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[連載]はぐれ貴族の記録  作者: 雪原
12/13

12話 ひとときの日常


「やっと終わったか」


 戦いに決着がついたフェルナンドは剣をさやに納め、訓練場の出口に視線を向ける。


「............ハイエナ」

「何だ?」


 サラは今にも倒れそうになりながら、話しかけて来た。


「そこまで、戦えるくせに......どうして、卑怯な手を使う?」

「長期戦になるのが嫌だから」

「なっ!? それだけの理由だーー」


 魔力切れの限界が来たのか、サラは倒れる。

 その姿にフェルナンドは、呆れてしまう。


「......無駄使い出来る魔力を持っていれば、こんな戦い方してないさ」


 気を失っているサラに向かって、フェルナンドはつい本音がこぼれる。

 すると背後から足音が響く。

 その音に振り向くと、リゼットが心配そうな顔でサラを見ていた。


「フェル先輩。サラは?」

「魔力切れの反動で気絶してるだけだ。それでも心配なら、保健医にでも見てもらうんだな」


 倒れた理由を話すと訓練場の出入り口に向かって歩く。


「待ってださい!! 先輩も、怪我してるから一緒に見てもらわないと」


 リゼットは頬から血を流しているフェルナンドに気が付き、引き止める。

 竜巻をくぐり抜けた時に切ったのか、リゼットの指摘でフェルナンドもようやく気がつく。


「この程度の怪我、たいしたことない」


 頬から流れる血に触れるとパリパリと固まり出す。

 固まった血を手で拭うとそこから白い肌が現れた。

 その光景にリゼットは眼を見開く。


「え、嘘。あんなに血が出てたのに......」


 どうやらフェルナンドの怪我は想像より軽く、血が大量に出やすい所を切っていたみたいだ。

 傷口の血もすでに固まっていた。


「これで納得しただろ」


 フェルナンドは、リゼットに傷口を見せるとその場から離れる。


「まさかアレを使うとはな......正直、意外だったぞ」

「......ベクターなら気がつくか」


 出入り口付近で見ていたベクターを横切ると、呆れと感心が混じった声で話しかけられる。


「護衛の時に使っているのを見たことがあるからな。しかしアレは大きな反動があったはず」

「大きな反動って、ずいぶんと大袈裟だな。アレは魔力消費が普通より激しいだけさ」

「その消費で、魔力切れになりかけているのにか?」

「............」


 図星なのかフェルナンドは、顔をしかめる。

 ベクターの指摘通り、サラとの戦いで......いや、最後に使った魔法で魔力切れになりかけていた。

 平均より魔力量が少ないフェルナンドは、強力な魔法を数回使うだけで魔力が尽きてしまう。

 フェルナンドは、それを自覚しているのか肩をすくめる。


「隠しても無駄か」

「それでこのあと、どうする気だ?」

「残り少ない魔力で、金稼ぎに行っても危険だからな。おとなしく寮に帰る」


 フェルナンドはそう言うと、その場から立ち去った。


 ◇ ◇ ◇


 訓練場から帰って来たフェルナンドは自室の扉を開けると、光輝く照明が部屋の主を出迎えた。


「......あ? 何で部屋に明かりが点いてる?」


 光輝く照明にフェルナンドは間抜けな声を上げていると、部屋の奥から下着姿の美女が現れる。


「お? 帰りが早いじゃないか」

「............どうして、コーラルがこの部屋に?」


 コーラルは風呂上がりなのか、全身から湯気をまとっていた。

 下着以外の服はベッドの上に脱ぎ捨てられ、濡れた髪をタオルで拭いながら出迎える。

 まるでその姿は、この部屋の主は自分だと主張するかのようにくつろいでいた。


「めんどくさい作業で汗をかいたからな。シャワーを借りに来た」

「シャワーくらい、自宅でやれ」

「ここより遠い」


 そう抗議するがコーラルから、どうしようもない理由が返ってくる。


「それに、この部屋は私が秘密裏に作ったプライベートルームだ。その部屋をいつ利用しても文句は無いはず。なぁ? 弟子のフェル坊」

「秘密裏って、学園長の権力と俺の名前を利用しただけだろ」

「ククク。そうとも言うな」


 フェルナンドの返事に、コーラルはどこか楽しそうに笑う。


「それにしても、このタイミングに帰ってくるなんて運がいいなお前は」

「運がいい? 何がだ?」

「何ってほら、美女の下着姿をタダで見れているんだ。眼服ものめ」


 そう言ってコーラルは、下着姿のまま胸を強調するポーズでフェルナンドを誘惑する。

