6.本題を話します
「リリアさんのことを皆に紹介しなければと思うのですが、どうされるおつもりですか?」
私がケーキを食べている間に、ヒュリス様が私を客賓扱いにすることを魔王に話していて、魔王もそれが妥当だと言っていた。そして、客賓とするなら紹介も必要ということなんだと思う。
こっちでの人間の扱いって分からないし、身の安全のためにも紹介のされ方は大切よね。身分や格が物を言うのは、どこの国でも同じだろうし。
私からどうこう言えることでもないので、魔王の答えを黙って待っていると、こちらに視線を向けた魔王が締まりのない顔になった。
「紹介かぁ……俺の未来のお嫁さんって言うのは、まだ早いよな」
寒気がした。
「む、無理です」
顔も引きつっている。立場的には下手に出たほうがいいのだけど、言葉が先に出た。ヒュリス様はため息をついている。
「魔王様、事を急いては仕留めそこなうと言うでしょう」
「む……それもそうだな。まぁ、半分は冗談として、人間との友好関係を築くための顧問ぐらいがいいか?」
「そう思います。人間研究の部署もありますし、ちょうどいいかと」
「なら、明後日の式典でお披露目だな。邪魔者もいないし、俺が庇護することを宣言すれば余計な諍いは起こらないと思うが」
「えぇ、それについては私にも案がありますのでご安心ください」
二人の間で話がどんどん進んでいく。いつも私の知らないところで話が進んで、決定したことだけ伝えられてきたから、気にせず紅茶を飲んでいると魔王と目が合った。
「リリアはこれでいいか?」
「……え?」
「何か思っていることがあれば、言って欲しい」
そう言われても急には思いつかなくて、やらなくてはいけないことを考える。
「えっと……なるべく早く今後のことを決めて出て行こうと思うので、それまで安全なら大丈夫です」
知らないことが多すぎるから、しばらくはここで外の世界を知って、自分で生きていける方法を考えなくちゃいけない。さすがに、好意に甘え続けるわけにもいかないし、魔王の側にいるのはちょっと怖い。
「そこは安心してくれ。俺が守ると決めた以上、誰にも手出しはさせない。この城が嫌なら王都もいいし、周辺の町も穏やかだからまた案内しよう」
てっきりダメだと言うかと思ったら、魔王はあっさり頷いた。思ったよりまともな面もあるみたい。
「では、この後はリリア様には身の回りの世話をするものを呼びますので、おくつろぎください。魔王様は式典の確認をお願いします」
「あぁ、じゃあリリア。もう夜も遅い、ゆっくり休んでくれ」
そう言って立ち上がった魔王は、軽く手を振って部屋から出て行った。ヒュリス様は軽く頭を下げて後に続く。
急に静かになって、私は背もたれに身を預けて息を吐いた。気を張っていたこともあって、すごく疲れを感じる。
なんか、まだ信じられないわ……。
広くて清潔な部屋を見回す。明かりも十分あって、温度もちょうどいい。緊張が解けると眠くなってきて、一休みと目を閉じた。