3話 決闘
翌日、フェルナンドは決闘で指定された場所、クルビア学園の訓練場に来ていた。
訓練場の観客席には、多数の生徒が集まり観戦している。
それもその筈、決闘宣言をしたあとリゼットは、パーティ会場でこの決闘を盛大に発表していたのだ。
ダグラスの挑発が、どうでもいいほどに。
「王女様が決闘するって知り合いから聞いたけど何で?」
「さぁ知らない。どうせ、あのハイエナが王女様に無礼なことしたんでしょ」
「昨日のパーティにアイツも参加してたよ。その時にリゼット様が叱ったんじゃないの? それであのハイエナ、逆ギレして決闘を申し込んだのよきっと」
「うわ、最低」
「逆ギレで決闘……それって不敬罪にならない?」
「だから、王女様による公開処刑なんだろ」
観客席から漏れ聞こえる声に、フェルナンドは苦笑してしまう。
嘘だらけの決闘理由。
そして、決闘を吹っかけたのがフェルナンドになっていた。
「何で、学園長がここに?」
「決闘の審判と見届け役だ……で、決闘になった原因は一体何だ?」
「汚れを落とす魔法を、友人に使っていた所を王女様に見られて誤解された。で、誤解を解こうとしたが結局こうなった」
「……ああ、なるほど。あの魔法か、初見だと誤解されるだろうな」
「突然の決闘を受け入れていただき、ありがとうございます」
「…………」
すでに待ち構えていたのか、舞台の中心に学園長のコーラルとリゼットが立っていた。
リゼットの口調の変化と礼儀正しさに、フェルナンドはまじまじと見てしまう。
「あの、何か?」
「昨日と比べて、口調と態度が違うから本人なのかと思ってな?」
「……あの場の雰囲気に酔っていたみたいです」
フェルナンドの指摘で、昨日を思い出したのか顔を赤らめる。
「酔っていたのなら、この決闘無かったことにしてくれないか?」
「それは出来ません。使用人をイジメている貴方を、見過ごせません」
「だからそれは、誤解だと」
「信じられません」
「…………はぁ」
頑なに信じないのか、聞く耳を持たない。
その反応に、フェルナンドは深いため息と共に気持ちを切り替える。
「勝負のルールは?」
「勝負内容は私が説明する。二人には学園で用意した武器で模擬戦をして貰う。勝負がついたと判断したら私が止める。何か質問は?」
コーラルは腰に装備している二種類の剣を叩く。長剣と刺突剣の二本だ。
「学園で用意した武器?」
「同じ条件で戦いたいので」
「…………同じ条件ね」
「? 何か?」
「いや、戦いを知らない素人なんだなと。ああ、王女だから当たり前か」
「なっ!! 戦闘訓練は経験済みです!!」
フェルナンドの言葉を挑発と思ったのか、リゼットは声を荒げる。
その声にうんざりしながら、賭けの内容を聞き出す。
「それで、もし負けた時の罰は?」
「......使用人に二度と関わらないでと言うつもりでしたが……気が変わりました。敗者は勝者の下僕になって貰います!!」
口元をヒクつかせながら、リゼットはそう宣言し、コーラルから刺突剣を奪い取る。
「フェル坊。王女様をわざと煽ったな?」
「下調べで軽くな。今のやり取りで大まかな性格は、なんとなく把握したが……煽るんじゃなかったな」
「自業自得だ」
コーラルから長剣を受け取り、仕方なくリゼットと対峙する。
「二人とも準備はいいな? それでは、決闘開始!!」
コーラルの手が振り下ろされ、二人の決闘が始まった。
☆ ☆ ☆
試合開始とほぼ同時にリゼットは、地面を踏み込む。
頭身が少し下がり、全身の輪郭が歪むと同時に、フェルナンドの目前に現れる。
「ーーシッ」
「!?」
瞬きする間もなく距離を詰め、すでに攻撃の動作に入っているリゼットを認識したフェルナンドは、反射的にバックステップで距離取りながら剣を盾にする。
