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92.恋心と説教

「で、結局相手は誰だったのよ」

「あぁ……ロウ・バスティンだった」

「え、あの人間嫌い?」


 ヴァネッサにしても意外だったようで、目を丸くして驚いていた。


「事情を聞けば、たまたま同席になったらしく情報交換をしたらしい」

「たまたまねぇ。リリアちゃん、彼とデートだったのかもよ?」

「違う! さっきリリアの口から嫌い合っていると聞いた!」

「うわぁ、必死すぎてきもい」


 余裕がないゼファルに対し、ヴァネッサは容赦なく斬り捨ててから顎に手をやり「ロウ・バスティンねぇ」と呟く。


「剣の腕は立つし、指揮をとらせても一流、人望は厚いし性格はやや自己主張が強いところがあるけど真面目で気遣いもできるわ。家が過激派じゃなければ、いい条件の男よ。それに昔……」


「そんな評価はいらん!」


 的確にロウを見定めだしたヴァネッサを大声で制止し、自分の声が頭に響いて顔をしかめる。


「ばかねぇ、敵を知らなければ対策も取れないでしょうが。私は妹にリリアちゃんが欲しいんだから、あんたには頑張ってもらわないと。で、話の感じでは割って入って、牽制したんでしょ?」

「あぁ……ロウ・バスティンから釈明を受けた」

「向こうの方が大人じゃない」

「うるさい」


 こうやって振り返れば、自分の直情的な行動が見えてきて自己嫌悪に陥る。その感情がヴァネッサに八つ当たりとして向けられていて、それを看破している姉はため息をついた。


「昨日の会議で、遠征部隊の指揮官候補に名前が挙がってたけど、まさか私情を挟んだんじゃないでしょうね」

「違う。あれは本人の希望と上官の推薦があってだ。だがまぁ、配置はいじってやろうかと思わなくはないな」

「ほんっと狭量ね。まあ彼のほうはいいとして、肝心のリリアちゃんはどうしたの?」

「連れて帰って、お茶を飲みながら事情を聞いたが? そのあとたくさん話せた」


 ふふと嬉しそうに思い出し笑いをしているゼファルを小突きたくなったが、我慢して分かりやすく言い直す。


「そうじゃなくて、ちゃんと口説いたのかって言ってんの」


「口説っ!?」


 見つめ合うこと三秒。ヴァネッサは眉を吊り上げ、「はぁぁ!?」と大声で怒りを発した。キーンと頭に響いたゼファルは、痛みに悶える。


「絶好の機会でしょうが! 他の男といられると胸が痛むだの、俺と一緒にいて欲しいだの、言うことがあるでしょう!」

「なっ……お前の口からそんな言葉が出るなんて、鳥肌が立つ」


 ゼファルはおぞましいものを見た顔になっていて、怖い怖いと両腕をさすった。あまりの失礼さ加減に、ヴァネッサは頬を引くつかせて剣の柄に手を伸ばす。姉の本気の怒りを感じたゼファルは弾かれるように背筋を伸ばした。


「ストーカー野郎と違って、私には男が寄ってくるからね。口説かれ過ぎて困るほどよ」

「じゃあなんで未だに独り身なんだ」

「黙れ」


 低い声はさすがの迫力で、ゼファルは口をつぐむ。ヴァネッサは剣先のような鋭い視線を向けると、こんこんと説教をし始めた。


「ゼファル、いい? うかうかしていると他の男にもっていかれるわよ? 気持ちは言葉にしないと意味がないの」


 正論を並べられ、ゼファルはぐうの音も出ない。


「というか不思議だったんだけど、攫ってきてからも何回かアプローチするチャンスがあったのに、なんでいまだに進展がないのよ」


 王都やケヴェルンと、事件は起こっているのだ。なのに親しくはなれども、それ以上の距離に踏み込もうとしない。ヴァネッサにすればもどかしいったらなかった。


 ゼファルは耳が痛いようで、天を仰ぐと低く唸る。顔を前に戻したゼファルの表情は自分の悪いところを指摘された子どものようにふてくされていて、ぶっきらぼうに言葉を返した。


「……断られたら、今の関係にも戻れないかもしれないし、嫌われるのが怖い」


「ストーカーしといて、嫌われるのが怖いってどの口が言えるの」


 思った以上に弟の内面がこじれていて、ヴァネッサは話し相手になった後悔をお茶で流す。正直こんな面倒な男よりは、ロウ・バスティンのほうがましなのではと思わなくもないが、口にしたが最後手が付けられなくなりそうだ。


 傷ついたのか肩をすぼめているゼファルを見てこのままでは埒が明かないと、気の短いヴァネッサはため息をついた。


「なら、こうしましょ。ゼファル、リリアちゃんをデートに誘いなさい。鏡越しじゃなくて、ちゃんと生身で会って楽しい経験を積み重ねるの」

「デート……リリアと。したい」

「そうと決まればさっさと動く!」

「はい!」


 将軍の威圧を持って一喝されたゼファルは、腹の底から声を出して返事をすると立ち上がった。ヴァネッサは腕を組んで指示を言い放つ。


「最終目標はリリアちゃんを落とし、私をお姉様と呼ばせること! いいわね!」

「リリアを口説き落としはするが、お前を姉とは呼ばせるのは拒否する!」


 そう言い捨てると、ゼファルは足取り早く部屋から出て行った。檄を飛ばした形になったヴァネッサは、ヒュリスに報告をしてシェラからも助力と情報を得るかと、こちらはこちらで動き出すのだった。


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