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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第三次龍鬼戦争
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第七十三話 未知の侵略 (完全版+α)

 戦争とは何が起こるか分からない。たった一秒の時間が、判断が、全てを大きく変えてしまうのだ。

 それが良い方向に転がれば良いだろう。だが、悪い方向に転がった時、それは血の雨を降らすことに繋がる。それは、絶望と死が生み出す死の楽園であり、無限に続く絶望の穴の入り口だ。

 それに耐えられるかは、神のみぞ知ることだ。

 時は遡り、司令官が海上部隊、及び潜水艦隊を出撃させた直後へと戻る。艦隊を見送った司令官は、転移霧を用い、執務室へと即刻帰還する。

 執務室へと帰還したら、即座に無線機の配線を操作し始めた。万が一、艦隊から緊急事態を知らせる信号が送られてきた場合、一刻も早く、それに気づくためである。

 しかしながら、これが意味を為すのか為さないのかは、疑問が残った。もし、艦隊の通信が遮断、妨害されてしまえば、この無線機は何の意味も為さない、ただの大きな箱と化してしまう。

 それでもなお、万が一の可能性がある以上、司令官はやるべきことをやるだけだった。


 やがて、執務室には、蜘蛛の巣ように配線が張り巡らされた。下手をすれば足に絡まりそうな量の配線は、執務室に運び込まれた様々な機材へと繋がっている。

 それを手伝った冥月は、目の前に広がる異様な光景に、何とも言えないと心無関心の間に心境があり、言葉を出せなかった。

 しかし、司令官がここまですることは、異例中の異例だ。これが決戦時ならまだしも、通常の出撃において、これほどでの警戒を張ることは、これまでに一度もなかった。

 だからか、僅かに興味があり、冥月はそれを聞いてしまった。


 「元帥、どうしてこれほどまでの配線を?」

 「何か、嫌な予感がする。それだけだ」


 冥月の問いに、司令官はただ一言、そう言った。司令官の感じる悪感というものは、常日頃から的中してしまう。それほある意味、司令官の優秀さを示していた。


 それから数分が経過した頃、執務室の扉が叩かれた。清掃班の掃除が終了したのかと思い、司令官は入出許可を出した。

 だが、目に入ったのは、予想もしない光景だった。執務室に入ってきたのは、紫桜だった。確かに、本日帰還予定だった紫桜だが、まさか、ここまで早く帰ってくるとは思わなかった。

 紫桜は執務室に入るなり、蜘蛛の巣のように張り巡らされた配線を見て溜息をついた。司令官がこんなことをするのは、何か悪感を感じた時しかないからだ。


 「司令官、何かあるのですね」

 「ああ、救援要請のあったバルパライソに向け、陸上部隊と海上部隊を送り込んだ」

 「そこに、悪感を感じると」

 「ああ、俺の思い違いであって欲しいがな」


 司令官はそう言うと、手元にある無線機のつまみを回した。しかし、無線機が捉える周波はどこにもない。そこに広がるのは、雑音に満ちた世界だ。

 一方、紫桜も胸の奥が揺さぶられているのを感じた。これまでに感じたことのないこの感覚の正体は、紫桜には到底分かり得ない。

 鎮守府は沈黙している。清掃班が発していた掛け声さえ、今は聞こえなくなってしまった。空は雲行きが怪しくなり、光を全て遮った。

 海は荒れ、常時よりも波が高くなっているのが確認できる。明るく、穏やかだったころの姿を隠し、今は髪を乱れさせ、怒り狂っている。

 風は吹き荒れ、鎮守府正面に存在する森を激しく揺らしている。木々は怯え、何かを鎮守府へと訴えようとしている。

 そして、事態は動き始めた―――


 ―――突如として感じた圧迫感。それは、空気が激しく揺れた音だ。鎮守府の窓ガラスは悲鳴を上げて割れ、外付けされていた時計の針は、踊り狂った。

 紫桜は、胸の奥にあった悪感が本当であったと確信した。この空気の揺れといい、どこからか感じる強い気配といい、全ては未知のものだ。

 司令官立ち上がり、背後の床に散乱したガラス片を拾い上げた。それは、美しいほど綺麗な状態で、砕け散っていた。

 その時、割れた窓枠を突き破り、一人の女が執務室へ飛び込んできた。女は受け身の体勢で執務室を一回転がると、その反動を利用し、立ち上がる。

 女は鎮守府の主の方を向く。そして、鎮守府の主は、女が何者なのかを理解した。


 「白蓮、外で何があった?」

 「私にも分からない。分かるのは、明らかに吸血鬼ではない、何かが現れたということ」


 執務室に飛び込んだ女は、白蓮だ。鎮守府の主と交わす言葉には、普段感じられる穏やかな雰囲気は、一切排除されている。事態はそれほど深刻らしい。

 すると、白蓮に続くかのようにして、破壊された窓から、またもや一人の女が入ってきた。その女は、鎮守府の主が一番知っている顔だった。


 「霊花、どうしてお前まで」

 「叔父上、緊急事態じゃ。とりあえず外を見てみよ」


 孫娘である霊花の言葉に促され、司令官は体を窓から乗り出し、灰色に染まった空を見上げた。しかし、そこには何も存在していない。

 だが、霊花の言うことだから、何かあるに違いないと、龍双眼を発動させ、鎮守府から街までを探知する。

 そして、鎮守府の主は驚愕した。龍双眼が捉えたものは、雲に溶けいるようにして、街の上空を浮遊する、見たことのない、巨大な飛行物体だった。側面には大砲が何十門と取り付けられ、それは、飛行船艦と言っても良いほどだ。

 だが、飛行物体の異常性はそれだけではない。現代で言うならば、それは隠密機能を備えた戦闘機のようなものだろうか。

 しかし、それは電波探知機に捉えようとした場合の話だ。目視では、確実に発見できる。それに対し、飛行物体は、龍双眼で確認しなければ、視認することができない。それはまるで、透明化能力を持っているかのようだ。

 驚愕する鎮守府の主を前に、白蓮は再び口を開いた。


 「既に、街では被害が出ています。あの飛行物体から下りてきた何かによって」


 白蓮の言葉に、鎮守府の主は言葉を詰まらせた。喉元まで昇った言葉は、職業病とも言える言葉。いつものように、我が子とも言える者達に言い続けた言葉。それは、今回は関係ないものだ。