 フェルナンドはその行動に冷やかな反応で返した。


「年増に興味ないから、さっと服着ろ」

「............ふっ、年増か」


 フェルナンドの言葉に、コーラルは苦笑いする。

 だが年増という言葉が響いたのか、目尻がぴくぴくとけいれんしていた。


「一言余計だ!!」


 突如、コーラルの周囲に炎の矢が現れフェルナンドを襲う。


「ッ!? 水の壁よ」


 迫ってくる炎の矢を、フェルナンドはとっさに魔法で水の壁を作り炎の矢を防ぐ。

 炎の矢が水の壁に触れると瞬時に蒸発した。

 水蒸気はその場から一瞬で部屋の中に広がり、吹き抜ける。


「「!?」」


 水蒸気の爆風は二人に襲いかかりコーラルは頭に被せていたタオルが外れ、細長く尖った耳が露出した。

 その耳は人間と違い、エルフと呼ばれる幻想種の特徴だ。

 外見は人間の二十代で止まり、数百年の寿命を持つと言われている。

 そして、コーラルが実際に何歳なのかフェルナンドは知らずにいた。


「ぐっーー」


 先程の魔法で魔力切れになったのか、フェルナンドは頭痛に襲われ苦痛に歪む。

 頭痛による目眩で体勢を崩すと、いつの間にか接近していたコーラルに体を支えられる。


「その反応、まさか魔力切れか?」

「............ああ。少し休めば、元に戻る」


 心配そうな声で聞いてくるコーラルに、フェルナンドはたいしたことないように振る舞う。

 強がりを見せる姿に、コーラルはふと昔を思い出す。


「その姿を見ると、フェル坊に初めて魔法を教えた日のことを思い出すよ。あの時も、魔力切れを起こしていたな」

「......悪かったな」


 コーラルの昔話にフェルナンドは顔をしかめる。

 それは、コーラルから魔法を教えてもらうたびに魔力切れを何度も起こしては倒れ、心配を掛けていた頃の記憶だ。


「あの頃はまだ純粋無垢で、私のこと先生なんて呼んで可愛げがあったのに」

「世間知らずだっただけだ」


 フェルナンドにとってそれは恥ずかしい過去なのか、ついぶっきらぼうな態度をとりながらベッドに向かう。

 その反応にコーラルは微笑むが、どこか遠い目をする。


「もっと早く見つければな」

「......まだ、引きずっているのか?」

「ああ、私にはフェル坊を早く見つけるチャンスがあったからな。だけど私は、それを不意にした」

「だから俺は、そのせいで魔力総量が平均より少ない体になったと」

「............」


 未練があるのか、コーラルの瞳には後悔の色が宿っていた。

 その姿にフェルナンドはため息をつくと、ベッドに脱ぎ散らかしていた服を掴みコーラルに投げつける。

 視線を下げていたコーラルはそれに気がつかず、顔で受け止める。


「ぶっ!? 何をする!!」

「この体になった原因はコーラルのせいじゃねぇよ。あの家に育てられた結果だ」

「だが、家庭教師の誘いを私が受けていれーー」

「関係無い。アイツとコーラルのおかげで俺は助かった。それだけで十分だ」

「フェル坊......」


 フェルナンドの言葉に、コーラルは見つめる。


「ったく、心配性なんだよ。それにこの体質になったおかげで、俺は《不言の賢者サイレンスウィッチ》の弟子になれたんだ。気にしてないさ」

「......そうか、そうだな。フェル坊は私の弟子だもんな」


 どこか、からかう様なフェルナンドの言葉に、コーラルは安堵すると服を着る。

 すると部屋の外から鐘の音が聞こえてきた。

 その鐘の音は、学園からで校舎を閉める合図の音だ。

 数十分もすれば日は沈み、やがて夜になる。


「ん? もう、こんな時間か......久しぶりに外で食べないか?」

「............」


 鐘の音で、外の状況を把握したコーラルはそう提案してきた。

 その誘いに、フェルナンドは苦い表情を浮かべる。


「フェル坊?」

「......値段が安い店ならいいぞ」

「ふーん、安い店ね......まさか、金欠か?」

「......ああ、そうだよ」


 図星なのかフェルナンドは言いよどむ。


「ふふっ。私の奢りだから金のことは気にしなくていいぞ。それにしても、フェル坊が金欠なんてまた珍しいな」

「リゼットと関係持ってから.......色々あったんだよ」

「ほう。その話、店で詳しく聞こうじゃないか」


 コーラルはフェルナンドの首に腕を回すと、楽しそうにしながら外に連れ出す。

 そのボディタッチにフェルナンドは呆れを含んだ微笑みで、そのまま町の方へ連れ去られる。



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