿り着いたのは、水月が監禁されている部屋だった。龍城は証明書を人社システムに差し込み、ロックを解除し、中には入った。
部屋の中は、本で読んだことのあるアパートのような構造をしており、奥の部屋にリビングがあるのが分かった。龍城は中へ上がると、そのままリビングへ歩いて行った。
リビングに着くと、部屋の端に設置されているベットの上で寝ている水月を見つけた。パット見ただけでは、死んでしまっているのではないかと思うほど包帯が巻かれているのが見える。
龍城はその場を立ち去ろうと、後ろを振り返った。
「…………龍城?」
振り返った龍城を、後ろから呼び止める声が聞こえた。もう一度振り返ると、水月が目を覚ましていた。龍城は水月に向き合うと、言葉を放った。
「水月さん……この前はすいませんでした…………」
その言葉は、謝罪の言葉だった。水月に初めてあった時、龍城は他人事のような態度を取り、水月と関わろうとしなかった。
だが、暁翠に幸せかどうかを問われた時、本当にあれで良かったのかという疑問が生まれ、謝罪しようと思った。
「大丈夫よ……事実、私は無理をしたし…………」
水月は龍城の謝罪を受け入れ、龍城に優しい言葉をかけた。水月自身も、命令外の無理な事をしたと責任を感じており、本来ならばこのような処分で済むはずがないと思っていた。
水月は龍城の浮かなそうな顔を見ると、龍城に聞いた。
「龍城。貴女の髪は美しいのね」
「…………!!」
龍城はその言葉に目を丸くし、一瞬戸惑った。まさか、唐突に髪の話をされただけでなく、それを美しいと言われたのだ。死装束と言われたこの髪色を、美しいと言ってくれる誰がいた事に驚いていた。
龍城は無理矢理冷静になると、言葉を返した。
「そんなことはありません……この髪色は私にとっての呪い……死装束の色です…………」
「そんな事はないと思うわ。その髪色は、白龍の鱗のように透き通った美しい色よ」
水月の言葉に、龍城は再び戸惑った。龍城はどう返せば良いのか分からなかった。
すると、龍城が携帯していた端末から振動が伝わってきた。見てみると、龍鶴から演習の申し出があった。
「すいません。演習に誘われたので行ってきます」
龍城は話題を逸らし、水月の前を立ち去ろうとした。
水月は黙って頷くと、龍城を見送った。
龍城は部屋から出ると、そのままS-24エリアに行くための直通路へ行こうとした。
「どう? 提督と先人から授かった命も捨てたものじゃないでしょう?」
突如として聞こえた声に、龍城は足を止めた。横を見ると、龍造が立っていた。
龍城は少しの沈黙後、龍造に言葉を返した。
「そうかも知れないわね……だけど、私は自分を認めない…………」
そう言い残すと、龍城は去って行った。
「どうしたものかしらね……本当に…………」
龍造は頭を悩ませると、その場を後にした。