 しかし、その喉まで昇った言葉を出させるべく、紫桜が動いた。


 「司令官、指示をください。人間を守るのが、今の我々の契約事項です」

 「しかし、今回の相手は未知のものだ。それに加え、敵は吸血鬼ではない。人間に任せていいだろう」


 司令官は、今回の件に関与しないつもりのようだ。契約と無関係なことをするよりも、この場の命を優先するつもりのようだ。白蓮と霊花も、それに同意していた。

 だが、紫桜が一枚上手だった。


 「私たちの生活を支えてくれた者を、このまま見殺しにするのですか?」


 たったそれだけだった。その言葉は、紫桜が放つ特有の威圧感に乗せられ、言葉の重みを感じさせる。事実、鎮守府の生活は、龍族を信用してくれた町の人々の善意によって成り立っていた。それは、司令官が一番分かっていたことだ。

 しかし、その一方で、司令官は常に葛藤していた。無関係な者だと分かっても、それでも、祖国を滅ぼした種族には変わりないと、溢れ掛けた殺意に蓋をしていた。

 司令官は利用していた。人間の善意と言うものを。それは、かつての人間が行ったことと同じだと、今ここで気づいた。だからこそ、退路は既に塞がれていると、理解した。


 「……至急、出撃可能な者を集めろ。我々も動く」

 「了解しました。では、正面玄関広間にてお待ちしております」


 司令官の指示を受けた紫桜は、冥月を連れ、執務室を後にした。それにより、執務室に残されたのは、司令官を含め、三人だけとなった。

 決して口を開こうとしない沈黙の時間。それは、心臓の鼓動さえも、聞こえてくるほどだ。

 その空間の中、司令官は思い悩んでいた。また、家族同然の者達を失うのかもしれないのかと。ここに来るまでに、多くの者が、契約のために命を落とした。本来ならば、自らがその立場を変わってやりたいと思うほどだ。

 しかし、司令官もとい、暁翠には力がない。龍との力の融合が、不完全なもなだったからだ。幼少期から病弱だった体を動かすには、龍の力の大部分を、生命維持に回さなければならなかった。そのため、暁翠は戦闘に出られなかった。

 それでもなお、せめて苦労は共にしたいと、心身を削るほどの修行を行ったことは、今もなお記憶に染みついていた。

 机に手をつき、下を向く叔父の姿に、霊花は呆れ顔で言った。


 「叔父上らしくないのう。妾が幼き頃は、あれほど熱心に構ってくれたというのに」


 孫娘の言葉に、暁翠は過去の日を思い出させられる。まだ、幼かった霊花に、護身術を教えたのは、紛れもない自分だった。時には優しく、時に厳しく接した日々は、昨日のように思えた。

 しかし、次の瞬間、突如として白蓮が、暁翠目掛けてトンファーを投げつけてきた。暁翠はそれを既のところで受け止め、机の上に置いた。


 「白蓮、どういうつもりだ」

 「どうもこうも、今の攻撃を見て何か思い出さない?」


 白蓮の問いに、暁翠はまたもや過去の日を思い出す。それは、国を去ってから、中国が清であった頃、繁華街の表裏店で看板娘をしていた白蓮と共に、修行を行った時のことだ。

 当時、白蓮は今のように不意打ちをするような者ではなかった。真正面から、正々堂々、敵を叩き潰す戦い方をしていた。

 それが原因なのか、度々、力が劣っているはずの暁翠に敗れることがあった。白蓮は実力不足だとして、厳しい修行を積んでいた。それでもなお、白蓮の力は伸び悩んでいた。

 そこで、不意打ちの助言をしたのが暁翠だった。最初こそ違和感を感じていた白蓮だったが、やがて、継続的な修行と不意打ちにより、白波とほぼ互角に渡り合えるほど強くなった。

 暁翠は、無意識の内に、誰かを育てていた。それが助けになった者は、目の前の二人だけではなく、死んで逝った旧大龍帝国の剣士達、そして、この鎮守府に住む者達や、妻である水月も暁翠の教えを受けた。紛れもないそれは、暁翠の努力の賜物だった。

 それを自覚した暁翠は、腹を括った。白霧で自らを包み込み、一瞬、執務室から姿を消した。そして、霧が晴れた時、暁翠は全身を鎧で固めていた。


 「あなたのその姿、久しぶりに見たわね」

 「ああ、埃をかぶったまま、私物置場に眠らせておくはずだったが、お前達のおかげで目が覚めたよ」


 暁翠の姿は、もはや司令官としての原型を留めていない。重厚感のある青銅色の鎧は、質の良い龍鋼材で造られたものだ。そして、その肩の部分には『吸血鬼殺し』の紋様が刻まれている。

 それを見た霊花は、僅かながら微笑んだ。叔父が戦場に出るならば、鎮守府の戦士達の士気も向上すると確信した。

 暁翠は鎧の状態を確認し終えると、二人に向かって言った。


 「お前達もついてきてくれるか。今回の戦いは、あいつらだけでは対処できない可能性が高い」


 暁翠から掛けられたのは、この戦いへの参加要請だった。無論、二人にも自分たちの生活を守らなければならない。ここで断る理由は、どこにもなかった。


 「お望みのままに。吸血鬼殺しの英雄よ」

 「断る理由など、どこにもない」


 二人の承諾を受け、暁翠は、執務室の扉を開いた。目の前には、一階の玄関まで直通する階段が存在している。それを下れば、戦場へ一歩近づくことは明白だ。

 しかし、執務室を出た三人には、そのような弱音は通用しない。守るべきもののため、三人は前進するのだ―――




 鎮守府正面玄関広場には、武装を終えた者達が集まっていた。これから始まるであろう、未知の存在との戦いに、不安が残るところがあった。

 その例として、海龍の姉妹の多くが、不安に支配されていた。これまで経験したことのない陸上戦に、対応できるかどうか分からないからだ。さらには、姉が不在ということも重なり、不安は増すばかりであった。

