5話 冒険者ギルド
二人は街の東門の近くまで歩き続け、目的の建物にたどり着く。
「あの、この建物は?」
「冒険者ギルド......もしかして、近くで見るのは初めてか?」
「は、はい」
「......そうか」
冒険者ギルド。
周囲の建物に比べて、冒険者ギルドの建物には左右に空き地があった。
その空き地は、ギルドを利用する商人や遠方から来た旅人の荷馬車を受け入れるスペースになっている。
リゼットは物珍しさで荷馬車を見ていたが、フェルナンドは何度も行き来しているため、さっさと建物の中に入っていく。
置いていかれそうになったリゼットは、慌てて付いて行く。
「ここが、冒険者ギルド」
中に入るとそこは、酒場だった。
昼過ぎなため冒険者逹の数がいつもより少ないが、武器を身に付け遅めの食事をしている。
好奇心が強いのか周囲を見渡していたリゼットの行動に、冒険者逹の視線が集まっていた。
フェルナンドは、その集まる視線を無視し依頼が貼っている掲示板に向かい眺める。
(そこそこ稼ぎになる市内の依頼は全滅みたいだな。なら、王女でも簡単な依頼は? いや、その分報酬が少ないから今日の晩飯代で綺麗さっぱり無くなるか......最悪赤字の可能性もあるな)
「それで、どんな依頼を受けるんですか?」
「......これ」
依頼の紙が、いくつか剥がされている掲示板を見ながらリゼットは質問する。
フェルナンドは依頼の選んでいたが。途中から面倒になったのか目に付いた依頼の紙を剥がしリゼットに見せる。
「ウェアウルフの狩猟ですか」
「東の森に生息している魔物だ。王女でも一対一なら、なんとか倒せるだろ?」
この依頼は常時貼られおり、フェルナンドは依頼探しで困った時に選ぶ依頼の一つだ。
「む、ウェアウルフくらい私でも倒せます。それと、私のことは名前で呼んでください」
「はいはい。それじゃ受付で申請してくる」
フェルナンドはそう言いいながら、受付カウンターに向かう。
三つある受付の中で、その内の二つは冒険者が受付嬢と世間話していた。
(あの森なら晩飯に困らない。それに、食事環境の悪さで付きまとうの、諦めてくれるかもな)
ウェアウルフの依頼を選んだ理由......それは、金の節約とリゼットを追い払えるかもという個人的な理由だった。
その事を考えつつ、空いている受付カウンターに依頼書を提出する。
受付カウンターで、フェルナンド達のやり取りを見ていた片目に傷を負った男が、おどけた感じで軽く口を叩く。
「坊主がミア以外の嬢ちゃんを、連れて来るなんて珍しいじゃねぇか」
「......勝手に付いて来ているだけです」
「それで? 坊主は第三王女様にいったい、何をやらかしたんだ?」
フェルナンドが連れてきた、少女の正体を知っているのか、ため息混じりに聞いてくる。
「原因が俺みたいな言い方、止めてくれませんか。ガロンさん」
他の受付嬢と違い、強靭な肉体を持つ元A級冒険者だ。
怪我で冒険者を引退した後は、素行の悪い者から受付嬢を守る、用心棒としてギルドの職員になった経歴を持つ。
元冒険者の威圧感と鋭い眼光のせいで、他の受付と比べて、利用する人が少ない。
「ってもなぁ。ひよっこだった頃に起こした、ギルド内のトラブルを知っているとな......どうせ、余計なことでもしたんだろ?」
「............」
ガロンの言葉にフェルナンドは図星なのか、沈黙する。
「その反応は、どうやら図星みてぇだな。それで選んできた依頼内容は、ウェアウルフの狩猟......二人か?」
「はい、そうです」
「ふむ。坊主の実力なら、余裕で対処できる内容だな」
「元冒険者のガロンさんに、鍛えてもらいましたから」
「はっ、言うようになったじゃねえか」
世間話をしながらガロンは、フェルナンドの持ってきた依頼を確認し、討伐許可の手続きを書き込んでいく。
「ほれ、許可証明書だ。報告するまで無くすなよ」
そう言い終わると、ガロンは手続きを終わらせた。
フェルナンドは許可証明書を受けとると、リゼットが待っている場所に戻る。
すると何やら揉め事が起きていた。
そこには、柄の悪い二人組がリゼットに接触していた。
「や、離してください」
「そんなこと言わず、俺達と一緒に依頼しようぜ」
「何してるんだ?」
「ん、何だお前?」
フェルナンドの声に、リゼットを口説いていた二人組の男逹が気がつく。
リゼットは男に腕を掴まれているのか、その場から動けないでいた。
「何だと言われても......リゼットは、俺と一緒に依頼する仲間なんだけど?」
「あ、知らねぇよ。それにお前のようなガキより、俺達と一緒に依頼したほうがいいに決まってる。だからこれ以上俺達の邪魔するな」
「............なら、本人に決めて貰おうか」
説明しても男逹は聞き入れようとしない。
その態度に、これ以上の説得は無駄と判断したフェルナンドは、リゼットに決めてもらうこと提案する。
「は?」
「リゼットに俺かアンタ逹。どっちと一緒に仕事したいか選んでもらうんだよ。だからまず、リゼットの腕を掴んでいる手を離せ」
フェルナンドは、リゼットの腕を掴んでいる男の手を打ち払う。
「痛ってぇぇ!?」
「よし、外れたな。リゼット、俺とアイツら。どっちと一緒に行動したい?」
軽快な音と共に腕を叩かれた男は、あまりの痛さにリゼットの腕を離してしまう。
自由になったリゼットに話しかけると、フェルナンドの背中に隠れる。
「どうやら、決まったみたいだな。じゃあ行くか」
「んなっ!? 待ちやがれ!!」
フェルナンドは、背中に隠れているリゼットを引き連れ外に向かう。
だが、その結果に男逹は納得できないのかフェルナンドを呼び止める。
「......しつこい勧誘は嫌われるぞ」
(一応、警戒しておくか《弾丸》ーー展開)
「うるせぇ!!」
フェルナンドは注意はするが、男逹はその態度が気にくわないのか逆上し襲いかかる。
「危ない!!」
「............はぁ」(貫け)
「「ふぐっ!?」」
「え?」
リゼットは悲鳴を上げる。
フェルナンドは男逹の行動に、ため息をつきながら拳を構えた。
すると、男逹の顔に何かぶつかったのかパンッ!! という軽快な音が鳴る。
不可視の攻撃を受けた男逹は、その痛みで眼が閉じる。
フェルナンドはその隙を見逃さず、一瞬で距離を詰め無防備になっている男逹を殴り倒す。
「「グハッ!!」」
「......え? 今の何?」
信じられないものを見たリゼットは、フェルナンドの動きを見つめる。
「ぐ、てめぇ......何しやがった」
「見えない速度で殴っただけ。じゃ、さっさと寝てくれ」
殴り倒された男は、まだ意識があるのか起き上がろうとした。
だがフェルナンドは、容赦なく男を蹴り飛ばす。
「......気絶したな。よしリゼット、今のうちに行くぞ」
「え、この人逹は?」
「ほっとけ、襲いかかってきた報いだ」
男逹が気絶して動かないのを確認したフェルナンドは、ガロンに視線を向け頭を下げるとそのまま冒険者ギルドを出ていく。