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[連載]はぐれ貴族の記録  作者: 雪原
8/13

8話 魔法の価値観


 フェルナンドは怪我をしたリゼットを抱えながら、森の中を十数分駆け抜ける。

 駆け抜けた先は、森と森の間に流れている川にたどり着く。


「......ふぅ。......取り敢えずここまで移動すれば、大丈夫だな」


 荒れた息を吐きながら、フェルナンドは抱きかかえていたリゼットを、川辺の石に座らせる。

 流れる汗を拭い、腕輪に収納していた小さな小瓶を取り出しリゼットに渡す。


「とりあえず、これ使え」

「あの、これは?」


 リゼットは渡された物に戸惑う。


「回復薬。飲めば、その足の怪我も夜までには完治する」


 フェルナンドは、渡した小瓶を説明すると、川原に落ちている木の枝を拾い集めた。

 どうやら、リゼットの怪我が治るまでの間は依頼を中断し、野営の準備を始める。


「どうして、そこまで?」

「怪我人を守るのが面倒なだけだ」

「……もしかして、以外と優しい?」

「は? 急にどうした?」


 突拍子のない言葉に、フェルナンドは木の枝を集める手を止めリゼットに視線を向けた。

 その視線にリゼットは慌てる。


「私が困っている時、何度も助けてくれるので」

「……王女だから、仕方なく助けているだけだ」

「それでも、ありがとうございます」


 その言葉を不器用な優しさと思い込んだリゼットは、感謝し回復薬を飲み込んだ。


「……うっ!? 苦い」


 だが、回復薬の苦さにリゼットは悶絶し咳き込みながらも、時間をかけて回復薬を少しずつ飲む。

 リゼットが回復薬を飲んでいる間、フェルナンドは、集めた木を一か所にまとめて置くと川の方へ歩く。

 流れる川を凝視し、身体の周囲に数個の水球が現れる。


「……魔法を使って、いったい何を?」

「晩飯の確保。あと魔法に集中したいから、静かにしてくれ」


 リゼットに軽く説明したフェルナンドは、魔法に集中する。

 唐突にフェルナンドは、川に向かって水球を一発づつ放つ。

 その水球は真っ直ぐ進み、水面を跳ねる川魚に命中する。

 命中した水球は、その場に止まり魚を閉じ込める。


「凄い」


 時間をかけて回復薬を飲み干したリゼットは、フェルナンドの魔法に目を見張る。

 その視線をフェルナンドは感じていたが、無視し魚を捕まえていく。

 しかし最後の一発は、魔法の撃つタイミングを間違えたのか外してしまう。

 

「……ち、外した」


 その結果に不満があるのかフェルナンドは、舌打ちする。


「望む形は、凝固する水。《水地》よ、我の進む足場となれ」


 《水地》の呪文を詠唱したフェルナンドは、流れる川の上を歩き、水球に捕まった川魚を回収しに行く。


「これぐらいでいいか。足りなくなったら、また捕まえるか」

 

 腕輪に仕舞っていた空き籠を取り出し、捕まえた川魚を一つにまとめ、リゼットがいる場所に戻る。

 リゼットはその光景をじっと見ていた。


「…………」


 向かい合う形で座ったフェルナンドは、集めた木の枝で焚き火の準備をする。


「それで、さっきから何?」


 手際良く木の枝に火を着け、フェルナンドは捕まえた魚に手を伸ばす。

 だが、じっと見てくるリゼットが気になるのか、仕方なく話しかけた。

 話しかけられたリゼットは、あたふたするがすぐに落ち着き話しかける。


「あの……聞いてもいいですか?」

「内容による」

「無詠唱は、限られた人にしか使えない技。そんな技をどうして貴方が使えるのですか?」

「出来るようになるまで練習した」


 魚の腹をナイフで開き、内臓を処理すると腕輪から出した鉄串に通し、焚き火の周りに並べていく。

 それを何度も繰り返しながら、リゼットの疑問に答える。

 その答えにリゼットはどこか、納得出来ないでいた。


「あ、ありえません。練習するだけで無詠唱が使えるなら、もっと大勢の人が使っているはず!! 何か別の秘密がーー」

「魔力操作が雑だから、発動出来ないだけだ」

「……え?」


 咄嗟に言われた言葉に、目が点になる。

 フェルナンドは、魚が焼けるのを待っている間、リゼットに詳しく説明した。


「無詠唱の基本は二つ。発動したい魔法の強い想像力、そして発動に必要な魔力を事前に集めること。だが、魔力には厄介な特性みたいなのが一つだけある」

「厄介な特性ですか?」

「魔力は、空気に触れるとその場から霧散しようとする」


 フェルナンドは無詠唱の秘密を、隠す気がないのかあっさりと教える。


「その特性を魔力操作で完璧に制御してやっと、無詠唱が使えるってわけだ」

「待ってください!! その説明が正しいなら、私たちが詠唱している理由って」

「魔力操作の代わり。詠唱する理由は、発動する魔法のイメージ補強と魔力を注ぎ込む器の作成。あとはその器に必要な魔力を注ぎ込んで、魔法名を唱えたら発動の流れだ。使い慣れた魔法なら詠唱を短縮しても発動できる。水よ、杯に降り注げ」


 説明で喉が渇いたのか、短縮詠唱で水球を発動させ、腕輪から取り出したコップに注ぐ。


「なっ!! そんな話し授業で聞いたことありません」

「教えても、意味が無いからな」


 リゼットの言葉を切り捨てる。


「な、何故そう言い切れるんですか」

「魔力操作が地味だから」

「…………」


 フェルナンドの正直な言葉に、リゼットは返す言葉が出てこない。


「長時間の練習で、覚えるのが無詠唱だけなのと、その同じ時間を使って新しい魔法を覚えるなら……どっちを優先するか、説明しなくても分かるだろ」

「そ、それは」


 その説明が終わる頃には、魚から香ばしい匂いが漂っていた。


「……でもどうして、そんなに魔法について詳しいのですか?」

「魔法について詳しい奴から、教えてもらった」


 フェルナンドは、焼き上がった魚に手を伸ばしていると、リゼットに話しかけられる。


「そこまでして無詠唱を覚えようとしたのは、どうしてですか?」

「一人で魔物と戦っている時、どうしても詠唱出来ない状況が出てくる。その時に使えない魔法を何種類も覚えていても無駄だからな。死にたくないから、必死で覚えた」

「……っ!!」


 フェルナンドが無詠唱を覚える理由にリゼットは、目を見開く。

 それもそのはず、リゼットは先ほどフェルナンドが言った状況になりかけていた。

 助けが無ければ大怪我、最悪その場で死んでいたかも知れない。


「納得したか? なら飯にするぞ」


 フェルナンドは、焼き上がった魚を一つリゼットに渡すと、話しを打ち切るかのように食事を始める。

 その頃には日が沈み、夜になろうとしていた。

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