 その一方で、腹を括っている者もいた。元より気が強い者達が主だが、元より気の弱い者も、第二の故郷である鎮守府を守るため、自らを鼓舞していた。


 やがて、鎮守府本部の階段から、鎧に身を包んだ一人の男が下りてきた。その後ろには、戦争が終ってからの一年間で、何度か見たことのある顔の物もいる。

 男は鎮守府本部の玄関から一歩踏み出したところで止まり、グレートヘルムのバイザー部分を開いた。戦士達がそこで見たものは、鎮守府の主の顔だ。


 「お前達、先ほど紫桜から伝達されたように、謎の街に超大型飛行物体が飛来した。そこから解き放たれた謎の存在により、街は壊滅的被害を負った」


 鎮守府の主の言葉に、一部の者はざわついた。この短時間で、街を破壊した謎の存在に、今の実力で勝てるのかという疑問が浮上した。

 無論、鎮守府の主は、このざわめきが生じることを予想していた。無理もない。陸軍の者はともかく、海軍の者は陸上での戦闘経験がないのだ。

 だが、ここでこ行動に出なければ、被害は確実に広がる。そして、ざわめく声を掻き消すように、鎮守府の主は言葉を続けた。


 「勝てるか勝てないかではない。守るんだ。第二の故郷である鎮守府を。我々を差別せず、良くしてくれた人々を」


 その言葉により、ざわめきは消えた。その言葉は、あまりにも重かった。そして、戦士達に、覚悟を決めさせるには十分な言葉だった。


 「今は、辛く苦しいかもしれない。だが、これを乗り越えた時、美しいと思える世界が広がるはずだ。だから……」


 鎮守府の主の言葉は、激励の言葉へと移ろうとしていた。それは、本来ならば、戦士達の士気を上げるはずだった。しかし、何事も上手くいかなず、常に理不尽の雨が降り注ぐのが、この世界の鉄則だ。


 ―――鎮守府の主の背後に現れたそれは、誰も認識できていなかった。鎮守府の主である、暁翠よりも、高い空間認識の能力を持つ霊花でさえ、それを認識するのに時間が掛かった。

 そして、その場の全員が、それを認識できた時、鎮守府の主は爆発とともに吹き飛ばされていた。その爆発は、これまでに見たことのない、金色の光を放っている。異常なのは、明らかだ。

 その次の刹那、気づいた時には、鎮守府はそれと同じ何かによって、取り囲まれているのが分かった。それらは、腕に金色の光を放つ武器を装備し、それを発射状態にしていた。

 その場に集っていた、鎮守府の戦士達は、即座に反撃しようと、武装の遊撃命令を出した。しかし、武装の稼働は、それらの攻撃よりも遅い。

 そして、金色の光は、正面玄関広間に集った鎮守府の戦士達に向けられ、放たれた―――


 ―――着弾と同時に発生した爆発は、鎮守府正面玄関広間を包み込んだ。その光景さ、まるで爆撃が行われたかのようだ。

 それを行った張本人である、鎮守府を取り囲んだ謎の存在達は、嘲笑していた。

 謎の存在は、全て同じ容姿をしていた。その他にも、武装、衣服、髪型まで、さまざまな点が共通している。

 何よりも特徴的なのは、肌に金色の線が刻まれていることだ。それは、顔、腕、足など、さまざまな箇所に刻まれている。まるで、ナスカの地上絵の一部を写したようだ。

 謎の存在達は、鎮守府が壊滅したと見て、別の場所に移動するべく、装着していたジェットパックを起動させ、空へと飛び立とうとした。

 しかし、次の瞬間、煙の中から古龍が飛び出した。古龍は重力装置腕改(グラビティアームⅡ型)で一体の存在を拘束し、そのまま地面へと叩きつけた。

 だが、その時既に、存在達が古龍へ向け、金色の砲弾を放つ準備が整っていた。鎮守府の金網で造られた壁の上に立つ古龍は、体勢を崩しており、この攻撃を躱せないと踏んだ。

 しかし、次の瞬間、煙の中から無数の砲弾が撃ち出された。それは、不規則なもので、存在達は回避に徹するしかなかった。

 存在達は回避際、煙の中に金色の砲弾を撃ち込んだ。それは煙の中へ向かって一直線に突き進む。

 しかし、砲弾が爆発したのは、煙の表面上だった。あまりにも不自然なことに、存在達は何が起こったのかを理解した。

 爆発が煙を払い、そこに現れたのは、巨大なレーザーの盾。それは、鎮守府正面玄関広間を包みこんでいた。

 攻撃が終わると同時に、レーザーの盾が消え、自走対空砲が宙に浮かぶ存在達に目掛け、弾丸を撃ち出す。

 存在達は、弾幕を軽々と回避する。しかし、そこに邪魔を入れるのが、古龍だった。重力操作機構を用い、一定時間の飛行を実現した古龍は、重力装置腕改で存在を捕らえると同時に、地面へ向かって叩きつけている。

 地面に叩き落された存在に待つのは、地上に立つ戦士達の攻撃だ。決して連携しているとは言えない攻撃だが、複数の高ぇきを避けきるための空間が、そこには存在していなかった。

 先手を取ったのは、これまで実戦を経験したことのない龍旭だった。日頃から訓練してきた槍の突き出される速さは、龍城が刀を振り下ろす速度にも劣らないほどに速い。

 存在はその攻撃を回避することができず、脇腹に槍を突き刺されてしまった。

 しかし、龍旭の攻撃はそれだけでは終わらない。華奢な体からは想像がつかないほどの筋肉が隆起し、槍で突き刺した存在を、宙に投げ飛ばした。


 「氷月、やっちまえ!!」

 「了解、叩き潰す!!」


 存在の吹き飛ばされた先にいたのは、流月の力を借り、宙へ飛んだ氷月だ。その手には、金砕棒が握られております、既に振り下ろしの体勢に入っていた。

 存在は回避しようとするも、龍旭に貫かれた槍がジェットパックの噴射口にも届いていたため、体を制御することができなかった。

 その直後、氷月の金砕棒が、存在の頭を捉えた。存在の頭は爽快なほどに吹き飛び、地面へめり込んだ。

 しかし、氷月は不自然なものを目にした。首を飛ばした存在の断面からは、機械のような何かと、激しく飛び散る火花が見受けられる。


 「皆、奴らは、人間じゃない!!」


 氷月は、下にいる者に向かってそう叫んだ。

 それを聞いた戦士達は、まだ無数にいる存在への認識を変えた。奴らは簡単に倒せるないと確信し、貫通の見込める徹甲弾の射撃に切り替えた。

 だが、存在の脅威はこれだけに留まらない。どこからか現れるのかは知らないが、先ほどから数の減る気配が全くない。

 このままでは、いつまで経っても街の救援に行けないと判断した鎮守府の主は、どこからか取り出した転移霧の小瓶を、宙へ向かって放り投げ、叫んだ。


 「戦艦隊、鎮守府を離れても良い者は転移霧を使用し、街へ向かえ!! ここは俺達が何とかする!!」


 その声は、空気を震わせるもの。そして、その指示は全体に届くものだ。戦艦達は鎮守府の主が投げた小瓶を受け取り、一斉に安全装置を解除した。途端、白霧が発動者を包み、指定の座標へと転移させようとする。

