13話 再会
翌日、フェルナンドはクルビア学園の授業が終わり放課後になると、学園の外に向かって歩く。
この二日間、まともな金稼ぎが出来なかったこともあり、フェルナンドの財布は一文無しになりかけていた。
「ひとまず、冒険者ギルドに行って......そのあとはーー」
「やっぱり。フェル先輩はここに来ると、思ってました」
冒険者ギルドに向かうため、クルビア学園の正門を抜けた先にはリゼットとサラが待ち伏せしていた。
「............一応聞くけど。待ち伏せしてまで、俺にいったい何のようだ?」
フェルナンドはジト目になりながら、待ち伏せしていた二人に話しかける。
「私はまだ、フェル先輩に金稼ぎ出来ることを証明していません」
「それでもう一人は?」
「......私は、リゼの見張りよ。まだお前のことを信用していない」
「はぁ。好きにしろ」
「は、はい!!」「ふん」
あの日から関わって来るようになったリゼットを、口で追い出すことを諦めたフェルナンドは冒険者ギルドに向かう。
その背中をリゼットはどこか楽しそうな顔で、サラは無愛想な顔で着いて行く。
「それで今日は、どんな事するんですか?」
フェルナンドの後ろを着いて来ているリゼットは、うずうずした様子で話しかけてくる。
「リゼットが倒した魔物の買取りが、まだだからな。冒険者ギルドに提出しに行く」
「あ、そう言えばそうでした。あの時、途中で倒れて......ぅ」
大通りを歩きながら、リゼットの質問に答える。
その内容にリゼットは、抱き上げられた時を思い出したのか頬を赤くした。
フェルナンドも、その日を振り返っているとあることを思い出す。
「......ああ、そうだ。そう言えばあの日は、アレがあったな」
「せ、先輩!? そ、その話は」
「リゼットが誘拐された、なんてデマを言いふらしたのはいったい誰だ?」
「へ?」
サラの方に視線を向けた先には、顔を赤く染め慌てた様子のリゼットがいた。
「誰が最初に言い出したかは、私も知らない。ただ言えることは、私はダグラスから聞いただけだ」
「アイツか......また、余計なことしたら。痛い目に合わせてやる」
変な噂を流した犯人の正体が判明すると、フェルナンドの目が据わり始める。
「そんなことしなくても、ダグラスはこれ以上余計なことしないわ。いや、出来ないと言ったほうがいいな」
「どうして、そう断言できる?」
「リゼが誘拐されたなんて嘘を学園中に言い触らしたんだ。昨日、教師達に呼び出されて説教を受けていた」
「なるほどな。それなら、気にしなくていいか......で、リゼットは何してるんだ?」
「あ、えっと......何でもないです」
慌てた様子で固まっていたリゼットに話しかけると、その本人は何でもないかの様に振る舞う。
「学園まで運ばれたのが、そんなに恥ずかしかったのか?」
「なっ!? わかっているのなら、口に出さないで下さい。あんな格好を大勢の人に見られて、恥ずかしかったんですよ!!」
「なら、次からそうならない様に気をつけてるんだな」
赤くなった理由を指摘するとリゼットは抗議するが、フェルナンドは肩をすくめながら冒険者ギルドに向かう。
☆ ☆ ☆
「ほう、また新しい女を......ついに坊主も、モテ期が来たみたいだな」
「そんなんじゃないですよ。リゼットが知り合いを連れて来ただけです」
冒険者ギルドに着くと受付にいたガロンにフェルナンドは、再びからかわれる。
「知り合いと言うより、あれは護衛みたいだな。さて、本日の用件は?」
「以前受けた依頼の報告、これが許可証明書です」
「ああ、ウェアウルフの依頼か。倒した数は?」
「全部で五体です」
「なら、ここに出してくれ」
フェルナンドはガロンの言葉に従い腕輪から、倒したウェアウルフを提出した。
テーブルの上に並ぶ、ボロボロのウェアウルフの姿にガロンは目を丸くする。
「ずいぶんと雑な方法で倒してるな......坊主にしちゃあ珍しい。戦闘中に、盗賊でも遭遇したか?」
「盗賊がいたなら、一緒に出してますよ。こいつらがボロボロなのは、リゼットが倒したからです」
その理由をフェルナンドが説明すると、ガロンは納得した。
「なるほどな、嬢ちゃんが倒したからか............だがな、坊主。この一匹以外は状態がいつもより悪いから、買取り額も安くなるぞ」
「大丈夫です」
その説明にフェルナンドは、事前にわかっていたのか文句を言わない。
ガロンは素材の品質を鑑定する魔道具。単眼鏡を着け、テーブルの上に並ぶウェアウルフを一体ずつ調べていく。
それから数分後、ガロンは全てのウェアウルフを調べきるとフェルナンドに買取り額を提示した。
「依頼達成の報酬も合わせて合計、六千レトってところだな」
「......六千」
提示された金額を受け取ったフェルナンドは、その金額に思わず復唱してしまう。
(報酬が少なくなるのは覚悟していたけど......これは、予想外だったな)
一人で稼いでいる時と比べて、半分にも届かない額だった。
その事実に苦笑いのフェルナンドは、離れた位置で休憩しているリゼット達に向かって歩く。
「フェル先輩、どうでした?」
「リゼット............両手を出せ」
「はい?」
「いいから」
その言葉にリゼットは戸惑いながらも従う。
フェルナンドは、ガロンから受け取った報酬。銀貨六枚をリゼットの両手に落とす。
「......あのこれは一体?」
「リゼットが倒した、ウェアウルフの報酬金だ」
「え、それって」
「決闘の時に言ってただろ? 自分でも金稼ぎ出来るって、これで証明出来たな......おめでとう」
「............」
フェルナンドの雑な褒めかたに、言われた本人は呆然とした。
だが、褒められたことに気がついたリゼットは笑顔になる。
「ーーっ、当然です。私だってあの程度のこと余裕です」
「......そうだな」
その反応にフェルナンドは呆れたのか、ため息が出る。
「フェル? こんなところで何してるのよ?」
二人のやり取りに、声をかけられる。
その声に振り向けば、冒険者姿のミアと再会した。