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少女なる兵器 Act.1〈旧版〉  作者: 深瀬凪波
第三次龍鬼戦争
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第七十一話 海に潜みし怪物 ④

 海上部隊の損害は、突如として、敵戦闘機による襲撃を受けた。その戦闘機は、これまでに見たことのない、アフターバーナーを搭載した戦闘機だった。

 飛来した戦闘機の名はTempest4(テンペスト4)。旧吸血共和帝国が製造し損ねた、試作止まりの幻の戦闘機だ。現代戦闘機の世代に直すのであるならば、2.5世代の戦闘機に分類されるのだろう。

 一方で、アライアンスの最新鋭戦闘機は、アフターバーナーなどの、最新の技術は用いられていない。一番速度の速い水花ですら、そのエンジンは、旧大日本帝国の十九試局地戦闘機 秋水の搭載した、特ロ二号エンジンよりも若干性能が上であるだけで、その違いはほとんど無い。

 現代において、そんな時代遅れの戦闘機を運用し続けていたアライアンスは、戦力を増強させていた吸血鬼に遅れを取ることとなった。その結果が、この有様だ。

 その損害は酷いもので、必ず誰かが小、中破の損傷を負い、龍翔至っては、爆撃により、飛行甲板を完全に破壊されてしまっていた。これが意味するのは、制空権の損失だった。

 だが、何よりも問題なのは、亰龍の失血具合だ。長時間戦闘を続けていた亰龍は、全くもって傷の治療を受けていない。このまま放置すれば、いずれは失血死しかねない状態だった。

 龍造は、判断を誤ったと肌で感じた。想定を、遥かに上回った敵戦力を前に、仲間が傷ついていく姿は、見るに堪えなかった。


 「龍造さん、そろそろ残弾が底をつきます!! このままでは、一方的に攻撃されて死ぬだけです!!」

 「あれから数十分、未だ海龍達から無線が送られてきません!! これ以上、この場に留まるのは自殺行為です!!」

 

 秋龍と疾龍は、悪化する戦況の中で、旗艦である龍造に警告を送った。そこには二つの意味が込められていたが、龍造は撤退をするかどうか、未だに躊躇していた。

 秋龍は歯を食いしばり、最後だった近接信管弾を発砲する。その砲弾は、敵機を捉えること無く、遠くの海上で爆発した。

 残された手段は機銃掃射のみ。それは、数分前に近接信管弾を撃ち切った疾龍も同じだった。だが、機銃掃射が当たるかと言えば、当たらないだろう。敵機は、その気になれば艦隊を瞬時に壊滅させることができるのだから。


 直後、敵機から一発の対艦誘導弾が放たれた。それは秋龍に向かい、軌道を修正しながら突き進んでくる。敵機は元より音速を出している。その速さも加わり、対艦誘導弾は絶対に躱すことができなかった。

 そして、対艦誘導弾は着弾した。凄まじいほどの爆発が起こり、爆煙が周囲を包み込む。

 だが、対艦誘導弾が捉えたのは、秋龍ではなかった。そして、秋龍は目の前の光景に絶句している。その目が捉えていたのは、左舷艤装を完全に破壊された嶄龍だった。その腕には、破壊された艤装の破片やら砲身やらが突き刺さっていた。


 「嶄龍さん……私のせいで……腕が……」


 秋龍は自身を責めた。油断しなければ、もう少し周囲を警戒していれば、こんなことにはならなかったはずだと、心の底から深くそう思った。

 しかし、嶄龍は首を横に振った。それどころか、振り向き、秋龍に優しい眼差しを向けて言った。


 「安いものよ。腕の一本や二本くらい。私は被弾個所を選べたし、耐えきれる自信があった。それに、あなたの命を失う方が、これよりも痛い」


 嶄龍の言葉に、秋龍は救われたような気がした。

 しかしながら、秋龍も、嶄龍も、事の重大さは理解していた。刀を扱う斬龍姉妹にとって、刀を振るための腕は命の次に重いものだ。左腕が使えなくなったことは、一刀流の彼女にとって、攻撃手段の損失を意味する。