 その直後、鎮守府を離れ、街に蔓延っているであろう存在の排除を行う者が、近くの白霧の中へ飛び込んでいった。

 しかし、転移が完了する直前で、一体の存在が、無数ある白霧の内の一つに、金色の砲弾を撃ち込んだ。

 結果、発動者である龍闢は、白霧の中から吹き飛ばされてしまった。直後、白霧が消え、龍闢を除く戦艦は、全て街へ向かってしまった。

 しかし、龍闢は臨機応変に対応した。転移できなかった怒りもあるだろうが、瞬時に攻撃を行った存在を見抜き、槍でその頭部を貫いた。

 その一方で、一部の者は安心していた。一人でも準戦艦級の戦力が残ってくれるのならば、防衛は安泰だと感じることができた。


 そこからは、血で血を洗う戦いが繰り広げられた。存在は無尽蔵に現れ、攻撃が絶え間なく続いた。

 しかし、鎮守府の戦士達も負けてはいない。戦士達や白蓮、暁翠が前線で存在を破壊し、霊花が援護射撃を加える。この構図は完璧なものであり、戦力は均衡状態にあった。

 やがて、戦いは鎮守府の敷地内に収まらず、隣にある国道にも広がった。いや、むしろその方がよかった。鎮守府の敷地内だけでは、大きな一撃を受けることにより、全滅する可能性があったからだ。

 そんな乱戦の中、また一体、宙へと投げ飛ばされた存在があった。存在を吹き飛ばしたのは、龍闢だった。


 「一体、そっちに飛ばしました!! 対処をお願いします!!」

 「オーライ、任された!!」


 龍闢の飛ばした存在へ、流月が徹甲弾を放つ。しかし、存在達も学習しているのか、その攻撃を軽々と躱した。

 さらに、宙で自由落下している状態から、金色の砲弾を流月に向けて放った。流月の機動力では、その速さの砲弾を避けきることはできない。だが、生きるためには、全力の回避を行うしかなかった。

 しかし、次の瞬間、金色の砲弾は空中で爆発した。それと同時に、自由落下する存在も何かの攻撃を受け、損傷を負った。

 ふと、横目で隣を見ると、そこには、魚雷を手に持った冥龍がいた。


 「流月さん、油断しないでください!! いつまで守りきれるか分かりませんから!!」


 冥龍はそう言い、再び宙いる存在へ向け、魚雷を投擲する。無論、それらが軽々と躱されてしまうことは目に見えている。しかし、海蛇と呼ばれ、恐れられた海龍型が単純な作戦を使うわけがない。

 次の瞬間、存在の背中に何が命中し、爆発を起こした。存在は振り向き、爆発物を飛ばした者を確認する。

 そして、見つけた。爆発物を投擲した者は、先ほど魚雷を投擲した女と全く同じ服を着た女だった。

 しかし、それを確認している内に、今度は存在の腹が爆発した。それは、魚雷による攻撃だった。

 存在を翻弄する海龍姉妹は、全体で連携を取っていた。慣れない陸上戦だからこそ、そうするしかなかった。


 「葛龍姉さん、そっちに注意が向いていません。攻撃をお願いします」

 「了解。すぐに魚雷を撃ち込む」


 冥龍から報告を受けた葛龍は、即座に存在の背後に回り込み、魚雷を投擲した。魚雷は存在に命中し、多少なりとも損傷を与えた。

 その直後、淹龍が存在の側面目掛けて、魚雷を投擲した。その魚雷は存在のジェットパックに命中し、破壊した。

 ジェットパックの破壊により、存在は飛行することができず、地面へと衝突した。それと同時に立ち上がり、地上線への対応を行おうとする。

 しかし、存在は既に背後を取られていた。背後を取ったのは、淳龍だった。淳龍はそのまま、双剣で存在の首を斬り飛ばした。


 「淳龍、お手柄ね」

 「いえ、淹龍姉さんの攻撃がなければ仕留めきれていませんでした。ありがとうございます」


 淳龍は感謝の言葉を述べ、即座に他の存在の対応へ向かった。淹龍も同様に、存在への対応を行うべく走り出そうとした。

 しかし、次の瞬間、突如として上から誰かが伸し掛かってきた。そのまま地面に押し倒され、強い衝撃と圧迫を受ける。


 「ごめんなさい。大丈夫?」


 淹龍は、心配される声を聞いた。それと同時に、伸し掛かってきた誰かは即座に立ち上がり、淹龍へ手を差し伸べた。

 淹龍は手を掴み、相手を見た。意外なことに、伸し掛かってきた誰かは、城月だった。


 「私は大丈夫。それよりも、あなたが吹き飛ばされるなんて、少し意外だわ」

 「悲しいけれど、私は幻月ほど体が強くないのよ」


 城月はそう言い、宙を飛ぶ存在目掛け、徹甲弾を放つ。徹甲弾は存在のジェットパックに命中し、地面へと墜ちた。

 淹龍はそれを見て、こんなことをしている場合ではないと、次の標的を破壊するべく、走り出した。


 淹龍が城月と話した数秒で、戦況は大きく動いていた。無尽蔵に現れる存在の数が、徐々に落ち着きつつあった。それもあってか、戦士達の対応速度も、先ほどより向上していた。

