6話 依頼先の道中
冒険者ギルドを出たフェルナンドとリゼットは、王都の門をくぐり抜け目的地の東の森にたどり着いていた。
その森の中は日の光が入らないのか薄暗く、足下には草木が生い茂っている。
フェルナンドは森の中を歩き慣れているのか、涼しげな顔で歩いていた。
その後ろを、リゼットが早足で追いかける。
「あ、あのっ」
「......何?」
「強引な勧誘から、助けてくれてありがとうございます」
「ああ、気にするな」
草木に足を引っかけながらも、隣に並んだリゼットから感謝の言葉が出る。
その感謝をフェルナンドは、素っ気ない態度で返す。
「なぜ、気絶するまで攻撃したのですか?」
「逆恨みで追いかけられたら、うっとうしいから」
依頼目標の魔物を見つけるまでの間、フェルナンドはリゼットの質問に答える。
「............それに、あの変な動きはいったい?」
「変な動き? そんなのしたか?」
「拳を構えた時です。構えた時には攻撃してました」
「説明しただろ。見えない速度で殴った」
「それ、嘘ですよね」
嘘だと確信しているのか、リゼットは断言した。
「............どうして、そう思う?」
「あの時、腕が動いていませんでした。なのに、攻撃していた......つまり腕以外の方法で攻撃したんだと思います」
「へぇ。上手く誤魔化したつもりだが、気がつくのか」
フェルナンドは、リゼットの洞察力の高さに感心したのか視線を向ける。
「やっぱり。じゃあどうやって」
「《弾丸》の魔法で攻撃しただけ」
「え、あの魔法ですか? でも、魔法を唱える時間なんて」
「あれぐらいの魔法なら、詠唱無しで発動出来る」
「......うそっ」
種明かしをすると、リゼットは二つの意味で驚いてしまう。
一つは、魔法を無詠唱で発動出来る技術の高さ。
そしてもう一つは、《弾丸》の魔法を使っていることに。
《弾丸》の魔法。
それは、魔法に適性がある子供が一番最初に覚える魔法だ。
無色透明の魔力の塊を飛ばす、たったそれだけの魔法。
威力も低く、せいぜい拳で殴られた程度。
その威力もあいまって評価が低く、ほとんどの魔法騎士が《弾丸》を使わない。
「でもどうして、最弱の魔法なんかを?」
「最弱の魔法か......酷い言われようだな」
「本当の事です。属性魔法の方が《弾丸》より強力です」
その返答にフェルナンドは苦笑してしまう。
リゼットが指摘したように、《弾丸》より強い魔法がいくつも存在しているからだ。その内の一つが属性魔法。
例えば《弾丸》に、雷の属性を付け足せば《雷球》と名前を変え、威力も桁違いに強くなる。
そして、魔法の適性がある者には必ず、得意な属性魔法を誰もが一つは持っている。
フェルナンドは水の属性を、リゼットは雷の属性魔法が得意だった。
「威力だけで評価するなら、確かに《弾丸》は最弱だろうな」
「なら」
「でも、最弱なら最弱で使い道がある」
「使い道ですか?」
フェルナンドの言葉にリゼットは首をかしげる。
その仕草は事情を知らない者には可愛く見えるだろう。
でもフェルナンドには、詳しく説明して欲しい仕草にしか見えなかった。
「弱いから、警戒も対策しない。つまり無詠唱で使えば、不意打ちし放題ってわけだ」
「......っ!?」
「それが使う理由。納得したか?」
「そ、そんな戦い方は卑怯です。魔法騎士の戦い方じゃない!!」
戦い方に納得出来ないのか、リゼットは不満をこぼす。
「......そもそも俺は、魔法騎士に興味ない」
「なっ!!」
だがフェルナンドは、魔法騎士そのものに無関心なのか突き放す。
その言葉に、リゼットは呆然とした。
それもそのはず、魔法騎士学園の生徒から出てくる言葉と思いもしなかったからだ。
「これ以上、言い争いするのも面倒だ。それよりも」
話しを強引に打ち切ると、森の奥に視線を向ける。
フェルナンドの耳には先程から木々の擦れる音が小さく聞こていた。
それの音は徐々に大きくなり、その音の中に動物の鳴き声も混じっていた。
フェルナンドは、その鳴き声を魔物と判断し、音の方向に視線を向けながらリゼットに注意する。
「魔物が来てる。確認するが魔物と戦ったことは?」
「......訓練で数回あります」
リゼットは不機嫌な顔をしながらも、フェルナンドの質問に答える。
「じゃあ、どう戦うか役割をさっさと決めーー」
「私だけで戦います」
「......は?」