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27.伝統のケーキと友達

 ふわふわのシフォンケーキには木の実が入っていて、添えられたホイップクリームの上にも砕かれた木の実が振りかけられている。

 ケーキが乗っているお皿も、紅茶が入ったカップもお洒落で高級感が漂っていた。


「さっそく食べましょ」

「はい」


 フォークを手に取り、ケーキを切り分けると見た目通りふんわりしていた。クリームを一すくい乗せ、口に入れると甘さが広がる。ケーキはほのかにお酒の香りがしていて、柔らかい生地をクリームのコクが包み込んでいた。いろんな種類のナッツが入っていて、噛むたびに新しい味に出会う。


「おいしい」


 素直に漏れた感想に、スーさんも頷いていた。


「甘い物食べると、幸せ~って感じです」


 目を細めて笑うスーさんは、「おいし~」とケーキを口に運ぶ手が止まらない。


 そうね、こういうのも幸せよね。それはきっと、スーさんがいるからだわ。


 茶会や夜会で甘い物を食べたことはある。だけど、今のように胸が温かくなることはなかった。その甘く蕩けるような気持ちを紅茶を飲んで落ち着かせてから、正直に伝える。


「スーさんのおかげです。一緒に食べられてとても嬉しいです」

「きゃぁ、リリアさんいい人すぎます! もっと食べましょ! ここのケーキ全種いきましょう!」


 座っていなければ飛び跳ねていそうな喜びようで、すでに食べ終えていたスーさんは机に置いてあったメニューを手に取った。


「そんなに食べられます?」


 たしか5種類くらいあった気がするけど……。けっこう食べる人なのかなと思っていたら、スーさんは顔を上げていたずらっぽい笑みを浮かべた。


「二人で分けたらいけるでしょ」

「二人で……」


 ぱっと心に花が咲くように浮き立った。緩んだ気の隙間から、言葉が零れ落ちる。


「友達みたい」


 独り言だった。よく心の中で、一人になった部屋で呟いていた本音が喉から滑り出た。それに気づいたのは、スーさんが目を丸くして私を見ていたから。


 あっ、しまった。スーさんは仕事の付き合いで一緒してくれているのに、私ったら思いあがって失礼なことを! 


 急いで謝ろうしたが、その前にスーさんの口が開く。


「何言ってるんですか」


 少しムッとして怒った表情に、冷や水を浴びせられたように冷たさが頭から足先へと駆ける。令嬢たちの蔑み、馬鹿にした目が蘇って体が強張った。


「私は友達って思ってますけど、リリアさんは違うんです?」


 拗ねて唇を尖らせるスーさんは可愛くて、毒のある言葉を覚悟していた私は肩の力が抜けるのを感じた。じっと見つめられ、慌てて言葉を探す。


「え、その……本当に?」

「も~、疑い深いですね。友達になるのリリアさんは嫌なんです?」


 傷ついた顔を見せられて、私は必死に首を横に振った。


「違います! あの、私友達いなかったから、ちょっと信じられなくって」


 自分を取り繕っている余裕もなかった。友達って言われるたびに心臓が跳ねる。


「じゃあ、私が友達一号ですね! 初めていただきました! じゃあ、お互い公認ということで、私のことはスーって呼んでください!」


 スーさんのその底抜けの明るさが、人づきあいに尻込みする私を引っ張り上げてくれる。だから、友達って言われて浮かんだ“やりたいこと”を口にできた。


「あの、じゃあ、私のこともリリアで……。それと、たぶん年も近いから、敬語もなくていいかなって」

「もちろん! これからもよろしくね、リリア!」

「うん!」


 泣きたいぐらい嬉しくて、これを十分に言い表す言葉は知らなくて。照れ笑いを浮かべたら、頭上で爆音がした。


「ひゃぁっ!」


 音に驚いて、二人とも肩を跳ねさせ上を見る。続けて二発、三発と続いてやっとこれが花火だと気づいた。道行く人も足を止めて空を見上げている。昼間だから光は見えずうっすら色のついた煙だけ見えた。


 せっかくの感動が台無しじゃない。昼に花火ってバカなの!?


 アイラディーテ王国にも花火はあるけれど、祭りや新年を迎える夜に上げるものだ。


「何かお祝いでもあったみたいね」

「お祝い?」


 花火は五発で鳴りやみ、私たちは顔を戻す。


「お祝いがあると、昼間でも花火を挙げるの。五発だから相当いいことよ」

「へぇ、おもしろいわね」


 ちょっとしたことでも文化の違いを感じる。だけど、それがちっとも嫌じゃなかった。こちらに来てから、自分がいた世界がどれほど狭くて小さかったかを知ることができた。その箱庭のような世界で苦しんでいたのが、ばかばかしく思えてくる。


 そこだけは、魔王に感謝しなくもないのだけどね……。今も見ているんだと思うと、素直にありがとうとは思えないけれど。


「きっと私たちの仲を祝福してくれてるのよ。さ、注文して食べよ!」


 音が気になってテラス席に出てきた店員さんを呼んで、残るケーキを全種類注文し紅茶のお代わりももらう。


「こんなに食べたら、夕食が食べられなくなりそうだわ」

「そしたら、一緒に怒られよ」

「そうね、二人なら怖くないわね」


 共犯者の笑顔を作って、二人でクスクス笑う。


 友達って、いいものね。


 追加で頼んだケーキはどれもおいしくて、二人で分けてもお腹がいっぱいになった。さすがに食べ過ぎたので、お城まで少し遠回りをして帰ることになったのだった。


スーのお友達エンドでいいんじゃないかなと、思ってしまいます(o^^o)

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― 新着の感想 ―
スーさん優しい、感動した
[良い点] この花火はもしや、覗き見していた魔王様の仕業っすかねw
2023/03/01 20:56 退会済み
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