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[連載]はぐれ貴族の記録  作者: 雪原
10/13

10話 呼び出し


 昼休み。フェルナンドはクルビア学院の食堂で、一番安いの野菜炒め定食を食べながら、あることに悩んでいた。


(リゼットと関わってから、金が減る速度が上がった。このペースだと、二日後には金欠か......どうにかしないと)


「フェルナンド。ここに居たのか」


 財布の中身を気にしていたら、背後から男子生徒が話し掛けてきた。

 フェルナンドは、名前で呼んでくる相手など顔を見なくても誰かわかるのか、振り向きもせず返事する。


「ベクターか。食事中に何の用だ?」

「空いてる席を探していたら、偶然見つけたからな」

「そうか」


 ベクターは、サンドイッチが乗った皿を、フェルナンドが利用しているテーブルに置く。

 向かい会う形で座り込んで来たベクターに、視線を軽く向けるとフェルナンドは食事に戻る。


「決闘後も王女様と一緒に、冒険者ギルドで依頼を受けていたそうだな」


 ベクターはサンドイッチを一つ取りながら、雑談を始める。

 その内容は、フェルナンドとリゼットの出来事だった。


「どうして、そこまで知っている?」

「ガロンさんから聞いた。お前が金髪の少女と、一緒に依頼を選んでいたってな。その少女、王女様だろ?」

「............」


 ベクターが口にした、情報源にフェルナンドの手が完全に止まる。


「その反応......どうやら本当みたいだな」

「まさか......ガロンさん、から知られるのか。予想外だった」

「酒場の席で、盛り上がっていたぞ。一匹狼の坊主がミア以外の女と一緒依頼をしたってな」

「......はぁ。あの人なら言いそうだ。なら、はぐらかしても無駄か」


 フェルナンドはその光景を簡単に想像できたのか、手で顔を覆う。

 色々と諦めたのかベクターに、昨日の出来事を話す。

 ただし、決闘で賭けた内容は隠した。

 王女リゼットが下僕になったなど、どう説明しても嘘にしか聞こえないから。


「決闘後も、王女様がずっと付いて来た......どうしてそうなる」

「それは、本人に聞いてくれ」


 ベクターの困惑した表情に、フェルナンドは話しを打ち切ると食事を再開する。


「ちょっと、いいか」


 その二人の会話に、凛とした声が割り込む。


「............サラ様が俺達に用があるなんて、珍しいですね」

「連絡することが、あってな」

「............」


 ベクターはその人物が意外だったのか目を見開く。

 しかしフェルナンドはサラに興味がないのか、視線を向けず食事を続ける。


「ハイエナ、お前に話しがある。放課後、訓練場に来てくれ」

「断る」

「なんだと?」


 断ると予想していなかったのか、サラは眉をひそめる。


「話なら、ここで十分なはず」

「そうもいかない」

「......どうしてだ?」

「ハイエナとリゼの関係だから。出来ればここで詳しく話したくない」


(俺とリゼットの関係ね......もしかすると、決闘の賭け。下僕についてか)


 サラの発言で呼び出した理由に、フェルナンドは目星をつける。


「わかった」

「必ず来なさい。リゼも来るから」


 そう言い残し、サラは食堂から立ち去って行く。

 

(それにしても、話し合いの場所が訓練場ね......少し警戒しておくか)


 フェルナンドは指定された場所が気になるのか、サラの後ろ姿を見届ける。


「どうやら、面白い状況になっているみたいだな」


 二人のやり取りを見ていたベクターは、くつくつと笑い出す。

 その反応に、フェルナンドはイラッとしたのか、


「......なら、特等席で見せてやるよ」

「は?」


 ベクターにも、この厄介ごとに巻き込むことにした。


  ◇  ◇  ◇


 放課後。フェルナンドは約束通り訓練場に来ていた。

 その日の訓練場は貸しきられていたのか、サラとリゼットの二人しか居なかった。


「ハイエナ。どうしてこの場所に、ベクターがいる?」


 サラは、フェルナンドの背後にいるベクターを指摘した。


「一人で来いなんて、言われてないからな。それと、何かあった時の立ち会い人だよ」

「立ち会い人だと?」

「昨日のように、突然襲われても困るからな。その対策さ」

「............」


 ベクターを連れて来た理由を話すと、サラの表情が険しくなる。


「それで、ここを貸しきってまで俺を呼んだ理由は?」

「リゼから色々と聞いた。お前があの夜に使った魔法のこと。そして、その魔法でリゼが負けてお前の下僕になったことも......そのどれもが気に入らない」

「気に入らない?」

「ああ、私とリゼがあんな小細工で負けたなんて認めるわけにいかない。だからもう一度、私と戦え」


 サラの右手に着けていた腕輪が突如、輝くとそこから槍が現れる。

 その槍をフェルナンドに突きつけながら、サラは決闘を申し込む。


「嫌だと言ったら?」

「引き受けるまで、逃すつもりはない」

「…………はぁ」


 二人の間に流れる険悪な雰囲気に、リゼットは不安と戸惑いの表情を浮かべる。


「それで、勝負の内容は?」

「魔法ありの模擬戦形式。決着は、どちらかが降参するか寸止め」


 槍を突きつけるサラを、フェルナンドは冷めた目で聞き返す。


「......わかった」


 勝負内容を決めると、サラは訓練場の中央に向かって歩く。


(リゼ関係でこうなることは、薄々わかっていたが......実際に起きると面倒だな)


 サラの背中を見ながら、フェルナンドは内心うんざりしていた。

 ベクターはフェルナンドに接近すると小声で話しかけてくる。 


「王女が下僕になったとか、色々と聞きたいが......勝てる勝算はあるのか?」

「さあな、戦ってみるまでわからん。ただ、ガロンさんやミアと本気で戦うことと比べたら、まだマシな相手だ」

「............それもそうか。余計な心配だったな」


 サラのもとに行こうとした時、リゼットから話しかけられる。

 しかもどこか、緊張した様子で。


「フェ、フェル先輩!!」

「は? ......その呼び方、もしかして俺のことか?」

「あの、先輩だってわかったので......どこか変ですか?」


 リゼットは、どこか不安そうな表情で聞き返した。

 その反応にフェルナンドは毒気を抜かれたのか、調子が狂う。


「好きにしろ。それで何?」

「......サラから色々聞きました。フェル先輩がレオンのパーティーを台無しにしたって」

「また、なつかしい話しが出て来たな」


 リゼットの言葉に、フェルナンドは苦笑する。

 その内容は、フェルナンドがハイエナと呼ばれる原因になった出来事だ。


「それは、本当なのですか?」

「ああ、本当の事さ。俺は、レオンのパーティーを台無しにした」

「どうして、そんなことを?」

「死にたくなかったから」

「えっ?」


 フェルナンドから予想外の返事に、リゼットは困惑する。

 それ以上答える気がないのか、フェルナンドはサラのもとに向かう。


「じゃあ。さっさと勝負して、さっさと終わらせるか」


 腰に装備していた剣を抜きながら、そう自分に言い聞かせる。

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