 飛行する存在は、海龍姉妹が魚雷を投擲し、徐々に戦力を削いでいった。逆に、地上戦を仕掛ける存在は、陸軍の者達や神龍姉妹、風龍姉妹が対応を行っている。


 「鳳龍、そっちに一体行きよった!! 対処を頼む!!」

 「神龍姉様の仰せのままに!!」


 神龍の指示を受け、鳳龍は近辺に飛来した存在へ攻撃を仕掛けた。初手は主砲で牽制し、直後、存在へ向かって薙刀錫杖の横薙ぎを見せる。

 しかし、主砲で牽制したのにも関わらず、存在は軽々と攻撃を躱した。そして、刹那の間に、鳳龍の脇腹に蹴りを入れた。その蹴りは、鳳龍の肋骨を砕いた。

 それにより、鳳龍に大きな隙が生まれた。存在は金色の砲弾を放とうと、距離を取るために後ろに飛ぶ。

 しかし、次の瞬間、距離を取ろうとした存在に、日龍が襲い掛かった。日龍は既に短剣を抜いており、瞬時に存在の片腕を斬り裂いた。


 「これ以上、私達から仲間を奪うな!! 風龍姉さんだってあの世で悲しむ!!」


 日龍はそう叫び、さらなる斬撃を繰り出す。その速さは、これまでに類を見ないほど速かった。

 しかし、無情にも、半ば怒りに呑まれてしまった日龍の攻撃は、存在に命中することはない。その余裕から、存在は日龍を嘲笑いさえした。

 だが、直後、何か冷たい感覚が、存在の背を駆け巡った。日龍の斬撃を躱すと同時に、全力で横へ飛んだ。

 次の刹那、凄まじい斬撃が存在の脇腹を掠めた。攻撃の主は、火龍だった。その瞳の奥には、黒く燃える憎悪の炎が垣間見える。

 短刀を振り終えた状態の火龍は、即座に体勢を立て直し、回避を取った存在へ追撃の一撃を打ち込む。その速度は、まさに電光石火。その攻撃を、存在は避けきれない。

 次の瞬間、両者の間に凄まじい火花が散る。存在は、電磁砲を犠牲にすることで、火龍の攻撃を防いで見せた。

 しかし、想定外だったことが一つだけあった。それは、火龍の短刀を押し込む力が、想像以上に強かったことだ。


 「何で生きてるのよ。その汚い命は、一刻も早く業火に焼かれた方が良い。それが、地球のためよ」


 火龍は、温度を孕まない言葉を放つと同時に、短刀を押し込む力を強める。無論、存在はそれに抗おうと、必死になってそれを止めようとする。

 しかし、存在は忘れていた。ここは、道路とは言え、敵の本拠地の目の前。そこにいるのは、何か大切なものを失い、怒りを顕にする怪物だということを。

 そして、存在の背後には、またもや一人の女が立っている。当たり前だが、女は短刀を握り、斬撃を放つ体勢だった。

 気づいた時には、存在の首は飛んでいた。斬り飛ばされた首と、切断された胴体からは、激しく火花が散った。


 「ありがとう、空龍。助かったわ」

 「火龍姉さん、無理はなさらないでください。私達は、風龍姉さんの仇を取るまで死ねません」


 空龍はそう言い、次の標的を破壊するべく駆け出した。日龍も同じく、近くで仲間と交戦する存在へ狙いを定め、攻撃を仕掛けた。

 存在と戦闘を繰り広げていたのは、岩月と慙月だった。二人は連携を取り、一切の傷も負わず、存在を封じ込んでいた。

 しかし、その分討伐の効率は悪く、時間が掛かっている。存在も余力を残しており、油断できない状況だった

 そこへ、突如として火龍が参戦する。存在は三対一の状況に追い込まれ、余力を維持することができなくなった。瞬時に装甲が削られ始め、体の至るところから火花が散る。

 だが、存在は一方的に追い詰められていたわけではない。虎視眈々と、反撃の隙を見極めていた。

 耐え続け、僅かに見えた三人の僅かな隙。存在は、ジェットパックを用い、瞬時に速度を上げた。

 瞬きする間もなく、三人は存在の突破を許してしまう。慙月が反応し、即座に存在の足を止めるべく、徹甲弾を放とうとする。

 だが、目に映った光景は違った。存在の狙いは本部ではなく、存在を止めようとした自身達への反撃だと。

 その瞳の眼前に映るのは、突き出された存在の指だった。それは、ほぼ零距離と言っても良いもの。回避など、間に合うはずもなかった。

 そして、慙月の眼球を、存在の指が貫き、潰した。反応の遅れた岩月と火龍は、その光景に絶句した。

 その時、二人の脳裏に過ったのは、大切な仲間が葬られる光景だった。また、大切な仲間を失うのかという恐怖が、二人の脳を支配する。

 先に飛び出したのは、岩月だった。普段は使わない忍者刀を引き抜き、存在に斬り掛かる。その攻撃が、存在を捉えられないと分かっても、黙って立っているわけにはいかなかった。

 だが、その攻撃が、存在の動きを一瞬だけ制限した。その隙に、火龍が存在の背後を取った。その動きは、先ほどの存在の動きに匹敵するもの。

 そして、火龍が攻撃を仕掛けようとした時だった。


 「火龍さん、これを使ってください!!」


 突如としてとして、右斜め後方から声が聞こえた。一瞬振り向くと、そこには潤龍の姿があった。それと同時に、視界に映ったものは、二本の魚雷だった。

 火龍は一瞬の内に存在に斬撃を打ち込み、飛んできていた魚雷を手に取った。そして、視界に捉えていた、飛行する存在目掛け、魚雷を投擲する。

 魚雷は存在に命中し、地面へと撃ち落とした。その次の瞬間には、存在は大口径砲の直撃を受け、周囲に体の部品を四散させ、絶命した。

 一方で、岩月達も存在の処理を終えた。とどめを刺したのは、右眼球を潰された慙月だった。

 岩月は、また何もできなかったと、深い後悔に苛まれ、拳を強く握った。


 「私のことは気にしないで。それよりも、戦いはまだ終わっていないわよ」


 残った左目で確認したのだろう。慙月は、ため息混じりの声で言った。


 「分かったわ……ごめんなさい……」


 岩月は、今にも消え入りそうな返事をした。そして、三人は次の標的を破壊するべく、また駆け出した。

 アライアンスの戦士達は、大切なものを守るため、今はただ、戦い続けるしかない。それができなければ、死ぬ以外の道は残されていないのだから―――




 鎮守府の中央では、鎮守府の主を含む主戦力が、存在達と戦っていた。連携というものは存在しないが、それぞれが高い実力を持ち、存在に対し、十分なほど戦えていた。


 「お前達、絶対に油断はするな!! 死ぬぞ!!」

 「「分かっています!!」」


 鎮守府の主は、周囲に集った超戦車達へ向け、油断しないよう声を掛ける。彼女達は、その言葉を守り、傷一つ負うこと無く戦い続けている。

 そして、彼女達の周囲を駆けるのは、白蓮だった。紫桜達が反応するよりも早く、多くの存在の首を潰し、大きな損傷を与えた上で、破壊している。それは、全てが刹那の出来事だ。