「水よ、襲いかかれ」
一息で何度も繰り出しくるリゼットの攻撃を剣で防ぎながら、頭上に水球の魔法を用意しリゼットに向けて魔法を飛ばす。
飛んで来る水球を冷静に回避し、いったん距離を取る。
攻めきれないと判断したのだろう。
「守るのが上手いのですね」
「これぐらいなら、戦い慣れしてるからな」
「む、ならこれはどうですか? 求めるは、宙に現れる雷の光ーー」
その反応が気に食わないのか、次の攻撃を仕掛ける。
リゼットの周囲に雷球がいくつも現れた。
「......雷の魔法か、厄介だな」
「当たれば痺れますよ」
「説明どうも。なら、当たらない様にするさ」
「じゃあ、私は貴方に当たるまで続けるとします。《雷球》よ、敵に襲いかかれ!!」
リゼットのかけ声と共に雷球が動きだし、フェルナンドに襲いかかる。
飛んでくる雷球を回避する。
狙いを外した雷球は、地面にぶつかるとその場で小さく放電した。
リゼットは次々と、新しい雷球を作り出しては攻撃を続ける。
その攻撃をフェルナンドは、剣で弾いたり防御しながら考えていた。
(先制攻撃に雷の魔法、それに会話した印象から……思い込んだら一直線って感じだな。こちらから接近しても、あの踏み込みで逃げそうだな……だとしたら)
「望むものは、雷の魔力。願う形は、連鎖する蛇ーー《雷撃》よ、駆け抜けろ!!」
考え事で隙が出来たのか、リゼットはそれを見逃さず、刺突剣の先から雷が放たれる。
先ほどの雷球よりも速いのか、回避が間に合わない。
フェルナンドは回避を諦め、剣で防御する。
「ッ!?」
だが、その雷は先ほどの雷球と違う動きをした。
剣に当たった雷は突然、蛇の様に変化し剣に巻き付きながらフェルナンドの右手にも襲いかかる。
接触するのを警戒したフェルナンドは、剣を離し攻撃を回避した。
長剣に巻き付いていた雷は、地面に接触するとその場で放電する。
その大きな隙を見逃さなかったリゼットは、強く踏み込みと全身の輪郭が再び歪む。
「これで終わりです!!」
「……そうだな。水よ、爆ぜろ」
「なっ!?」
リゼットが接近するのを待っていた、フェルナンドは魔法を使う。
二人の間に水球が現れ、その声に反応して水球が爆発した。
爆発した水は二人を襲い、次の行動に差が出る。
リゼットは爆発音と降りかかる水に驚き、手で顔を隠してしまう。
フェルナンドは爆発した水を無視し、左手でリゼットの手を掴み引っ張り倒す。
「きゃあ!!」
倒れたリゼットは、起き上がり武器を構える。だが、フェルナンドはその間に落としていた剣を拾っていたのか、攻撃する準備に入っていた。
それを見たリゼットは、咄嗟に刺突剣をフェルナンドに向かって投げる。
「くっ!!」
「……へぇ」
飛んでくる刺突剣を剣で振り払いながら、首筋を狙う。
だがその攻撃で、地面を強く踏み込む時間が出来たリゼットは、フェルナンドから距離を取る。
咄嗟の行動力にフェルナンドは感心していた。
刺突剣を打ち払う動作がなければ、首筋に剣を突きつけるだけで決着がついていたからだ。
距離をさらに取ろうとするリゼットに、フェルナンドは追撃しようと接近する。
「くっ、求めるは、宙に現れる雷の光《雷球》よーー」
(《弾丸》ーー貫け)
「……え、失敗した? どうしてこんなときに!!」
リゼットは接近させないように魔法で妨害しようとするが、出現した雷球はその場で放電し消失する。
フェルナンドの魔法で撃ち抜かれたことに気がつかず、リゼットは驚いてしまう。
その隙をフェルナンドは見逃さず、一気に距離を詰め首に剣を突きつける。
「……あ」
「そこまで!! 勝者、フェルナンド」
こうして、二人の戦いに決着がついた。