 しかし、嶄龍はこの選択を後悔していなかった。先ほどの言葉は全て本心であり、変わらない事実だった。


 だが、この時、亰龍の視界から見る世界は歪んで見えていた。血を流しすぎたのだ。止血帯を巻いたからと言って、血が止まるわけではない。そして、亰龍があの怪我を追ってから、十分なほど時間が経過していた。

 そして、失血から亰龍は体勢を崩した。その場に倒れ込んだ亰龍は、敵機からすれば絶好の獲物だった。瞬時に敵機が群がり、複数の対艦誘導弾を発射する。

 龍造はその事実に気づき、亰龍の元へ走りながら、全力の機銃掃射を行う。運よく、機銃掃射によって、対艦誘導弾を数本減らすことができた。だが、それでもなお、残った数本の対艦誘導弾は、亰龍に向けて突っ込んでいく。


 「亰龍!!」


 龍造は叫んだ。だが、その声は虚しく空に溶けるだけだ。機銃掃射の弾幕は、対艦ミサイルを捉えることはない。亰龍の死は、避けられないものとして目に映った。


 ―――突如として、対艦ミサイルは空中で爆発四散した。何が起こったのか分からず、その場の全員が目を丸くした。

 だが、耳を澄ませてみると、飛び交う敵機のジェットエンジンの音に混ざり、微かにレシプロ機のエンジン音が聞こえてくる。

 艦隊は、音のする方向を見た。そこには、敵機に紛れ、瑠璃色の塗装の上から、満月の紋様が描かれた、三機の水上戦闘機が飛行していた。


 「五式水戦、どうしてこの場所に……」


 龍翔が驚くのも無理はない。敵機と選択を繰り広げるのは『WF5N5 五式水上戦闘機』なのだ。日本の敗戦後、当時、日本を統治していたGHQとの取引で入手した二式水上戦闘機、及び晴嵐の設計図を参考にし、龍鬼戦争末期に、ごく少数機のみ製造された、試製水上戦闘機だ。

 正式な呼称こそ与えられなかったこの戦闘機だが、その性能は、試作三号特二型エンジンを搭載した流花や氷花が現れるまで、最新鋭の戦闘機として、本土決戦用に温存されていた。


 しかし、今回ばかりは相手が悪い。敵機と五式水戦の性能は、比べるまでもなく、大きな差が開いている。武装、速度、重力耐久を見ても、全てが劣っている。唯一、五式水戦が勝る点があるとすれば、それは旋回性能だろう。

 そうこうしている内に、敵機は五式水戦の背後を取った。敵機は五式水戦の事を舐めているのか、当初は主翼をぶつけ、五式水戦の撃墜を狙った。

 だが、五式水戦は速度差と機体重量差を利用し、軽々とそれを回避した。それどころか、油断した敵機に対し、機銃掃射を行った。それにより、三機の敵機が撃墜される始末となった。

 敵機は五式水戦への舐めた攻撃を中止し、確実に仕留めきれるガンキルを狙った。

 しかし、五式水戦はこの戦いの中で、着実に学んでいた。敵機が後ろについた事を確認すると、バルカン砲による掃射を受ける前に、バレルロールを行い、敵機の追撃を躱す。そして、速度差によるオーバーシュートを引き起こす。その一瞬で、重機関銃の弾丸を撃ち込んだ。

 中にはバレルロールが通用せず、敵機がついてくることもあった。その場合、ブレイクターンや煙幕を使用し、無理矢理、敵機を引き剥がした。


 艦隊は、ただ呆然と敵機の撃墜される様を見ていることしかできなかった。援護による機銃掃射は、かえって五式水戦の作戦を邪魔することになるだろう。

 亰龍は、なんとか保ったいる意識の中、龍造の腕の中で、五式水戦の戦い方を見ていた。旧式化しながらも、最新鋭の戦闘機を軽々と返り討ちにするその光景は、自身が求めていた理想の自分に近いものだった。


