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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第二次龍鬼戦争
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第三話 人に成って ①

 朝日が昇り、今日も鎮守府の活動を促す鐘は鳴る。この時間帯となると、同時刻、夜間海上警備任務から帰還した神龍姉妹を除く誰もが起床を始める頃だ。

 そんな中、誰よりも早く起床した水月は食道の厨房に立っていた。彼女は冷蔵庫の中に必要な食材があることを確認しつつ、頭の中では朝食の献立を考えていた。

 だが、冷蔵庫の中にある食材は極めて少ない。百人を超えるか超えないかの人数が生活をする鎮守府にとって、食材が少ないことは致命的な問題だった。

 少し考えた結果、水月は白味噌と魚の刺し身、ほうれん草を冷蔵庫の中から取り出し、常温保存可能な食材が入っている棚からじゃがいもとたまねぎを取り出した。それらを調理場に並べ、必要な鍋やらフライパンやらを用意する。

 水月は分厚いコートを近くのハンガーに掛け、エプロンと三角巾を身に纏い、料理を始めた。


 しばらくして、水月は完成した料理を皿に盛り付け、炊飯器の中の白米を茶碗によそい、料理を終えた。それらを盆の上に並べ、最後に湯飲みの中に水を注ぐ。これで、朝食の準備は終わった。

 すると、そこへタイミング良く妹の冥月がやってきた。目の前の妹はまだ眠そうにあくびをし、目を擦っている。


 「水月姉さん……おはよう……ございます……」

 「おはよう。さっき朝食を作り終えたから冷めないうちに食べましょうか」

 「はい……」


 冥月は眠そうにしながら食道内に点在する席の一つに座る。水月は妹の分の食事を持ち、そこへ運んだ。そこで、やっと冥月は目を覚ました。


 「え、これって姉さんが自炊したの?」

 「さっきもそう言ったでしょ」


 冥月は何気ない姉の言葉に困惑し、前に置かれた朝食と姉の顔を交互に見る。その頭は、七分の疑問と三分の困惑が占めている。

 そんな妹を気にせず、水月は手を合わせ、先に朝食を食べ始めた。初めての自炊にしてはできた方だと思い、体が栄養を摂取しやすいようよく噛んでから胃の中に放り込む。

 冥月は口を開けつつも、朝食が冷めてしまううことを失念していたことに気がつき、少し遅れて食事を取り始めた。


 やがて、姉妹は朝食を食べ終えた。手を合わせた後、水月は使用した食器を洗うために厨房に戻ろうとする。だが、冥月は姉の方を掴み、それを止めた。


 「水月姉さん、食器洗いまではしなくて大丈夫です。そこにある返却口に戻すだけですから」


 水月は妹の言葉に戸惑う。厨房には人がおらず、誰が片付けをしてくれそうな雰囲気ではない。だが、どういうわけか肩を掴む妹からは、その言葉が真実であるという圧が感じられる。

 水月は何も言わず、妹の言葉を信じて食器返却口に使用した食器を置き、妹と共に食堂を後にした。


 食堂をでてすぐのことだ。姉妹がこちらに向かって歩いてくる二人の女に出会ったのは。二人の女は軍服こそ同じものを着ているが、その色は黒と灰とで別れている。髪型はポニーテールで統一されているものの、その色は黒と蒼とでこれまた別れている。

 妹の方は二人のことを知っているが、姉の方は二人のことを知らない。ただ、容姿と軍服を見るに、二人が姉妹関係にあるということは感じ取ることができた。

 こちらに向かってくる二人の女は、目の前にいる冥月と、もう一人の女の姿を見て自然と口角を上げた。


 「やっと復活ね。こちらとしても待ちくたびれたわ」


 黒髪の女はそう言うと、後ろに控える蒼髪の女と共に冥月の前に立ったかと思うと、拳を冥月に向かって差し出す。この意図を理解している冥月は、差し出された拳に自身の拳を合わせる。


 「久しぶりね、紀龍」

 「そっちこそ、愛しの姉が復活したようで何よりよ」


 紀龍と呼ばれた黒髪の女は、清々しいほどの笑みを浮かべている。一方でその笑みは掴みどころがなく、内心を読み取りにくい。

 水月は困惑するも、目の前の妹と女の仲を見る限り、竹馬の友とも言っていいほどの良好な関係が伝わってくる。その絆は、簡単には断ち切れないだろう。

 ふと、女は水月に目を向けた。水月は一瞬警戒心を顕にするも、ここが鎮守府で、目の前の女は仲間であることを思い出し、警戒心を解いた。

 女は水月の前まで歩いてくると、海軍の敬礼を取る。


 「紀龍型重巡洋艦一番艦 紀龍です。地下格納ドッグで隣だったので、あなたのことはよく覚えています」


 紀龍は掴みどころのない笑みを放ちながら言う。だが、水月はそれよりも紀龍の放った言葉に引っ掛かる部分があった。

 兵器時代、確かに地下格納ドッグに格納されてはいたが、隣に誰がいたのかまでは覚えていない。深く、暗い地下格納ドッグという特徴を踏まえれば、覚えていなくても当然のことかもしれないが、人工知能として存在していたために絶対に覚えていないことはないはずだ。

 少し考えても、水月は紀龍のことを思い出すことができなかった。それを察してか、紀龍は少し笑っていた。


 「覚えていなくて当然ですよ。だって、当時の私は黒塗りの塗装を施され、艦全体の電源を切っていたので、人工知能のしての私も確認できなかったはずですから」


 紀龍の言葉で、水月はなぜ紀龍を覚えていなかったのかを理解する。艦全体の電源を切っていたのなら、人工知能としての通信は行えないからだ。

 それを見ていた蒼髪の女は、後ろで口元を手で押さえながら笑っていた。その隣では、妹が苦笑しながらこちらを見ている。


 「亰龍、何を笑う必要があるのよ?」

 「いや、紀龍姉が思ったよりも水月さんを誂うものだからつい」


 亰龍と呼ばれた蒼髪の女は、依然として笑いながら姉と会話する。その感情は単純なもので、とても理解しやすい。

 一方、姉の紀龍は軍帽越しに頭を掻いている。妹に呆れているのか、それとも水月への少しの誂いが伝わってしまったからなのかは分からない。

 だが、水月は満更でもなかった。こうやってかたての仲間と肩を並べ、こうしたくだらない話をするだけで幸せだと感じられた。その時間が永遠に続くことを祈るほどに―――

 

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