 そんな中、変形型龍鋼義手(ディメンションアーム)で存在を捻じ伏せている紫月は、妙な不快感を感じた。胸の奥がざわつき、僅かながら吐き気がする。

 こういう時、紫月の周りでは、大抵良くないことが起こる。烏の屍が頭に落ちてきたり、電車の線路に突き落とされかけたりと、何度か悪いことが起こる前には、必ず胸の奥がざわつく感覚があった。

 しかし、今回の感覚は、何かが違った。吐き気は近頃の睡眠不足もあるかもしれないが、仕事に支障をきたさないよう、氷龍から吐き気止めや頭痛薬は貰っている。最後に飲んでからも二時間ほどしかっていないため、効果が切れたとは考えにくい。

 紫月の隣に立つ夜月は、紫月が何か考え事をしていると見抜いていた。紫月は何か深く考える時、目を大きく開く癖があるため、それはすぐに分かった。

 だが、ここは戦場だ。そんな考え事をしていては、下手をすれば命を落とす。


 「紫月さん、何を考えているんですか? 戦闘に集中してください」


 夜月は、紫月に戦闘に集中するよう言った。

 しかし、紫月はぶつぶつと何かを言いながら、現実を見ていなかった。深く考え入りすぎて、前が見えていなかったのだ。

 夜月は心配するも、目の前の戦闘に集中しなければならず、紫月のことを気にかけている暇は無かった。

 だが、突如として、紫月の考え事は終わりを告げる。


 「つまり、戦闘において何かある。だとしたら……屠月が危ない!!」


 紫月は叫び、次の標的を探していた鎮守府の主の元へ駆け寄った。鎮守府の主は何事かと思い、周囲を警戒しつつ、紫月の話を聞くことにした。


 「紫月、何があった?」

 「確証はありませんが、屠月が危ないかもしれません。私をバルパライソに送ってください!!」


 紫月は、突如としてバルパライソへの転移を懇願した。その表情は鬼気迫るもので、一瞬、鎮守府の主を黙らせるほどだった。

 鎮守府の主は、紫月の悪運が、高確率で当たることを知っている。この状況下で、紫月が戦場を離脱するのは痛いが、前線にいる妹の身が危ないと言うならば、この懇願を断る選択肢はない。

 紫月は、鎮守府の主から小瓶を渡された。その安全装置を瞬時に外し、バルパライソへと転移した―――




 それからしばらくして、突如として戦況は変化した。突如として、存在達が撤退を始めた。アライアンスの戦士達は、何が起こったのか分からず、ただ唖然と立ち尽くすことしかできなかった。

 しかし、旧大龍帝国の首脳だった者達だけは、この状況を見て、警戒を高めていた。

 かつて、大地震に遭った時、何メートルもある津波が陸へ押し寄せたことがある。その前兆として、海岸部からは、一気に海水が沖へと引いていくのだ。それは、この状況とよく似ている。

 波と風の音が支配する空間の中、三人は五感を最大限に引き上げる。そして、常に警笛を鳴らし続けている第六感が、この後の行方を左右する。

 そして、三人はわずか僅かな風の動きを感じ取る。それは、自然のものではない。


 「総員、退避いいいいいい!!」


 鎮守府の主が叫んだ。天地を揺るがすほどの叫びは、アライアンスの戦士達の耳に入った。

 だが、もう遅かった―――


 ――――全てが破壊される爆発音。それと同時に、空気を伝う衝撃波と熱風。それは、この場に立つ一部の者にとって、絶望を告げる鐘となる。

 風圧によって吹き飛ばされたのは、アライアンスの戦士達だけでなく、爆発によって削られた地面の破片と、生暖かい水のようなもの。

 何が起こったのかわからず吹き飛ばされる者。意識を失った者。この爆発は、様々な結末を及ぼした。

 そして、吹き飛ばされた鎮守府の主が再び目を開けた時、広がった光景に絶句することとなる。


 ―――眼前に広がるのは、赤黒く染まった地面と、そこに横たわる、家族とも呼べる大切な仲間。体温こそ残っている肌の色だが、彼女達は指一本動かさない。

 視野を広げてみれば、体の一部を欠損している者もいた。その者の近くには、爆発によって断たれた腕が転がっていた。

 さらに、鎮守府本部の崩れた瓦礫の一部が、仲間を押しつぶしていたことだ。それに加え、爆風で飛んできたであろう鉄柱が、仲間の一人の心臓を貫いていた。

 本当に、何が起こったのか分からない。この一瞬で起こったことは、これまでの戦争で起こったことの常軌を逸している。

 鎮守府の主が戸惑っている中、突如として、爆発音が響いた。周囲を見渡すと、吹龍が建物に手をつき、体を支えながら立っていた。しかし、吹龍は血を流しすぎていた。それこそ、命に届く直前になるほどに。

 その直後、何か鈍い音が空から響いた。空を見ると、プラズマを帯びた赤い巨弾が、こちらへ向けて迫っていた。

 鎮守府の主は、近くに倒れていた怜龍と汲龍を抱え、壁付近まで飛んだ。しかし、そこで始めて気づいた。血を流し、気絶した白蓮が、巨弾の有効範囲内に取り残されていることを。