 「龍造さん……」

 「何? まさか遺言なんて言わないでしょうね」

 「そんなこと言いませんよ。ただ……私も、あの戦闘機のように、強くなれますか……」


 亰龍の弱々しい言葉に、龍造は沈黙する。本来ならば、努力次第では可能なこともある。だが、あの五式水戦の技量は、そう簡単に到達できるものではない。それこそ、天性の才能が必要なのだろう。

 だから、龍造が言える言葉は、一つしかない。


 「あなたならなれるはず。それこそ、私や龍城超えることだって」


 龍造の言葉に、亰龍は少しだけ安堵した。その言葉に、前進するよう、重い背中を押された気がした。安心感のある言葉に包まれ、亰龍は意識を保つため、気を入れ直した。


 やがて、五式水戦の技量を前に、敵機は全滅した。周囲の水面にに浮かぶのは、その残骸のみだ。

 ふと、上空を見上げると、五式水戦は艦体の周りを旋回している。その光景は、親鳥の帰りを待つ雛鳥のようだ。

 その時、近くの水面から音がした。その方向を見ると、そこには上半身を水面に出した、海龍の姿があった。だが、その姿は出撃前のものとは違った。体中のあちらこちらに、鋭利なもので斬られたような浅い傷が、いくつも見受けられた。

 機関砲は破壊され、腕に取り付けられた水上機格納庫は、格納口付近が大きく損傷している。それは、水圧によるものではない。

 すると、先ほどまで上空を旋回していた五式水戦は、海龍の近くに着水した。海龍はそれを確認すると、格納庫を無理矢理こじ開け、五式水戦を格納する。

 そこへ、龍造が率いる艦隊が合流した。


 「海龍、助かったわ。ありがとう」

 「そんなことはどうでいいです。早く、鎮守府へ帰投しなければなりません」


 龍造の感謝の言葉を、海龍は焦った顔で受け取らなかった。分かりやすく、その瞳の奥には、何かに対する動揺が隠せていない。

 龍造達は、海龍がそこまでして急ぐ理由が分からなかった。だが、次の瞬間、海龍が水中から引き上げたものを見て、言葉を失った―――


 ―――血の気が引き、青白くなった顔。その体からは、目で見るだけでも体温が感じられない。

 体中には、大小様々な斬撃による傷が見受けられた。背中の傷は特に酷く、命に届きかけているものだ。

 その重傷を負っていたのは、海龍の右腕とも言えるほどの実力を持つ、清龍だった。冷静ながら真面目な彼女は、今は意識不明となっている。

 龍造は即座に撤退するべく、転移霧の詰められた小瓶を取り出した。だが、それと同時に、彼女達と共に出撃した、海龍の八人の姉妹が見当たらないことに気づいた。


 「海龍、他の皆はどこ」

 「……私たち以外、全滅です」


 海龍は震える口で言葉を出し、唇を噛み締めた。

 艦隊は絶句した。実力に差はあるとはいえ、常に鍛錬を怠らなかった彼女達が、全滅したことを信じられなかった。

 龍造は黙ったまま「そう」とだけ言葉を零した。そのまま清龍を抱えた海龍を引き上げると、再度、転移霧の詰められた小瓶を取り出す。そして、その安全ピンを引き抜いた。

 霧は瞬時に艦隊を包み、外部との視界を遮断する。白煙に支配される世界の中、海龍は一言も言葉を発さなかった。代わりに、その瞳には、水滴が付着していた。それは海水なのか、涙なのか、海龍自身も分からない。


 霧は消え、バルパライソの沖はには誰もいなくなった。残ったのは、波の音が支配する空間だ。それ以外の静寂が支配する空間は、そこで何が起こったのかを記録せず、薄れさせていく。そこで戦争が起こった記憶も、波の音と静寂が消し去った―――

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