少女なる兵器 第8話「作戦会議」
な登場人物
・水月
旧大龍帝国陸海共同軍所属の超戦車。普段はおっとりとした性格をしているが、戦闘になると、おっとりとした雰囲気とは裏腹の、戦闘者としての殺気を放つ。しかし、身内と認識した者、特に姉妹にはとても甘い
・霞龍
旧大龍帝国海軍所属の潜水艦。無口な性格で、基本的に会話をすることは少ない。海龍の妹の内の1人であり、姉である煌龍の事を尊敬している
・神龍
旧大龍帝国海軍所属の駆逐艦。前向きな性格で、神龍型姉妹のリーダー的存在。兵器時代と同じように、夜間会場警備を主任務として活動している。夜戦では無敗を誇っている
・日月
旧大龍帝国陸軍所属の中戦車。製造された数両は陸海共同軍にもあり、水月達と共に戦った記憶も引き継いでいる。基本的に冷たい性格をしており、常に冷静でいる。しかし、冷たい性格のせいで空回りしている部分も多々ある
・龍造暁翠
大龍帝国元13代首脳。戦闘には不向きであるが、的確な指示で数多の戦を勝利へ導いてきた。人を引き付けるカリスマ性を持っており、旧大龍帝国の家臣や国民から慕われていた。今は兵器達に慕われている
・龍造霊花
大龍帝国元15代首脳。誰にでも優しく、身内に起こることは基本的に無い。使用する火球は全てを焼き尽くす。しかし、尊敬している人物には及ばない
新年の休暇期間が終わり、約1ヶ月が過ぎた。あの後目立った変化は無く、怨念が出現したとの情報も入っていない。今のところは平穏な日々が続いていた。
この期間の間に何かあったとすれば、海龍が数十日の間寝込んでいたことだ。放射線病の検査時に使用された薬の影響により、高熱が治まらなかったそうだ。
そんな中、水月は会議室に呼ばれていた。暁翠からの指示で、いつも身に着ける規則となっている電探は外して来いとの事だった。規則を破らせてまで行われる内容の話だ、何かあったのかと言うことは想像がついていた。
会議室につくと、中では神龍と日月が待機していた。2人も電探を取り外しており、会議の内容がどれだけ大きな事になるのか想像がつかない。
しかし、肝心の暁翠がその場にいない。神龍に聞いてみたところ、暁翠は地図を探しに行っているらしく、しばらく戻ってこれないそうだ。
それから数分後、大量の地図を抱えて暁翠が戻って来た。
「遅くなってすまない。これから会議を始める」
そう言うと、暁翠は抱えている地図の内の1枚を机に広げ、今回の作戦の予定航路を指差さしながら作戦の内容を伝え始めた。
与えられた任務の内容としては、近頃不足気味になりつつある燃料を調達する為、インドネシア方面に出向くこととなっているらしい。しかし、この近海には敵空母機動部隊が展開しているとの情報があり、既にタンカーが3隻沈められ、5隻が大破寸前まで破壊されている。国際連合からの要請を受け、燃料代を肩代わりしてもらう代わりに空母機動部隊を撃滅せよとの事だった。
編成としては、斬龍、風龍、嵐龍、火龍、日龍、空龍の6隻から成る第88急編輸送艦隊。紀龍、亰龍、嶄龍、慚龍、蔽龍、憖龍の6隻から成る第55急編護衛艦隊。水月、冥月、日月の3両から成る水上戦車遊撃部隊、もとい囮部隊の3つで構成されていた。先行隊として、瀧龍、紺龍、北龍、東龍の4隻から成る第24潜水戦隊が近海に潜んでいる。既に24潜から情報は入っており、航路を決める事は容易かった。
詳しい作戦としては、輸送艦隊と護衛艦隊が燃料を受け取る間、囮部隊は是存在を賭けて敵の注意を引き付ける。超戦車は敵にとって大きな障害となる為だ。輸送艦隊が燃料を受け取り、撤退すると情報が入った場合、囮部隊も撤退する事になっている。その次に24潜が敵空母機動部隊を魚雷による奇襲攻撃を行い、随伴艦の処理が完了した所を護衛艦隊が撃滅する。
「以上が今回の作戦だ。水上戦車遊撃部隊はかなり厳しい立ち回りとなるが、燃料補給の為だ。頑張って欲しい」
しかし、水月と日月は疑問が残っていた。神龍が編成に加えられていないのだ。神龍が作戦会議に参加している理由がわからなかった。
その疑問を日月が口にした。
「元帥。どうして作戦に参加しない神龍がここに?」
その問いに答えたのは暁翠ではなく神龍だった。
「情報が漏れておったからからじゃ。以前、紀龍や斬龍達と作戦会議を行っていた時、敵の情報潜水艦が近海に潜んでおった。情報を盗まれ、敵の戦力が大幅に強化された。儂にはそれを伝える義務があるのじゃ」
水月と日月は納得した。まさか情報が漏洩していたとは思いもしていなかった。
そして、次は暁翠が謝罪した。
「だから囮部隊の編成が必要となってしまった。本当に申し訳ない」
「気にしないでください。戦争でこのような事はよくありました。むしろ今まで無かったことが奇跡です」
水月は暁翠の謝罪を受け入れつつ、この事を気にしていないように言った。
日月は何も言わずに暁翠を見ていた。分かってはいるのだろうが、どうしても割り切れないのだろう。
辺りには沈黙と共に、気まずい空気が流れた。会議はこれで終わりなのだが、どうしても終わりが言いにくい。
その瞬間、会議室の扉が叩かれた。暁翠が扉を開けると、そこには霞龍が立っていた。暁翠は何かあったのかと聞くと、霞龍は言いにくそうに答えた。