 鎮守府の主は、即座に白蓮を回収するべく飛び出した。だが、どう考えても、巨弾の着弾まで時間がない。白蓮の救出は、絶望的だった。

 しかし、次の瞬間、先ほどまで倒れていたはずの怜龍と汲龍が、鎮守府の主よりも速く、白蓮の元まで走っていた。二人は白蓮を担ぎ上げると、鎮守府の主目掛けて投げた。

 目に映ったのは、弱々しい海軍の敬礼を送る二人の姿だった。何も言わず、血を流しながら、こちらに向かって敬礼を送っている。その瞳の奥は、なぜか輝いていた。

 そして、次の瞬間には、赤い巨弾が二人を飲み込み、大爆発を起こした。


 鎮守府の主は、白蓮を抱えたまま、鎮守府本部の壁に強く叩きつけられた。しかし、そんなことで気を失うわけにはいかなかった。目の前で巨弾に巻き込まれた二人のことが、とにかく心配だった。

 だが、眼前に映った光景は残酷だった。そこにあったのは、四肢の一部が欠損し、激しい火傷を負った、二人の亡骸だった。よく見ると、動けずにいた吹龍も爆発に巻き込まれ、死亡していた。


 「叔父上……すまぬ。少し……へまをした……」


 突如として、弱々しい霊花の声が聞こえた。声のする方を向くと、そこには、錫杖を地面に突き立て体を支えながら立つ、霊花の姿があった。左目から血を流しているあたり、瓦礫の破片が眼球に傷をつけたのだろう。

 その時、突如として、どこからか笑い声が聞こえてきた。それは、方向からして上空であり、鎮守府の主は視線を空へ移す。

 そこに広がった光景は、謎の存在が、空中で颯龍の首を絞め上げていた。颯龍は必死に反撃しようとしていたが、やがて、窒息によって絶命した。

 鎮守府の主は白蓮を寝かせ、立ち上がった。


 「霊花、白蓮を頼む。ここは俺が引き受ける」


 鎮守府の主はそう言い残し、颯龍を手に掛けた謎の存在存在の下へ、歩いていった。


 謎の存在を前に、まだ命を繋いでいた戦士達は、怒りを瞳に宿していた。まさに今、目の前で仲間が殺され、塵を扱うかのように投げ捨てられたのだ。

 立てる者は立ち上がり、謎の存在へ向け、砲口を向ける。しかし、所詮は出血多量や骨折、人体欠損を負った者達の集まりで、存在を殺すには程遠い。

 中でも、唯一傷が少なかった紫桜は、この状況が深刻であることを見抜いていた。隣に立つ妹や仲間は、立っているのがやっとの状況だった。


 (どうしたものかしら……このまま戦えば、確実に……)


 紫桜は横目で鎮守府本部の壁を見た。そこには、頭部から激しく血を流す氷龍の姿があった。かろうじて立ってはいるものの、その足はおぼつかない。

 しかし、なによりも重要なのが、氷龍が鎮守府の医療の全てを担っているということだ。もし、ここで氷龍が戦死すれば、この場にいる者全てが死ぬこととなる。


 「お前達、負傷者、戦死者を抱えて本部へ避難しろ!!」


 突然として、聞き覚えのある声が響いた。それは、紛れもない司令官の声。気がついた頃には、司令官は紫桜の隣に立っていた。


 「司令官、奴は危険です。ここは私達が……」

 「黙って言うことを聞け。氷龍が死ねば、ここにいる者全てが死ぬことくらい、お前も分かっているだろ」


 司令官の言葉に、紫桜は歯を食いしばった。現実と理想が食い違う中、仲間に頼られるその頭で、最善の策を否定したかった。


 「分かりました……総員、負傷者、戦死者を抱え、本部へ避難、及び治療を行え!!」


 紫桜は、全てを司令官に委ねることにした。

 指示を聞いた戦士達は、動けなくなった負傷者、戦死者を抱え、鎮守府本部へと避難を開始した。

 その様子を横目にしていた司令官は、宙に浮かぶ三体の存在を睨みつけた。

 宙に浮かぶ存在達は、先ほどまでの存在とは何かが違った。武装や、体の紋様から放たれる光からもそうだが、明らかに強さが桁違いだということは、肌で感じることができる。

 すると、突然、存在の内の一体が、司令官を見て嘲るように笑った。


 「貴様の部隊はそれが全てか? 近場の都市にいる生物よりかは強いようだが、所詮は下等生物だな」


 存在の放つ言葉は、地球に芽吹く命を否定する言葉。その言葉は、司令官の頭の奥の何かを刺激した。はっきりと言葉にできないそれは、熱となり、グレートヘルムの中を熱気で満たした。

 司令官はグレートヘルムを外し、近くに投げ捨てた。その次の瞬間には、鞘から剣を抜いた。その行動は、鎮守府の主としてのものでも、司令官としてのものでもない。仲間を失いたくない、暁翠としての行動だった。

 それを見た存在達は、仲間を葬った巨弾を撃ち出す武器を、一斉に作動させた。砲口の周囲には、赤いエネルギーのオーラが集約し、徐々に膨張を始める。

 だが、暁翠とて黙って見ているわけではない。鎧を身に纏った体は、予想に反して神速の動きを見せる。認識する時には、既に存在の目の前まで飛んでいる。

 次の瞬間、暁翠は剣を振り下ろす。それは、中央の存在の右腕を切断した。それにより、仲間を殺した武器を奪い取った。

 だが、それと同時に、存在達は巨弾を放った。空中にいる暁翠は、それを躱すことはできないと分かっている。

 だからこそ、存在の武器を奪い取った。存在の武器は、エネルギーをため続け、巨弾は膨張を続けている。それを二発の巨弾に向かって投げればどうなるかなど、分かりきっていた。

