7話 二人の戦いかた
魔物との戦い方を決めようとしたが、リゼットは自分だけで戦うと言い切る。
その言葉にフェルナンドは、間の抜けた声を出してしまう。
「魔法騎士の戦いを貴方に見せてあげます」
リゼットは先程の言葉が、気に入らなかったのか、戦いで証明しようとする。
その視線が決闘後の出来事と重なり、フェルナンドは、ため息が出てしまう。
「……なら一人でやってみな、危なくなったら助けてやる」
「......求めるは、宙に現れる雷の光ーー」
フェルナンドは近くの木に寄りかかりながら、その提案を雑に扱う。
その扱いにリゼットは、ムッとしながらも戦う準備をする。
武器を構えながらリゼットの周囲に十数個の雷球が現れる。
(この音の大きさだと、数は四............いや、小さな音が一つ混じってる。全部で五体か)
聞こえて来る足音から、フェルナンドは経験則で近付いて来る魔物の数を予測した。
木々の隙間から討伐目標のウェアウルフが次々と現れる。その数は四体。
ウェアウルフは、縄張りに入った侵入者を見つけると好戦的に襲って来る魔物だ。
「《雷球》よ、敵に襲いかかれ!!」
リゼットは、四体の魔物に向かって準備していた魔法を使う。
完璧なタイミングで放たれた雷球は全て、ウェアウルフに目掛けて飛ぶ。
だが狙いが甘いのか、ウェアウルフの周辺の地面も巻き込み白煙が出来る。
(その攻撃方法は、たしかに集団向けだが......まだ一体残っている)
リゼットの魔法で立ち込める白煙に、フェルナンドは顔をしかめる。
「はぁ、はぁ。見ましたか? 私でも全力を出せば、これくらい余裕です」
リゼットは勝利を確信したのか、息を整えながらフェルナンドに話しかけた。
「......倒れているのを確認していない。それにまだ、気を抜くな」
「え?」
フェルナンドの言葉通り、白煙を突き破ったウェアウルフが一体現れる。
「嘘っ!! 魔法が当たってない!?」
「いや、魔法は四体に当たっていた」
「なら、どうして。あの魔物は無傷なんですか?」
「……五体目の魔物だから」
「なっ!?」
リゼットはフェルナンドの言葉に驚きながらも、襲いかかって来るウェアウルフの攻撃をバックステップで回避した。
しかし、その行動は致命的なミスになる。
回避先を事前に確認していなかったリゼットは、地面から剥き出した木の根に乗ってしまう。
「あ......くっ!?」
不安定な場所に着地したリゼットは、足を滑らせ地面に膝を付いてしまう。
ウェアウルフはその空いた距離を詰め、リゼットに飛びかかる。
「......っ!」
とっさに動けないリゼットは回避を諦め、刺突剣で応戦しようとする。
「水の矢よ、吹き飛ばせ」
だが、その戦いを見ていたフェルナンドは、リゼットの危なさに魔法で援護した。
「............え?」
フェルナンドが放った水の矢はウェアウルフに当たる。
水の矢は当たった衝撃で爆発し、その勢いはウェアウルフを吹き飛ばす。
吹き飛んだウェアウルフは、四体の近くに落ちる。
突然の光景にリゼットは間抜けな声を出す。
「大丈夫か?」
声に振り向くと、木に寄りかかっていたはずのフェルナンドが近くに立っていた。
「は、はい。でも、まだ魔物が」
リゼットの言葉に通りウェアウルフは、まだ戦意があるのかその場で唸り声をあげる。
「それなら俺が倒す。水よ、貼り付け」
フェルナンドはウェアウルフに指を差すとその先から、水球が放たれる。
放たれた水球はウェアウルフの頭に命中した。
だが、水球は爆発せずそのまま頭部全体を包み込む。
混乱したウェアウルフは、頭を振り回し水を引き剥がそうとする。
しかし、水球は頭部に貼り付いままその場を動かない。
暴れていたウェアウルフは、体内の空気を使い果したのか口から、大きな泡を吐き出し地面に倒れる。
「やっと、大人しくなったか」
ウェアウルフが倒れるのを確認したフェルナンドは、魔法をそのままにウェアウルフ達に近づく。
倒れている姿を目視出来る距離まで近づいたフェルナンドは、その光景に落胆してしまう。
「……あーやっぱり、こうなったか」
リゼットの魔法を受けたウェアウルフはボロボロの状態だった。
全身の体毛はパサつき、雷の魔法を何度も直撃した所は黒焦げになっている。
「これ、ギルドで買い取ってくれるのか? でも一応、全部回収しておくか」
フェルナンドは、黒焦げになっている四体と窒息しているウェアウルフの首筋に長剣を刺し、とどめをしっかりしてから手をかざす。
その手に装備していた腕輪が光る。
腕輪には、収納機能を持った魔装具。
魔物を回収し終えた、フェルナンドはリゼットに歩み寄り声をかける。
「次の魔物を探しに行くぞ」
リゼットはその声に、息を整えながら返事をする。
「少しだけ、休憩したいです」
「ここじゃ駄目だ。休憩するならこの場所を離れてからだ」
フェルナンドはその提案を却下する。
「......どうしてですか?」
「ウェアウルフの焼けた臭いだよ。この臭いを嗅ぎとった魔物が、いずれここに来る」
「なら、急いで離れないと」
フェルナンドは移動する理由を話す。
その説明で、リゼットも周囲に漂う肉の焼けた臭いに気がつき、この場を移動しようと立ち上がる。
「痛っ!!」
だが、踏み出した足に痛みがはしり、苦痛の声を上げてしゃがんでしまう。
どうやら、足を滑らせた時に足首を捻ったようだ。
「......怪我でもしたのか?」
「だ、大丈夫。平気です」
リゼットは平気な振りをして歩き出すが、少し進むと再び足が止まってしまう。
「......くっ」
「ったく、意地を張るのも時と場合を考えろよな。まったく」
その強がりにフェルナンドは呆れたのか、リゼットに近付くと抱え上げる。
「きゃっ!? 何ですか一体??」
「その足じゃ、魔物に遭遇する。安全な場所まで運ぶからじっとしてろ」
リゼットを抱き抱えたフェルナンドは、森の奥へと走り出す。