「その……監査委員会の方がいらしてまして……勝手に兵舎の中へ…………」
「そこか!!」
霞龍が言いかけていた時だった。突如として廊下に怒声が響き渡った。
次の瞬間、スーツ姿の男が霞龍を突き飛ばし、無理やり会議室の中に入り込んできた。そして、1番近くにいた水月のこめかみを勢いよく殴った。
水月はそのまま壁に頭を強打した。頭から血が流れ落ちる感覚が首筋で感じ取れた。そのまま男は怒鳴り声で喚き散らした。
「我々人間が決めた決まりを破るとは何たる無礼!! 我々が助けてやった恩を忘れたのか!!」
水月は頭と強打し、こめかみを殴られている為、反撃どころか、反論することすらできなかった。
その時、日月は近くにあった長棒を持ち、男に飛びかかろうとしていた。しかし、神龍が既のところでそれを止めていた。
それと同時だった。暁翠が男を殴り飛ばした。そして、即座に男の額をアイアンクローをしながら男を宙に上げる。部屋には男の悲鳴が響いた。
「お前はどの面下げてそんな事を言える。俺たちを差別し、暴力を振るい、挙句の果てには2人の命を奪った。そこでお前に襲いかかろうとしている日月はその2人の姉妹のような存在だったんだ…………」
「説教を垂れてんじゃねえ!!」
男は暁翠を殴ろうと拳を打ち込んだ。しかし、暁翠は男の腕を掴み、腕を反対の方向に捻じ曲げた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
男の悲鳴に骨が折れる音が混ざり、会議室の壁で反響する。
水月は視界が安定しない中、暁翠が男に報復を行う姿を見ていた。その姿は、拷問を行う恐ろしい姿に見えた。
「叔父上よ。何かあったのか?」
突如として、神龍と日月背後のから声が聞こえた。振り返ると、窓から1人の女性が部屋に入ってきていた。サングラスと黒い帽子を被っている為、詳しい容姿は確認できない。だが、奇妙な事に暁翠を「叔父上」と呼んだ。
その声に暁翠は振り向き、その女性に言った。
「霊花か。少し待っていてくれ。こいつを型にはめなければいけない」
「ほう……ならば妾も混ぜてくれ。立場を分からせねばならんからのう」
そう言うと、霊花と呼ばれた女性は暁翠から男を引き取ると、男の目に手を添えながら言った。
「そう言えば貴様……見たことのある顔じゃな。どこで見たか…………」
霊花がそう言う間に、男はガタガタとその場で震えていた。逃げることもできただろうが、暁翠に植え付けられた恐怖がそれを許さなかった。
そして、霊花は遂に男の事を思い出した。
「そうじゃ、お主は月花を殺した半グレを雇った男じゃったな!!」
そう言うと、霊花は男の右目を赤い炎で包みこんだ。男は悲鳴を上げながらその場にのたうち回り、炎を消してくれと懇願した。だが、霊花は炎を消さない。サングラスの裏からは、あふれ出るほどの憎しみの感情が溢れ出ていた。
それから数分後、霊花は男に灯していた炎を消した。男は生きてはいるが、息も絶え絶えの状態だった。立ち上がることもできず、その場で仰向けに倒れている。
すると、霊花は限界寸前の状態の男に治癒術を掛けた。男の傷はみるみる治り、会議室に入った時の怪我が無い状態に戻っていた。
そして、霊花は男に圧をぶつけながら言った。
「今すぐここを立ち去れ。そして、国会議員も辞めろ。破った場合はどうなるか……分かっておるよな?」
霊花の言葉に、男は黙って首を縦に振った。そして、逃げるように会議室を出て行った。
霊花は、その場で壁にもたれ掛かる水月を見た。暁翠から応急処置は受けたものの、こめかみを殴られ、頭を強打したダメージが大きいのだろう。
霊花は水月の頭に手をかざすと、治癒術を使いながら言った。
「頭の怪我は治癒じゃと後遺症が残る可能性がある。3日間は布団に寝転び、絶対安静にするのじゃ。分かったか?」
霊花が水月の頭から手を離すと、水月は黙って首を縦に振った。そして日月の肩を借り、医務室へと移動して行った。
そして、会議室には暁翠、霊花、神龍の3人が残っていた。霊花は神龍を見て言った。
「随分と成長したのう。前よりも強くなっている」
「毎晩潜水艦と戦っておるのじゃ。嫌でも神経は研ぎ澄まされる」
霊花と神龍はたった一言だけ会話をした。そして、暁翠が霊花に話しかけた。
「霊花。お前は大丈夫だったか?」
「大丈夫じゃ。今のところ、見つかる気配は無いに等しい」
「なら良いんだ……何か困ったらすぐに言いに来い。いつでも力になる」
そう言うと、暁翠は会議室から退室した。霊花は窓から飛び降りると、鎮守府の門から外へ出た。
「おかえりなさいませ。霊花様」
「待たせてすまんのう。京花」
霊花の隣には、仮面を被った全身黒い衣服を身にまとっている京花と呼ばれる女性がいた。
京花は霊花に聞いた。
「お祖父様と久々の顔合わせはどうでしたか?」
「いつもと変わらん……じゃが、面白いものが見れたのう。明日も鎮守府を訪れるとしよう」
「左様で」
2人が道を歩く横には、青く輝く青海原が広がっている。冬の風が髪を揺らし、陽光が降り注ぐ。水月と霊花の出会いは、何かを変えてゆく事となる。