 衝突した三発の巨弾は、先ほどとは比べものにならないほどの爆発と衝撃波を引き起こす。当たり前だが、暁翠は吹き飛ばされ、激しく地面に叩きつけられた。

 暁翠は下半身がコンクリートの地面に埋まるも、敵の生存が確定してる以上、ここで止まることはできないと、瞬時に足を引き抜いた。

 だが、煙が支配する視界の中、突如として一体の存在が姿を現した。その手には、レーザーの剣が握られていた。

 瞬きした時には、剣同士が衝突していた。火花が散り、双方の腕が小刻みに震えている。だが、若干ながら存在の方が力が強い。

 しかし、暁翠とて負けてはいない。戦闘に不向きな体で生まれ落ちたとは言え、人一倍、鍛錬を怠らなかったのだ。そこまでして敗北することは、あってはならない。

 次の刹那、暁翠の剣が弾き返された。剣は上へ上がり、暁翠自身も体勢を崩している。

 存在はこれを好機と見て、その無防備な脇腹目掛けて、レーザーの剣を突き刺そうとした。

 だが、存在が気づいた時、眼前に男の姿はなかった。それと同時に、手先の可動部位が動かないことに気づいた。その原因は、地面に響いた金属音が示していた。


 「朧霧昇嶄。煙を作ったのが失敗だったな」


 背後から、男の声が聞こえた。それは、死を告げる鐘の音だ。言葉はどこか澄んだ一方、激しい怒りを孕んだものだ。

 存在は敗北を知ったと同時に、体を縦に両断された。

 暁翠は刀についた金属片を払うと、どこからか発煙筒を取り出した。それを地面に置き、時限信管を作動させる。

 それと同時に、霧を掻き分け、残っていた二体の存在が襲い掛かってきた。そして、その腕には、発射直前のエネルギーの巨弾が存在している。

 存在達は、迷うこと無く、男目掛けて巨弾を放った。自分達も巻き添えになる一方で、男を殺せると確証しての策だった。

 だが、目にした現実は予想とは程遠いものだった。男は刹那の間に、二発のエネルギーの巨弾を両断した。それに加え、爆発の元となる核を破壊していた。

 その次の瞬間、時限信管を作動させていた発煙筒が起動しや周囲を煙幕で包みこんだ。元より煙に覆われた空間は、さらに煙が濃くなり、視界を遮断される。

 存在達はジェットパックを作動させ、煙幕の支配する空間から抜け出そうとする。

 しかし、それは致命的な判断の誤りだった。煙幕の中、存在は、先を行った仲間が落ちてくる姿を目撃した。仲間の体に、首は存在していなかった。

 この空間にいては死ぬと理解し、存在はジェットパックの出力を上げる。その表情は、先ほどまでのものとは一変し、焦りのものに変わっている。

 そして、煙幕を抜けた瞬間、存在に希望の光が見えた。

 だが、それは一瞬のものだった。目に映ったのは、剣を振り上げた、翼の生えた女の姿。普通なら美しく感じる、女の群青色の瞳は、恐怖を引き立てるだけだった。

 余裕を見せた存在達は、下等種族と罵った相手を前に全滅した―――


 ―――鎮守府の正面玄関広間では、バルパライソから転移し、帰投した艦隊が唖然としていた。視界を包むのは、深い煙幕の壁だった。その奥は、濃い煙によって確認することができない。

 だが、艦隊には急がなければならない理由がある。艦隊全体が怪我を負っているのもそうだが、潜水艦隊がほぼ全滅したことに加え、失血死しかけている者が二名存在する。もたついている時間はなかった。

 その時、突如として煙幕が薄くなりつつあった。その奥には、二人の人影が見える。ゆっくりとこちらに歩いてくる人影の片方は、見たこともない影だが、その気配は、よく知った者のものだった。

 そして、風が煙幕を攫い、姿を見せたのは、暁翠と京華だった。

 暁翠は帰投した艦隊を見るなり、事態の重さを把握した。潜水艦隊が海龍と清龍を除き、この場にいないこと。亰龍と清龍が失血死しかけていること。

 鎮守府本部でも凄惨な光景が広がっていることを考えれば、一刻も早く、現実から目を背けたくなる。

 だが、ここで適切な処置をしなくては、救える命も救えない。氷龍が血を流しすぎている今、延命、治療体制がどこまで持つか分からない。


 「京華、転移術式を組め。負傷者を病院へ担ぎ込む」

 「分かりました。二分で支度します」


 京華はそう言い、懐から謎の白粉が入った小瓶を取り出した。それを正面玄関広間に撒き始めた。それは、転移術式を構成するために必要な土台を構成するためのものだった。

 そして、土台が完成した頃、紫桜の独断により救われた陸上部隊が、鎮守府へと帰投した。目に映る光景は目を疑うもので、何が起こったのか想像もつかない。

 だが、それを物語ったのは、正面玄関広間運び込まれる、負傷した仲間達の存在だった――― 

【登場人物】

《旧大龍帝国 首脳陣》

(第二陣武術伝授部門/戦術諜報員)

・旧大龍帝国元五代首脳 龍造白蓮


(軍備管理部門/鎮守府元帥)

・旧大龍帝国元十三代首脳 龍造暁翠


(第二陣妖術伝授部門/慶楼神社管理巫女)

・旧大龍帝国元十五代首脳 龍造霊花


(第一陣諜報部門/鎮守府元帥補佐)

・旧大日本帝国国家元帥 水無月京華


《旧大龍帝国 海軍》

(龍旭型巡洋戦艦)

・一番艦 NB-001 龍旭

・二番艦 NB-002 龍闢


(風龍型駆逐艦)

・三番艦 DF-003 火龍

・四番艦 DF-004 日龍

・五番艦 DF-005 空龍


(神龍型駆逐艦)

・一番艦 DN-001 神龍

・三番艦 DN-003 鳳龍

・七番艦 DN-007 古龍


(海龍型潜水艦)

・二十九番艦 Kz-029 淹龍

・三十番艦 Kz-030 淳龍

・三十七番艦 Kz-037 葛龍

・三十九番艦 Kz-039 冥龍 

・四十八番艦 Kz-048 潤龍


《旧大龍帝国 陸海共同軍》

(戦艦型超戦車/紫桜型超戦車)

・一号車 X-1094 紫桜


(空母型超戦車/紫月型超戦車)

・一号車 Y-1496 紫月


《旧大龍帝国 陸軍》

(軽戦車)

・CK-63汎用軽戦車 岩月

・LK-36汎用軽戦車 慙月


(重戦車)

・攻撃型重戦車 CAL-17  城月


【小ネタ㊴】

今回登場した謎の存在が使用していた武器は、現代では『電磁パルス砲』と呼ばれるものであり、作品内では、それを拡大した物が使用されている。そして、謎の存在達の登場には伏線があるが、回収されるのは、まだ先になるだろう。

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